【出題時のコメント】
先月、HIDETCHIさんという方から「YouTubeでミクロコスモスを紹介したい」というメールを戴きました。この方は英語で将棋を紹介する動画を作成し、YouTubeで公開するという活動をされています。その中には古典詰将棋を紹介する動画もあり、その一環として「ミクロコスモス」が取り上げられることになったのです。私もこの動画をいつも楽しみしていた視聴者の一人なので、即座に了承の返事を出しました。YouTubeで「詰将棋」を検索するとすぐ見つかると思いますが、念のために以下にURLを紹介します。
YouTube - HIDETCHI さんのチャンネル
[How to play Shogi] http://www.youtube.com/user/HIDETCHI
[Famous Mate Problems] http://www.youtube.com/view_play_list?p=DEC088C073AFC7BE
[Micro-cosmos] http://www.youtube.com/watch?v=7iZQdP7nPOg&feature=PlayList&p=DEC088C073AFC7BE&index=17
この動画で使用されているBCMShogiというソフトも要注目です。作者はドイツの方のようですが、棋譜再生時にいろいろな「効果」を付ける機能が充実していて、このような「将棋講座」作成には最適なソフトだと思います。個人的には全詰連会長の柳田氏にこのソフトの使い方をマスターして貰い、ぜひ看寿賞作品の「動く解説書」を作って欲しいと思いますが、また柳田氏の仕事を増やすのかと言われそうですね。
さて、今回はIsardamの投稿作品を出題する予定だったのですが、少し事情があって変更になりました。今回出題するのは「氾濫30」への投稿が少ないときのために用意していた予備作です。手数も長いですし、「氾濫30」とも重複するので、解答募集期間をいつもより一週長い4週間としました。いろいろな企画やイベントと衝突して大変かもしれませんが、なるべく多くの解答をお待ちしています。なお、受方に持駒制限がありますので、その点に注意して解いてください。
【ルール説明】
【手順】
99歩 同玉 55角 98玉 99歩 87玉 88歩 78玉 79歩 同玉 46角 88玉 55角 79玉 46角 78玉 79歩 77玉 55角 68玉 46角 59玉 37角 68玉 46角 77玉 78歩 同玉 79歩 88玉 55角 79玉 46角 88玉 55角 87玉 88歩 76玉 77歩 86玉 87歩 同玉 88歩 同玉 76歩 66歩 同角 97玉 75角 87玉 88歩 76玉 77歩 同玉 78歩 88玉 97角 78玉 79歩 68玉 86角 79玉 97角 68玉 86角 57玉 75角 56玉 57歩 55玉 56歩 44玉 66角 43玉 44歩 52玉 63歩成 61玉 62と まで 79手
→動く盤面で鑑賞する(Flash版)(Flash Player 9が必要です)
→動く盤面で鑑賞する(Silverlight版)(Silverlight 2が必要です)
【解説】
強欲協力詰では飛や角は使いにくい駒です。
合駒すると取る一手になって考えどころがなくなってしまうからです。
そこで、本作では受方の持駒を制限することにより、大駒を使っても粘り強い手順が出るようにしました。
とは言っても、本作の基本は角歩を使った単純な横移動です。「斜めではなく横に進むためには歩を打たなければならないが、その打った歩を消してから出ないと次に進めない」という仕組みで8手一組の横移動趣向が成立します。
この横移動趣向を使って59歩の邪魔駒(これがあると69手目に57歩ができない)を消去し収束するというのが、本作の大まかなストーリーです。
ただ、59歩を消して戻ってきた後に方向転換をする手順が結構難しい(45手目76歩の開き王手をする筋に気付く必要がある)ので、解くのは結構難しかったと思います。ここをクリアできずに59歩の消去に気付かなかった人もいるかもしれません。
65歩(初形で角を盤上に配置しなくても済むように)とか、攻方73王(収束のためだけの配置)など不満点も多々ありますが、「強欲」条件下で大駒を使う趣向作が作れることが分かったので、割と良い収穫だったと思います。
【正解者及びコメント】(正解3名:到着順)
雲海さん
最初59歩がいかにも怪しく感じたのですが、先に76歩の開き王手の筋を見つけてしまったので、その方向で解いていきました。
すると… 「59歩、やっぱりお前か…」
案の定59歩が邪魔駒になっていて引っ掛かりました。
角と歩の一風変わった手順を楽しめました。
ところで、遅まきながら100000カウント達成おめでとうございます。
私もジャスト100000を踏むことを狙っていたのですが、99960と100120(くらい)でした。無念。
いったい誰が踏んだのでしょうねぇ。
あと、パラHPみたいに記念作品展みたいなのはないのでしょうか? (と提案だけしてみます)
☆ ありがとうございます。
カウンター100000に近くなったときには私も一応気をつけていたのですが、気付いたら過ぎていました。
CGIのトラブルで何回かカウンタがリセットされたため、数字自体は正確ではないのですが、「こんなごく一部のマニアのためのページでも、長く続けていけばそれなりの数字には届くんだなぁ」という感慨はあります。
さすがに記念作品展をやるほどストックはないので、これまで通り自分のペースに合わせて更新を続けたいと思います。
たくぼんさん
打った歩があるのでなかなか希望する方へ玉が進んでくれない。
その歩を消去しないと先へ進めないというジレンマの作品。
堂々とした邪魔駒の59歩消去も一筋縄ではいかないし。 結構難しかったです。
解図は、59歩を無視して詰みを発見→59歩消去の手順を考えるといった流れでした。
☆ 59歩はいかにも「私は邪魔駒です」と主張している配置ですから、これがないと仮定して解いてみるというのは有効な方法だと思います。
たくぼんさんのこの評は難問を解く時の参考になりますね。
隅の老人Bさん
幾ら歩があっても、角と歩だけで詰むのかしら?
詰むとしたら、64歩or44歩のどちらか、 ひょよっとしたら、両方が成るのだろう。
先ずは上辺へ追いましょう、これがなかなか追えません。
59歩が邪魔駒とは!、良くまあ、こんな作品を創りますね。
やっぱり、七郎さんは宇宙人です。
☆ 作る方から言うと、59歩を配置するのは割と自然な発想です。
趣向自体が歩を打っては消すの繰り返しですから、繰り返しのキーも歩にしたくなります。
盤がもっと広くて歩の枚数も多ければ、たぶんもっと遠くに歩を置いたと思いますが、そうすると歩を消す狙いも分かり易かったでしょうね。
☆ 予定変更で急遽出題となった本作ですが、やはり難しかったようです。
場合によってはこれを「氾濫30」に出していた可能性もあったのですが、その「氾濫30」も難問揃い。今の所メール解答が3通。パラ編集部から解答が届いても、果たして2桁に達するかどうか微妙な状況です。
今月は「第12回WFP作品展」とか「JIGSAW BOX #6」とか「Fairy of the Forest #20」とか、フェアリーの出題企画が多く予定されているので、来週の出題は易しめの作を選ぶ必要がありそうですね(これから考えます)。
詰将棋全国大会の中で誰かが「フェアリー分会」でも開いてくれれば解答数も増えるかも……
(2009.7.5 七郎)
【出題時のコメント】
詰将棋ではときどき同一、あるいは類似の「命名」を持つ作品があります。
筆者の乏しい記憶を浚ってみても、「古時計」は広沢芳香氏と田島秀男氏の有名な作がありますし、「新世界」は森長宏明氏と平田好孝氏の作品があります。きっと皆さんはもっと多くの例をご存知でしょう。
ただ、命名に関しては「詰将棋」の世界で気をつけるだけでは足りないかもしれません。 思わぬ分野で類似した命名を持つ例もあるのです。
一例として「天馬空行」と「天馬行空」を挙げましょう。
「天馬空行」は酒井桂史の有名な作ですが、「天馬行空」とは何でしょう?
実は、これはフェアリー的には非常に重要な作品です。象棋(中国将棋)の詰将棋(残局)にこの命名を持つ作品があるのです。ぜひ以下のページで手順を鑑賞してみてください。
詰物アラカルト(10)中国将棋・残局 黄金環「天馬行空」(カピタンリバイバル 22)同じ「馬」と言っても、こちらの方はいわゆる桂馬(八方桂)です。チェスのナイトと違って合駒が利くので、その点に注意して鑑賞してください。
筆者は自作に命名することが少ないのですが、稀に命名するときでも類似の命名の有無は気にしていませんでした。しかし、今やネットで世界中の人が詰将棋を鑑賞する可能性がある時代です。これからは命名についても、類似や衝突を少しは考えて付ける必要があるかもしれません。
さて、今回の出題はWFPなどでも活躍中のシン氏の投稿作です。作者は特にキルケ系のルールが強いようで、面白い感覚の作品を見せてくれます。本作にはどんな狙いが隠れているのでしょうか。
【ルール説明】
【手順】
33香成 38歩 同角 45玉 27角 同龍/22角 46歩 44玉 34杏 まで 9手
→動く盤面で鑑賞する(Flash版)(Flash Player 9が必要です)
→動く盤面で鑑賞する(Silverlight版)(Silverlight 2が必要です)
【作者のコメント】
この作品の発端は、「バッテリーの分解、再構築」です。
それだけでは少し物足りなかったので、合駒を出すつもりでした。
しかし、9手の長手数もあり、余詰たくさんでした。
結局、原理図はとんでもない初形になりました。
転機は、試しに置いた55歩でした。 余詰は確かに減りました。
しかし、それより驚いたのが、33香成、45玉、18角、27桂、同角以下作意と同じ順が詰まなくなったことです。
4筋に歩を置かないと、最終手に55玉/44歩という受けが生じることに気付いた時には本当に驚き、たまにはいいことがあるものだな、としばらく唸っていました。
今でも配置駒はひどいです。あと1枚は減らそうと思いましたが、私の力はこれまででした。
作意がすぐみつかりそうだという気がしますが、それはそれでスッキリします、と言い訳しておきます。
【解説】
シンさんの投稿にはいつも長文の丁寧なコメントが付けられています。これが詰パラなどのようにページ数に限りがある場合、残念ながら大幅に割愛しないといけないのですが、ネット上だと省略なしにそのまま引用できるのが良いですね。
本作の最大の特徴は、その作者のコメントで述べられている通り、一度使用したバッテリー(開き王手のできる形)が別の場所で再構築されることです。例えば、普通詰将棋でも「連取り趣向」ではバッテリーの再構築が何度も行われます。ただ、この場合バッテリーは同じ場所に固定されており、常に同じ形に戻ってしまいます。稀に軸駒を一旦盤上から消してもう一度打ち替えるという作品があります(例:山本昭一作「スターダスト」)が、場所が変わるわけではありません。フェアリーでは「第29回神無一族の氾濫」(近日中に原稿を再録する予定)において、橘氏が飛角の役割を変えてバッテリーを何度も再構築するという離れ技を見せてくれたのが記憶に新しいですが、いずれにしろ大変珍しい狙いであることに変わりはありません。別のルール・別の手段・別の駒の組み合わせ等でこのテーマを表現すれば、新鮮味のある作品が得られる可能性は大きいと思います。
また、全体の構成を見ても、初手と最終手を開き王手で統一し、「二歩の場合は復元しない」というルールの利用で詰上りに花を添えており、メインの狙いを効果的に演出していると思います。これで歩合の比較対象となる紛れが桂合ではなく香合だったらもっとアピール度が高かったと思いますが、それはちょっと贅沢すぎるでしょうか。
【正解者及びコメント】(正解9名:到着順)
たくぼんさん
2手目香の方が強力なのに歩。47でも良さそうなところを5手目のために38限定。
初手と最終手が最後見事に繋がって両王手と申し分ない出来栄えです。
今フェアリー界で一番輝いている作家ではないでしょうか。今後がものすごく楽しみです。
☆ シンさんはWFPだけでなく詰パラでも(本名で)活躍されていますし、どの作もレベルが高いですからね。
既に、「名前を見て解きたいと思う」作家の一人になっていると思います。
橘圭伍さん
二歩禁回避の為の限定合が狙いでしょうか?
過去のPWC作品展で手駒を打つ作品があったと思いますがその応用ですが目新しさは感じません
☆ 二歩禁回避と言えば、第1回PWC作品展の北村氏作を思い出しますね。
これは合駒ではないですが、二歩禁回避のための香先香歩という凝った手筋でした。
PWCでは二歩禁絡みの構想は色々あるので、バッテリー再構築という狙いでなく、こっちを見られるとちょっと辛いですね。
雲海さん
作者のことだから開き王手か両王手がらみの作品で、今作は初形で既にバッテリーができているから、きっと後で再構築するのだろうと思い、34香、45玉、56角、34玉/45香 が最初に浮かびました。
しかし、その後の手順が面白くなかったので、きっと違うだろうと判断。これも作者の信用かな?
しばらくした後、作意の手順でバッテリーを再構築できていることに気付きました。
そして、トドメはやっぱり両王手!
ルールを生かした巧いバッテリーの再構築だと思います。
☆ 早くも作風を読まれてますね。シン氏作=開き王手、ですか。
私もこの公式を覚えて解図のときに活用することにしましょう。
真Tさん
限定移動、限定合、両王手の詰上がりと楽しめました。
が、せっかくの二歩禁を利用した詰上がりなので、歩合限定の意味づけがニ歩禁だったらもっとよかったかなと思います(言うのは簡単ですが…)。
☆ 確かに歩合の位置はもう少し選択肢があった方が良いですね。
ただ、選択肢を広げると盤の中央から少しずれることになるので、構図の取り方に工夫が必要そうです。
小峰耕希さん
一発で解けました。バッテリー作りが狙いでしょうか。
6筋の守備駒が余り働いてないのと、2手目香合では駄目な理由がダブっている(8手目44に下がれないのと、10手目55玉防ぎ)のもちょっと惜しいかも。
(些末な話ですけどね)
☆ 本作の弱点はやはりこの2点でしょうか。
守備の効率化・香合の紛れの導入はどちらも難しい課題ですが、これらをクリアすると超マニアをも唸らせる作品になると思います。
香箱さん
18角から27桂合を取って、最後55玉/44歩で逃れの筋の近辺に作意があるとは気づいていたんです。
今の今まで2手目38歩が見えなかった。オークス、東海Sとやられて失意の1日だったけど、これで胸のつかえが取れてよかった。
☆ 作者の嵌って欲しい紛れに綺麗に嵌ってくれた、貴重な感想です。
協力系の詰将棋は先に作意を読んでしまうと、紛れは完全スルーでも解けてしまう(普通詰将棋や最悪詰のような攻防系では、少なくとも変化は読まないといけない)ので、どの筋を読んだかによって全然感想が違ってきます。
いかに紛れを読ませるか、というのはフェアリーでは特に重要なテクニックです。
瘋癲老人さん
歩合に気づくまでが勝負といったところですね。
配置から見ると余詰筋は結構強力なんでしょうか。
☆ 一般論で言えばPWCは余詰み易いですね。成駒ができると紐なしの王手でも詰んでしまいますし。
ですから、軽い配置で凝った狙いを実現しようと思うと、自玉詰にしたり打歩条件を付けたりすることが多いのですが…
もし巧い守備駒削減案があったら、掲示板等でお知らせください。
隅の老人Bさん
これが詰むの?、初手は香を動かすことは間違いない。
さて、何処に行くのかな?
味方は少数、加勢が必要。合駒奪取、桂or歩?
手前勝手に駒を置き換え、思案に耽る。
たったの9手と言うなかれ、要した時間は長かった。
☆ たった9手でも難しい問題は悩みます。私も今月のWFP作品展の第6番がまだ解けていませんし。
解けなくても簡単には諦めないことが重要ですよね。
洞江 元太さん
2手目桂合で詰みかと思ったら最終手55玉で逃れでした。その事さえ分かれば歩合と気づくのは簡単でした。
香や桂を取れるのに歩を取るというのが変則というか詰将棋らしくて好きです。
追記
以前OFMが終わるという話がありましたが、WFPができたからという理由だけなら終わらないで欲しいです。
OFMは問題だけでなく、コメントとかも密かに楽しみにしていました。
それにWFPとOFMは採用の基準が違うというだけでも存在価値があるのではないでしょうか?
今までろくに解答もせずに勝手ですが前から思っていたことなので意見を送らせてもらいます。
☆ OFMのトップページ出題については、このまま継続するか、どこかで終了させるか、今のところ具体的に決めていません。
終了すればここで出題してきた分の作品(年12〜13作)をWFPに回すことができますが、単に発表の場が減っただけの結果に終わってしまうかもしれません。
労力の問題で出題をやめることを考えているわけではないので、ここでの出題に代わる何らかの企画(例えばWFPに新設コーナーができて、その担当になる等)があるかどうかで、今後の運営方針が決まってくると思います。
具体的な案が浮上しなければ、このまま続ける可能性も高いです。
☆ 詰パラ最新号で「氾濫30」が出題されています。
あのルール説明でIsardamの作品が解けるのかという不安もありますし(あからさまにヒントになる例題を選んだのもそのため)、たくぼんさんの第4番はすこぶるつきの難問だと思います。 難度はかなり高いと思いますが、皆さん奮って挑戦をお願いします。
なお、次回の出題も投稿作で、ルールはIsardamです。果たして「氾濫30」解答の呼び水となるでしょうか?
(2009.5.31 七郎)
【出題時のコメント】
少し古い話になりますが、東京都知事の石原慎太郎氏が産経新聞にこんなエッセイを書いています。
「花粉症に関する国家の怠慢」(http://www.sensenfukoku.net/mailmagazine/no35.html)
記事の中味は毎年花粉症に悩まされる筆者には頷けることばかりで、なぜ国が花粉症に対して抜本的な対策を取ろうとしないのか、なぜそんな国の姿勢をマスコミは批判しないのか理解に苦しみます。死人が出ない病気は関心の外ということでしょうか?
東京都が近年花粉症対策に力を入れ始めたのも石原氏自身が花粉症患者になったのがきっかけで、上に引用したエッセイも「決め手は小泉総理に患者の一人になってもらうことかも知れない」という一文で終わっています(注:このエッセイが書かれたのは2005年)。現在の麻生総理が花粉症になる可能性は……なんだか想像できないですね。最近は景気対策の一環としてスギ・ヒノキ花粉対策が盛り込まれる可能性もあるようですが、できれば一過性の景気対策ではなく、国民の健康と日本本来の生態系の回復のため継続的な対策が取られることを願っています。
さて、今回の出題は打歩のスペシャリスト伊達氏の投稿作です。ルールは第144回出題で取り上げたタイプAのIsardamで、伊達氏らしく「打歩」の条件が付いています。ルールさえ理解すれば難しくないと思いますので、過去問なども参照して解答をお寄せください。下手をすると問題を解くより、命名の意味を推理する方が難しいかもしれませんよ。
【ルール説明】
【手順】
19香 18歩 同香 17龍 同香 13香 16飛 24飛 15歩 まで 9手
→動く盤面で鑑賞する(Flash版)(Flash Player 9が必要です)
→動く盤面で鑑賞する(Silverlight版)(Silverlight 2が必要です)
【解説】
フェアリーをやるひとつの楽しみは、普通の詰将棋では絶対にできないことや、不可能ではないけれどもかなり無理があることが、いかにも当然のような顔をして出てくることです。ルールが違うのですから妙なことが起こるのは当たり前と言えば当たり前なのですが、見たことのない詰上りや手順からもたらされる倒錯的な感覚はフェアリーの魅力の一つでしょう。
本作で言えば「香飛歩」が隙間も遮蔽物もなく縦に並んだ詰上りが正にそれです。性能を共有する駒同士が同じ方向の利きの上に並ぶ詰上りなど普通のルールではとても考えられませんが、Isardamならそれがいとも簡単にできてしまう――それを端的に示したのがこの作品の最大の特長と言えるでしょう。
手順は初形から手が非常に限られているので迷うところは少ないと思いますが、何しろIsardam(特にタイプA)のルールは癖が強いので、注意しながら解かなくてはいけません。例えば、7手目16飛のところで、34飛 24合 15歩 などとすると「15同玉」で逃れてしまいます(13香が依然として利いていることに注意)。作意順なら取るのは飛、守るのは香なので「15同玉」とはできないわけです。他にもいくつか紛れがありますが、いかにもそれらしい手順を優先して探せば、香の頭に飛、飛の頭に歩という奇妙な手順で王手になるIsardam特有の手順を楽しむことができたと思います。
ところで、作意手順の明快さに比べ命名の方は難解で、作意解はひとつもありませんでした。
実は命名の意味はここから来ています。
景気対策3段ロケット(http://www.kantei.go.jp/jp/keizai/index2.html)つまり、縦に並ぶ「香飛歩」を「3段ロケット」に見立てたわけですね。
ただ、ロケットというと某国の“飛翔体”があまりにも有名になってしまいましたし、景気対策の方も「総額75兆円」という数字の方がインパクトが強いせいか、「3段ロケット」の呼称はあまり使われなかったように思います。
時事ネタは風化が早いので、ちょっと時間が経つと意味が分からなくなってしまうのですが、この命名は現時点でさえ解読が難しいみたいです。
【正解者及びコメント】(解答9名、正解8名:到着順)
香箱さん
お久しぶりです、香箱です。お題のココロは八方塞がり。
☆ 香箱さんは即日解答。しかも到着は出題当日の19:23という早さでした。
命名の解釈は「八方塞がり」ですが、これも何だかテーマになりそうですね。
本作は八方のうち3つの空所を塞ぐだけですが、八箇所全部空所で、それを塞げたら凄いと思います。
橘圭伍さん
11香〜12飛がルール特有の展開ですね
非常に難しすぎて完全には未だ解けていませんが…
☆ すみません。実は橘さんの解答は誤解でした。
いつもなら誤解答は連絡して再解答を求めるのですが、「24飛」だけ見て正答と思い込んでしまったのです。
誤解の手順は以下の通り。
19香 18歩 同香 17龍 同香 11香 12飛 24飛 15歩迄9手
12から飛を打っているため、24飛が受けになりません。(14香も14飛成も防いでいない。)
この手順の12飛は「飛と香による両王手」というIsardamらしい手筋なので、読者の参考のためここに引用させて戴きました。
失礼の段、どうかお許しください。
なお、再解答を求めていればすぐに正答を送り直して貰えたと思うので、解答番付には正答として加点させて戴きます。
隅の老人Bさん
144回の解説を読んで、このル−ルに挑戦。
正解orダメ?、全く自信なし。
これも一時の暇つぶし、まあ良いかです。
☆ 見事正解です。
初めてのルールは正解を答えても自信を持てないことがよくあります。
今回は上に書いたように誤答の見落としをやらかしてしまいましたが、このサイトへの解答は、誤解の場合(原則的には)通知が来るので安心…と思ってください。
(多少の誤記なら通知せずに正答として処理することもあります。)
たくぼんさん
飛を上から打つのが気付かなかった。初日には解けませんでした。
どうもこのルールは相性が悪いのかもしれない。
周りを埋める手順はユニークですね。
☆ たくぼんさんが即日解答できないということは、実は結構難しいのでしょうか。
まあルールに少し慣れれば、いつもの瞬殺解答モードが発動するのでしょうけど。
雲海さん
攻方の着手が19、18、17、16、15、と上へ1段ずつスライドしているのが面白く感じました。
また、打歩詰の第1人者らしくルールの特性を生かした打歩詰ですね。
飛に縦の利きがあり、玉がその飛と同じ筋にいて、その縦の利きに歩を打って詰ますのは初めて見ました。
配置も上下にスライドできないことがわかり、巧くできていると思います。
ところで命名ですが、さっぱりわかりません!
定額給付金をいじって、『給歩』とか?ちょっと苦しいですかね?
☆ 確かに1段づつ上昇してますね。
この上昇をロケットと見なせば、命名の「作意」に最も肉薄した解答になったと思います。
定額給付金が出たら私はCDをネット通販でまとめ買いする予定だったのですが、そう言えばまだ申し込んでいませんでした。
全然景気回復に貢献していませんね、私。
小峰耕希さん
詰上りが不可能局面(伝統ルール的に)になってるし、ルールを生かした詰上りではないかと思います。
Isardamは巣篭りで詰むというパターンが多そうですね。
☆ ルール特有の性質を活かした詰上りをチェスプロブレムでは「フェアリーメイト」と呼びます。
やはり新しいルールができた初期のうちは、こういう素直な表現が良いですよね。
フェアリーメイトを紛れに隠すようなひねくれた作が出始めたら、そのルールが普及した証拠ですが、Isardamもそのくらい盛り上がるでしょうか。
「氾濫30」ではIsardamを2つ出題するので、その反応が楽しみです。
花井秀隆さん
香の利きを飛車で止めるのが盲点になっており、かなり悩みました。
☆ 悩まされたら、次は自分が悩ませる番ですね。
若いうちは悩む側(解答)と悩ませる側(創作)は、同時に行うことをお勧めします。
本当は若くなくてもそうした方が良いのですが、社会人になるとなかなか手が回らなくなりますからね。
洞江元太さん
当初は最終手歩打ちで香の効きか何かを遮断して詰みかと思っていました。
結局直感が外れてそのままにしていたところ後輩のH君から解けたとのメールがきたので解図に取りかかったところ案外すぐに解けました。
題意はよく分かりませんが麻生総理が周りを固めた(けど意味が無かった)ってことでしょうか?
☆ 「解けた」はそれ自体が重要なヒントですからね。
少し話が逸れますが、詰将棋劇場blogで広沢芳香氏作「古時計」(1011手)が、簡単に修正可能だという記事が掲載されましたが、あれも誰かが「簡単に修正できるんじゃない?」と言っていれば、とっくの昔に修正図が提案されていたと思います。
私も「古時計」より修正が難しいはずの「古時計II」を平井氏が修正しているのを見て、修正の試みを始めたのです。(そして、結果的にほとんど何もしなくても完全作になっていた…)
解図でも、まずは「解こう」という気になるまでが一番大変なのかもしれません。
瘋癲老人さん
香も飛車も同じ使い方(退路封鎖)なのが少し面白くないところです。
☆ 意味付けが同じ手が続くときの作家の対処法はいくつかあります。
意味付けの多様性を増す、単一の意味付けを徹底的に繰り返して強調する、意味付け自体を凝ったものにする等です。
グルメ解答者、瘋癲老人さんを唸らせるような作品の投稿をお待ちします。
☆ まだ作例の少ないIsardamの出題でしたが、やや易しめだったおかげか、9通の解答が集まりました。
後一歩で二桁解答に届きませんでしたが、Isardamの奇妙な世界の片鱗をこの作から感じて戴けたのではないでしょうか。
これからどんな展開が待っているのか楽しみです。
なお、次回も投稿作品の出題を予定しています。一桁手数なので、多くの解答が寄せられるのを期待しています。
(2009.5.3 七郎)
【出題時のコメント】
どこの世界にも多作家と呼ばれる人はいるもので、フィンランドの指揮者兼作曲家のレイフ・セーゲルスタムという人は、交響曲を200曲以上書いているそうです。しかも過去形の「書いた」ではなく、現在進行形の「書いている」です。彼は1944年生まれで現役バリバリであり、今なお年30曲という驚異的なペースで交響曲を量産しています。このままのペースで行けば遠からず300曲を越えるでしょう。「交響曲の父」ハイドンでさえ交響曲は104曲+αですから、これは破格の数値です。
ここで問題になるのは私たちにはこれを聴く手段がないということです。交響曲を演奏するにはそれなりの人手が必要で、指揮者といえども強権を発動して演奏・録音させることはできません。調べてみると彼の初期の交響曲(それでも既に20番あたり)はCDで入手が可能なようですが、大半の曲は耳にすることができません。
むかし「月に置かれた詰将棋は生きているか死んでいるか」という議論がありました。解答者の存在しない詰将棋が存在していることになるかどうか、というのがその設問の趣旨ですが、セーゲルスタムの交響曲の大半も演奏者・鑑賞者が存在しない状況に置かれています。
ただし、ひとつ重要な点を見落としてはいけません。セーゲルスタムの交響曲は、たとえ誰一人演奏しようとしなくても、たとえ誰一人聴こうとしなくても、確実にセーゲルスタム本人の頭の中では鳴り響いているはずなのです。偶然性の音楽等の特殊な技法で作られた場合は別ですが、作曲家が曲を作るとき、常に一人は演奏者・鑑賞者(=作曲者本人)がいます。これは詰将棋も同様です。たとえ解答者がゼロでも、鑑賞してくれる人がゼロでも、あなたの頭の中でその詰将棋が生きている限りその詰将棋は死にません。
とはいえ、やはり自作が自分以外誰からも顧みられないというのは淋しいものです。詰将棋作家は自分の頭の中以外でも自分の詰将棋が生きられることを望んでいるのです。ですから――本作にもぜひ解答をお寄せください!(←延々長文で引っ張ておいて結局それかい!)
【ルール説明】
【手順】
68歩 57玉 67歩 56玉 57歩 45玉 46歩 同玉 56歩 45玉 46歩 34玉 35歩 同玉 36歩 24玉 25歩 同銀 45歩 34玉 35歩 45玉 46歩 35玉 36歩 同銀 45歩 同玉 46歩 56玉 57歩 46玉 47歩 同銀生 56歩 45玉 46歩 35玉 36歩 同銀成 45歩 同玉 46歩 56玉 57歩 46玉 47歩 35玉 56歩 46全 36歩 45玉 46歩 34玉 35銀 25玉 26銀 24玉 16桂 34玉 35歩 まで 61手
→動く盤面で鑑賞する(Flash版)(Flash Player 9が必要です)
→動く盤面で鑑賞する(Silverlight版)(Silverlight 2が必要です)
【解説】
「ピンされた駒の利き筋の利用」と「歩による操作」で局面を打開するという協力詰では定番の作品。横型でこれを実現した場合、飛の利き筋を利用してと金を呼び出すというパターンが多いのですが、本作は角を利用した斜め型で呼び出される駒も銀になっています。呼び出しただけでは銀を入手できないので、成れる地域(7段目)まで銀を持ってくることになりますが、7段目ですぐに成るのではなく、一旦ここは不成で入り、6段目に戻るときに成るというのが本作の工夫です。
手順自体は難解と言う程ではありませんが、15手目にそれまでの手順と同様に45歩と開き王手をする紛れや、48金(実は単なる壁駒)をはがす紛れなど、適度に考えどころがあると思います。
【正解者及びコメント】(正解8名:到着順)
伊達悠さん
最初は1歩足りなくなって焦っていたのですが、16手目の24玉に気づいていなかったからでした。
1歩足りなかったところ意外は割合楽に解けたのですが、それにしても巧妙ですね〜。
わかり易い趣向とはいえ、ちょうど40枚使い切るところがすごいと思います。
☆ めでたく大学に合格し、詰将棋も「全面解禁」になった伊達さん。その勢いもあってか解答も一番乗りでした。
解答に創作に、これから大いに活躍してくれると思います。
たくぼんさん
適度な考えどころが心地よい作品。
多分みんなそうだと思いますが、15手目45歩とやって1歩不足で悩み、収束金を取りに行って悩み。
でも作品自体が解けそうという安心感を与えてくれてるので心地よい悩みでした。
☆ 適度な運動が体に良いように、適度な頭の運動も脳に良いと思います。
本作は「奇問」でも「難問」でもなく、さしずめ脳の運動を促す健康器具といったところでしょうか。
前回の問題ではまさかの障害物に躓いてしまったたくぼんさんですが、まだまだ余裕で解答番付トップを独走しています。
雲海さん
14の銀を取れば良さそうだと、目星は簡単につきました。
そして、生駒のままだと取れそうにないので、成銀にすれば良さそうだと気づきました。
でもすぐに47銀成にさせても、どうにも取れない。
そうか、47へは生で呼んでおいて、36へ成らせてから取るのか。なるほど。
これで解決…のはずが、並べてみると1歩不足で成銀が取れないうえに、仮に取れたとしても手数が2手多いことに気がつきました。
成銀を取るのに工夫があるのかなと思い、探したけど見つからない。
もう1回最初から並べたら…ああ、そうか!15手目45歩ではなくて36歩なんですね。
これにはひっかかりました。 人間の慣性を利用したトリック見たいなものですかね?
(どこかで聞いたことがあるような…)
☆ このサイトでは初登場の雲海さん。今後も宜しくお願いします。
「人間の慣性を利用したトリック」は般若一族・首猛夫氏の名フレーズですね。
私はトリックを入れるより「出てきて欲しい手順が期待通りに出る」ことを重視しているので、意識的にトリックを入れることは殆どないのですが、自然に入ってきてしまったトリックを排除することもしません。フェアリーではありませんが、橋本孝治普通詰将棋作品集第8番などがその典型例です。本作の15手目も「平凡な花にはトゲがある」ですね。
瘋癲老人さん
15手目、36歩がうまい手。
普通に45歩として収束で1歩足りなくなって考え込んでしまいました。
☆ やはり皆さん15手目で嵌ってますね。コメントもここに集中。
作者としては銀を一旦不成で入って戻ってから成る手順を主張したかったのですが、すっかり霞んでしまいました。
洞江元太さん
36金のような形になれば金が取れることは分かっていたが36に金を動かせない、と悩んでいました。
銀が36に成れるということに気づくのに時間がかかりました。
どうも詰将棋ばかりやっていると成る手が見えなくなりますね。
☆ ここで初めて15手目ではなく銀に注目した短評が! 金を取ることを考えてくれたのも嬉しいですね。
成る手が見えないのは、詰将棋病の中でも重症なフェアリー病の典型的な症状です。
治さずに放置しておきましょう。
KYさん
開き王手で銀を合駒にするのに気づくまで、右下に逃げられたり金を引っ張り上げたり無駄な試行をしました。
慣れた人は絶対詰まない形だと察知するのがもっと早いんだと思います。
二手足りなくて詰まなかったり香車の利きで詰まなかったりと惜しい筋がいくつかあったので金を取るルートがなかなか捨てられませんでした。
収束は盲点でした。角を使うに決まっていると思っていたので、詰手順を並べたにも関わらず、これは角がつかえなくなると却下していました。
角が配置されていなかったら簡単にわかるのにここまで難しくなるのが不思議でした。
☆ KYさんは初登場……ではなく、今回からハンドルネームでの解答です。
解答番付の方もハンドルネームで集計するように変更しています。
(申告がないと別々に集計されてしまうので、複数のハンドルネームや本名で別々に解答数がカウントされている方がいらっしゃいましたらお申し出ください。)
KYさんは収束で悩まれたようですが、確かにもっと格好良い収束があっても良さそうですね。
銀が手に入ると余詰筋も強力になるのであっさり終わらせたのですが、もう一工夫できたかもしれません。
隅の老人Bさん
ル−ルは熟知の協力詰、これなら、なんとかなる。
後は根気、根性、闇雲流。
歩だけじゃ詰まない、さて?と、です。
銀が取れそう、最後は突き歩?
階段の上り下り、老人には堪えます、エスカレタ−はないかしら。
巧妙、ようやく銀が取れたら、桂まで取れた。
予想通りの突き歩詰。
嬉しくなって、万歳三唱、すこし大袈裟、これは嘘。
☆ 階段の上り下り堪えるとのことですが、いやいやどうして。若い人に負けないくらいの元気がないと闇雲流は維持できないでしょう。
今後も努力と根性で多くの解答をお寄せ願います。
花井秀隆さん
D先輩が解けたと言っていたので解き始めましたが、どうしても歩が1枚足りずに数日ほったらかしにしていました。
今日(4/3)改めて解いてみたところ、折り返しのところで1歩節約できることに気づきました。
☆ 解けない解けないと悩んでいた作でも、日をまたぐとスッと解けることがあります。締切寸前での再チャレンジが実を結びましたね。
D先輩も後輩に好影響を与えてくれているようです。
☆ 今回は初解答から常連解答者までバランスよく解答が集まりました。
これで解答数が2桁まで行くとなお良かったのですが、ちょっとそれは高望み過ぎるでしょうか。
次回は投稿作品を予定しています。どなたの作品か、勘の良い方なら予想できてしまうかもしれません。
そうそう、「氾濫30」への投稿も今月20日までですので、よろしくお願いします。
(2009.4.5 七郎)
【出題時のコメント】
今回の出題は第141回でも出題したIsardamです。
とは言っても、今回のIsardamは前回と異なり、Isardamの設定が王手に優先するという過激な方のIsardamです。
(前回のIsardamは「タイプB」という穏やかな方のIsardamでした。)
このサイトでこのルールの作品を出題するのは、実質的には初めてですので、ルールに慣れて戴くための特設ページを用意しました。
Isardam作品の紹介
こちらに看空氏のIsardam作品(いずれも1996年にOnline Fairy Mateに発表されたもの)を紹介していますので、本作の解図の前にぜひご一読ください。解答募集期間も通常より長く4週間としていますので、じっくりと取り組めると思います。この作品、おそらく一度見たら一生忘れられないような詰上りだと思います。
【ルール説明】
【手順】
28角 84玉 88飛 24飛 39角 73玉 28角 同飛生 まで 8手
→動く盤面で鑑賞する(Flash版)(Flash Player 9が必要です)
→動く盤面で鑑賞する(Silverlight版)(Silverlight 2が必要です)
【解説】
タイプAのIsardamの特徴は、王手を掛けた駒と同種の駒を玉に利かせる受けがあることです。ただ、この種の受けはかなり脆弱で、その駒の利きで守られた「安全地帯」から玉が動けない状況も生み出します。(Isardam作品の紹介の最後の例を見てください。)
ところが本作では、自分の駒が脆弱な受けしか提供しないだけでなく、むしろ足を引っ張る事態が発生します。詰上り図を見てください。88飛は28飛による王手を防いでいない(78飛生は防いでも、78飛成は防いでいない)上に、78王が一歩でも飛筋を外れると攻守双方の飛が互いに直射する反則になってしまいます。68王とする手も依然として王手状態を解消できないので、78王はどこにも動けません。つまり、これで詰みです。
本作はこの最終形が狙いで作られた作品ですが、味方の足を引っ張る以外何の役目も果たしていない攻方の飛と、4手目にちゃんと玉を守った受方の飛が好対照を成していて、この手筋の第1号局というだけではなく、手筋の模範的な応用例にもなっていると思います。
また、このルールは元々チェスプロブレムから輸入されたルールなのですが、通常のプロブレムにIsardamを加えただけでは同様の手筋を実現できないのも面白いところです。チェス盤は成れる地域が相手側1段目だけで、しかも成れる駒はPawnだけなので、そのままでは本作と同じ状況が作れません。その意味で、本作はチェスと将棋という「異文化」をミックスしたことにより生まれた、ハイブリッド手筋の好例と言えると思います。
本作には早詰がありました。以下の手順です。
77飛 63玉 27角 17飛 67王 27飛生 まで 6手
他にも同様の筋で多数の早詰解が生じます。
この早詰筋に気付いていれば下のような図で出題することもできたのですが、出題当時にはマドラシ禁を利用して飛び駒の利き筋上の王手駒を縛る手筋は知られていませんでした。
現在配布しているfm(2.67r版)でもこの早詰解は検出できますが、この最新版でもまだいくつかの問題があることが分かっています。Isardam(タイプA)は王獲りよりマドラシ禁が優先するという、他のルールと根本的に構造が異なるルールなので、さすがの神無次郎氏も苦戦されているようです。
多くのIsardamの作例でfmの精度が上がり、より確実な検討ができるようになるまで自力検討は欠かさないようにしてください。また、不具合などを発見されましたら情報提供をお願いします。
上記修正案には余詰がありました。(若林氏指摘)
「18飛 17歩 88角 98飛 28王 88飛生 まで 6手」(2手目の合駒の位置・種類は非限定)という手順です。
かなり昔の作品ですが、Isardam登場初期の貴重な作例ですので、作者と相談し以下の図を正式な修正図とします。
38飛 22玉 88角 98飛 48王 88飛生 まで 6手
【正解者及びコメント】(正解4名、感想1名:到着順)
瘋癲老人さん
詰め上がりを模索してこんな詰め上がりしかないと判ればそう難しくはないですが。
それでも37角、46飛合から考えてしまいます。
28角が意外な好手でした。
☆ 自玉詰系の短編で「一見何も役にたたなそうな手」を入れるのは難しいので、この28角・84玉の2手はとても効果的ですよね。玉と角のスイッチバックという「形式」だけでなく、「意味」を考えてもこの2手は重要だと思います。
小峰耕希さん
過去作を眺めて漸く、飛で挟みつければほぼ詰んでる事に気が付く。
角を46→57→68と使って失敗したりしましたが、往復運動で解決。
僕が数日で解けたので決して難解作ではないですね。
本局の値打ちは、今後この挟み撃ちの筋を、「Isardam(A)の基本手筋及び強力な余詰筋」にしてしまう事でしょうか。
僕の場合幸か不幸か昨年の解答成績を超えるのは簡単なので(笑)、出来ればOFM通算成績で須藤さんを抜く辺りまでは行きたいです。
☆ 小峰さんは第136回以来の解答復帰ですね。
須藤さんの復帰がなければ、あと3回で氏の通算成績に追いつくので、ぜひ頑張って目標を達成してください。
さて、本作が難解かどうかは微妙ですね。解ける人は解けるけど、解けない人は全然解けないタイプの作品だと思います。概して若い人の方が良く解けるようなので、ペンネーム解答者の年齢を推測するのに良い例題かも…
花井秀隆さん
飛で先手玉をはさむのは少し考えてわかりましたが、37角〜48角の順ばかり考えてしまい、角を往復させる手順がなかなか見えませんでした。
☆ 花井さんは本サイト初解答。(「氾濫」に解答を戴いたことはあります。)
やはり若い人たちが出てこないと、詰将棋界は盛り上がりません。
若いうちは特に同年代の詰将棋マニアから刺激を受けることが多いので、次の洞江さん共々、切磋琢磨して大いに活躍して欲しいと思います。
洞江元太さん
後輩のH君が解けたと言っていたので、意地でも解かなくてはと思って解図しました。
1度見たら一生忘れられないという詰上りと書いてあったので、はっきり言ってもっとグロテスクなものを想像していました(笑)。思っていた形よりずっと普通でした。
☆ 洞江さんも本サイト初解答。(「氾濫」に解答を戴いたことはあります。)
それにしても、若い人はやっぱり発想が柔軟ですね。この詰上りを普通と言ってのける辺り、将来が楽しみです。
後輩のH君(伏字にした意味がなくなってしまいましたが)共々、どんどん解答や創作を行って詰将棋を盛り上げてください。
たくぼんさん(感想)
OFM出題144回出題 ギブアップです。
詰上り、先手88(98)飛 78玉型で 48角、同飛生と言った筋のように思うのですが、どうしても手順が構築できませんでした。
何か盲点に嵌っているのかなあ。残念。
☆ たくぼんさん、無念の白旗解答!
詰上りは見抜いていたのに、飛を合駒で発生させる筋に囚われてしまったようですね。
飛の発生にもIsardamを使うのが重要なポイントでした。
☆ 今回は初解答2名とたくぼんさんの無解という、予想外の結果となりました。
普段出題している作品と大きく傾向が異なる作品を出題したのが要因でしょうか。
次回は割と普通の作品を予定しているので、常連さんも一見さんも正解のチャンスがあると思います。
(2009.3.8 七郎)
【出題時のコメント】
皆様、遅まきながら明けましておめでとうございます。
年初ですので、例によって「今年の目標」を挙げたいと思います。
1. Worst1.exeの改良を行う。できれば自玉詰(協力でない方)への応用も行う。
2. TsumeMLViewerをsilverlightに移植し、余裕があればXML棋譜生成の機能も持たせる。
実は2の方は半分済んでいるので、どこか切りの良いところで公開したいと思っています。詰将棋に関する目標がありませんが、こちらの方は特に目標を立てず、本能の赴くままに創作・解答を行っていこうと思っています。このサイトの運営に関しても、概ね例年通り行うつもりです。唯一変更するとすればこのトップページでの出題の扱い(WFPが創刊されたので新作発表ならそこで行える)ですが、ここで止めると切りが悪いので今年中はこのコーナーを続けるつもりです。ちなみに、過去のトップページの解答成績について過去3年分を集計してみました。
過去の解答成績: 2008年 2007年 2006年
果たして2009年は首位交替があるのか、解答王たくぼんさんが連覇を続けるのか要注目ですね。
さて、今年最初の出題は「強欲」条件の付いた協力詰です。「強欲」は「駒を取る手を優先する」ルールで、このサイトでも過去に2度(第43回、第44回)出題しています。今まではこのルールだと淡白な作品しか作れないという先入観があったのですが、WFP第6号のたくぼん氏の作品を見て認識を改めさせられました。本作もメインの趣向部は易しいですが、収束で少し手こずるかもしれません。
【ルール説明】
【手順】
23銀打 13玉 14歩 24玉 25歩 同玉 34銀生 14玉 23銀引生 24玉
25歩 35玉 36歩 同玉 45銀 25玉 34銀引生 35玉 36歩 46玉
47歩 同玉 56銀 36玉 45銀引 46玉 47歩 57玉 58歩 同玉
67銀 47玉 56銀引 57玉 58歩 68玉 69歩 同玉 78銀 58玉
67銀引 57玉 66銀 同玉 67歩 76玉 77歩 86玉 87歩 75玉
76歩 同玉 77銀 87玉 88銀上 96玉 97歩 85玉 86歩 75玉
66銀 86玉 77銀引 75玉 76歩 65玉 66歩 64玉 65歩 同玉
66銀 76玉 77銀上 85玉 86歩 74玉 75歩 64玉 65銀 75玉
76銀引 84玉 85銀 95玉 96歩 まで 85手
→動く盤面で鑑賞する(Flash版)(Flash Player 9が必要です)
→動く盤面で鑑賞する(Silverlight版)(Silverlight 2が必要です)
【解説】
本作の前半は銀2枚が8手一組で斜めに移動する追い趣向です。1サイクルで歩を2枚消費しますが、何せ持歩は18枚もありますから、駒不足の心配はありません。問題は趣向が終わった後の40手を越す収束です。「強欲」というのは微妙な条件で、盤上の駒が消えないように注意しないといけない反面、下手に盤上に駒を残すとその駒を取らざるを得なくなって不詰になることが多々あります。そのために、歩を据えたり消したりする細かい配慮が必要です。本作の手順で「強欲」らしい手筋が出てくる場面を、いくつかピックアップしてみましょう。
45手目67歩〜49手目87歩:歩を複数並べて、1枚は盤上に残るように準備する
67手目66歩:67歩を残したままだと後で取らざるを得なくなるので、先に消去する
77手目75歩:これも取れる駒を複数にして1枚を盤上に残す頻出手筋
本作の収束ではこれ以外にも、細かい配慮が必要です。例えば、
61手目66銀:86歩を消去して後の85玉を可能にする
などは、強欲条件に直接関連した手筋ではありませんが、手の選択肢が限られる状況が多い強欲詰では、こいう展開も頻繁に出てきます。
飛角香などの飛び道具を使うと「強欲詰」は合駒で簡単に詰んでしまうことが多いのですが、小駒だけとか使用駒に制限がある等の特殊状況下では意外と手強い手順が出現します。このルールの真価が発揮されるのは、きっとこれからです。
【正解者及びコメント】(正解2名:到着順)
隅の老人Bさん
暇、暇潰しに解いてやろうで、着手。
99銀が置いてある、こちらの方に追うのだな。
どちらを取るの?で追いました。
41手目までは順調、ここから先が長かった。
「収束で手こずる」、あれやこれやと日がな一日、暇潰し。
幾日かかったやら、成る程、これは面倒だ。
ようやく解けて、よくまあ、こんな作品が創れるな。
ほとほと感心です。
☆ 締切1週間前まで解答者ゼロの状態が続いていたのですが、それを救ってくれたのが隅の老人Bさん。
正に「解図は根性」ですね。
ちなみに作る方は、「創作は執念」としておきましょう。
現在では機械検討が利用できるので、棋力が(あった方が良いですが)全てではありません。
「きっとこれより良い図があるはず」という信念を持ち続けられるかどうかが重要だと思います。
たくぼんさん
それにしても七郎さんが創ると強欲協力詰でさえこんなに難しくなるんですね。
前半の趣向は3分で分かりましたが、その後の収束でかなり悩みました。(1週間以上)
特に、86歩と67歩の邪魔駒消去が凄い!67歩消去の意味付けは強欲ならではですね。
本作のおかげで今後、強欲系も創る方が増えそうで、今後が楽しみです。
☆ たくぼんさんは解答点数100ポイントや3連覇が掛かっているので、今年は特に楽しみですね。
昨年鬼門(?)だった年初の出題もクリアしたので、パーフェクトもありうると思います。
頑張ってください。
☆ ここしばらく管理人の自作の出題が続きましたが、次回は投稿作品の出題を予定しています。
過去の作例が少ないルールなので、どうやってルール説明をしようかと思案中です。
少なくともいつもの無駄口はカットになるでしょうね。
(2009.2.1 七郎)
【出題時のコメント】
【ルール説明】
【手順】
15馬 13玉 14馬 12玉 13馬 21玉 12馬 32玉 21馬 33玉
32馬 34玉 33馬 35玉 34馬 36玉 35馬 37玉 36馬 38玉
37馬 29玉 38馬 18玉 29馬 17玉 18馬 16玉 17馬 15玉
16馬 14玉 15馬 13玉 14馬 12玉 13馬 21玉 12馬 32玉
21馬 33玉 32馬 34玉 33馬 35玉 34馬 36玉 35馬 37玉
36馬 38玉 37馬 29玉 38馬 18玉 19歩 同と 29馬 17玉
39馬 28と 18歩 16玉 38馬 27と上 17歩 15玉 37馬 26と上
16歩 14玉 36馬 25と上 15歩 13玉 35馬 24と上 14歩 12玉
34馬 21玉 12馬 32玉 21馬 23玉 13歩成 34玉 12馬 33玉
23と 34玉 32と 23と引 33と 35玉 13馬 24と引 34と 36玉
14馬 25と引 35と 37玉 15馬 26と引 36と 38玉 16馬 27と引
37と 28玉 38と 18玉 17馬 29玉 39と まで 117手
→動く盤面で鑑賞する(Flash Player 9が必要です)
→動く盤面で鑑賞する(Silverlight版)(Silverlight 2が必要です)
【解説】
1〜3筋を使った回転と往復を組み合わせた、単純明快な趣向作です。最初の回転は16歩の消去。2回目の回転で19歩を打つことができ、ここから歩と馬による縦追いに入ります。この時点で持駒を使い切っているのですが、上辺で折り返しを工夫すると持駒を消費せずに折り返すことができます。
本作は言葉で説明するより、画面で動きを見てもらった方が分かり易いと思いますので、ぜひ「動く盤面」で鑑賞してください。今回は従来のFlashを使った盤の他に、Silverlightを使った盤を用意しました。ついでにいくつかの機能追加もしています。SilverlightはFlashほど普及していませんが、開発はSilverlightの方がやり易いようなので、今後はこちらを主軸に機能追加などをして行きたいと思います。
【正解者及びコメント】(正解5名:到着順)
香箱さん
80手台以降の折り返しが巧妙。
初形17歩は57手目19歩までを最長にする配置なんですね。
☆ ここの折り返し部が本作唯一の自慢です。
持駒を増やすと壁に穴を空けら持駒を増やすと余詰が出るので、少ない持駒でやり繰りする必要があったのですが、おかげでこの手順を見つけることができました。
たくぼんさん
初形と詰上りで玉方と金で動いているのは28→19だけなのに、実は他のと金は2回動いているですからね。ビックリです。
折り返しの巧みさもさることながら構成が実に素晴らしい。
実は下段で詰まそうと結構苦労したなんて・・・言えませんけどね。
☆ たくぼんさんは昨年第131回出題以外は全解(この回は最多の解答があったのに……多忙は詰将棋マニア最大の敵ですね)。第140回出題では唯一の正解者にもなっています。解答番付100ポイント達成も間近ですし、今年も頼りにしています。
瘋癲老人さん
きれいな趣向作なので解後感はいいです。
歩2枚で足りるのか不安でしたが杞憂に終わりました。
☆ 上辺に行くと駒が成れるため余詰が出やすく、持駒を増やせませんでした。
本当は持駒の歩を増やして、回転の数を増やしたかったのですが……
真Tさん
と金の移動合が往復ででてくのがいいですね。
また、その折り返し部分の手順が巧妙で面白かったです。
楽しめました。
☆ 序盤だけ見ると、このと金の柱は単なる壁に見えると思います。
創作の出発点は後半の往復趣向なのですが、その舞台装置を再利用するための序がうまく入ってくれました。
隅の老人Bさん
最後の上がり下がりの巧妙なこと。
易しいことは、良いことだ。
久しぶりに解けた七郎作品。
これで、きっと、良い正月が来るぞ。
来年も頑張ろう。
☆ 最近は無駄に手数が長かったり、無駄にややこしかったりする作ばかりでしたが、今回はスッキリ解けたと思います。今年もよろしくお願いします。
☆ どうも正月の帰省で風邪を貰って来たらしく、この結果稿も少し略式です。皆さんもお体には気をつけて、良い新年をお過ごしください。
一応次回の出題は一週間後です。多分その頃には治っているでしょう。
(2009.1.4 七郎)