〈概説1〉 「ばか詰」と「ばか自殺詰」
【ばか詰】 先後協力して最短手数で、受方の玉を詰める
【ばか自殺詰】先後協力して最短手数で、攻方の王を詰める
上の条件で唯一解で持駒も余らなければ完全作となります。普通の詰将棋と違い、長手数の余詰を防ぐ必要はありません。また、手数を明示して出題されるのも普通の詰将棋と違うところです。さらに、「無駄合」の概念もこれらのルールにはありません。
〈概説2〉 各種の変則ルール
ばか詰のように、手の選択の論理を代える変則ルールの他にも、様々な変則ルールがあります。これらは普通の詰将棋にも「ばか詰」「ばか自殺詰」も適用することができます。
【安南】味方の駒が縦に並ぶと、上の駒の利きは下の駒の利きになる
【安北】味方の駒が縦に並ぶと、下の駒の利きは上の駒の利きになる
【対面】敵駒と向かい合うと、互いに利きが入れ替わる
【背面】敵駒と背中合わせになったとき、互いに利きが入れ替わる
【天竺】玉(王)の利きが、王手をした駒の利きになる
【マドラシ】同種の敵駒が互いの利きに入ると、利きがなくなる
ただし、玉は互いの利きに入ることはできない。
これらの性能変化系のルールでは、性能変化をもたらした状態が解消されると、利きは本来のものに戻ります。
また、性能変化系以外のルールでは、次のものがfmでサポートされています。
【打歩詰】打歩以外で詰ませる手を禁手とする
【キルケ】駒が取られると最も近い将棋での指し始め位置に駒が戻される。
戻せないときは持駒になる。
【アンチキルケ】取った方の駒が、最も近い将棋での指し始め位置に戻される。
戻せないときはそのまま。
【PWC】取られた駒は取った駒が元あった場所に復元する。
【駒詰】玉(王)の性能が、指定の駒の性能になる
目的を「詰める」こと以外に求めるルールもあります。
【ばか手順】先後協力して最短手順で目標局面に到達する。
初形と目標局面が同一のとき「ばか千日手」という。
【ステイルメイト】王手は掛かっていないが、合法手のない状態
この他にもfmでサポートされているルールはありますが、ここでの説明は省略します。
★各種のルール説明と例題については以下をご覧になって下さい。
酒井博久氏、神無太郎氏の著書「Turn Of The Century」から
ルール説明(文章は酒井博久氏、例題はすべて神無太郎氏の作品です)
〈より詳しい説明〉
1.ルール名称
2.フェアリー駒
3.二歩禁
4.行き所の無い駒
5.各ルールごとの補足説明
(1) マドラシ
(2) 打歩詰
(3) 天竺詰
(4) キルケ
(5) アンチキルケ
(6) PWC
フェアリールールの名称についての議論はたびたび行われてきた。特に1990年には「改名論議」が盛り上がり、実際にいくつものルールの名称が変更された。ここでは当ページでよく扱うルールの異称について簡単に紹介する。
- ばか詰/ばか自殺詰
ばか詰はフェアリーの代名詞であり、名称も定着しているが、「ばか」という名前に品がないという意見がある。「ばか自殺」に至っては不吉の極みである。
このような理由から、ときおり「協力詰/協力自王詰」の名称が使われることがある。しかし、語感が堅いため定着はしていない。
ばか自殺詰の略称としての「ば自」という用語は頻繁に使われる。
- 対面/背面
もとは「対鮮/逆対鮮」という名称だったが、朝鮮将棋に駒の利きが入替るなどというルールがあるわけではなく、その由来は不明である。1990年の後半から現在の名称が使われ始め、定着している。
- 安南/安北
安南詰もばか詰と並び古くから親しまれてきたフェアリールールである。「安北」の方は最初「逆鮮」という名称が付いていたが、意味がわからないうえ「逆対鮮」との混同が起こるため、1990年ごろから「安北」という安南の逆であることを端的に表す名称が使われ始めた。
- 天竺
1990年にこのルールは「鏡詰」と改称されたが、この改称の経緯は一種のスキャンダルであり、詰将棋界の恥の歴史のひとつであった。そのため神無一族はこの名称を採用していない。当時、このルールはすでに下火になっていたが、この事件がこのルールの更なる衰退に拍車をかけたことは疑いない。
通常の将棋で使われる以外の駒をフェアリー駒という。フェアリー駒はそれこそいくらでも「創作」することができるので、ここではfmでサポートされているフェアリー駒のみを紹介する。ただしフェアリー駒は一般に「成る」ことがないので(中将棋から持ってきた駒でも成らない)、注意が必要である。
獅(獅子)
中将棋の駒で、1手で1回または2回動ける。1回動くときは、図の@またはAの位置に動く。2回動くときは、1手目で@の位置に、2手目で隣接する8枡のいずれかに動ける。結果的に動かなかったり、動かずに@の位置の駒を取ったり、2つの駒を取ったりすることができる。
鳳(鳳凰)
中将棋の駒で、前後左右と1間跳んだ斜めに利く。(○が鳳の利き)
麒(麒麟)
中将棋の駒で、斜めと1間跳んだ前後左右に利く。(○が麒の利き)
Q(Queen)
チェスの駒。飛車と角を合わせた性能を持つ。
騎(騎士:Knight)
チェスの駒。八方桂である。(○が騎の利き)
駱(駱駝:Camel)
フェアリーチェスの駒。1対3の八方桂である。(○が駱の利き)
縞(縞馬:Zebra)
フェアリーチェスの駒。2対3の八方桂である。(○が縞の利き)
き(きりん:Giraffe)
フェアリーチェスの駒。1対4の八方桂である。(○がきりんの利き)
伍(Five-Leaper)
フェアリーチェスの駒。一桝の距離を1として、距離5の箇所に跳ぶ。(○が伍の利き)
梧(Root-50-Leaper)
フェアリーチェスの駒。一桝を距離を1として、距離ルート50の箇所に跳ぶ。(○が梧の利き)
G(Grasshopper)
フェアリーチェスの駒。Qの線上で、ある駒を1つ飛び越したその直後の地点に着地する。そこに敵の駒があれば取れる。
夜(Nightrider)
フェアリーチェスの駒。ナイトの利きの方向に連続飛びができる。
3.二歩禁
性能変化系ルールでは「玉(または王)を取ったとき、二歩になる手を有効とするか否か」が問題になることがある。
これを有効とするのが「利き二歩有効」の立場、無効とするのが「利き二歩無効」の立場である。(fmでサポートしているルールでは、対面/背面、安南/安北でこの問題が生じる)
具体的には以下のような局面で王手が掛かっているとみなすかどうかの問題である。
安南詰 ?手
「利き二歩有効」ならば、この局面はすでに“詰み”であり、「利き二歩無効」ならば、11歩成の1手詰である。
当HPでは特に断りの無い場合は「利き二歩有効」の解釈に従っている。またfmも何も指定しない場合は「利き二歩有効」の解釈を採るようになっている。(指定により「利き二歩無効」とすることもできる)
詰将棋パラダイスの「フェアリーランド」は逆に「利き二歩無効」の方をデフォルト解釈にしているので注意が必要である。
4.行き所の無い駒
性能変化系のルールで行き所の無い駒はどう扱われるのか。これもいろいろな定義がありうるが、現在はあまり凝った設定のルールは好まれないようだ。現在主流となっている考えは「性能変化により利きが復活しうる位置であれば、一時的に利き所の無い駒の存在も許される」というものである。
具体的にこの規定を各ルールに適用すると以下のようになる。安南:何も問題なし
安北:一段目の桂香歩は禁止
対面:一段目の桂香歩は禁止
背面:何も問題なしもちろん、性能の変化のない通常のルールでは以下のようになっている。
通常:一段目の桂香歩及び二段目の桂は禁止
5.各ルールごとの補足説明
(1) マドラシ
a.KマドラシとnonKマドラシ
王と玉が衝突したとき、利きを消滅させるかどうかで二通りのルールが定義できる。利きが消滅する方を「Kマドラシ」、利きが消滅しない(したがって玉と王が接触できない)ものを「nonKマドラシ」と呼ぶ。
当HPでは単に「マドラシ」と呼ぶ場合、上記の「nonKマドラシ」を指す。(今までは「Kマドラシ」デフォルトとしていたが、2002.9.1より「nonkマドラシ」をデフォルトに変更)
fmでは単なるマドラシ(%m)は「nonKマドラシ」と解釈される。もちろん、指定により「Kマドラシ」(%k-madrasi)を検討させることも可能である。
b.成駒と生駒
マドラシでは成駒と生駒は別の駒として扱う。例えば成銀の利きを銀で消すことはできない。
c.オリジナルのマドラシルールとの違い
マドラシルールはもともとフェアリーチェスの概念である。特にフェアリー駒を使う場合は、同種の駒であってもAはBに取りを掛けているが、BはAから取りが掛かっていない状態がありうる。このためオリジナルのマドラシルールは「同種の駒によって取りが掛けられた方の利きが消滅する」ことになっている。
将来的には、日本のフェアリーでもこのようなことを考慮に入れる必要が出るかもしれない。
(2) 打歩詰
完全打歩の概念について説明する。
「打歩詰」において、打歩以外の詰みは「禁手」か単なる「失敗」かという議論がある。通常はどちらの解釈でも同じ結果になるのだが、双玉図において違いが生じる場合がある。
(例)
ここで12歩は打歩詰であろうか?
「銀で取れるから打歩詰ではない」とするのが自然な解釈のように思えるが、必ずしもそうではない。12歩を同銀と取った局面では攻方の王は詰んでしまっているが、もし打歩詰以外の詰みが「禁手」であるなら、この“同銀”は禁手である。従って、12歩の時点で受方に手はなく、これで詰みということになる。
一方、打歩詰以外の詰みが生じても単なる攻方の「失敗」と捉えるならば、この図は不詰である。神無一族は「失敗」と捉えるほうを単なる「単純打歩」、「禁手」と捉えるほうを「完全打歩」と呼んでいる。
詰将棋パラダイスのフェアリーランドでは、どちらの解釈を採るか長年確定していなかった(担当者の意向でどちらにでも解釈されてきた)が、1999年10月号でようやく解釈が確定した。
単に「打歩詰」と言った場合「完全打歩」と解釈するということである。本ホームページでもフェアリーランドと用語を合わせ、単に「打歩」と言えば「完全打歩」を指し、単純打歩の場合は「単純打歩」と明記する。(現在はfmの指定も「完全打歩」がデフォルトになっている。)
(3) 天竺詰
両王手のときの玉(王)の利きは、王手した両方の駒の利きになる。
これと似た現象が安X詰やX面詰で起こりうる(具体的には安騎詰や側面詰などの例がある)が、これらのルールを取扱えるfmはこのHPでは公開していないので、説明は省略する。
(4) キルケ
a.キルケとKキルケ
キルケでの詰みは通常の意味での詰みだが、玉(王)が取られても玉(王)の位置に戻せるなら詰みではないとするルールもある。これはKキルケ(キングキルケ)と呼ばれるルールである。当HPでは通常のKキルケは扱わない。またfmにもそのようなルールはない。
b.戻す位置が2つある場合
キルケでは5筋の金銀桂香は最も近い復活位置が2箇所ある場合がある。このとき戻す位置の選択は取った側が行う。
(つい最近までは取られた側が行うと設定していたが、不都合が多いため変更した。)
ばか詰/ばか自殺詰系ではどちらが選択しても一緒になるように見えるが実はそうではない。次の局面を見ていただこう。
キルケばか詰 ?手
もし取る側が戻す位置を選択できるならこれは 58金 同と/69金 同金/53歩 まで 3手 である。逆に取られる側に選択権があるなら 58金 まで 1手 である。
もちろんどちらでもルールとしては矛盾なく成立するのだが、より自然な「取る側が戻す位置を選択できる」を神無一族は選択することにした。
c.成駒は生駒として復活
成駒が取られた場合、生駒として復活する。「と金」が復活して二歩になる場合は、復活できずに持駒になる。
(5) アンチキルケ
アンチキルケはキルケとは逆に取った方の駒が戻されてしまうルール。その定義を YOMUKA Fairy(http://wakaba.tv/fairy) から転載する。
- 駒取りを行った場合、駒取りをした駒は最も近い初期位置に戻る。
- 5筋の香桂銀金は取った側が戻る位置を選択できるが、片方にのみ戻れる場合は強制的にそちらに戻る。
- 成駒は成ったまま戻る。
- 初期位置に駒があり、戻れない駒は戻らない。
- 駒取りの発生時、駒が戻るまでを含めて一手と見なす。そのため、例えば11歩生/17歩は許されるが、11歩生は許されない。
- 詰みの概念はフェアリーに準ずる。同玉→51玉等、アンチキルケによって逃れる場合は不詰。
このうち 4. はチェスプロブレムのアンチキルケと大きく異なる点なので注意が必要。5.は駒取りの一瞬だけ行き所のない駒、王手放置、セルフチェックなどの反則に見える(駒が戻ることによってその状態が解消される)着手の許容を明記したもの。これはキルケにも当てはまります。
(6) PWC
PWC(Platzwechselcirce)は、取られた駒は取った駒が元あった場所に復元するというルールですが、日本式の詰将棋に適用するためのカスタマイズが必要となります。そこで本サイトでは、2005年9月5日に掲示板でクロ氏が提案された以下のルール設定を採用しています。
- 取られた駒は(2.の例外を除き)取った駒が元あった場所に復元する。
- 二歩及び行き所の無い駒の禁に触れる場合は、復元せずに持駒になる。
- 成駒は成ったままで復元する。
- 成れる位置に復元した場合でも、成不成の選択は行えない。