トップページ 戻る


解答

 

 


第116回(2006.10.29)出題 の解答

「神無七郎 作」 PWCばか詰 19歩75王 +角2, 16と26と29玉36と37と38と47と48と57と58と67と68と77と78と86と87と88と96と @+ #73

 

【出題時のコメント】

 

 先週「新桃花源」の記念座談会を開きました。メンバーは「新桃花源」作者の添川公司氏の他に、角建逸氏、相馬康幸氏、そして筆者の4名です。現時点ではまだ原稿執筆中(パラ12月号に掲載予定)ですが、ここではその原稿に載らない「余談」をひとつ紹介します。

 それは「不利逃避」の1号局は誰の作品か、という話題です。こう聞かれたら、ほとんどの方が山田修司氏の名前を挙げるでしょうし、筆者も深く考えずにそう信じていました。ところが、添川氏は「酒井桂史の作品にすでに不利逃避がある」ということを教えてくれたのです。具体的に言うと酒井桂史作品集の第3番。10手目すぐに32同玉とせずに、一旦12玉と逃げて21歩をわざと取らせる手順が「不利逃避」になっています。この作品では意味付けが単なる「退路空け」ですし、取らせる駒も歩なので全然不利な気がしませんが、形式的には確かに「不利逃避」となっています。
 もちろんこれで山田修司氏の「不利逃避」の価値が下がることは全くないのですが、こういう有名な手筋が、あまり有名でない作品に隠れているというのは面白いことです。案外、こういうケースが他にもあるかもしれません。

 さて今回の出題は盤面「と歩図式」の趣向。たぶん、収束以外は楽勝だと思います。受方持駒制限に注意して解いてください。


 

【ルール説明】

【詰手順】

18角 39玉 17角 28と寄 同角/17と 49玉 27角 38と寄 同角/27と 59玉
37角/28と 48と寄 同角/37と 69玉 47角/38と 58と寄 同角/47と 79玉 57角/48と 68と寄
同角/57と 89玉 67角/58と 78と寄 同角/67と 98玉 89角 97玉 79角 88と直
同角/79と 87玉 98角 78玉 89角 69玉 78角 59玉 77角/88と 68と寄
同角/77と 49玉 67角/78と 58と寄 同角/67と 39玉 57角/68と 48と寄 同角/57と 29玉
47角/58と 38と寄 同角/47と 19玉/29歩 37角/48と 18玉 27角/38と 29玉/18歩 38角/27と 39玉
48角/37と 28玉 37角/48と 18玉/28歩 27角/38と 29玉 38角/27と 39玉 48角/37と 28玉/39歩
37角/48と 18玉 29角 まで 73手

動く盤面で鑑賞する(JavaScript/CSS使用,IE専用)

 

 

【解説】

 本作は盤面と歩図式。7段目と8段目に並んでいると金が示唆するとおり、角2枚でと金の群れの中を泳いでいく手順が出てきます。角で取られたと金はひとつ筋がずれるものの、全体としては元の形を保っているので、左辺でターンした後、同じ趣向で右辺に戻ってきます。収束は19歩が邪魔なので、角を駆使して39に待避させ、37角29角18玉の詰上り型を実現します。この角2枚による歩の運搬手順は、いろいろな応用が可能で、たくぼんさんのページで行われている第10回PWCばか詰作品展にも、その筋で一作投稿しました。この作品が少しヒントになると思います。
 ところで、出題のとき「収束以外は楽勝」と書いたのですが、必ずしもそうは言えないようでした。左辺のターンのとき、作意は26手目98玉と逃げていますが、88玉と逃げると77手で非限定もなくピッタリ詰むという強力な紛れがあります。この紛れに嵌ると、左辺のターンで4手余分に消費しているのに、収束で何とかしようと悩んでしまうので、非常に解き難いというわけです。実際、創作の当初は盤面と歩図式ではなかったので、このようなターンのものもありました。この図で言えば、攻方99桂を加えると、この紛れのターンの仕方が正解になります。他にもいろいろなバリエーションが考えられる素材で、研究すればまだまだいろいろなものが出てくるかもしれません。

 

 

【正解者及びコメント】 (正解4名:解答到着順)

 

瘋癲老人さん

収束は細かい手順が続いてなかなかいいと思います。
しっかりと考えさせられました。

今回も最初の解答は瘋癲老人さんでした。あの519手詰を含む第9回PWCばか詰作品展ですら出題4日後に全解しているのですから、その解図力には恐れ入ります。

 

たくぼんさん

残り20手のところまで5分でたどり着いたものの、そこからがなかなか進まない。
詰上がりの形が分からないまま結局今川流”ひたすら駒を動かす”作戦を敢行し詰上がりの形を発見しました。
それにしても趣向スタイルが往復で現れるのですから私にしてみれば到底創作できない種類の作品です。
角が暴れる早詰・余詰を王一枚で抑えてあるのもさすがです。

左辺で角が暴れる余詰には悩まされました。75王の配置は自分では最善のつもりなのですが、もしもっと効率の良い配置があったらぜひ教えてください。もし1歩余っていたら、下の図のように左辺でも歩の移動を絡めることができるのです(下図では足りない歩を金で代用)。どこかで1歩捻出できないかなぁ…。

「神無七郎 作」 PWCばか詰 19歩95王98歩 +角2, 16と26と29玉36と37と38と47と48と57と58と67と68と77と78と86と87と88と99金 @+ #85

 

若林さん

この形の筋違い角での追い回しは文句なく楽しいです。
相変わらず綺麗に往復が成立するものです。
19玉からの収束は確かにちょっと時間がかかりました。
序で運んでおいたと金が壁駒になって味が良いですね。

2枚角追いは、普通のばか詰でもかなり凝った手順を展開できる素材で、名作も多くあります。PWCでもこれを応用すれば、綺麗な趣向作から頭の痛くなる難解作まで、いろいろな作品ができるのではないかと思います。

 

 

真Tさん

収束より折り返しの方が難しかったです(最初折り返しで間違えて77手になってしまい苦労しました)。
折り返しの部分をうまくすれば、趣向の部分は崩れないので何往復もさせることができるのではないかと思ったのですが、多分難しいんでしょうね(75玉の意味すらわかっていないので、どうとも言えませんが)。

左辺でのターン部を工夫すれば、右辺でターンして、また左辺に帰ってくるような展開も可能かもしれません。もちろん、無限軌道で何度でも往復できる型も可能だと思いますが、問題は往復する意味付けをどう与えるかですね。どちらもこの型の角追いのバリーエションとして研究したいと思います。

 

 

今回の出題は予想以上に難しかったようで、正解者はわずか4名に止まりました。メンバーが前回とまったく同じなので、他の方々の奮起をお願いしたいと思います。
さて次回もPWC関連ですが、誰の作品が登場するか、もう分かっている方も多いと思います。どんな作品かは一週間後をお楽しみに。

 

(2006.11.19初稿、21一部修正 七郎)


第115回(2006.10.1)出題 の解答

「神無七郎 作」 ばか詰 11金12銀19歩21銀22歩23桂31金32銀35桂39桂43歩51飛53歩61金76桂81角92王, 34歩42飛48香55玉58金66香72香75香83歩86馬87銀 #597

 

【出題時のコメント】

 

 詰将棋界から偉大な才能がまたひとつ消えました。森茂氏が亡くなったのです。この喪失に見合う適切な言葉はみつかりません。その真摯な創作姿勢から産み出される傑作の数々は、我々にとって常に憧憬の的であり、詰将棋の理想的なあり方を示すひとつの規範でした。いつかは避けられぬ運命とはいえ、氏の創作活動がここで中断されてしまったことは残念でなりません。

 思い起こせば、私の詰パラ初登場作―1981年12月号に発表したばか詰(71手が作意)―に早詰指摘をされたのが森茂氏でした。氏は早詰の指摘だけでなく、修正案まで提示され、私は「世の中には凄い人がいるものだなぁ」と、ただただ感心するばかりでした。これが、私が氏の実力を実感した最初の機会かもしれません。
 ちょうどその頃(1980年代)は、森氏の作品発表数が少なくなっていた時期なのですが、後に資料によって1970年代の氏の活躍を知るようになってから、その偉大さを改めて感じたものでした。1990年代の後半以降は「神無一族の氾濫」にゲスト出演して戴いたり、あの記念碑的な名作
「龍の顎」の解説を担当させてもらい、詰パラやカピタン等の誌面だけでなく、手紙を通して氏の人柄にも触れることができたのは、大変幸運なことだと思っています。ただ、先月の詰パラに載った森茂氏の1965手詰の結果稿。これは一足違いで生前の氏の目に触れることはなかったそうです。もう少し早く結果稿を完成させておけばと悔やまれます。

 生前、森氏は自分の作品集をまとめることを計画していました。氏の業績は詰将棋だけでなく、詰碁やパズルなどの広範囲に亘っており、その全部をカバーするのは個人の力では限界がありますが、幻となってしまった作品集の実現にせめて一部だけでも貢献できればと、私は思っています。

 今回出題した作品は、森茂氏の1965手詰の出題準備のため、氏と私信をやり取りしていた時に作った図です。あの作品の持駒増幅の応用例のひとつで、本来なら超長編に展開すべき素材かもしれません。ここではそのころの思い出の作品として、敢えてそのままの形で出題します。


 

【ルール説明】

【詰手順】

47桂 45玉 72角成 46玉 82馬 36玉 72馬 37玉 82馬 27玉
72馬 28玉 82馬 17玉 18歩 16玉 17歩 15玉 16歩 14玉
15歩 13玉 14歩 22玉 13歩成 同玉 19香 18歩 同香 17歩
同香 16歩 同香 15歩 同香 14歩 同香 同玉 15歩 同玉
16歩 同玉 17歩 27玉 72馬 37玉 38歩 28玉 82馬 37香
29歩 27玉 28歩 36玉 37歩 26玉 27歩 15玉 16歩 14玉
15歩 13玉 14歩 22玉 13歩成 同玉 19香 18歩 同香 17歩
同香 16歩 同香 15歩 同香 14歩 同香 同玉 15歩 25玉
26歩 同玉 27歩 同玉 72馬 37玉 38歩 28玉 82馬 37香
29歩 27玉 28歩 36玉 37歩 26玉 27歩 15玉 19香 18歩
同香 17歩 同香 16歩 同香 同玉 17歩 27玉 72馬 37玉
38歩 28玉 82馬 37香 29歩 27玉 28歩 36玉 37歩 26玉
27歩 15玉 16歩 14玉 15歩 13玉 14歩 22玉 13歩成 同玉
19香 18歩 同香 17歩 同香 16歩 同香 15歩 同香 14歩
同香 同玉 15歩 25玉 26歩 同玉 27歩 同玉 72馬 37玉
38歩 28玉 82馬 37香 29歩 27玉 28歩 36玉 37歩 26玉
27歩 15玉 19香 18歩 同香 17歩 同香 16歩 同香 同玉
17歩 27玉 72馬 37玉 38歩 28玉 82馬 37香 29歩 27玉
28歩 36玉 37歩 26玉 27歩 15玉 16歩 14玉 15歩 13玉
14歩 22玉 13歩成 同玉 19香 18歩 同香 17歩 同香 16歩
同香 15歩 同香 14歩 同香 同玉 15歩 25玉 26歩 同玉
27歩 同玉 72馬 37玉 38歩 28玉 82馬 37香 29歩 27玉
28歩 36玉 37歩 26玉 27歩 15玉 19香 18歩 同香 17歩
同香 16歩 同香 同玉 17歩 27玉 72馬 37玉 38歩 28玉
82馬 37香 29歩 27玉 28歩 36玉 37歩 26玉 27歩 15玉
16歩 14玉 15歩 13玉 14歩 22玉 13歩成 同玉 19香 18歩
同香 17歩 同香 16歩 同香 15歩 同香 14歩 同香 同玉
15歩 25玉 26歩 同玉 27歩 同玉 72馬 37玉 38歩 28玉
82馬 37香 29歩 27玉 28歩 36玉 37歩 26玉 27歩 15玉
19香 18歩 同香 17歩 同香 16歩 同香 同玉 17歩 27玉
72馬 37玉 38歩 28玉 82馬 37香 29歩 27玉 28歩 36玉
37歩 26玉 27歩 15玉 16歩 14玉 15歩 13玉 14歩 22玉
13歩成 同玉 19香 18歩 同香 17歩 同香 16歩 同香 15歩
同香 14歩 同香 同玉 15歩 25玉 26歩 同玉 27歩 同玉
72馬 37玉 38歩 28玉 82馬 37香 29歩 27玉 28歩 36玉
37歩 26玉 27歩 15玉 19香 18歩 同香 17歩 同香 16歩
同香 同玉 17歩 27玉 72馬 37玉 38歩 28玉 82馬 37香
29歩 27玉 28歩 36玉 37歩 26玉 27歩 15玉 16歩 14玉
15歩 13玉 14歩 22玉 13歩成 同玉 19香 18歩 同香 17歩
同香 16歩 同香 15歩 同香 14歩 同香 同玉 15歩 25玉
26歩 同玉 27歩 同玉 72馬 37玉 38歩 28玉 82馬 37香
29歩 27玉 28歩 36玉 37歩 26玉 27歩 15玉 19香 18歩
同香 17歩 同香 16歩 同香 同玉 17歩 27玉 72馬 37玉
38歩 28玉 82馬 37香 29歩 27玉 28歩 36玉 37歩 26玉
27歩 15玉 16歩 14玉 15歩 13玉 14歩 22玉 13歩成 同玉
19香 18歩 同香 17歩 同香 16歩 同香 15歩 同香 14歩
同香 同玉 15歩 25玉 26歩 同玉 27歩 同玉 72馬 37玉
38歩 28玉 82馬 37香 29歩 27玉 28歩 36玉 37歩 26玉
27歩 15玉 19香 18歩 同香 17歩 同香 16歩 同香 同玉
17歩 27玉 72馬 37玉 38歩 28玉 82馬 37香 29歩 27玉
28歩 36玉 37歩 26玉 27歩 15玉 16歩 14玉 15歩 13玉
14歩 22玉 13歩成 同玉 19香 18歩 同香 17歩 同香 16歩
同香 15歩 同香 14歩 同香 同玉 15歩 25玉 26歩 同玉
27歩 同玉 72馬 37玉 38歩 28玉 82馬 37香 29歩 27玉
28歩 36玉 37歩 45玉 72馬 56玉 57香 67玉 68歩 77玉
78歩 88玉 89歩 97玉 98歩 96玉 97歩 95玉 96歩 94玉
95歩 同玉 62馬 96玉 97歩 同馬 52馬 95玉 96歩 同銀成
62馬 85玉 52馬 76玉 77歩 87玉 88歩 86玉 87歩 95玉
62馬 85玉 86歩 同全 52馬 95玉 62馬 73桂 96歩 85玉
52馬 84玉 85歩 同桂 62馬 94玉 95歩 まで 597手

動く盤面で鑑賞する(JavaScript/CSS使用,IE専用)

 

 

【解説】

 本作は「氾濫25」の森茂氏の1965手詰の持駒増幅機構を2段階式にしたものです。歩を使って香を入手し、香を使って歩を入手するという基本構造は同じですが、最初のサイクルでは稼いだ歩を使い切ってしまうので、持駒は増えません。代わりに、15歩が17へ下がってくれるので、次のサイクルで1歩が稼げます。この時歩が15に戻るので、この2サイクルを何度も繰り返して、収束に必要なだけ歩を増やします。
 収束は結構細かいやり取りが必要で、作者としても結構気に入っています。雰囲気としては
森茂氏の「雷神」(1985年4月)のような収束を目指したものですが、さすがにそこまでの巧妙な収束にはなりませんでした。

 

 

【正解者及びコメント】 (正解4名:解答到着順、感想1名)

 

瘋癲老人さん

収束が巧妙にできていますね。銀不成で打ち歩詰に嵌まって悩みました。

実は私も銀不成の方で収束させたかったのですが、手順が限定できず、路線変更したのがこの図だったりします。出来てみると、この方が良かったので、元々そう作るべき素材だったということでしょう。

 

真Tさん

まず森さんの1965手詰を並べてみたのですが、すごい作品ですね。感動しました。このような作品を作られる方が亡くなられたのは非常に残念です。ご冥福をお祈り申し上げます。

森さんの作品を並べていて思ったのが、香をもっと離して打てないのだろうかということ。そして、出題作の解図を始めたら…、19香でなんか嬉しくなりました。持駒増幅の所でも考えさせられましたが、一番考えさせられたのは収束です。歩を貰えるだけ貰って左下を使うのは分かるのですが、詰形が全く見えませんでした。97馬96銀の形に出来るのが分かってなんとか解けました。実に楽しめてよかったです。

結局あの1965手詰が森氏の「白鳥の歌」になってしまいました。
私は森氏の未発表作をいくつか知っているのですが、このまま埋もれてしまうには勿体ない作があるので、何とか日の目を見るようにしたいと思っています。
もし、読者の中で森氏の未発表作をご存知の方がいらっしゃいましたら情報をお寄せください。

 

たくぼんさん

巧みな2段式の歩増幅機構で生み出す長手数はまさに森作を彷彿とさせてくれる。収束も単に歩を並べるだけでなく秀逸。
見事な完成品です。森さんもきっと天国で”なかなかやりおるわい”と拍手されているに違いありませんね。

私のフェアリー詰棋界への登場が遅すぎて、氏と重なり合う時代が僅かだったのは残念で、立派な作品集が出来るよう微力ながらお手伝いをしていきたいと思う次第です。
心よりご冥福をお祈り申し上げます。

たくぼんさんがまとめられた森茂作品集は、将来本格的な作品集をまとめるときにも貴重な資料となると思います。
たくぼんさんは、フェアリーデータベースの構想を実現させただけでなく、その成果を「五手詰傑作集」や今回の作品収集で活かしており、その貢献度の大きさには目を瞠るばかりです。

 

 

若林さん

私は森氏のほんの一端しか作品を見ていませんが、フェアリー詰将棋に関わるようになって、初めての訃報です。
心して解かせていただきました。
歩の稼ぎ方は氾濫の森氏作を並べていたのでそれなりの苦労で見つかりましたが、駒消費を伴う歩稼ぎは綺麗です。
そして歩稼ぎが生きるのも76桂が活用される美しい収束あってこそ。
初めてこの手数で収束までたどり着けました。
超手数化というと歩の入手サイクル64手を伸ばすことでしょうか。
この趣向とこの収束が私に解けるぎりぎりな気がします。

超長手数化は「寿限無」型の歩下げを絡ませたり、「はがし」と組み合わせたりなど、いくつかのパターンが考えられるのですが、接続部がうまく考案できず、とりあえず保留しています。今はちょっとじっくり考える余裕がないので、またいつか本格的に取り組んでみたいと思います。

 

 

小峰耕希さん(感想)

原作は簡単に解けたのに、今回は1筋で歩を稼いで、下段で香を取ってを繰り返すのだろうな、程度しかわかりませんでした。
解説や皆さんの短評をヒントにもう一度解き直してみようと思います。
本局の発展ヴァージョンですが、間に合いましたら追悼作品展に是非…(予約)。

小峰さんからは、感想というか再チャレンジ宣言(?)を戴きました。解図後の感想が届いたら、また追記しますね。
追悼作品展にこれの発展バージョンが間に合うかどうかは分かりませんが、何かは出したいと思います。

 

実は今「新桃花源」の結果稿作成の真っ最中。そのため、このページの更新もいろいろ滞っています。これが一段落したら「fm虎の穴」とか「氾濫再録」とかも更新するつもりですが…。

 

(2006.10.22 七郎、23追記)


第114回(2006.9.3)出題 の解答

「伊達 悠 氏作」 アンチキルケ打歩ばか自殺詰 29銀38王71飛 +角銀, 16飛26玉45馬46銀69金 #10

 

【出題時のコメント】

 先月、「冥王星が惑星から降格」というニュースが話題になりました。このページでも第106回出題のとき、冥王星関連の話題をとりあげたので、今後の成り行きが気になるところです。果たして「青い鳥」の「九つの惑星の王」は、「八つの惑星の王」に改定されるのでしょうか?
 この「冥王星降格」で、私が連想したのがシューベルトの「未完成」です(コリン・マシューズの「冥王星」のことも、もちろん思い浮かんだのですが、これは省略)。私が学生の頃、シューベルトの「未完成交響曲」は「第8番」という番号が振られていました。ところが、最近この曲は「第7番」と呼ばれています。これはかつて「第7番」と呼ばれていた交響曲が、内容的にはスケッチに過ぎず、演奏される機会もないため、正式な作品リストから「降格」してしまい、それに伴って残りの交響曲の番号がひとつずつ繰り上がったために起こった現象です。実際のところ、「元第7番」の降格は実態に合った妥当な処置なのですが、私には「未完成」=「第8番」のイメージが染み付いているため、この曲が「第7番」と呼ばれるたびに違和感を感じてしまいます。「未完成」の場合、それ自体が降格した冥王星とは事情が違いますが、きっと冥王星が惑星と呼ばれなくなったことに文句を言っている人は、これと似たような気持ちなのでしょう。

 ところで、詰将棋界でも有名作品が「降格」することはありうるでしょうか?
 真っ先に思い浮かぶのは、伊藤看寿の「裸玉」。歴史的経緯を考えず、単純に完全性だけを追求すれば、この作品は余詰のため裸玉から「降格」してしまいます。仮に「降格」しても、看寿の「裸玉」の価値が消えるわけではありませんが、裸玉の完全作リストにこの作品が載らないことに違和感を感じる人は多いと思います。逆に「裸玉の完全作第1号は何か?」と問われて、資料を見ずに即答できる人は、ほとんどいないと思います。多分、これは将来も変わらないでしょう。

 さて、今回はFairy TopIXも受賞し、「打歩」のスペシャリストとして名を馳せている新人、伊達氏の作品の登場です。ルール名だけ見るとややこしそうですが、論理的に考えれば煩わしくないはずです。
 なお、この「打歩」はいわゆる「完全打歩」です。「打歩以外の詰は禁手」という条件が、攻守双方に適用されることに留意してください。


 

【ルール説明】

【詰手順】

62角 44馬 35銀 17玉 44銀/39銀 44香 35角 同銀/31銀 77飛成 37歩 まで 10手

動く盤面で鑑賞する(JavaScript/CSS使用,IE専用)

 

【作者のコメント】

 突然自殺詰での打ち歩モノを作りたくなりました。
 今までは「完全打歩」の形が作りにくいという感がありましたので創作に乗り出していなかったのですが、この前の「
第10回アンチキルケばか詰作品展」の小峰さんの作品を見ていて「よし、やってみよう!」と思って創りだしました。それまでも小峰さんの「完全打歩」の作品は見ていたのですが、第10回のを見て火がついた、とでもいいましょうか。
 作品のポイントとしては、「完全打歩」の状態を作る初手6二角の限定打と9手目の成限定(流石に不成限定はできませんでした)でしょうか。銀の影からそっと中合する香車も自分にしては上出来かと。
 僕のフェアリーに関する作図でできるだけ心がけていることは、盤面10枚以内に落ち着かせるということです。実はフェアリートピックスを受賞した作品だけ10枚を超えてしまったのですが(13枚)、それ以外の作品は全て10枚以内に納まっているはずです。そういう意味でも、8枚に収まった今回の作品はうまくいったと思います。

 

【解説】

 「打歩ばか自殺詰」というルールは、割と発展性に乏しいルールでした。詰上りが「ピンされた大駒に対して歩合い」というパターンしかないためです。そこで、最近の「打歩ばか自殺詰」では、「打歩」の意味を「単純打歩」(打歩以外で詰めたら失敗)ではなく、「完全打歩」(打歩以外で詰めるのは反則)と設定して作られる場合が多くなってきました。この設定ならば必ずしも大駒をピンする必要はなく、ピンをする代わりに、歩を取ると受方の玉が詰むような局面を作ることによって詰上りを実現することもできるからです。
 筆者自身は根が長編作家のせいか、詰上り判定がややこしくなる「完全打歩」の条件は好きではないのですが、短編や中編ではこれも必要なのかもしれません。確かに「完全打歩」の設定なら、「ばか詰」のような味わいと「ばか自殺詰」の味わいが共存する独特の作品を作ることができます。

 前置きが長くなりましたが、上で説明した「完全打歩」の設定で作られている本作、今回はいつもと趣向を変えて、筆者の解図過程を順に追う形式で解説していきたいと思います。まず初形から、次のことが分かります。

 1. 最終手は37歩

 攻方の王を動かせれば他の最終手も考えられますが、この形で10手では王を動かすのは無理そうなので、これは妥当な仮定と考えられます。
 次に、どうやって歩を発生させるかを考えます。アンチキルケは性能変化のないルールなので、打歩詰の形を作るには、「飛に歩合」か「角に歩合」しかありません。ここで、「角に歩合」が正解と仮定して、初形に攻方48角・受方37歩をした局面を想定してください。48角をピンするか、37歩を角で取ったときに、受方の玉を詰むような形を作らねばならないのですが、どちらもこの手数では不可能そうです。
 では「飛に歩合」の形はどうでしょうか?
 飛は盤面にあり、17玉に飛で横から王手することでその形を実現することができます。飛をピンすることは無理ですが、歩を取ったときに受方の玉が詰むようにするのは簡単です(「完全打歩」の条件がここで活きます)。アンチキルケの特性により、37歩を取った飛は28に復活するので、飛をにしておけば、歩を取る手が自動的に逆王手になります。そのままだと受方玉もアンチキルケの特性を活用して、28龍を取って51地点に復活することができてしまうので、そこに何か攻方の駒を利かせておかねばならないのですが、これは割と簡単に実現できそうです。そこで次の方針が立ちます。

 2. 17玉に横からの龍の王手で37歩

 こうなると、今度は攻方の王をどう縛るかか問題になります。初形で39・48・49の3地点が空いていますが、こういう時は塞ぐのが一番難しい地点の塞ぎ方を考えるのがコツです。この場合、39地点を塞ぐのが最も難しそうですので、そこから考えましょう。39を塞ぐ手段として、「59角 48銀」が考えられますが、48銀を取れない形にするのはとても難しい問題です。
 そこで発想の転換。攻方の駒で39を塞いではどうでしょう?
 普通に考えると17玉に39角として39地点を塞げば良いのですが、ここで角を使ってしまうと、51地点に利かせる駒がなくなってしまいます。この角は62に打ちたいのです。でもそうすると39地点はどうやって塞ぐのでしょう?
 ここで、ルールにアンチキルケの条件があることをもう一度思い出してください。39は攻方銀の復活場所。持駒銀で何か駒を取れば39が埋まるではないですか!

 3. 39地点は攻方銀で埋める

 ここから自然に、4筋の香合で48・49に受方の駒を利かせること、62角で51に攻方の駒を利かせる手段に方針を絞ることができます。ただ、すぐに「62角 35銀 76飛成 46香」としてしまうと、持駒銀での駒取りができません。ここが最後の難関で、香合にすぐ飛びつかずに、銀で取れる44地点に何か役に立つ駒を合駒する事前準備が必要です。その時、44馬の移動合が見えれば、作者の意図した鮮やかな作意手順が浮かび上がります。

 さて、以上が筆者の解図過程を元にした解説ですが、みなさんはどの辺で苦労されたでしょうか? こうやって長々と解説するといかにも難しそうに見えますが、実際は論理が筋道だっていて、とてもスッキリした解後感を得られる作品ではないかと思います。特に、4筋の2枚が消えて44香が発生するのは、初形からだとなかなか想像ができないので、とても印象的でした。

 

【正解者及びコメント】 (正解7名、感想1名:到着順)

 

たくぼんさん

詰上りは簡単に見えたので、七郎さんの言うように論理的に考えて行くと意外と簡単に解けました。
とはいえ最終手に繋がる初手や3五銀→4四銀の逆モーション、双方銀の復活対比、9手目飛車成限定と見所満載で、難解でないところが作品の良さを引き立たせている気がします。

アンチキルケと言えばたくぼんさん。アンチキルケ作品に解答するのは、もはや義務です!
というわけで今回の一番乗りは、たくぼんさんでした。
もちろん、PWCに解答するのも、他のルールに解答するのも義務ですので、これからもよろしくお願いしますね。

 

もずさん

45馬と46銀が詰め上がりに不要と気付けば、手順はわかりやすいです。
44銀の感触が個人的には好みです。

確かに44銀はアンチキルケ独特の感覚ですね。玉から遠い方に向かう逆モーションが不思議ですし、飛び駒の利きを止める遮蔽物が一気に2枚消えるのも気持ち良いです。
おそらく、このルールで今後も好んで使われる筋になるのではないでしょうか。

 

瘋癲老人さん

完ボケが始まったのか目がおかしいのか。
最初は39王の図で、その後もずっと馬と銀が逆の図で考えてました。
中央の馬銀以外は詰みに不可欠なので、この2枚が鍵を握っている筈。
というよりはむしろ邪魔なわけですね。
余詰消しの駒もない簡潔な形での表現に感心。

奇しくももずさんと瘋癲老人さんは同じ所に目をつけました。
37歩までの詰上りを想定すると、45馬と46銀の2枚が不要になることを解図の鍵とされたようです。
やはり解答強豪の評は参考になります。

 

 

若林さん

コメントの通り、理詰めで解けるとても気持ちの良い問題。
角銀のみによって綺麗に舞台を作って法則系で詰み。
81飛配置にしないのも好感が持てます。

81飛配置にして初手71角が作意だったら、多くの人が白旗だったかも…。
飛の配置場所は迷うところですが、基本的には71か51の2者択一でしょうね。
63だと初手69飛の紛れが出る代わりに、21飛の紛れが消えますから。
皆さんならどこに置きますか?

 

橘 圭吾さん

詰上りの予測が簡単なので意外に簡単に解けました。
手順全体に統一感があるのはやはり35、44地点でのやり取りがリフレインぽく感じるからなんでしょうねえ。好作です。

確かに、44地点に受けの着手2回と攻めの着手1回、35地点は攻めの着手2回と受けの着手1回。
この地点に着手が集中しているので、手順にリズムが出ています。

 

 

小五郎さん

51を予め押さえておく62角の限定打から4筋に利かす44香合、最終手37歩を同○で取れない玉の位置…などの手がかりがばらばらのピースとして見つかるのですが、4筋の馬と銀を消す方法に苦心しました。
2〜5手目の一連の流れに気づいて一気に視界が開けパズルが完成した!感じです。

流行のPWCや他の複雑なフェアリールールは鑑賞するだけなのですが、アンチキルケとは相性が良いのか取り敢えず考えてみたくなります。

アンチキルケはたくぼんさんのページで取り上げられてネットフェアリー界ではメジャーになりましたが、PWCも同じくらい流行るよう期待しています。
PWCは感覚に馴染むまで時間が掛かりますが、単純な割に面白いルールなので、小五郎さんもぜひ取り組んでください。特に現在開催中の
第8回PWCばか詰作品展は、いつもより易しいのでチャンスだと思います。

 

 

真Tさん

最初、飛車だとすかし詰の形になってしまうと勘違いしたため、詰上がりが最初59角、37歩までと思い苦しみました。
飛車だと分かってからも39のふさぎ方が分からず、苦しみましたが、解けて(解けたと思う)爽快な気持ちになりました。
また、解答したいと思います。

真Tさんは初解答。ルール解釈に手間取ったようですが、見事に正解です。
実はこのハンドルネーム、最初は「文字化けか?」と思ったのですが、
詰将棋パラダイス中学校担当業務日誌でもこのお名前で解答されていることを知りました。
変な確認メールを出さなくて良かった…。

 

 

小峰耕希さん(感想)

例によって無解者代表の感想を。
というか、「無解者代表」というより「元ネタ」ですが(^^;)
無解なのに作者の言葉で自分の名前が連呼されていると、妙な心持ちになるものですね〜(良い意味で)。
そもそも「第10回アンチキルケばか詰作品展」ア2は、第8回ア1の吉川作が下地になっています。つまりこの作品の系譜は"KKD"。
これは好作になるに決まっています(←自分で言うな)。
では何故僕が解けなかったかといえば、理由は唯1つ。9手目で王手をする駒が角だと思い込んでいたからです。
しかしそうすると、5段目が塞ぎ難い上に、攻方王の退路を塞ぐために飛を28に復元させた時、生飛だと受方玉が17に逃げるし、龍で復元すると37歩で詰みにならない。
じゃあ生飛で更に29に桂を復元させる?
でも今度は29銀が邪魔だし…。ここまで考えた所でタイムアウトでした。
解説稿でいえばポイントAでつまずいていた訳で、道理で詰まない筈です。
これから実際に盤に並べて、手順を鑑賞しようと思います。

それから、「氾濫25」で僕の評が多く載っていて嬉しかった。
P104に至っては、解説文を除けばほぼ独占状態だし。
長編作品相手だと論理的な思考が出来るみたいですね(笑)

小峰さんの感想にもある通り、本作は吉川さんや小峰さんの「アンチキルケ打歩ばか詰」を踏まえて鑑賞すると、とてもよく理解できます。
せっかくですので、関連する作品を一覧にしておきましょう。

第8回アンチキルケばか詰作品展 アンデパンダンの部 ア1 吉川慎耶作 アンチキルケ打歩ばか詰 5手
第9回アンチキルケばか詰作品展 アンデパンダンの部 ア1 小峰耕希作 アンチキルケ打歩ばか詰 7手
第10回アンチキルケばか詰作品展 アンデパンダンの部 ア2 小峰耕希作 アンチキルケ打歩ばか詰 11手

特に「第10回」の小峰さんの作品は傑作。伊達さんがこれに刺激を受けたというのも納得の作品です。(その小峰さんが無解なのが不思議…)

なお、短評に関してですが、解説者としては「短すぎず長すぎず」とか「独特の着眼点あり」だと採用しやすくなります。長すぎるとどこを省略するかで悩みますし、他人と同じ感想だとどの人の短評を採用するかで迷いますから。
ネットでの結果稿だと、そんなこと気にしないで全面採用なんですけどね。

 

解答者は今回も7名。皆さんから好評が寄せられ、担当としても嬉しい限りです。
ここ2回ほど投稿作品の掲載が続きましたが、やはり自作を自分で解説するより面白いですね。我と思わん方はぜひ当ページに投稿してください。特に「ば自系」の作品は、他サイトでは載りにくいので狙い目ですよ。

 

(2006.9.24 七郎 25追記)


第113回(2006.8.6)出題 の解答

「若林 氏作」PWCばか自殺詰 11王44馬75角 +香, 61玉62飛72飛 #8

 

【出題時のコメント】

 今回の出題は8月6日。ちょうど「詰四会」第1回会合が開かれている日です。実は四国は私にとって縁の深い土地です。何しろ生まれたのが愛媛県なのですから。小学校に上がる頃に大阪に引越した後も、毎年夏には帰省で愛媛に帰っていました。大学に上がって関東に出てきてからは、すっかり疎遠なってしまいましたが、機会があれば「詰四会」にぜひ参加してみたいと思います。

 ところで、皆さんは四国の県名をすべて言えますか?
 実は関東に出てきて驚いたことのひとつが、四国の県名をすべて言えない人が結構いることでした。四国の3県までは名前が挙がっても「後一つは何だっけ?」という感じで、残り一つの名前がなかなか出てこない人が多いのです。
 まあ、親類がいるわけでもなく、仕事で行く用事もない人にとっては、四国は地図上の知識でしかないので、当然と言えば当然なのかもしれませんが、四国出身者としては淋しい限りです。ここはひとつ「詰四会」に頑張ってもらって、詰棋界では誰もが四国の県名を暗唱できるよう、大いにアピールして欲しいところです。

 さて、今回は本ページの解答常連で、アンチキルケばか詰作品展でも皆勤賞を達成された若林氏の作品です。飛角図式の初形が目を引きますが、手順もなかなか洒落てますよ。

 

【ルール説明】

【詰手順】

34馬 52飛 64香 62飛右 同香生/64飛 71玉 61香成 同飛/64杏 まで 8手

動く盤面で鑑賞する(JavaScript/CSS使用,IE専用)

 

【解説】

 1段目に王が居るばか自殺詰での定番の詰上りに、2枚飛車で詰める形があります。本作では、最初から盤面に飛車が2枚あるので、それを動かせばその詰上り型が実現できそうに思えます。ただ、本作には「PWC」という条件が付いているため、通常の方法ではうまくうまく行きません。例えば、初手より

 34馬 71玉 61馬 同飛?

とする筋を考えてみましょう(75角の存在はとりあえず棚上げします)。これは最終手の 同飛 の時に、取られた馬がPWCの効果で 62馬 と復活するため禁手になります。つまり、2段目に居る飛を動かす方針ではうまく行かないのです。
 そこで持駒香の出番です。香を使って飛を吊り上げれば、逆王手が掛からないのでうまくいくはずです。そこでこんな手順が想定できます。

 34馬 52飛 63香 62飛右 同香生/63飛 71玉 61香成 同飛/63杏?

 5手目同香生が、玉の退路を残し、飛の移動を達成するPWC独特の手順です。ところがこの手順、よく見ると香の打ち場所が非限定っぽくないですか?
 ここで、さっき棚上げしておいた75角の存在が意味を持ってきます。そう、75角は31の地点に利いているので、この手順では詰んでいないのです。ここで初めて3手目の香打ちが、75角の利き筋を止める64香でなければいけないことに気付きます。また、改めて考えてみれば、初手の34馬も(玉から遠い方に行く、ばか・ば自系では自然な一手ですが)、43馬としてしまうと21地点に利きが残るため、それを回避する手段だったことが分かります。
 本作は詰上り自体にはPWCの条件が絡んでいないため、フェアリーメイトを期待された方には物足りなかったかもしれませんが、「一段目の利きを残さない」という意味付けで手順が統一され、PWCらしいやり取りも織り込まれた、楽しい作だと思います。若林さんは、本サイトでの出題は初ですが、「アンチキルケばか詰作品展」や「PWCばか詰作品展」では、もう常連中の常連。本作をきっかけに、今後も本サイトにどんどん投稿して戴けるよう、お願いいたします。

 

【正解者及びコメント】 (正解7名:解答到着順)

 

北村さん

悩んだ問題は良く見える、という話がありますが、今回は逆に運良く簡単に答えに辿りついたので、ちょっと印象が薄いです。
なかなか洒落た手順ということでしたが、6四香限定打や、6二香不成−6一香成の部分でしょうか?
後者は、たくぼんさんの所の、PWCばか詰作品展第5回の5番の伊達氏作の手順と似ていて今一すっきりしません。意味づけは7五角の利きを止めるため、と異なった理由にはなっていますが。
2段目も利かせなくてはいけないので、飛を使いたいところを考えて、1、2手目を入れて見たのはいい感じ。
4三馬と使っちゃうと、最後に2一に行けて失敗になるんですね。
へそ曲がりなのか最初から何も考えずに3四に寄ってしまった私でしたが。

本作の解答者は6名だったのですが、評価は綺麗に二分された感があります。おおむね、すぐに解けた人は「物足りない」、悩んだ人は「面白い」という感想です。
私自身は解説で書いたように、「もしかして非限定?」→「詰んでないじゃん!」→「香打限定か!!」という解図過程を経たので、64香がとても面白く感じました。

 

もずさん

一段目に飛を移動させるためには、いったん飛を三段目以上に上げる必要がある。
そのためには馬鋸かと思いましたが、香で駒位置を入れ替えるのがてっとり早いですね。
香の打ち場所を限定するためだけの75角配置は苦しいところです。

本作は角が2枚あるので、1枚をミニ馬鋸に使うというのは大いにありうる発想だと思います。そういえば、本サイトの掲示板で、クロさんがPWCばか自殺詰の馬鋸作品を発表されていましたが、あれの修正図はまだでしょうか? 正式に発表されるのを楽しみに待っているのですが。

 

瘋癲老人さん

21に利かさないために初手はこう動くところだし、64香も分らないなりにここに打ってしまうのでいまいち感動が薄いです。
手が狭すぎるのが弱点といえるでしょうか。

しばらく駒の世界から遠ざかってましたがまたボチボチと・・

瘋癲老人さんは第109回出題以来の解答ですが、このくらいのブランクは詰キストなら短い方(?)ですね。できれば、その創作力・解図力を活かして「PWCばか詰作品展」などでも活躍して欲しいと思います。

 

 

小峰耕希さん

連続してこのルールで無解になったらどうしようと思いましたが、最近PWC大長編が解けて自信を持って臨めたのが良かったのか、思ったより早く解けました。

解図過程―多分最終手は13同飛か?1同飛迄のどちらかしかなさそう。
しかしよく調べてみると、前者は玉を運ぶのに3手、飛を運ぶのに2手、最低でも掛かりそうなので、8手詰の条件に反する。
よって後者のようですが、単純に馬や杏を一段目に飛び込ませると、復活駒が逆王手になって同飛と取れない。さてどうしよう。
その後は理屈で云々というよりは、あーでもない、こーでもないと、片っ端から思い付く順を試してみる。そして3手目に香を打ってみたら、何やら良い手応え。飛で杏が取れる! この先は再び理屈で展開。
攻方王と飛の間に角の効きがあってはいけないので、香を打つ位置は64限定。受方玉は1筋方面に持って行くのかと思いきや、飛の邪魔にならないよう7筋に寄るのか。なるほど、解けた。

感想―たった8手なのにいろいろな伏線が入っていて面白かった。
特に初手が入った事で、より狙いが強調されていると思う。

さて、今回も余談を。実は僕にとっても四国は縁のある地域です。残念ながら僕自身は一度も行った事が無いのですが、母方の祖父が香川出身なのです。
遠いので会合参加は無理ですが、詰四会に少しでも関わっていけたらと思う。

小峰さんの解答から、好評のコメントが集まり始めたので、出題者はほっと胸をなでおろしました。
詰四会参加の最大の障害は、やはり交通の便でしょうね。新幹線が四国まで通じているなら私も帰省のついでに参加できるのですが、飛行機を使わないといけないとなると、やはり二の足を踏んでしまいます。温泉か何かを目当てに、観光がてらにゆっくりと愛媛を訪れる計画を立てれば良いのかも。

 

隅の老人Bさん

初手に43馬、香打の場所に一苦労。
そして、それから「待った」です。

慣れている人だと、初手は自然に受け側の選択肢の多い34馬を選んでしまうかもしれませんが、一瞬でも43馬を呼んでもらうと、本作の主題が一層印象に残ると思います。
解答者にどうやって「待った」をしてもらうか…、それが作家の腕の見せ所ですね。

 

 

伊達 悠さん

馬を動かす→飛車の移動合→香を打つという展開は予想できましたが、それが全て限定になっているのがいい味をかもし出しています。
「手順もなかなか洒落てます」の言葉に偽りなし。軽い手順でよいと思います。

本作の良さは、この適度な「軽さ」にもあると思います。あまり軽すぎると好評を得られないので加減は難しいところですが、コテコテの難解作にすると解答自体が集まらないので、軽い中にもちゃんと主張がある作品というのは貴重です。

 

 

たくぼんさん

先手の角2枚を1段目に利かせない為の手順は見事です。また香の生・成競演も花を添えていますね。
手が狭いのと詰上りの形が予想し易いのでそこにもっていく手順の質が求められる作品ですが、この手順なら納得です。

今使っているプロバイダの「迷惑メールフィルタ」が、ちょっとばかり働き者過ぎて、たくぼんさんからのメールまで、迷惑メールに分類してしまったようです。せっかく解答を送って戴いたのに掲載できず、再送の手間まで掛けさせてしまい、たくぼんには申し訳ないことをしてしまいました。
もし、他にも「メールが届いてないのでは?」という方がいらっしゃいましたら、お手数ですが掲示板か何かでお知らせください。

 

解答者6名(29日追記:実際は7名でした)は、この難易度にしては少ないように思えますが、それでも前回と比べると倍増。PWCルールがもっと浸透すれば、もっと解答は増えるかもしれませんね。なお、若林さんは出題者ですので、解答成績に自動的に1点加算してあります。
ちなみに、次回の出題もたくぼんさんの所の作品展等で活躍されている方の予定です。お楽しみに。

 

(2006.8.27 七郎)


第112回(2006.7.9)出題 の解答

「神無七郎 作」 PWCばか自殺詰 31王44桂 +飛角, 81玉 #8

 

【出題時のコメント】

 詰棋本の出版ラッシュとか、全国大会とか、(個人的には)「氾濫25」の結果稿とか、やたら忙しい7月なのですが、ここでは敢えて別の話題を。
 先月、E-mailによるファアリー詰将棋のミニコミ誌OFM(Online Fairy Mate)が休刊になりました。本ページの名前も、このミニコミ誌の名前をもじったものなので少し残念ですが、本来このミニコミ誌が果たすべきだった役割は、たくぼんさんのページでの作品展や、九州グループ別館などが引き継いでおり、一定の役目を終えての休刊とも言えるでしょう。
 そこで気になるのがOFM発表作の扱いです。一応、これはミニコミ誌ですので、そこに発表された作は作者自身の意思で正式発表し直すことができます。細かいことを言えば、2000年12月12日に発行されたOFM168号までは、CD-ROM作品集「無神都市」で公開されているので、「正式発表扱い」となるのでしょうが、これを読んだ人の数から考えて、その号以前の作をもっと多くの人の目の触れる場所で発表し直しても、咎めだてする人はいないと思われます。心配ならば、少し改良して発表し直すのもひとつの手かもしれません。休刊を期にバックナンバーを読み返すと、このまま忘れ去られるには惜しい作が結構あるように感じます。

 さて、今回の出題はPWCばか自殺詰。PWC系の作品は、トップページやPWC小作例集などで取り上げてきましたが、なぜか「ばか自殺詰」との組み合わせはありませんでした。そういう意味では初物のこのルール。慣れていないせいで、少し難しく感じるかもしれません。このルールの作例が増えれば「基本的手筋作」となると思いますが…。


 

【ルール説明】

【詰手順】

54角 92玉 22飛 32角 65角 同角/32角 41角生 42銀 まで 8手

動く盤面で鑑賞する(JavaScript/CSS使用,IE専用)

 

【解説】

 普通のば自では、詰めるために必要な駒数は2枚以上のことが多いのですが、PWCではたった1枚で簡単に詰んでしまうことがあります。特に端玉の場合、龍・馬・金のどれか1枚で簡単に詰まされ、余詰消しに泣く泣く駒を置くケースが少なくありません。本作も例外ではなく、馬1枚で詰むパターンを避けるため、44桂を配置せざるを得ませんでした。ちょっと配置を変更し、馬で詰むパターンと合わせて2解問題として出題しても良かったのでしょうが、馬での詰上りを出すのは癪だったので、この初形になっています。
 何だかちょっと愚痴っぽくなってしまいましたが、「2枚以上の合駒を出して、それぞれが詰上りに関与するようにする」が、この作の作図意図だったというわけです(「たったそれだけ?」とか言われそうですが…)。

 

 

【正解者及びコメント】 (正解3名、感想1名:解答到着順)

 

若林さん

黙っているのが粋な気もしますが、嬉しかったので言ってしまいますと同一図面をストックしていました。
自分のサイトで出してしまうのももったいないかな、と思いつつ手元に置いていたものです。

おおっ、若林さんも同じ筋の作を作っていたのですか!
何だか最近はアンチキルケとかPWCで他の方の作品と衝突しまくってますが、これも新興ルールの宿命なんでしょうね。
若林さん、もし他にもストックがあればこのトップページ出題用に投稿して貰えませんか?
ちょうど今、次回出題は白紙状態なのでチャンスですよ。

 

隅の老人Bさん

初手の飛打を諦めるのに数日。次ぎに角打の虱潰し作戦。
あれもしました、これもしました、8手全部が難しい。
「ゆめ、まぼろし」の長編より難しいね。

「ゆめまぼろし百番」は私も買いました。あの長編よりこの作が難しいということはさすがにないと思いますが、やはり慣れの問題でしょうね。
ちなみに私の場合、「ゆめまぼろし百番」は近くの書店になかったので、ネット通販で取り寄せました。皆さんは簡単に入手できたのでしょうか?

 

もずさん

最初は飛成までの詰め上がりを想定したのですが、よく考えてみるとそれでは無理で、あり得るのは作意の筋か馬を作って41馬までの2通りに絞られそうとわかりました。
しかし、そこから後者を中心に読んだのでだいぶ時間がかかってしまいました。

PWCば自では頭金の詰め上がりが多いので、王が最上段にいる方が中段にいるよりも詰みにくいようですね。

最上段だと頭金はないのですが、今度は龍や馬で詰まされることが多くなります。
実は、本作のように角とか銀で詰まされるパターンも結構多いので、この筋も当たり前の筋のひとつなのかもしれません。いずれ機会を見て、PWCば自双裸玉の全検をやって、これが平凡な筋なのかどうか確かめてみたいと思います。

 

 

小峰耕希さん(感想)

今回はかなり頑張りましたが、遂に締め切り到来でアウト。
それで先程fmに詰上りだけ教えて貰って解き直したら、今度は流石に詰みました。
初手角打ちは当然読んでいましたが、例えば27角、○飛合、同角/27飛…のように、飛を2筋に持って来る事によって、攻方王の移動可能範囲を狭めようとしていたし、多分無解になった方の多くもそうだったのでは? と思います。
また最終手についても、僕が想定していたのは42(41)馬/○飛でした。
そんな訳で、正しい詰上りに似た形すら全く考えも及ばず。
でもこの作意は良いですね〜。ただただ感心です。作者と自力解者に拍手!

再来月掲載の「氾濫」解説稿、期待してます。

小峰さんからは本作の感想を戴きました。自力で解けなかった場合でも、感想を送って戴ければ(解答成績には加算されませんが)掲載致します。解けなかったことを告白するのはちょっと勇気が要るとは思いますが、特に今回のように解答者数が少ない場合、作品を解こうとしてくれた人の声は、作者や他の解答者の方々の参考になると思います。
なお「氾濫」の原稿は昨日ようやく出来上がりました。結果稿が増ページ(森茂氏の大作があったため)になったのに、いつもと同じようなつもりでやったため、予定より少し遅れてしまいました。まだ手直しとかはあるかもしれませんが、まずは一安心です。

 

 

締切り3日前まで正解数1だった本作ですが、何とか最後には正解数3になりました。やはりば自系はよほど明快な作品でない限り解答が減ってしまうようです。
ちなみに次回の出題は今のところ未定。穴を開けないよう今から頑張ります。

 

(2006.7.30 七郎)


戻る