【出題時のコメント】
私の手許に2つのCDがあります。ひとつは1950年代の録音。もうひとつは1980年代の録音です。その一方には「録音年代が古いため、お聴き苦しい箇所があることをあらかじめ御了承下さい」という断り書きがあります。さて、この断り書きがあるのは、どちらのCDでしょう?
まあ、わざわざ問題にしていることから予想できる通り、「録音年代が古い」のは1980年代の録音のCDの方です。1950年代の録音の方は、音の悪さに対する言い訳どころか、当時の録音技術の高さを誇るような説明文まで入っています。演奏自体は両者とも素晴らしいのですが、やはり録音が悪いと曲を素直に楽しむことは難しいです。ピンボケの写真を見て「この人は美人だったんだろうな」と想像するのに似て、頭の中で変換作業を行わないといけない分、ノリが悪くなるのでしょう。
私達は技術は日々進歩するものだという、進歩史観に慣れきっているので、古いものの方が技術的に高度だという現象に出くわすと、とまどうことが多いのですが、技術も時により忘れられたり、失われたり、単に適用されなかったりする「人の営み」であり、進歩ではなく退歩することもあることを時々は思い出す必要があるでしょう。当然、同じことは詰将棋にも…とか言い出すとくどいので、今回は省略します。さて、今回の出題はフェアリーの最も古いルールとも言える「ばか詰」。神無三郎さんの「狩シリーズ」の一作です。「神無一族の氾濫」で出題された「狩シリーズ」ほど難しくはないですが、結構手強いと思います。
【ルール説明】
【詰手順】
37角 28香 同角 同玉 29歩 17玉 19香 18角 同香 27玉
39桂 37玉 19角 28香 同角 48玉 37角 39玉 28角 48玉
39角 37玉 48角 27玉 28歩 同玉 39角 27玉 29香 37玉
28角 27玉 19角 28香 同香 37玉 39香 同と 27香 28香
同角 48玉 39角 37玉 48角 27玉 29香 28香 同香 同玉
29香 19玉 37角 28香 同角 18玉 19香 27玉 37角 28香
同香 37玉 39香 38角 同香 28玉 29歩 39玉 17角 28香
同角 48玉 37角 38玉 39香 27玉 28歩 まで 77手
→動く盤面で鑑賞する(JavaScript/CSS使用,IE専用)
【解説】
本作は、右隅の狭い密室で角香歩のみのやり繰りで詰めよ、という問題です。持駒に桂も一応ありますが、合駒で取り返せないため、1回使ってしまうと二度と出番はありません。
この種の密室パズルを解く定跡的な方法は、
- とにかく頭から動かしてみて、どんな手が可能か調べる
- 詰上りを想定し、ある程度逆算する
- 両者を結びつけた上で、最短手順を求める
という、手続きを踏むことです。本作では、と金をはがすまでは、作意以外の紛れがすぐに途切れてしまうので、比較的深い手数まで進められると思います。詰上りの想定は、やや熟練しないと難しいと思いますが、使用可能な駒の種類と数、歩の打てる位置などを考慮すると、詰上り型は一つしかありません。ただ、逆算手順の想定は難しく、本作に非限定がないことを前提としても4手くらいしか確定できません。ですから、解図上も60手目あたりが胸突き八丁だと思います。ここでは、なけなしの角を一旦捨ててしまい、角を取り返した後、29歩という逆戻りの利かない手を打ってしまうので、あらかじめ詰上りの想定をしておかないと踏み込めない手順ではないでしょうか。
本来なら、この作品は「氾濫」に出してもおかしくない高級なパズル作品なのですが、次回の「氾濫」は特集を組んでいるので、ここに登場願った次第です。解図に掛かる難度は高いのですが、それだけ苦労する価値のある作品だと思います。
【正解者及びコメント】 (正解者4名:解答到着順)
隅の老人Bさん
最初に、角桂香香歩使用で詰上がり図を考える。
2時間かかつて、それらしい図を発見。
その図に向かって?駒を動かす。その図は果たして正解か?
77手の長丁場、なんど諦めかけたやら。
創作方法は逆算ですか?、あぁ難しい。
☆ 今回はハンドルネームを変更された隅の老人Bさんが、解答一番乗りでした。なぜかハンドルネームが作品の内容と合っている(右隅が舞台なので)のは巡り合わせでしょうか?
創作法は、基本的に逆算だと思いますが、一手ずつ戻す機械的な逆算ではなく、最も都合の良い結果を思い描きながら、収束にちゃんと結びつくかを確かめていく、正算要素の強い逆算が基本になっていると思われます。
西宮市の住人さん
久しぶりに解いてみた。
28での合駒は香車(または角)しか打てないのは分かったが。
三香あっても中々詰まぬ...
☆ こちらもハンドルネームを変更された西宮市の住人さん。お引越しをされたのでしょうか?
今回は純粋な「ばか詰」ということで、新ルール続きで解答から遠ざかっていた方からも、解答を戴くことができました。問題が難しかったせいで、解答総数は少ないのですが、ばか詰の人気を改めて感じました。
たくぼんさん
狩シリーズと言うことで突き歩詰を想定して、歩の入手を合駒で考えるが上手くいかない。
4九とを取れることに気付き前進。しかし収束が苦労しました。角を簡単に取らせての角合いが分かりにくかった。
香の合駒が全て2八限定なのも感心しました。
☆ 今回のラストはたくぼんさん。「香の合駒が全て2八限定」という様式美に着目するあたり、「解答者」としてだけではなく、「作家」としての活躍を始められた影響を感じます。たくぼんの解図日記を見ると、そのうち「解説者」としてもフェアリーで活躍されるのではないかと期待してしまいます。
若林さん
第100回記念に続いての密室もの。
慣れてきたのか、思っていたよりはスムーズに解けました。
目標となる48香と49とが良いヒントになってくれました。
それにしても三枚の香をうまくやりとりするものです。
解いて並べて楽しい長編。
以下解図時の思考過程です。
・枠は11マス。
・角桂3香3歩14。
・この図面なら「香を捨てる」「と金を取る」のは手順にあるだろう。
・と金は退路ふさぎ……は考えたがそんなに駒を取らせる余裕はないし、
そもそもと金で退路が塞げるような詰形が浮かばない。
・歩は2筋。今回は歩が持ち駒にある以上絶対に使う。
・角一枚では再下段の玉は押さえられない。
・詰形はごく限られそうだ。合きかずの29香までなら面白いが、
手順をすすめてから考えよう。
37角 28○ 同角 同玉 29歩 ?7玉 ?9香 ?8角 同香……
ああ、結構動かしてみると手がない。
とりあえず4筋の処理に向かって良さそうだ。
37角 28香 同角 同玉 29歩 17玉 19香 18角
同香 27玉 39桂 37玉 19角 28香 同角 48玉(16手)
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|一
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|二
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|三
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|四
| ・ ・ ・ ・ 角 銀 銀v歩 金|五
| ・ ・ ・ 銀 飛 飛 歩 香 歩|六
| ・ ・ ・ 銀 金 歩 ・ ・ ・|七
| ・ ・ ・ 金 桂v玉 ・ 角 香|八
| ・ ・ ・ 金 桂vと 桂 歩 ・|九
+---------------------------+
持駒:香
桂をここで手放すのに抵抗はあるが、これしか手がない。
これで48香が剥がれた。……ここで手が止まる。
というより適当にしばらく動かしてみるが、いまひとつぴんとこない。
37角 39玉 28角 48玉 39角 37玉 48角 27玉
28歩 同玉 39角 27玉 29香 37玉 28角 27玉
19角 28香 同香 37玉 39香 同と(38手)
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|一
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|二
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|三
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|四
| ・ ・ ・ ・ 角 銀 銀v歩 金|五
| ・ ・ ・ 銀 飛 飛 歩 香 歩|六
| ・ ・ ・ 銀 金 歩v玉 ・ ・|七
| ・ ・ ・ 金 桂 ・ ・ 香 香|八
| ・ ・ ・ 金 桂 ・vと ・ 角|九
+---------------------------+
持駒:なし
うーん。これでと金は動いたが。
……質駒? とするとこのと金がキーポイントか?
取るのは簡単なので取ってみる。
27香 28香 同角 48玉 39角 37玉(44手)
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|一
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|二
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|三
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|四
| ・ ・ ・ ・ 角 銀 銀v歩 金|五
| ・ ・ ・ 銀 飛 飛 歩 香 歩|六
| ・ ・ ・ 銀 金 歩v玉 香 ・|七
| ・ ・ ・ 金 桂 ・ ・ ・ 香|八
| ・ ・ ・ 金 桂 ・ 角 ・ ・|九
+---------------------------+
持駒:香 歩
持ち駒2枚。これは残りは収束か?
……無傷で香をむしり取れる 19玉 37角が浮かんだ時点で
詰むことを確信。……とすると、収束は突き歩に決定。
以下手なりで進めていくと無事に詰む。手数勘定も問題なし。
例によってfmに25歩の意味を聞く。……なるほど。
28歩合ができるから49とをはがす必要がない、と。
理屈は単純だけど、そのタイミングが2つしかないのは面白い。
48香→16香は#51で収束非限定の余詰。
ちょこっとfmで弄るだけでも、
単純に密室ものの完全作である時点で凄いなと思う。
☆ 担当者のメールアドレスの変更のせいで、旧メールアドレスに送ってしまった若林さんの解答を追加しました。せっかく解答を戴いたのに、掲載できなくてごめんなさい。
現在、旧メールアドレスは受け取ったメールをすべてサーバ側で廃棄するよう設定しているので、届かなかったことが送信者にも私にも分かりません。もし、私宛のメールが届いていないように思えたら、お手数ですが、現在の新しいメールアドレスに再送してください。
☆ 今回は純粋な「ばか詰」にも拘らず、難問のため解答者は3名でした。しかし、内容は充実しているので、解けなかった方もぜひ再チャレンジをしてください。
次回は再びアンチキルケですが、今度は超短編ですので、今までルールで敬遠されていた方も初解答のチャンスです。
(2005.10.16,17 七郎)
【出題時のコメント】
問「人は右、車は左。では犬は?」
答「犬に乗るときは左でしょう。」
上は一族内のメールでの雑談から。問いが私で、答えが神無三郎さんです。
問いは「犬の散歩のときは(道交法上)右左どちらを歩くのが正しいの?」という素朴な疑問を言葉にしただけですが、この答えには意表を突かれました。これが馬ならば、「馬は軽車両扱いなので左」という答えが予期できたのですが、犬でも「乗る」可能性を否定できないことには思い至りませんでした。三郎さんのフェアリー的解答に脱帽の一手です。
考えてみれば、むかしは馬だけではなく牛なども交通手段として使われていましたし、外国では象や駱駝などを使う場合もあります。実際に犬に乗るのは、よほど条件を整えないと難しいでしょうが、論理的には不可能ではありません。「常識」は不要な思考を省く便利な道具ですが、そこにしばしば「盲点」が生じることを改めて思い起こさせてくれた会話でした。さて、今回の出題は「盲点」どころか「常識」すらまだ確立されていないアンチキルケの出題です。作者は神無太郎さん。ちょっと手数が長いですが、易しい作品です(もし易しくなかったら、紛れにハマっている可能性が大でしょう)。上の選題文もちょっと内容に絡んでます。ルールについては、ルール説明(オリジナルはYOMUKA Fairy)を参照してください。
【ルール説明】
【詰手順】
51角 62銀 83金 74玉 73金 64玉 63金 54玉 53金 44玉
43金 34玉 33金 24玉 32金 51銀/71銀 まで 16手
→動く盤面で鑑賞する(JavaScript/CSS使用,IE専用)
【解説】
初形で王手が掛かっているので、初手51角は絶対ですが、すぐに応手を考える前に、もう一度初形を振り返ってみましょう。よく見ると、初形で32地点が塞がっていれば、王の行き所がないので、ほとんど詰んでいる形です。これに気付けば、初手51角の後、金で玉を24地点まで追い、32金と開き王手で自らの退路を塞ぐという構想を立てることができます。初手51角に対する合駒は、角を取り払える駒でないといけないから必然的に銀(角は売り切れ)となります。この方針に沿って解いていけば、16手という長手数が、いとも容易に解けてしまいます。
ただし、最終手は大いに注意しなければいけません。最後51銀と角を取ったとき、この銀を31に復活させるのか、71に復活させるのかが大問題。一見どちらでも同じように見えますが、うっかり31に復活させると、31同王/59王 と王が逃げることができ、詰になりません。これはアンチキルケ特有の逃れ筋で、工夫次第で様々な表現に発展しうる手筋です。
本作全体を改めてみると、32地点の封鎖という構想を、4筋を這う玉、2段目から出発し3段目を這い2段目に戻る金、という趣向手順で実現し、銀合とその限定復活のがそれに彩りを添えており、文句なしの出来映えです。構想と趣向がうまく融合された佳作と言えるのではないでしょうか。
【正解者及びコメント】 (正解者4名:解答到着順)
もずさん
角の逆側の利きまでえっちらおっちら歩いていくのがユーモラスです。
最後に31に復活すると31王/59王で失敗するわけですね。
ところで素朴な疑問ですが、道路交通法2条11項では
「軽車両 自転車、荷車その他人若しくは動物の力により、又は他の車両に牽引され、
かつ、レールによらないで運転する車(そり及び牛馬を含む。)であつて、
身体障害者用の車いす、歩行補助車等及び小児用の車以外のものをいう。」
となっていて、犬自体は車ではありませんし牛馬でもないので
犬に直接乗るのは軽車両に含まれない気がするのですがどうなのでしょう。
って、そんなことは誰も聞いてないですね。
☆ 今回のコメントは要するに「右か左か」(最終手に呼応)という言葉を強調するためのもので、実は私もあまり法律のことは良く分かりません。条文を文字通り解釈するなら牛馬以外の動物の場合は「犬ぞり」みたいな使い方しか想定されていないのでしょう。犬に乗って右側通行すると道交法違反になるかどうかは、道交法版「最後の審判」になるのでしょうか?
若林さん
32を埋めさえすれば良いだろう、とストレートに金追いをして解決。
最後にピンしている角を引き抜くまでの溜めがいいですね。
この手数で余詰め防止駒2枚なのは驚愕。
☆ この作品、構想自体は明快ですが、何せ16手という長手数なだけに、作者も余詰には悩まされたと思います。もっとべたべた駒を置けば、初手金の開き王手から始めて、攻方の着手をすべて金に統一できたのかもしれませんが、無駄のない配置と趣向手順とのぎりぎりのバランスを考慮してこの図に落ち着いたのだと思います。
北村太路さん
実は初手が全然わからずにかなり考えていました。
初手がわかった後も余詰防止らしい上部の駒にどんどん近づけていってちっともわからず。
ふと、横に逃げてみる・・・もう一個横に逃げてみる・・・さらにもう一個横に・・・!
三つくらい横に移動してようやく気づきました。
☆ 初形で攻方の王に王手が掛かっていることに気がつかなかった方はどのくらいいるのでしょう?
予想としては結構(解けなかった人の半分くらい?)いるのではないかと思います。
32を金で埋める狙いについては、これはインスピレーションに恵まれるかどうかで、かなり解図時間に差が出ると思います。
たくぼんさん
71銀を出現させる手順がすばらしい。とくに銀合させてからのユーモラスな金と玉の鬼ごっこがとても楽しめました。
☆ 最近はご自分のブログで、ばか詰の出題コーナーを始められたたくぼんさん。
以前、「私見では、解答者は詰将棋ファン−ばか詰ファン−フェアリーファンに大別される気がします。」とそのブログで仰っていましたが、これは名言だと思います。
ばか詰はフェアリーの一分野ですが、これを専門に出題する場所があった方が、ばか詰も活性化し、フェアリー全体も発展するように思います。その意味で、九州G別館とたくぼんの解図日記の動向は要注目です。
☆ アンチキルケの出題は2回目ですが、だいたいどんな感じのルールか分かっていただけたでしょうか?
今後もアンチキルケの出題は予定されているので、どんな手筋が飛び出すか楽しみにしていてください。
なお、次回は神無三郎さんのばか詰です。ばか詰といっても、例の「狩シリーズ」なので甘く見てはいけません。気を引き締めて、三郎さんの過去作を研究しておきましょう。
(2005.9.18 七郎)
【出題時のコメント】
トップページでの出題がとうとう100回に達しました。元々、このサイトを立ち上げたのはfmの最新版の配布を容易にするのが主目的で、トップページでの出題は途中から気まぐれで始めただけでした。それが今では、このサイトのメインコンテンツのひとつになっているのですから、物事の成り行きというのは分からないものです。
少し話は変わりますが、今年の全国大会の幹事会で、ネット発表作を看寿賞候補としてノミネートしても良いということが決まったそうです。もちろん、いくつか満たさないといけない条件はありますが、ネットを詰将棋の正式発表の場としても使えるようになったことは大きな前進です。
そこで、このサイトでのトップページの出題の位置付けも、今回の出題以降は「正式発表」扱いに変えたいと思います。つまりは「ここに載せた作品は他のいかなる媒体にも再投稿しない」ということです。もちろん、フェアリーは看寿賞の対象ではないですし、妖精賞の対象になるかどうかすら分かりませんが、ネットが詰将棋の正式発表場所として広く認知されるためには、こういう具体的な取り組みが必要だと思うのです。それに、今までもトップページでの発表作をそのまま詰パラなどに再投稿したことはないので、位置付けを変えたというより、実態に合わせたと言った方が良いでしょう。ちなみに掲示板は自由出品なので、今まで通り、再投稿などの予定の有無に関わらず、好きなように使ってください。また、トップページの出題の位置付けの変更に伴い、はじめにや募集要項なども書き直しました。もしこのページに作品を投稿しても良いという奇特な方がおられましたら、E-mailで管理人まで送ってください。
さて、今回の出題は100回記念で100手詰。賞品や締切延長などはなく、いつも通りの出題です。受方の持駒制限をしていますが、これも盤面に駒をベタベタ配置するよりマシだろうという程度で、特殊なトリックなどが隠れているわけではありません。ば自系は苦手な方も多いでしょうが、夏休みを活用して多くの解答が寄せられることを期待しています。
【ルール説明】
【詰手順】
37馬 18玉 19馬 17玉 28馬 26玉 37馬 17玉 26馬 18玉
27馬 19玉 37馬 18玉 19馬 同玉 26香 29角 同飛 18玉
28飛 17玉 18飛 26玉 28飛 27香 59角 48桂成 同角 17玉
26角 同玉 18桂 17玉 27飛 18玉 28飛 17玉 18飛 26玉
29香 28角 同飛 17玉 27飛 18玉 17飛 同玉 39角 28飛
同角 26玉 19角 17玉 47飛 同桂生 28角 26玉 39角 28飛
同香 17玉 26香 同玉 48角 17玉 37飛 26玉 47飛 37香
同角 17玉 19角 27桂 28角 26玉 37角 17玉 19香 同桂成
48角 27香 同飛 18玉 28飛 17玉 18飛 同圭 39角 28飛
同角 26玉 17角 同玉 47飛 37角 29桂 26玉 28香 同圭 まで 100手
→動く盤面で鑑賞する(JavaScript/CSS使用,IE専用)
【解説】
本作は密室パズル型のばか自殺詰。詰上りは第2回神無一族の氾濫の神無三郎作「星姫」と本質的に同じですが、自王を詰める駒を銀から桂に変えたこと、受方玉を追う手順の主軸を、飛2枚から飛角香にしたことで、開き王手を多用した手順を表現できました。また、26歩消去のための趣向的な序奏も気に入っています。反面、少し物足らないのが、56桂の入手法。55桂の入手が割と凝っていたのに、こちらは成ってすぐに取られるだけなので、ちょっと淡白すぎたきらいがあります。
このような箱入型のばか自殺詰は、密室の中でいくらでも受方玉を追える形を作り、その手順の中で、はがしや持駒増幅・持駒消去などを絡めて、詰上りに誘導するというのが基本構成です。今回は普段と違い、繰返し手順は最小限に抑えて、「長い中編」のような表現にしましたが、結構自由度の高い素材なので、またいつか別な表現形態にも挑戦したいと思います。
【正解者及びコメント】 (正解者2名:解答到着順)
若林さん
第100回記念にふさわしく、難しすぎず私でも充分に堪能できました。
美しい密室もの。まさか呼び出しはがしとは。
それに気付いてからは手詰まりにならないように進めることで無事に解けました。収束まで緩みなく筋が通っていて楽しかったです。
真の主役は角でしたね。今後ともよろしくお願いします。
以下解図時に考えたことなど。
長評と言えるものではありませんが。
図を眺めて
・玉の移動範囲4箇所。歩香角飛だけ?
・そもそも100手も手が続くのかなあ? 収束不明。
・18歩合? で、2筋でしか使えない歩は玉で取れないけど。
・26に対する角の打ち場所が複数あるけど……
・48←→39の移動があるから問題ないのかな?
・47も開いている。
・まだ桂を呼び出すことは考えてもいない。
眺めていても仕方ないので動かしてみる。
37馬 18玉 19馬 17玉 28馬 26玉 37馬 17玉
26馬 18玉 27馬 19玉 37馬 18玉 19馬 同玉
とりあえずここまではこれしかない。
さてここで手が止まる。ここでようやく59角から
桂が入手できることに気がつく。
26香 29角 同飛 18玉 28飛 17玉 18飛 26玉
28飛 27香 59角 48桂成 同角
一枚目の桂をはがす。手順継続の為に28飛27香は必然だけれど、
とりあえず18飛のまま取ってみて戻ってきたのはお約束。
こうなったら47飛から桂を呼び出して、48角37飛からの
空き王手で桂入手を目指せば良いだろう。
17玉 26角 同玉 18桂 17玉 27飛 18玉 28飛
17玉 18飛 26玉 29香 28角 同飛 17玉 27飛
18玉 17飛 同玉 39角 28飛 同角 26玉 19角
17玉 47飛 同桂生
後から考えると、結局ここが最大の壁だった。
入手した桂を29に打ってもどうにもならない。
29に香を据えて19角がキー。これで17玉で47飛が打てる。
28角 26玉 39角 28飛 同香 17玉 26香 同玉
48角 17玉 37飛 26玉 47飛 37香 同角 17玉
19角
予定通りの手段で2枚目の桂をはがすが、
ここで手が止まる。収束を考える。
大駒での同×成での収束はない。37角合しか逆王手にならない
飛角合はなく、そのときこの角が移動すると48が埋まらない。
……逆に37角があれば、26玉、28香、同成桂がぴったり。
ここで手数はともかく詰むことを確信。
27桂 28角 26玉 37角 17玉 19香 同桂成
ということで素直に成桂を作りに行く。
ここでぴったり香が手元にあるのが美しい。
戻って香合いに思い至る、というのも楽しいけれど、
必然の流れで自然に手元にあるというのも気持ちいい。
48角 27香 同飛 18玉 28飛 17玉 18飛 同圭
39角 28飛 同角 26玉 17角 同玉 47飛 37角
29桂 26玉 28香 同圭//
盤上の攻方の主役だった。角をついに捨て、
すぐに王の縛り駒として据えて収束。
そしてここでも香は自然に手に入る。
詰めてからようやく2枚目の桂の意味が分かる。
そう言えば歩は使わなかったなあ。
解いてみて思ったけれど、図面を見た時点で
呼び出しはがしと気付かないあたりはまだまだだな、と思います。
そしてこれをほぼ書き終えてからFMでM9オプションを付けて確認。
全検5秒……今更ながらちょっと複雑な思い。
受方24歩がなくても#48で完全、というのが何だか面白い。
57,49桂→攻方57桂は#66で余詰1。
#100を超える訳では全くないし、七郎さんの方が桁違いの
図面をチェックしていると思いますので、
完全に私のお遊びですが。
☆ 少し難しいかと思った今回の出題ですが、若林さんは出題2日後の素早い解答。また、正式な短評の他に、解図過程も詳しく書いて戴いたので、大変興味深く読ませて貰いました。論理的な分析による絞り込みと、鍛え抜かれた解図力による直感の両方を駆使した解図過程が伺えて、解答専門の方にも大変参考になる内容ではないかと思います。
なお、ネット発表は雑誌などとは違い、ページ数の制限はありませんので、このような長評も全部省略せずに載せることが可能です。これはネット発表のメリットのひとつですね。
たくぼんさん
本作は、かつての集積回路やなりなりシリーズを一生懸命解いた頃を思い出させてくれました。
しかし繰り返し手順なしで100手という長手順をしかも素晴らしい手順で成立させているのですから傑作といってもいいでしょう。
妖精賞の対象になるのであれば受賞間違いなしです。
100回出題おめでとうございます。約7年半ですか・・・頭が下がります。
私もこれで第7回出題から数え始めて50回目の解答になりました。途中、病気で解答できない期間があったりしましたが、けっこう飽きもせず続いていると思います。
解けた作にも思い出がありますが、考えて考えて解けなかった作の方が感動が大きいようです。 (最近では97回が印象に残ります)
これからも感動をよろしくお願いします。
☆ 第100回出題は奇しくも、たくぼんさんの50回目の解答と同時になりました。途中、かなり難解な作品もあったので、このペースで解答を持続することは、かなり難しかったと思いますが、正に「継続は力」を証明するような活躍だったと思います。このページでの出題がここまで続いたのも、たくぼんさんを含めた多くの方々から、解答や短評を戴いたおかげだと思います。今後も、できるだけ良質の作品をお届けできるよう頑張っていきますので、よろしくお願いいたします。
☆ このサイトでの出題も無事第100回を迎え、大きな節目を越えた気がします。101回目からはまた気持ちを新たに、200回を目指して頑張ります。ちなみに100回での解答総数は555。何かぞろ目で縁起が良さそうなので、次の101回から200回は解答総数777を目標にしましょう。
さて、101回目である次回の出題は、今最も「旬」なルールである「アンチキルケ」絡みの作品を予定しています。作者は神無太郎さん。ルールが「?」な人は、第98回出題などを参考にしてください。
(2005.8.21 七郎)
【出題時のコメント】
今回は7月の恒例企画「全国大会握り詰にフェアリーで参加(仮称)」です。とはいっても、ここ2年は選題の都合から別の作品を出題していたので、3年ぶりの企画復活ということになります。
一口に「握り詰」と言っても、本当に即興で作る「握り詰」と、一定の期間が与えられる「使用駒指定創作」では、かなり条件が違います。
まず即興で握り詰を作る場合ですが、最も確実に課題をこなす方法は「ミニ煙」を目指すことです。握られた駒がよほど特殊でない限り、地道に逆算すれば駒を使い切ることができます。どうしても駒を使い切れなければ、途中からミニ煙を諦めて、余った駒を詰め込んでしまいましょう。私は将棋仲間とのお酒の席などで「握り詰」を実演したことがあるのですが、たいていはこのやり方でごまかしていました。なお、逆算で作るのなら曲詰でも同じようですが、駒の意味付けや形の制約で、難易度は上がってしまいます。また、あらかじめ「こういう持駒ならこういうパターン」という「型」をいくつか用意して「予習」しておくのも有力な方法です。例えば、握られた駒の中に「角」があれば「馬鋸」を入れることをまず考えるといった具合です。見せる相手が詰将棋の素人なら「こんな長手数を一瞬で作るなんて」と驚いてくれます。
全国大会の握り詰の場合は、短いながらも投稿までそれなりの期間があるので、やはり「狙い」を持った作品を作りたいですね。この場合、指定された駒より少なめの駒数でネタを考え、残りの駒で何とか完全作になるよう帳尻を合わせるのが定跡です。私も今年は、その方法で全国大会の握り詰を作ったのですが、今年は使用駒が8枚だったため、調整用の駒が1枚しか使用できず、結構苦労させられました。さて、今回のフェアリー版「握り詰」を作った手法は、ずばり「むかし使ったネタの使いまわし」。「このパターン飽きたよ」と言う方もいらっしゃると思いますが、どうか大目にみてください。なお、これは対面ルールですので、8段目の桂は反則ではありません。
【ルール説明】
【詰手順】
28香 19玉 18香 29玉 28香 39玉 38香 49玉 48香 39玉
38香 29玉 28香 19玉 18香 同玉 38桂 28桂 同桂 39と
19桂 まで 21手
→動く盤面で鑑賞する(JavaScript/CSS使用,IE専用)
【解説】
初手から絶対手が続きますが、48香まで来たところで同玉と取るのが本作唯一の紛れ。以下 38桂 57玉 48桂 … とするのが筋に見えますが、手数がどうしても足りません。正解は48香を取らずに18に玉を戻す手順です。一見、69飛の利きが強くて不詰感が漂いますが、27とを桂に変身させて39に飛ばすことによって、飛の利きを遮ることができるのです。詰上りは対面では定番の玉頭桂。還元玉に作者の趣味が現れています。本作はありふれた素材なのですが、直接の元ネタは第36回出題の自作から。あれが9段目を這う手順だったので、今度は8段目にしたのですが、次は7段目かな…?
【正解者及びコメント】 (正解者6名:解答到着順)
若林さん
久しぶりにものすごくシンプルな作品。
収束一発ですが、握り詰という制約を考えると仕方ないかな。
こういう手軽に解ける作品も大事なのは過去の私がよく知っていますが、物足りないのも正直なところ。
☆ 今回の一番乗りは若林さん。いまではすっかり実力解答者の仲間入りをしてしまった若林さんには、ちょっと物足りない問題だったようです。本作は収束の「と金跳」が唯一新味があるところで、さすがにこれがなければ出題しなかったと思います。この手筋は飛とか角とかでやると却ってバレやすそうなので、桂くらいがちょうど良いのかもしれません。
谷口翔太さん
面白さが段々と増してくる、収束の39とで最高潮。
☆ 谷口さんは第85回出題以来の解答。普段は解答されていない方でも、このページを見てくださっているというのが分かって、とても嬉しい気分になります。
たくぼんさん
桂を取るまではほぼ絶連。じゃあ何故七郎さんがこの序を入れたか考えると必然的に1八まで戻ってくると判断できました。
あとは“8段目の桂”のヒントと“このパターン飽きたよ”のパターン(玉頭桂)で解決です。
次はいよいよ100回ですね。大物を期待しています。私もあと2回正解で50回正解(ちょうど半分)ですので頑張ります。
☆ ある程度予想はつくと思うのでばらしてしまうと、第100回出題は100手のばか自殺詰の出題を予定しています。作品の傾向としては第9回神無一族の氾濫と同じ路線なので、こういうのが苦手な方は今から練習しておくことをお勧めします。
瘋癲老人さん
一筆書きみたいにキレイな手順ですね。
紛れにはちゃんと嵌まりました。
☆ この作品で金が17ではなく47にいるのは、この紛れのためなのですが、ここにハマって貰えると作者としては助かります。こんな作でも一応は推敲しているんだ…と思って貰えそうですから。
kzさん
おひさしぶりです。
最近,なかなか詰将棋に時間が割けず,
先日の氾濫も1問しか手をつけられませんでした。
解図力も低下していて,この問題もだいぶ悩みましたが,なんとか解けたので解答します。
アンチキルケというルールが流行っているみたいですが,まだ解いたことがありません。
今度挑戦してみようと思います。
☆ 氾濫常連解答者のkzさんが、本サイトに初解答をくれました。これからもよろしくお願いします。
詰将棋は時間をやたら使う趣味なので、継続的に力を発揮するのは難しい世界ですが、早く時間にゆとりができると良いですね。アンチキルケは面白いルールなので、これからもたびたび出題することになると思います。ぜひ挑戦してください。
北村太路さん
ようやく解けました。
一度は一段目桂打ちを考えたのですが、桂打ち桂合と3九とに気づかずに、他の手ばかり追っていました。
わざわざ奥に戻ってから香をとらすのもちょっと考えてなかったです。
☆ 多少反則気味かもしれませんが、作者の好みを考えて玉を戻す手順にヤマを張れば、39との発見がもう少し早かったかもしれません。それでも、ちゃんと解答できるあたりは、さすがに北村さんですね。
☆ 上記コメントの中でも触れましたが、次回は第100回出題ということで、ばか自殺詰100手の出題を予定しています。それ以外の企画は何も考えていないのですが、やっぱり何かやった方が良いでしょうか? まあ、あと一週間ありますし、気が向いたらということで。
(2005.7.24 七郎)