【出題時のコメント】
先日全詰連のホームページで詰将棋の同一作チェックが公開されました。「詰将棋データベース」は価格が高価なこともあって、利用者はごく一部の研究者やマニアに限られていましたが、「同一作チェック」は誰でも無償で使用できます。一般の詰将棋ファンはもちろんですが、作り初めで前例をあまり知らない入門者や、初めて詰将棋を投稿する人には特に活用して貰いたいと思います。筆者自身は長編作品を創作することが多いので、データベースの恩恵を受ける機会は少ないのですが、前例の有無が気になるような簡素な図を得ることも皆無ではありません。また、とりあえず自作を検索してみてデータベースに登録されていることを確認し「あぁ、この作もちゃんと載ってる」という感慨に浸ったりしています。(全然本来の使い方ではありませんが…)
さて、今回の出題は「Isardam」というチェスプロブレムからの輸入ルールです。このルールの名称は「Madrasi」に由来したもので、 Madrasiが「同種の敵駒の利きに入ると利きが消える」のに対し、IsardamではMadrasiの現象が起こる手を禁止します。 Madrasiの綴りを逆にしただけという安直なネーミング(日本語で考えると「シラドマ」?)ですが、意味は分かり易いと思います。
「こんな妙なルールならデータベースで調べるまでもなく日本では前例なんてないだろう」と思ってはいけません。1996年2月〜3月「Online Fairy Mate」に小林看空氏がIsardamの協力詰や協力自玉詰を全部で8作発表しています。ただ、この時はチェスプロブレムのIsardamと同様に「王手に対してもIsardamを適用する」という過激な設定でした。例えば今回出題の図で言うと、21歩成 12玉 11と 22玉 と進むと王手が存在しなくなる(22玉に23との利きがあるので、と金で王手できない)という具合です。今回の出題はIsardamより王手の方が優先という設定なので、割と普通の感覚で解けると思います。
【ルール説明】
【手順】
21歩成 12玉 11と 22玉 21と 32玉 31と 42玉 41と 52玉
51と 62玉 61と 72玉 71と 82玉 81と 72玉 71と 62玉
61と 52玉 51と 42玉 41と 32玉 31と 22玉 21と 12玉
11と 22玉 12と 31玉 21と 41玉 31と 51玉 41と 61玉
51と 71玉 61と 81玉 71と 91玉 92歩 82玉 81と 72玉
71と 62玉 61と 52玉 51と 42玉 41と 32玉 31と 22玉
21と 12玉 11と 22玉 12と 31玉 21と 41玉 31と 51玉
41と 61玉 51と 71玉 61と 81玉 82歩 同と 91歩成 72玉
71と 62玉 61と 52玉 51と 42玉 41と 32玉 31と 22玉
21と 12玉 11と 22玉 12と 31玉 21と 41玉 31と 51玉
41と 61玉 51と 71玉 72歩 同と寄 61と 82玉 92と 83玉
93と 84玉 94と 85玉 95と 86玉 96と 87玉 97と 76玉
87と 65玉 66歩 75玉 76と 64玉 65と まで 127手
→動く盤面で鑑賞する(Flash Player 9が必要です)
【解説】
使用駒が限られた構図の本作。と金を作って玉を追い回すしかなさそうですが、Isardamという条件が付いているので、3段目に並ぶ受方のと金に触れないよう、1段目で玉を追い回すしかありません。幸い13地点と93地点はと金ではなく歩となっているので、1筋と9筋だけは2段目にと金を持ってくることができます。つまり、両端で折り返しができるということです。
ただ、永遠に玉を追い回すわけにもいかないので、どこかで局面を打開しなくてはいけません。歩がたくさんあれば密室内での捕捉も可能かもしれませんが、持ち歩はわずか2枚。つまり、と金群のどこかに穴を空け脱出口を開ける必要があるわけです。中央の方で穴を開けても左右のと金が邪魔で脱出しにくいので、端から突破する方が良さそうですが、1筋と9筋を見比べると、14とがある分1筋からの脱出が難しいことが分かります。
ここまで分析ができれば、本作は解けたも同然です。ただ注意をしないといけないのは、81歩を取った後一旦右辺に戻る手順です。ここを手拍子に92玉 91と 82玉 92と 71玉 72歩 … と進めると、左辺に残った92とが強力過ぎて却って詰まなくなってしまいます。左辺は適度に弱めて受方の自由度を多めに確保することが肝要です。そうすることにより、8筋に穴を開け収束に到達することが可能になります。
本作はIsardamと言っても、チェスプロブレムではIsardam type B と呼ばれるマイナーな方のIsardamです(もっとも、私はIsardam自体がメジャーかどうかさえ知りません…)。チェスプロブレムのデフォルト設定(玉を取る手にも「Madrasi禁止」を適用する)は通常では生じないような受けが生じるため、短編に使うには良いのですが、長編創作時はこれが障害になります。私見ではIsardamに限らずチェスプロブレムには「短編には向いているが長編では使いにくい」というルールが多いように感じます。ですから、チェスプロブレムからルールを輸入する場合には、短編だけでなく中編や長編への適用も視野に入れて、中編や長編に合うようなバリエーションがあるかどうかを常に検討する必要があると思います。
【正解者及びコメント】(正解4名:到着順)
瘋癲老人さん
見慣れないルールだが、と金だけ考えればいいので考えやすい。
易しそうだがしっかりと考えどころがある。
創作は斯くあるべしといったところでしょうか。
前回のはあまりに情けないので感想はなしです。
作為順の79歩までは読んでるんですが・・
☆ まあ前回は正解者1名でしたから仕方ありませんね。駒数が異常に多くて並べる気にもなれなかったでしょうし…
今回は楽しんで戴けたようで何よりです。
香箱さん
14との存在から93歩捕獲がキーだと着想したら解けてしまいました。
未見のルールなのでとっつきにくいかと思いきや、意外にもsolver-friendly。
☆ 初物やそれに近いルールの場合、例題を用意する(できれば、たくぼんさんのように「○○入門」という解説を付ける)方が良いのですが、そこまでなかなか手が回りません。
ただ、未見のルールは作る方も慣れていないので意外と簡単に解けることもあります。とりあえず怪しげなルールでも一度は手を付けてみてください。
真Tさん
14とがあるので93歩を取りにいくというのは分かり易いですが、わずかな仕掛けから繰り返される趣向手順は楽しめました。
☆ 長編に限らず少ない仕掛けで仕上がったときは嬉しいですよね。
本作の場合は18手目からの折り返しとか、93歩を取った後の収束部が何の余詰消しも置かないで成立したのが幸運でした。(ここがうまく行ったから出題する気になりました。)
たくぼんさん
同種の駒の利きに入れないという条件は、新しいルールというより1つの条件のような感じですね。
余詰防止(手順限定)に効果が発揮できそう?
作品は枠から追い出す順にしばらく頭が回らず悩みましたが左右非対称の形を考えて閃きました。
収束がちょっとあっさりしている感じですが、新ルールのお披露目なんでちょうど良いかもしれません。
☆ 自分で作っておいて何なのですが、今回の設定はあまり流行らないように思います。
フェアリーには大まかに「手の選択肢を広げる」ものと「手の選択肢を狭める」ものがあります(厳密に言うと大抵のルールは「手を広げることも狭めることもある」となる場合が多いはずですが、あくまで大まかに考えた場合の話です)。
そして前者は派手で後者は地味になりがちです。
とすると、多くの作家は派手な方を選びますよね?
更にIsardamの場合は「玉を取る手にIsardamを適用しない」とすると、Madrasiとの差分が小さくなるという問題も生じます。(もちろん差はあります。)
何か画期的な手筋や応用が見つからない限り、今回の「Isardam type B」は文字通りマイナーな存在に終わりそうな気がします。
☆ 今回は新ルールということで敬遠された方も多かったと思いますが、手を付けてみればそれほど難解ではなかったと思います。
次回は「第29回神無一族の氾濫」に合わせた出題をしたいと思います。
(2008.11.30 七郎)
【出題時のコメント】
このページではフェアリー詰将棋に 関連するソフトウェアを配布しています。世の中には星の数ほどのソフトウェアがあるのですが、フェアリー詰将棋に関するソフトは、それを必要としている人 間自体が少ないせいで、ここ以外ではほとんど見ることができません。ただ、ネットの世界の良い所は「やる気さえあれば」ほとんどの道具が無償で手に入るこ とです。例えば貴方がこのページを閲覧するのに使っているブラウザ。これにはJavaScriptという立派なオブジェクト指向言語を実行する機能がつい ています。更にJavaScriptのプログラムはメモ帳さえあれば書く ことができます。つまりこのページをご覧になっている方は「やる気さえあれば」 いつでもプログラムの開発を始められるのです。もちろん、詰将棋の検討プログラムなど、少し大き目のプログラムを全部JavaScriptで書くのは大変ですし、性能もあまり期待 できません。ただ最近は、「評価用」として趣味のプログラムには充分過ぎる機能を持った 統合開発環境が無償で配布されていたりする(すごい時代になったものですねぇ…)ので、開発規模の点も問題にならなくなってきています。
それでも詰将棋のプログラムを書くのは面倒な作業には違いありません。特に手間が掛かるのが「ルールに沿った指し手を生成する」という一番基本のところ です。ところが、これすらもネットの世界には用意されています。コンピュータ将棋協会のコンピュータ将棋選手権使用可能 ライブラリに は合法手生成のライブラリがあって、ソースまで公開されているのです。もちろんこれをフェアリーに使うには、それなりに手を入れないといけないのは確かで すが、一から自分で作るよりは遙かに楽ができるでしょう。詰将棋のプログラミングは、一昔前より確実に敷居の低いものになっています。時間とやる気のある 方、特に学生の方には、夏休みの宿題や研究論文のネタとして、フェアリー詰将棋のプログラミングに挑戦することをお勧めします。
さて、今回の出題は「第29回神無一族の氾濫」のテーマに合わせて「攻方取禁」です。駒数が通常と異なりますので盤に並べるときは工夫が要りそうですが…… なお、今回はスケジュールの都合上、解答募集期間を通常よ り一週間延ばしています。いつもより少し余裕がありますよ。
【ルール説明】
【手順】
18と 同玉 29と 同歩成 19歩 17玉 18歩 28玉 39と 同玉
49と 同玉 59と 同玉 69と 同玉 79と 同玉 89馬 69玉
79馬 59玉 69馬 49玉 59馬 39玉 49馬 28玉 39馬 18玉
19歩 同と 29馬 17玉 18歩 同と上 39馬 27玉 28歩 同と右
49馬 38と左 28歩 同玉 29歩 同と右 39馬 27玉 49馬 38歩成
28歩 同玉 39馬 27玉 28歩 同と右 49馬 37玉 38歩 同と右
59馬 48と左 38歩 同玉 39歩 同と右 49馬 37玉 59馬 48歩成
38歩 同玉 49馬 37玉 38歩 同と右 59馬 47玉 48歩 同と右
69馬 58と左 48歩 同玉 49歩 同と右 59馬 47玉 69馬 58歩成
48歩 同玉 59馬 47玉 48歩 同と右 69馬 57玉 58歩 同と右
79馬 68と左 58歩 同玉 59歩 同と右 69馬 57玉 79馬 68歩成
58歩 同玉 69馬 57玉 58歩 同と右 79馬 67玉 68歩 同と右
89馬 78と左 68歩 同玉 69歩 同と右 79馬 67玉 89馬 78歩成
68歩 同玉 79馬 67玉 68歩 同と右 89馬 77玉 78歩 同と右
99馬 88と寄 78歩 同玉 79歩 同と右 89馬 77玉 99馬 88歩成
78歩 同玉 89馬 77玉 67馬 87玉 77馬 96玉 78馬 87と寄
97歩 同玉 98歩 同玉 99歩 同と 89馬 97玉 98歩 同と上
88馬 96玉 78馬 97玉 96馬 88玉 89歩 同と左 97馬 78玉
96馬 87と左 79歩 88玉 97馬 77玉 78歩 同と上 88馬 76玉
77歩 同と左 87馬 66玉 67歩 同と上 76馬 56玉 57歩 同と上
66馬 46玉 47歩 同と上 56馬 36玉 37歩 同と上 45馬 26玉
44馬 15玉 33馬 14玉 32馬 13玉 23馬 まで 217手
→動く盤面で鑑賞する(Flash Player 9が必要です)
【解説】
1サイクルで5枚の歩を消費する趣向手順を中心に構成し、左右に2往復する趣向作です。通常枚数でこの趣向を作ろうとするとサイクル数が少なくなるので、開き直って80枚以上の歩を使いました。普通の詰将棋を作っているときにも、駒数不足には いつも悩まされていたので、たまにこういう作品を作るとストレス解消(?)になりますね。
それでは手順の説明です。
まず序に軽い伏線があります。4手目29歩成とし18歩型にし てから左辺に向かう手順です。普通に29同玉とすると右辺に帰って来たときに手詰まりになってしまうので気付き易いでしょう。更に左辺で折り返して一往復してから、本作の主題である5枚の歩を消費する20手サイクルの趣向手順が現れます。この辺までは特に難しいところはないのですが、問題は151手目から の折り返し手順。解答された方々のコメントにもありますが、作者も当初は86地点に穴を空け、右辺に戻って来させるつもりでした。76地点に穴を空けるこ の手順はfmが検出したもので、作者自身にとっても盲点でした。
もし主要な紛れがこれだけなら、図を修正する可能性もあったのですが、もう一つ大きな紛れがありました。本図では持駒歩43枚ですが、これを持駒歩44枚にすると174手目からこんな手順が成立します。
87と直 97歩 86玉 77馬 97玉 86馬 88玉
89歩 同と上 77馬 97玉 98歩 同と上 88馬 86玉 87歩 同と
97馬 77玉 78歩 同と上 88馬 76玉 77歩 同と上 87馬 66玉
67歩 同と寄 88馬 76玉 66馬 87玉 88歩 86玉 77馬 97玉
87馬 まで 211手
と金群から脱出せずに、穴の中で片を付けてしまうという恐ろしい手順です。
結局、こうした紛れ手順を消すのは勿体ないということで、折り返し部ではなく収束の方を変更することにしました。
攻方取禁という条件で「と金」を掻き分けて掻き分けて 掘り進み、詰め上がった時には生き埋め状態から地上への脱出を果たしたような爽快感を味わって貰えればと思った本作ですが、紛れを重視しすぎて正解者が1名だけになってしまいました。趣向手順を重視して紛れを削るか、難解性を重視して紛れを増やすか……バランスを取るのはいつも難しいですね。
【正解者及びコメント】(正解1名! 感想2名:到着順)
たくぼんさん
意外と手が狭いので、簡単な趣向作と思ったのが間違いでした。
詰上りも予想がつくのにどうしても手数オーバー・歩不足で悩むことに。
間違いの根本は美しく86と〜26とまで順番に玉の退路を空けようとしたこと。
どうしても2歩不足する。序で歩を節約出来ないかとか散々考えたがダメ。
そしてやっと86と不動&76と移動合で歩を節約する順に気付きました。
美しく見えた趣向作にも棘がある。きっちり謎解きを仕込んでくるところは流石です。
序と収束は見えやすいと思うのでたくさんの解答者にチャレンジして頂きたい作品ですね。
☆ 今回唯一の正解者となったたくぼんさん。解答到着も早かったです。
正解者が少なかったのは残念ですが、駒数が異常に多いこの出題では仕方がなかったかもしれません。
この部分だけ取り出して、通常枚数で別作に仕立てた方が良かったかも…
香箱さん(感想)
とうとう年貢の納め時のようです。
173手目78馬、174手目87と直までは正しいと思うんですが、どうなんでしょう。
ここからあと1歩あれば、という順を2通り読んでいました。
@97歩同玉88馬86玉97馬77玉78歩同と上88馬86玉87歩同と97馬76玉77歩同と上86馬、、、と右にトンネルを掘って追いかけたいが 37歩が打てず終了。もし歩が足りても13玉23馬までの収束は非限定。
A97歩86玉77馬97玉86馬88玉89歩同と右上77馬97玉98歩同と上88馬96玉78馬87と97歩同玉88馬86玉97馬77玉78歩同と 上88馬76玉77歩同と上87馬66玉67歩同と寄88馬76玉66馬以下1歩あれば88歩を据えて87馬までながら歩切れかつまたもや非限定。
とまれ4週間充分(過ぎるほど)楽しませてもらいました。
※2008.11.3 香箱さんから追加の感想を戴いたので追記します
86とを残したまま!右へのトンネルは掘れたんですね。
そうでないと自玉の顔が立ちませんもんね。んー、と金の海で溺死しちまった。
感心50%、残念50%
☆ 香箱さんは86地点でなく76地点に穴を空ける所で躓いていますね。
でも、作者も最初はそのつもりで折り返し部分を作ったので、そう考えてしまうのが自然だと思います。
たくぼんさんの域に達するには、ちょっとやそっとで諦めない根性と、相当の年季が必要……
橘圭吾さん(感想)
白旗 です・・歩1枚と4手足らず。。。
何処か盲点になった所で削れるのでしょう
という訳で少し早いですが手をあげておきます
☆ 橘さんが嵌ったのは歩が持駒に1枚多いときの紛れ手順ですね。
こんなに豊富に持駒があるのに、たった1枚の差で成立したりしなかったりする手順があるので、協力詰は本当に気が抜けません。
まあ、そんな一筋縄ではいかない所が面白い所でもあるのですが。
☆ 今月は予定が立て込んでいて「氾濫29」の出題用原稿も未完了です。
次回の出題作候補は2つあり、まだどちらにするか決めていません。普通の協力詰と今まで扱ったことのないルールの作です。その時の気分次第…かな?
(2008.11.2 七郎)
【出題時のコメント】
今回は本サイトでは初の試みとして作図問題を出題します。いつもの無駄口は省略して、さっそく問題の説明をします。
(問 題)紛れ最多の5手詰の協力詰を作れ
(条件)1. 完全作であること(唯一解で持駒も余らないこと)
2. 通常の盤駒を用い、他のルールや条件を付加しないこと
3. 作意に関係ない(紛れを増やすだけの)駒配置があっても良い
(補足)紛れの数はfmの解析局面数で測定する。このとき/Mなど解析局面数に影響するオプションは付けない。
実を言うと、これは5月16日の「たくぼんの解図日記」で 提示されたテーマと同じです。このときと少し違うのは作意に関係ない「不要駒」を置いても良いという条件が付加されたことです。不要駒を置かない条件では 2490928局面まで達成されたのですが、その後不要駒を置いても良いという条件で、神無三郎さんと私で調べたところ2950433局面の図が見つかり ました。そこで、今回の「正解」の判定基準をこの局面数に設定します。
※2008.9.8 配点を以下のように変更します
(正解の判定基準)fm2.66b版での 解析局面数が
1. 2950433の場合……解答番付に1点加算
2. 2950433より大きい場合……解答番付に2点加算
3. 最多の解の場合……解答番付に3点加算
最多解析局面数の図を見つけた人には、通常の「超正解」より高い点が入るようにするための変更です。
(むしろ、この基準だと1点を取るのが一番難しそうなので、まずは2点獲得を狙ってみてください。)
【ルール説明】
【解 答】
29桂 同と 38銀 48玉 49金 まで 5手
→動く盤面で鑑賞する(Flash Player 9が必要です)
(※各々の図の解答を白字で図の下に追加しました。選択反転させてご覧ください。)
【解説】
本サイトでは初の試みとなる作図問題。しかも、最善の図が不明のままで出題するという、やや無茶な企画だったこの出題ですが、4名の果敢な挑戦者が現れ、主催者も驚くような結果を生み出しました。
今回はいつもの作品解説とは異なり、「紛れ最多の5手詰の協力詰を作れ」という命題に挑んだ挑戦者達の記録を時系列順に辿っていきたいと思います。
0. 過去の試み:55万局面
紛れの多い超短編――過去にもそれが「隠れた狙い」の作品がありました。
例えばこれ。本サイトをご覧になっている方なら、きっとご覧になったことがあるでしょう。
54角 44玉 53角 55玉 56香 まで 5手
→動く盤面で鑑賞する(Flash Player 9が必要です)
これはfmのドキュメント(fmdoc1.txt) に例として載っている図です。
かつて「将」というミニコミ誌に掲載され、どこにも正式発表されなかったこの図がどうしてfmのドキュメントに掲載されているのでしょう?
答えはこれをfmに解かせてみると分かります。盤面2枚・持駒3枚で、入力が非常に楽な割にfmでの検討時間が結構掛かるのです。fmは普通の5手詰なら たいてい瞬時に解いてしまうので、通常の例題ではその動作を体感することができません。かと言って複雑な作品では入力が面倒で、試してみる気にもならないでしょう。図が簡潔でそこそこ検討時間が掛かる――fmの入門としてはうってつけの図だったわけです。
これをfm2.66bに掛けてみると解析局面数は552151となります。さすがに今のPCなら秒殺です が、fmが生まれた当時のPCでは何分、何十分と掛かる代物でした。
1. 挑戦の始まり:249万局面
上の例ではどちらかと言うと隠れたテーマだった「紛れの数」を、表のテーマとて取り上げたのがたくぼんさんでした。(5月16日の「たくぼんの解図日記」)
一口に紛れの数と言っても、数え方は一通りとは限りません。例えば、手順前後で同一局面に到達する場合、その局面以降は別々に数えるのでしょうか、それと もひとつに数えるのでしょうか? 手順の組み合わせをすべて紛れとみなすなら別々に数えるべきでしょうし、異なる局面を紛れの数とするのならひとつに数え るべきでしょう。たくぼんさんは紛れの数の測定にfmの「解析局面数」を使うことを提案していますが、これは紛れを数える手間を軽減する目的の他に、数え 方の違いによる曖昧さを排除する効果も持っています。(尤もfmの「解析局面数」の数え方も決して不変ではないので、今回の出題では測定に使用するfmの 版数を指定しています。)
この時、たくぼんさんの呼び掛けに応えていくつかの図が提示されたのですが、最多の解析局面数を記録したのが次の図です。
35飛 44玉 54飛 43玉 32角 まで 5手
→動く盤面で鑑賞する(Flash Player 9が必要です)
これは神無三郎氏の図をベースに、筆者と神無太郎氏が手を加えたもので、解析局面数は2490928でし た。
2. 水面下の動き:295万局面
その後は目立った反応もなく、半ば忘れられてしまったように見えたこのテーマですが、興味を持ち続けていた人がいました。神無三郎さんです。神無三郎さんは「紛れにしか役立たない駒があっても良いとした方が面白い」と言っていました。言われて筆者もやってみたのですが、確かにその方が面白そうです。何でもかんでも盤面に配置すれば良いわけではなく、受方の持駒の種類をちゃんと確保する必要があったり、紛れを増やすつもりの構図が副作用で紛れを減らしてしまったりと、なかなか思い通りにいきません。こういう予測不能な要素がある方が創作は楽しいのです。
ちなみに今回「正解」の基準とした図は、三郎さんの考案した図に筆者が少しだけ手を入れたものです。
46角 44玉 42飛 33玉 32飛打 まで 5手
→動く盤面で鑑賞する(Flash Player 9が必要です)
この図の解析局面数は2950433。もうひと踏ん張りすれば300万を越えそうですが、この仕組みでは なかなか難しそうです。そこで多くの人の知恵を借りるため、これを作図問題として出題することにしました。このサイトでの出題も筆者の自作が続きマンネリ気味だったので、ちょうど良い機会だったのです。当初の目論見は解析局面数300万を越える図を得ることだったのですが、実際は予想を遙かに超える展開になりました。
3. 最初の挑戦者:323万局面
期待していた 300万局面は実にあっさりと達成されました。それも出題の翌日(9月8日)に!
作者はこのテーマの元祖提唱者、たくぼんさんです。
46角 56玉 45角 47玉 48飛 まで 5手
→動く盤面で鑑賞する(Flash Player 9が必要です)
解析局面数は3235344。作者曰く「太郎さんの図をパクッてますので威張れたものではありませんが、ちょこちょこいじっていたら判定基準を超えましたのでとりあえず送っておきます」。
これで、「正解」の判定基準が低かったことが判明したのですが、実は判定基準は「低い」どころか「低すぎた」ことが後に明らかになりました。
4. 第2の挑戦者:402万局面
その後、たくぼんさんから改良図が送られ、順調に記録を伸ばし ていたのですが、9月14日に新たな参入者が登場し事態は一変しました。小林看空(神無三郎)さんが、今までとまったく異なる仕組みの図を作ってきたので す。
68香 57玉 48角 58玉 59金 まで 5手
→動く盤面で鑑賞する(Flash Player 9が必要です)
解析局面数は4028679。これまでの図が、大駒3枚を持駒にして紛れを稼いでいたのに対し、これは空き王手を基軸にしています。しかも玉が中央ではなく、斜めに一つずれた位置に置かれています。これは、作者自身が「途中経過」と言っていた通り、大幅な記録更新に道を拓くものでした。
5. 大幅な記録更新:3046万局面
その後も看空さんは記録を伸ばし続けました。15日に 5852801局面、5926974局面と細かく更新した後、16日には一気に28067816局面という正に「桁違い」の記録に到達したのです。更に 20日には次の図が送られてきました。
79香 同銀生 78銀 68玉 69金 まで 5手
→動く盤面で鑑賞する(Flash Player 9が必要です)
解析局面数は何と30461115。 空き王手機構が2つになり、玉も中央から斜め2つずれました。出題当初の期待値の10倍の記録の達成です。
6. 新たな参入者
ちょうど同じ頃若林さんのYOMUKA FAIRY MEMOでこの話題が取り上げられました(20日の記事)。 若林さん自身は解答には参加しなかったのですが、紛れ増加の空き王手を使うという手法には気付いたのです。おそらく、記録が大幅に更新されたという情報か ら(その数字自体は伏せられていたにも拘らず)、何か今までにない機構が使われたことを推測し、空き王手を使うことに気付いたのでしょう。
この記事を読んで思い出したのですが、この種の研究はずっと以前から行われていました。「初手の紛れは最大何通りまで可能か?」という命題を研究した人が何人も いて、実際に百を越える王手の掛かる図が見つかっているのです。更にこれをちゃんと「詰将棋」に仕立てた人もいました。
53飛成 45玉 48香 47歩 55金 36玉 27銀 46玉 56金 まで 9手
→動く盤面で鑑賞する(Flash Player 9が必要です)
この図は初手に78通りもの王手が可能であり、なおかつ詰将棋として成立しているという実に珍しい図です。未見の方はぜひ解いてみてください。
ついでなので、この機構を協力詰に仕立てた例を作ってみました。ちょっとした頭の体操に良いかもしれません。
72飛寄 成 64玉 63飛成 まで 3手
→動く盤面で鑑賞する(Flash Player 9が必要です)
こうして若林さんやたくぼんさんのブログで取り上げられた効果か、23日に竹野龍騎さんと荻絵香木さんのお二人が解答に参加されました。最初の解答図が共 に300万局面台だったのですが、後にお二人とも1000万局面台を越す図に到達しています。
7. 遂に首位交替:4373万局面
そして、当分安泰かと思われていた看空さんの記録も25日に遂に更新されました。記録を更新したのは荻絵香木さん。5回目の投稿図で4279万局面に到達したのです。更に 26日、7回目のメールで冒頭に紹介した4373万局面の図に到達しました。
本サイトでは初の作図問題でしたが、こうして解答(創作)参加して下さった皆さんのお陰で、とても良い成果が挙がったと思います。筆者もメールで解答が届 くのが楽しみで仕方ありませんでした。
ただ、上限の見えない創作競争は参加された方々の時間をかなり消費させてしまったと思いますし、そもそも作図問題は解答専門の方には少しとっつきにくかった と思います。今後本サイトで作図問題を出す機会があるかどうかは分かりませんが、もしあったらもう少し解答し易い工夫をしたいと思います。
【正解者及びコメント】(超正解4名:最終成績の降順)
荻絵香木さん: 43734179局面
大幅な増加は難しそう、とありますが、そうでもないと思います。
解析局面数を増やす方法としては、
など色々あるので、詰キストの叡智を結集すれば、5000万くらいいけてもいいんじゃないでしょうか。問題はそんなところ に叡智を注ぐ詰キストがあまりいないことですね。
- 28玉型にして玉方の合駒の候補数を増やす
- 26と、28をふさいでいる、玉方の駒を取り除き、攻方の着手の候補数を増やす
- 玉に直接王手できる攻方の駒(例:19と)を配置して、攻方の着手の候補数を増やす
- 全く新しい驚くべき構図を思いつく
☆ 上記コメントは筆者の「大幅な増加は難しいと思います」という感想に荻絵さ んが答えたもの。
果たして5000万局面を越える図は存在するのか? 詰キストはその図を発見できるのか?
記録更新があればこの結果稿に追記していきますので、ぜひお知らせください。
小林看空さん: 30461115局面
えらいことになってきました。
ちょっと原理図を変えただけで飛躍的数字が伸びました。
だれが気付くかですね、これは。
☆ 上記コメントは2806万局面の図を送られてきた4回目のメールのもの。私はこの解答を見て「この手があったか!」と心の中で叫んでしまいました。記録のためだけの記録作はあまり好きではありませんが、こうした発見があると 記録競争も楽しいものです。
たくぼんさん: 24210781局面
この システムだとここら辺りが限界かもしれません。個人的にはまあここまでよく頑張ったと思います。トップとはかなり離れているようですが、一体どんな作品な のか?楽しみです。
☆ 最終的には3位に後退しましたが、この催しが予想以上の成果を挙げられたのはたくぼんさんの素早い反応のお陰です。そもそも元ネタがたくぼんさんの記事なのですから、これはもう「たくぼんのテーマ」とか名前を冠しても良いくらいです。ありがとうございました。
竹野龍騎さん: 12906206局面
とり あえず、2点ゲットのようですので、報告します。
「そんなことやってるくらいなら、詰将棋の1つでも作りなさい」という声がどこかから聞こえてきそうですが・・・。
☆ 私も「フェアリーばかりやっていないで普通の詰将棋も作りなさい」という幻聴が聞こえることがあるのですが、たぶん気のせいでしょう。フェアリーも普通の詰将棋も一般世間から 見れば時間の無駄以外の何物でもないわけですから。
☆ 今回は初の試みで何かと不手際が多かったのですが、次回は 通常の出題に戻ります。「氾濫29」の作品募集に合わせて、取禁絡みの作品を予定していますが、果たして投稿の呼び水となるでしょうか…?
(2008.9.28 七郎)
【出題時のコメント】
先日、首猛夫(本名:谷幹)氏の訃報が飛び込んできました。このところ、私が若い頃に活躍をされ、直接的または間接的に大きな影響を受けた方々の訃報が相次ぎ、少し憂鬱な気持ちになっています。
首猛夫氏の代表的な活動と言えば、やはり1980年代の「般若一族の叛乱」だと思います。当時、詰将棋界は条件作の高度化や、長編趣向作の大型化に見られるように、創作技術が大きく発展し、新人作家も続々と出現した興隆の時代でした。反面、有力な新技法が開発されると、その技法に皆が飛びつき、オリジナリティの乏しい作が大量に作られたり、優先権を巡って醜い争いが起こったりするような弊害もありました。そうした中、敢えて古典詰将棋的な重厚な 構想作を現代に甦らせ、作者と解答者の対決を前面に押し出した反骨精神旺盛な企画が「般若一族の叛乱」でした。その頃の私は(今もあまり変わりませんが)解図力が乏しく、解答を出せたのは最後の1回だけでしたが、この企画とその思想から受けた衝撃はとても大きなものでした。結局、自分が同じ思想で詰将棋を作ったり、彼らの求めた道を追い掛けたりすることはなかったのですが、自分はどんな詰将棋を作るべきか、どんな道を求めれば良いのかということを深く考えるきっかけになった ことは間違いありません。私が今「神無一族」――これ自体に深い意味はなく、単なるパロディだったはずのもの――に属し、今でもその名前で活動しているのは、本家本元の「般若一族」に申し訳ないような気がしますが、せめて本家の名を汚さぬよう、真摯に詰将棋に向かう姿勢は忘れないようにしたいと思います。
ただ「般若一族」の名やその活動から受けるある種の厳めしさ、ある いは取っ付き難さに反し、個人としての首猛夫氏はとても気さくで親しみ易い印象を受ける方でした。全国大会などでも、どちらかと言えば非社交的で自分の殻に閉じこもりがちな詰棋人たちに、自分から積極的に声を掛け、溶け込む努力を惜しまなかったように見えます。年齢的にも私より少し上なだけですし、大道棋や大学院の担当も務め、もし病魔に冒されなければ詰将棋界に貢献する多くの活動を続けていたに違いありません。謹んで首猛夫氏のご冥福をお祈り致します。
さて、今回の出題は狭い空間内での入れ替えパズルです。以前3×3のミニ盤で同じような設定の作品を出題しましたが、今回は3×3の枠外に少し配置が必要になったので、通常の盤で出題しています。ニ歩や逆王手に気をつけながら解いてください。
【ルール説明】
【手順】
22と 同歩/21と 11と/21飛 13玉 12と 23玉 13と 32玉 22と/13歩 33玉
32と 23玉 33と 12玉 23と 同玉/12と 13と/12歩 32玉 23と 同飛/21と
31と/21金 22玉 32と 11玉 21と/32金 同飛/23と 22と 同玉/11と 12と/11歩
23玉 22と 同金/32と 33と 12玉 22と/33金 13玉 12と 23玉 13と
32玉 23と 同飛/21と 31と 22玉 21と 12玉 11と/21歩 22玉 12と
31玉 21と/12歩 同飛/23と 22と 同玉/31と 32と 11玉 22と 同玉/11と
21と/11飛 23玉 22と 13玉 12と/22歩 23玉 13と 32玉 23と 21玉
12と 同玉/21と 22と/21歩 13玉 12と 23玉 13と 32玉 23と 31玉
32と 同金/33と 22と 同玉/31と 32と/31金 12玉 まで 84手
→動く盤面で鑑賞する(Flash Player 9が必要です)
【解説】
協力千日手の解法の基本は、頭と後ろの両方から手順を読んで、両者を繋ぐ手順を考えることです。
本作の場合は、逆算で考えると後半10手くらいがほぼ限定され、金を33に置いた形を作らねばならないことがわかります。その後、今度は正算で金を33に運ぶ順を考え、その過程で乱れてしまった飛と歩の配置を元に戻す手順を考えることになります。
このように、構成自体は単純ですが、手数オーバーを避けるためには結構効率的な手順が必要なので、地道に最短手順を探す作業が必要です。
ちなみに、34歩は二歩禁を利用して早詰を避けるための配置ですが、42玉は壁の意味だけで、逆王手防止とは異なります。本当はこの配置を避けて、2段目に飛が来る紛れを残しておくべきだったかもしれません。
【正解者及びコメント】(正解3名:到着順)
瘋癲老人さん
方針としては金を33に持ってくる、飛車は一段目と三段目を
往復させるのが効率的かなということであとは適当です。
難易度はそれほど高くないのかもしれません。
お客さんが集まるといいですが。
☆ 瘋癲老人さん解答は13日に到着。合駒が出てこないので、第124回の出題よりは易しいと思っていたのですが、その後な かなか解答は増えませんでした。
そして、隅の老人Bさんとたくぼんさんの解答が到着したのは30日。
きっとこれは、今年の夏の猛暑と、北京オリンピックの影響に違いありません!
隅の老人Bさん
と1枚で追っかけるので、応手は意外と少ないが、
80手は、この暑いのに辛い根気仕事です。
盤の傍らに印刷した図面を置いて、駒を動かす。
とんぼつり、今日は何処まで、行ったやら。
解けたと思ったら、出だしの手順は忘れてる。
答案書きで、また一苦労。汗が滴る、暑い暑い。
ふと思う、このような問題を、ヒラメキで解ける人はいるのだろうか?
☆ ひらめきで解ける人はいないでしょうね。基本的方針は瘋癲老人さんの仰るように金を33に据え、飛はなるべく大きく動かして手数を稼ぐよう留意し、後は地道に無駄をなくしていくのが、この作品の唯一の解法だと思います。
この種の問題は 解くのが面倒な反面、一定以上の労力をつぎ込めば必ず解答に到達することができるので、頭脳の持久力アップのための問題として活用して欲しかったところで す が……
たくぼんさん
堂々巡りになりそうなところで実に上手く飛を利用する順が素晴らしい。また21まで戻った歩をまた12へ戻す順が心理的にやりにくい。
それにしてもこの狭い空間でかつ交換するPWCルールで元に戻すのに84手もかかるとは驚きですね。
まあほとんど虱潰しのような解法なのでいつかは解けると思って解図していますが、ここ何作かの大作で感覚は掴めて来たような気はします。
☆ 合駒がない場合、3×3での入れ替えパターンというの は結構限られてくると 思います。ですから、だんだん解くのも楽になってくるはずです。
本当はそれに応じて作る方も高度な応用を考えないといけないのですが、今のところは、手順を限定にするだけで精一杯という感じですね。もう少し3×3の入れ替えを研究して、腕もそれなりに上がったら、パターンの応用にも挑戦したいと思います。
☆ 猛暑が収まったと思ったら、今度は大雨。例年とは異なる天候にどまどわされることの多い昨今ですが、詰将棋は天候と違いマンネリではない方が良いでしょう。というわけで、次回はいつもとは違う方式の出題を行いたいと思います。
(2008.8.31 七郎)
【出題時のコメント】
今月の 詰パラをお読みになった方は既にご存知かと思いますが、私は看寿賞の選考委員を降板しました。理由はいくつかありますが、一番大きな要因は選考作業の負担が大きいことです。例えば、選考委員には3月頃に「候補作リスト」が示されますが、このリストには60作以上の作品が含まれます。そして、投票や討議のスケジュールに間に合わせるために、これを一ヶ月以内に解かなければいけません。普段から解答者・担当者として活動している人には既知の作品が多いのでしょ うが、いつもはフェアリー欄しか読まず、気が向いたときだけ「大学院」を見るという自分にとっては、その多くが初見になります。しかも、自分にとって3月は花粉症真っ只中の季節なので、集中するのが難しい状態で大量の解図を行わねばなりません。大げさに言えば、この時期はいつも「ちょっとした地獄」でした。当然、いくつかの作品は解けずに「鑑賞」だけになったり、充分な分析ができなかったりしました。また、私生活でも若干の環境変化があり、これ以上の継続は無理と判断して、昨年の選考作業の終了を機会に降板を申し出ました。
私の選考委員の在任期間は5年だったわけですが、これは自分の感覚では「やや長い」と思います。最近は選考委員だけでなく、詰棋校の担当者や他の仕事で もかなり長期間同一人物が担当することが多く、これはとても良くない傾向だと感じています。詰将棋界は基本的にボランティアで成り立っているので、特定の 人だけに仕事が集中しやすい傾向があります。だからこそ、負担を分散することや、新人(“若い人”だけでなく“能力のある未経験者”を含む)をどうやって 発掘するかということが、もっと議論されたり試みられたりしても良いのではないでしょうか。特定の人々に負担が集中することにより、ますます仕事の引き受け手が減るという悪循環からは何とか抜け出したいものです。
さて、今回の出題はフェアリーの基本中の基本とも言える協力詰(通称:ばか詰)です。前回の出題から本サイトでも「ばか詰」→「協力詰」、「自殺詰」→「自玉詰」という用語の変更を行っていますが、これは「不特定の読者による閲覧を想定したWebでの出題では、こういう穏当な用語を使う方が適切だろう」という判断に基づいています。もちろんルール自体は変わっていませんので、多くの解答をお待ちしています。
【ルール説明】
【手順】
66歩 同玉 67歩 同玉 68歩 同玉 69歩 77玉 78歩 76玉
68桂 同桂成 77歩 67玉 68歩 66玉 67歩 55玉 56歩 同玉
57歩 同玉 58歩 同玉 59歩 67玉 68歩 66玉 58桂 同桂成
67歩 57玉 58歩 56玉 57歩 45玉 46歩 同玉 47歩 同玉
48歩 37玉 38歩 27玉 28歩 同桂成 39桂 36玉 37歩 35玉
36歩 同全 47桂 同全 36歩 46玉 47歩 55玉 56銀 まで 59手
→動く盤面で鑑賞する(Flash Player 9が必要です)
【解説】
歩で橋頭堡を築き、その歩頭に桂を打って桂で取らせることにより、桂をはがしていく趣向作―― とは言ってもサイクル数は最小限の2回しかありません。当初は普通に3サイクルを行っていたのですが、各 サイクルで大量の歩を消費するので、駒不足で収束が淡白になってしまいました。そこで一工夫したのが本図の収束。最後の桂ははがさずに、邪魔にならない場所にどいて貰うのです。
最後の桂をはがさないため、趣向としてはちょっと物足りないのですが、収束で桂の代わりに成銀をはがせたので、それなりに満足はしています。序で成桂をは がすような手順を入れれば、もう少し手順全体のバランスが良くなりそうですが、巧い手順が思いつきませんでした。
【正解者及びコメント】(正解6名、感想2名:到着順)
たくぼんさん
調子に乗って3枚目の桂を取りに行くとうまくいかない。
成銀を取る手段がなかなか見えにくい順でした。(大半の時間はここに使った・・・見事な順でした)
しかし収束が趣向部を食っているような気もしないではないかな(笑)
☆ たくぼんさんの仰る通り、明らかに構成は失敗してますねぇ。こういうときは、序奏部にも何かポイントとなる手順を入れてサンドウィッチ方式にすれば、趣向部が「中間部」の役割を果たしてくれるのですが…。逆算は難しいです、協力詰では特に。
橘圭吾さん
簡単な趣向を行き過ぎたら大幅に手数が・・・
下に潜り込むのが巧い手順ですね
久し振りに解けて良かった・・・
☆ 42手目37玉 ではなく、48同玉として3サイクル目の趣向手順を行うと 49歩 57玉 58歩 56玉 48桂 同桂成 57歩 47玉 48歩 37玉 38歩 46玉 47歩 45玉 37桂 同全 46歩 36玉 37歩 35玉 … のような手順で大幅な手数オーバーになります。皆さんこの手順に嵌って戴いたようなので、収束だけは成功ですね。
なお、橘さんからは第134回の時に解答を戴いているので、それほど 「久し振り」とは思いませんでした。これも若い人との時間感覚の相違かと思ったのですが…
隅の老人Bさん
持駒に歩が16枚もあるのに、もう1枚欲しくなったの、だ−れ?
ハ−イ、欲張り爺の私です。
3枚目の桂も同じ趣向で取りに行く。
変化球?、見事に空振り、そりゃないよ。
久しぶりに解けたよ、七郎さん。
嬉しいな、で、解答。
☆ 隅の老人Bさんも「久しぶり」って言ってる!(やはり第134回以来の解答)
つまり、解答強豪の方にとっては、2回解けないだけでも長く解けていないような感覚になるということなんでしょうね。
香箱さん
流れに任せた42手目48同玉以下の順から抜け出せなかったため、収束が見えずに往生し ました。
受方36桂は28にどかせて成銀は47で取るのか、なるほど。都で大団円。
☆ この所順調に解答数を伸ばしている香箱さん。うちの解答番付は 通算成績で順位をカウントしているので、それでも上位に食い込むのは難しいのです。暇があったら年度別に集計してみて、順位がどうなるか見てみたいと思い ます。
竹野龍騎さん
出題日に69手解は見えたのですが五里霧中。
二歩禁解消のための盤上歩2枚消去、及び、詰めるために成銀を取ることは必須のようなので、10手も縮めるには36の桂を取らないという発想は浮かびまし たが、具体的な手順は発見できずに堂堂巡り。
橘圭伍氏に「都詰」のヒントを頂いても苦戦。締切日にやっと解けたようです。
☆ 竹野龍騎さんは初解答。とは言っても、まったくの新人ではなく、有名な方の ハンドルネームです(勘の良い方ならどなたのハンドルネームなのか容易に推理できるでしょう)。これから もどんどん解答をお寄せください。
北村太路さん(感想)
自分の頭が柔軟性を欠いていたので3回連続して桂をはがさないと詰まないと思い込んでま した。
3枚目の桂はどかす、成銀を連続で動かす、3回目に打った桂をもう一度はねて使う、というところが全て思いつきませんでした。
☆ 北村さんの挙げていただいた3点のうち、一番難しいのは「打った桂をもう一度はねて使う」という所でしょうか。この手が見えないと、玉を27まで持ってくる手も見えませんしね。
小峰耕希さん(感想) 2008.8.4追記
OFM#137が解けなかったので、さっきfmでカンニングしました。
42手目以降の手順が巧いですね。全然気付きませんでした。
出題時のコメントにある役割分担については同感です。
近年、臨時高校や短コンで複数担当制を採った事がありましたが、その結果出来た原稿に対する賛否はいろいろあるにしても、過重負担を避けるためのそのよう な工夫は必要と思います。
例えば僕場合、毎月やれとか大量の採点しろとか言われると躊躇してしまいますが、昨年の短コン方式や JIGSAW BOX 程度を年に2〜3回なら何とかという感じです。
☆ 私の場合、年2回の「氾濫」とスポット的に入る解説の仕事が「公」の仕事のすべてですが、それでも一杯一杯の感じです。ましてや、詰棋校の担当者などは毎月毎月原稿を書かなければいけないので、自分にはとても勤まらないでしょう。仮に私がフェアリーからすっぱり足を洗って、このサイトの更新も止めれば、担当の仕事をするのも不可能ではないのでしょうけど、そこまで自分を犠牲にしたくないですしね。
それに、むかしの詰パラだと、かなり若い人に担当をやらせて、積極的に経験を積ませていた印象がありました。当然「原稿が遅い」だの「解説がなってない」だのといった問題が起こったりもしたのですが、ある程度はそういったことも許容する「大らかさ」が今の詰棋界には必要なのかもしれません。
瘋癲老人さん 2008.8.4追記
普通に桂を全部はがしてから銀と思ったら曲者でした。
収束は思わず考え込んでしまいました。
最初から嵌らない人はいるんでしょうか?
☆ 本来なら最速(7月15日)の到着だったはずの瘋癲老人さんの解答ですが、メール事故のため未着扱いになっていました。大変申し訳ありま せん。
ところでこの収束ですが、短評を見る限り解答された方全員が一度は嵌ったみたいです。全然この筋に嵌らずに、第一感で正解に辿り着ける人はこの世にいない んでしょうねぇ。
☆ 現在「第28回神無一族の氾濫」の結果稿を(未だに)作成中。まあ、一応の形は出来上がっているのですが、ちゃんと仕上がるまではネット上の活動は縮小傾向になると思います。でも、次回の出題はちゃんと行いますよ。
(2008.8.3 七郎)