【出題時のコメント】
今回の出題は新ルール。このサイトの解答常連である若林さんの提唱された日本式アンチキルケ(以下単に「アンチキルケ」と呼称します)の出題です。新しいルールなので、いつもの無駄口は省いて、早速ルールの説明をしましょう。(YOMUKA Fairy(http://wakaba.tv/fairy)より転載。)
アンチキルケのルール
- 駒取りを行った場合、駒取りをした駒は最も近い初期位置に戻る。
- 5筋の香桂銀金は取った側が戻る位置を選択できるが、片方にのみ戻れる場合は強制的にそちらに戻る。
- 成駒は成ったまま戻る。
- 初期位置に駒があり、戻れない駒は戻らない。
- 駒取りの発生時、駒が戻るまでを含めて一手と見なす。そのため、例えば11歩生/17歩は許されるが、11歩生は許されない。
- 詰みの概念はフェアリーに準ずる。同玉→51玉等、アンチキルケによって逃れる場合は不詰。
この中で特に注意すべき点は4.で、このルールの元になっているチェスプロブレムのアンチキルケの「戻れないときは取れない」という設定とは異なっています。
また、キルケルールと違って、戻るのは取った方の駒なので、玉(王)も駒取りの時に復活の対象となります。ですから、玉座に相手の駒の利きがある場合、玉(王)で取る手は反則になりますし、玉座が敵や味方の駒で埋まっている場合は、玉(王)で取っても、そのままの位置に留まることになります。
上記のようなルール設定により、アンチキルケでは獅子の「居食い」のような現象が起こったり、ほとんど「取禁」に近い味が出せたりするので、キルケとは違った独特の魅力があります。これから研究が進めば、いろいろな手筋が発見されて、大いにフェアリーファンを楽しませてくれると思います。
なお、アンチキルケに対応したfmは現在試作・評価中。いずれは正式に公開したいと思います。さて、今回の出題はそのアンチキルケという条件下でのばか自殺詰。初出題にしては難しいかもしれませんが、掲示板に書き込まれた作品などを参考に解いてください。本作も、掲示板で発表された作を2手逆算したものです。なお、棋譜の表記はキルケルールと同様にしてください。
(2005.6.6 追記 ルール説明を若干修正しました。内容的な変更ではありません。)(2005.6.26 更に追記 5.のルール説明を若干修正。行き所のない駒以外にも、王手放置やセルフチェックなどの反則に見える(駒が戻ることによって解消される)着手も含むことを表す表現に。)
【ルール説明】
【詰手順】
58香 47玉 69飛 56香 65飛寄 36香 同王/59玉 36桂 49香 58玉/51玉 まで 10手
→動く盤面で鑑賞する(JavaScript/CSS使用,IE専用)
【解説】
飛角4枚に持駒香まである超強力攻撃陣。これが普通のばか自殺詰なら、余詰は必至というところですが、実際動かしてみると“アンチキルケ”の条件のせいで、妙に王手が続かないことが分かります。例えば飛を動かして、合駒させて、それを取ろうとすると、飛が28に復活して王手になりません。出題時のコメントで「取禁」に近い味があると言った意味はこの辺にもあるのですが、本作では、ここに主眼があるわけではなく、もっと華麗な手順が展開されます。
まずは初手の58香の短打。これで角の利きの焦点の47に玉を移動させるのですが、後の攻方王の復活位置確保のため、59から打たないところに味があります。そして、この後は目も眩むような連続技、65の飛の移動で69を埋め、その空いた65の地点に25飛が回ることによって、74角の利き筋を遮ってしまいます。収束は、攻方王・受方玉の双方復活が入り、2回目の香限定打まで飛び出します。
初めてのアンチキルケ出題にしては、ちょっと難し過ぎたかもしれませんが、この作品でアンチキルケの独特の魅力を感じて戴けたら幸いです。新ルールということで解けなかった方も、ぜひこの作品を鑑賞してください。
【正解者及びコメント】 (正解者4名:解答到着順)
瘋癲老人さん
新らし物好きじゃないんで手を出してなかったんですが。
最初詰んだと思ったら獅子王でした。
獅子王ということになれば詰め上がりは限定されるのであとはすんなり。
まさに玉が宙を翔ぶという感じですね。
アンチの方が駒のワープ感が強調されて面白いような気がします。
☆ 作意表面では獅子王のような「居食い」は出てこず、むしろ「取り逃げ」のような手ばかりなのですが、紛れでは「居食い」の筋が結構出てきます。しかもすべての駒に「居食い」の可能性があるのですから、面白すぎます。
私もあまり新しいルールに積極的に手を出す方ではなく、他の人が出す作品を見てから面白そうかどうか判断するのですが、このアンチキルケにはすぐに飛びついてしまいました。今後のこの分野の発展に大きく期待しています。
若林さん
掲示板の8手も飛車の動きが楽しい作品でしたが、
最終手や途中での逆王手防止のための要駒を手持ちにするだけで
ずいぶん引き締まりますね。綺麗な逆算だと思います。
☆ 実はこの作品、掲示板のNo.108の作を2手逆算したもの。ということで、解答を遠慮された方もいたのですが、何人かに個人的にお願いしてコメントをお願いしました。ご協力ありがとうございます。
たくぼんさん
詰上りが浮かび難かった。また詰上りまでの舞台作りも飛車の交替するユーモラスな動きや最終玉手を成立させるための初手が入った所など完璧と思います。貧乏(清貧)図式というのもちょっといける。
☆ 貧乏(清貧)図式というのは気付きませんでした。確かに飛角桂香という飛び道具(桂はちょっと微妙ですが)ばかりで、近接戦闘型の駒は玉(王)だけ、しかも成駒なしですから、スッキリ爽やかな感じがしますね。
もずさん
角筋の開け閉めが楽しいですね。
2手逆算が入ってすっきりしたと思います。
☆ いったん空けた角筋をその直後に閉めてしまうのは、この作の最大の見所ですね。普通詰将棋だと看寿の飛鋸のような例がすぐ浮かびますが、これは開閉に使う飛が同じモノでした。本作のように、飛が動いた直後に別の飛がそこを埋める作品はちょっと記憶にありません。もしかしたら本邦初のテーマでしょうか?
☆ 今回は新ルールの割に問題が難しかったですが、アンチキルケルールのデビューにふさわしい作品だったと思います。六郎さん、素晴らしい作品ありがとうございました。
さて次回は7月恒例、「勝手に全国大会連動企画:非アマ連杯握り詰」の出題を予定しています。お楽しみに。
(2005.6.26 七郎)
【出題時のコメント】
ベートーベンの交響曲第5番「運命」―― クラシック音楽を知らない人でも、この曲名と冒頭のフレーズだけは知っているという超有名曲ですが、この「運命」という名前は日本だけでしか通用しないという話があります。実際、輸入盤のCDの英語表記やドイツ語表記を見ても、それらしい単語に出くわすことはありません。作曲者本人は命名などしていないので、本当は単に“交響曲第5番”で事足りるのでしょうが、やはり日本ではこの名前があるとないとでは、CDの売り上げが相当違うようです。そういえば、チェスプロブレムなども命名の習慣はあまりないようで、詰将棋で命名に凝る人が結構いるのは、日本的な現象なのかもしれません。
… と、20世紀までならこういう話で終わるのですが、どうやら最近は事情が違うようです。最初に挙げた「運命」の例だと、1990年代あたりからこの愛称が“輸出”されているようで、Fate だとか Schicksal とかの表記が出てくるようになったそうです。チェスプロブレムの世界にも日本人が徐々に増えつつある昨今の情勢からすると、そのうち命名好きな人が海外誌に命名付き作品を乱発し、奇異の目で見られるという事態も起こるかもしれません。それはそれで面白いので、誰かがやってくれるのを見てみたい気がします。例えばほら、神無三郎さん(名指し)、命名好きでしょ? やってみませんか?
私自身はあまり命名しない方なのですが、最近では添川氏との合作で「ステージII」がありますし、次回の「神無一族の氾濫」でも命名付きの作品を出題する予定です。どんな作品かは、まだ伏せておきましょう。
さて、今回は自分でもちょっと逆算しすぎたかな、と思っている作品の出題です。でも、どうしてもこの初手を入れたかったものですから…。見た目は難しそうですが、第94回出題を参考にすれば、意外とすんなり解けるかもしれません。
【ルール説明】
【詰手順】
57香 45玉 37桂 36玉 31飛 26玉 21飛生 24角 25桂 57角生
13桂生 25飛 まで 12手
→動く盤面で鑑賞する(JavaScript/CSS使用,IE専用)
【解説】
本作は最終2手からの逆算モノ。桂は利き場所が少ないので、そこを限定打によって埋める(逆算により最終的には、限定打+生での移動という形になりました)というのが狙いです。桂の利き筋を埋めた攻方の飛を石化させている受方の飛は、一時的には利きのない状態ですが、そこに攻方の王が割り込もうとすると、利きが復活してしまうので、結局攻方王は動けません。このステイルメイト型は、第94回出題にも出てきたものですが、マドラシば自STMの基本手筋と考えて良いでしょう。
なお、たった2手の素材を12手まで逆算したのは、初手の57香を入れたかったからです。これは角の利き筋を連続して封鎖するという形式性の他に、「こんなところに香を残してステイルメイトになるはずがない」という、心理的効果を狙ったものです。攻方の飛桂、受方の角による双方不成も狙いのひとつですが、これはマドラシでは当然の手ですね。
【正解者及びコメント】 (正解者なし)
☆ ルールと手数で考える気が起こらなかったせいもあるでしょうが、解答者は遂にゼロになりました。作者としてはどの辺が解答する上で盲点になったか知りたいので、感想などを掲示板に書いていただければ幸いです。
次回はもう少し易しい作を出すつもりですが、現在ちょっとした企画を進めているところなので、それと連動した出題になるかもしれません。
(2005.5.29 七郎)
【出題時のコメント】
詰将棋メモでも話題になっていますが、詰将棋のルールに関する誤解で最も多いと思われるのが「攻方最短・受方最長」という規則でしょう。もちろん、正式な規則は「攻方任意・受方(攻方最短の前提で)最長」なのですが、なかなか一般の将棋ファンには浸透していないようです。
これに対しTETSUさんは、「攻方最短」をルールにしてしまってはどうか、という大胆な提案をしています。確かにこうすれば、ルールもシンプルになり、作る側も楽になります。それに「攻方最短」を利用した新しい表現の可能性もあるでしょう。
ただ、この種の提案はデメリットも検討しなければいけません。このルールは作る側は楽になっても、解く側は確実に負担増になります。特に、追い詰めや並べ詰めで簡単に詰むところを、苦労して最短手数にしなければいけない、というのは実戦派には受け入れ難いことでしょう。現在、詰将棋の人材の主要な供給源は間違いなく指将棋であり、もしここからの人材流入がストップすれば、詰将棋界にとって致命的な打撃になりかねません。
また、私個人にとってもこの提案はあまり魅力のあるものではありません。というのは、私の主な活動分野である長編の世界では「攻方最短」の効果があまり大きく利いてこないからです。結局、「攻方最短」ルールはフェアリーとして実験を重ねてみて、デメリットを上回るだけのメリットがあることを確認してからでないと、従来のルールに置き換えるべきかどうかの議論の対象にならないでしょう。
ただ、ルールの「誤解」は新しいルール誕生の源泉にもなります。例えば詰将棋のルールで「攻方最短」に肩を並べるほど誤解の多い「手余り禁止」はどうでしょう? もし「手余りOK」にルールを置き換え、それに伴い「無駄合い」のルールも消せば、長編分野であからさまな表現領域の拡大が見込めます。持駒の消費に四苦八苦しないで済むという「作り易さ」だけに止まらず、「持駒増幅(と言うより、受方の駒切れ待ち)」など、今まで利用出来なかったタイプの長手数原理も使えるようになります。現在の長手数記録などの更新もたやすいことでしょう。長編に限らず短編においても「手余りOK」となれば、妙ちくりんな作品がどんどん生まれてきそうです。……ただ、あまり妙ちくりん過ぎて、やはりフェアリーとしてしか容認されない可能性は大きいですが。さて、今回はちょっとした構想作。難しい作品と予告していましたが、作者の狙いを見抜けば案外簡単かもしれません。受方持駒が制限されていることにご注意ください。
【ルール説明】
【詰手順】
22角生 12玉 13角成 同玉/88角 24銀 12玉 23銀生 13玉 79角 24金
22銀生 12玉 11銀成 同玉/39銀 88角 33歩 同角成 12玉 34馬 11玉
44馬 12玉 45馬 11玉 55馬 12玉 56馬 11玉 66馬 12玉
67馬 11玉 77馬 12玉 78馬 11玉 88馬 12玉 89馬 11玉
99馬 88歩 12歩 同玉/17歩 89馬 13玉 23馬 同金 22桂成 14角
同香 同金/19香 24金 同金/49金 23圭 同金/29桂 31角 22金 まで 58手
→動く盤面で鑑賞する(JavaScript/CSS使用,IE専用)
【解説】
本作は「何も無いところに向かう馬鋸」が主題の作品です。その意味付けは88歩の発生。これがどういうことか手短に説明しましょう。
初形で角が持駒なら、31角 22金までの2手詰。ですから、角を受方に渡し、後に合駒で取り返して31角と打てるようにするのが基本的な方針です。ところが、攻方の角は、いくら渡そうとしても88地点に復活してしまいます。そこで、88地点を埋めるために馬鋸を行うのです。馬を99まで持ってくれば、88歩合が出来て目的は達成。こんな簡単な仕組みで「何も無いところに向かう馬鋸」が出来るのですから、キルケルールというのは便利なものです。
この構想は、いろいろなバリエーションが可能で、やろうと思えば馬鋸以外にもいろいろな表現手段があると思います。本作は、あまり凝らずにシンプルに表現したつもりですが、それでも解答数を見ると、やや難しかったようです。
【正解者及びコメント】 (正解者2名:解答到着順)
たくぼんさん
構想や手数から馬鋸かな?というのは予想がついたし、最後の詰み上がりも見えたけどここからが大変でした。
3一角を打つには角を手持ちにしないといけない。手持ちにするには8八を埋めないといけない。それを馬鋸を利用して・・・。
なんという遠大な構想でしょうか。またつなぎの部分も一筋縄ではいかず。1七歩発生しての2四金にはため息が出ました。
昨晩(4/29夜)に構想のイメージが沸いて朝から盤に並べて、何とかたどり着いたのは夕方でした。久しぶりにどっぷりつかった一日でした。
☆ 締切日前日になっても解答が来ず、一時は正解者なしを危惧した今回の出題でしたが、たくぼんさんからの解答が届いて、ほっと胸をなでおろしました。「つなぎの部分」はちょっと強引だったのですが、もしかすると解答が少なかった原因は、序や収束などの、構想以外の部分にあったのかもしれません。
瘋癲老人さん
角を持ち駒にしなければいけないということで馬鋸は分りやすいです。
☆ たくぼんさんからの解答到着後、ほどなくして瘋癲老人さんからも解答をいただきました。瘋癲老人さんも「もたもたしてるうちに締切日になってしまいました」と仰ってますから、お二人とも締切間際になって解図に取り組まれたようです。もちろんこのお二人の解図力のなせる技なのでしょうが、締切間際でも諦めないことが肝心ですね。
☆ 今回は解答者大幅減。たくぼんさんからも「疲れました〜〜次回は易しいのをお願いします」と言われてしまいましたが、次回も、出題までに管理人の気が変わらなければ、ちょっと難しい作品になる予定です。
(2005.5.1 七郎)
【出題時のコメント】
詰パラの2月号に「蔵書家の心意気」という話が出ていました。ある蔵書家が世界でひとつしかないはずの本の2冊目を手に入れてしまったとき、彼はそのうち1冊を焼き、残りの1冊を愛蔵するという話です。
この話、正直あまり気持ちの良いものではありません。もし自分の作品集がこんな目に遭ったら、その蔵書家に呪いを掛けてやりたくなるでしょう。私が望むのは、本を読んで作品を鑑賞してもらうことであって、読みもせず本棚の飾りになることではありません。最近、出版されたいくつかの作品集には、装丁に凝っているせいか、やたら値段が高いものが散見されますが、私が出版する(かもしれない)作品集、あるいは参加する合同作品集では、こういうことは避けたいと思っています。私の本を所有して欲しいのは、本の中味には興味のない「蔵書家」ではなく、詰将棋に飢えていて、あらゆる知識を吸収しようとしている人たちです。その中には、使える小遣いに限りがある貧乏学生も含まれるでしょうから、作品集は安価でなければいけません。
そういう意味では以前、神無一族で出版した「神詰大全」は、私の望み通りのものでした。この企画のチーフである神無太郎さんの方針で、余分な飾りは極力切り詰めることにより、送料も含め690円という異例の安さを実現したのです。もちろん、その本は何の威厳もなく、チープな感じさえ与えるものですが、それは私にはむしろ好ましいことでした。
その一方でこの「神詰大全」、永久保存のための手続きは抜かりなく行っています。出版後すみやかに国会図書館へ納本したのです(気まぐれな「蔵書家」に頼るより確実な保存方法です)。更に今回は、PDF版を作成し、無償で配布することにしました(今回新設した作品集のページで参照できます)。昨年の詰パラ6月号「パソコン奮戦記」でも首猛夫氏が書籍の電子化のメリットについて述べていますが、これからの作品集は、紙媒体の「本」として出版すると同時に、電子書籍として残すことを前提にすべきだと思います。情報を劣化を免れるよう保存し、検索容易な形で利用可能とすることは、従来の「本」にはない新たな価値を産み出す可能性があるからです。
ただ、「本はやはり手許に持っていたい」という人は多いでしょう。ディスプレイで本を読むと目が悪くなりますし、味気もありません。また、やはり綺麗で風情のある本を持ちたいという人も当然いると思います。そんな人の要望にも、今回のPDF版は応えることができます。なぜならこのPDF版はそのまま印刷に回せる形式になっており、このファイルを製本所に持ち込んで本にすることができるからです。立派な本が好きな人は、好きなだけ豪華な装丁で製本してもらい、この世で一冊しかない、自分だけの「愛蔵版・神詰大全」を作ってください。ただし「神詰大全」は神無一族の著作物ですから、たくさん作って売ったりしないでくださいね。(←誰もやらないって…)さて、今回はその「神詰大全プロジェクト」のリーダー、神無太郎さんの作品です。前回に引続いての登場ですが、今回のルールは純粋な「ばか詰」。狙いも明快で、解いて納得できる作品ですので、多くの解答を期待しています。
【ルール説明】
【詰手順】
29桂 同と左 19香 18角 同香 同と寄 39角 28角 同角 同と寄
19香 18と寄 39角 28と引 29桂 まで 15手
→動く盤面で鑑賞する(JavaScript/CSS使用,IE専用)
【解説】
と金にビッシリと囲まれた、無仕掛けの初形が目を引く図ですが、この初形と詰上りを比べてビックリ。受方の配置はそのままで、攻方の角桂香の3枚が出現し、詰型を作っているではありませんか!
実はこの作品、九州Gフェアリー別館の第3回出題「還元玉」の課題作として創作されたもの。「不動玉」も「還元玉」には違いないですが、結局その時は出題は見送りとなり、ここでお披露目となりました。
手順上のポイントは、正解者のコメント等に表れているので省略して、ここでは創作を志す方への参考のため、この作品の推敲課程について解説しておきましょう。まずは、次の単純な素材がこの作の出発点となっています。形の美しさはともかく、これでは手順が単調すぎて味がありませんね。
そこでより手順に粘りを持たせた発展形が次の図です。ここまで来ると、手順にも考えどころができて、立派に「作品」として通用するレベルになっています。そしてこの図の持駒角を合駒で発生させる方向で更に発展させたのが、今回の出題作。密集形が崩れて49飛を置くことになりましたが、その代償は充分にある手順に仕上がっていると思います。
【正解者及びコメント】 (正解者12名:解答到着順)
北村太路さん
2九桂 同と左 1九香 1八と上 同香 2七玉 3九桂・・・
おかしい、こんな筋ではない気が。と思い直し、密集の中での合駒打に気づく。
(でも、筋が悪いので、金、銀の順で考えてしまった。)
9手で3九角、2九桂まで打てたが、1九香が打てていない。
角打角合があったか。
出題図から3手を一度に指したような詰め上がりですね。
香桂の位置を見るとアンチキルケが影響してる?
☆ 北村さんの最初の読み筋のように、無仕掛密集形の作品は、とにかく守備陣形に穴を空けて玉を引っ張り出す展開の作品が多いのですが、本作は密集が元に戻ってしまうのが特徴的です。
なお、解説でも触れたとおり、これが創作されたのはアンチキルケが提唱される前なので、その影響はありません。
若林さん
正にばか詰めならではの原型を壊さない楽しい詰め上がり。
49飛1枚でよく余詰がなくなるものです。お見事。
神詰大全(PDF版)素晴らしいですね。
余裕ができたらあらためてじっくり楽しみます。
☆ 本作のような作品の創作は、「紛れを持たせる」と「余詰防ぐ」の微妙なせめぎ合いが必要。紛れを皆無にせずに15手の長丁場を49飛1枚でもたせた、太郎さんの手腕と努力に感心します。
PDF版の作品集、あるいは別の形式の電子書籍での作品集はこれからも出現すると思います。もしかすると、私が個人作品集を出すとすると、電子書籍のみの公開になるかもしれません。できれば「動く作品集」が良いので、PDF版とHTML版をセットにしたような作品集を考えています。PDF版で普通の書籍ように読め、画面上で動かしたいときは、PDF文書に埋め込んだハイパーリンクでHTML版の表示画面を出す…そんな感じです。冗談ではなく、結構本気ですよ。
今川健一さん
命名するなら、「電子レンジ」かな。
☆ ユニークな作品にはユニークな命名を。
私のイメージは「金庫室」でした。本作に命名するとしたら、皆さんはどんな名前をつけますか?
有川志樹さん
初めて投稿します。
有川志樹と申します。
この作品は、角を合わせてと金を元の位置に戻すのがしばらく見えませんでした。
また、最初桂→香と打ってと金をほぐしたあとに香→桂と打って詰ますのが面白いですね。
☆ 有川さんは初登場。今後もよろしくお願いします。
短評にもある通り、角打角合を1回入れて、19香を発生させる手順は絶妙です。
桂→香と香→桂の呼応というのは筆者は気付きませんでした。解答者の声を聞けると、いろいろな発見があって面白いです。
荻江香木さん
詰上がりはすぐに浮かびましたが、そこにいたるまでのパズル的な手順が面白いです。
こういう人工的な作品は解きやすいです。
前回のような作品は解くのもですが、作るにはかなりの経験を必要とされそうです。
☆ 前回の作品は、マドラシば自STMでしたから、マドラシに関する手筋をどれだけ知っているかで、解くのに要する負担はかなり異なってくると思います。
未開拓のルールで新しい手筋を発見するのと、比較的ポピュラーなルールで掘り下げた作品を創るのも、どちらも重要な作業ですが、フェアリーは人材不足でどちらも充分に行われているとは言えないと筆者は思っています。萩江さんのような新しい方が、どんどん参入して活躍されることを期待しています。
水車水さん
2枚のと金の入れ替えパズル。
使用駒種、初手と終手の呼応など、演出も完璧です。
☆ 本作、解説では密集形が元に戻っているように書きましたが、正確には18と28のと金は入れ替わっています。(18を金に代えても完全作なので、それを確認できます。)
本作の演出の冴えは、太郎さん自身の美意識+神無一族内で鍛えられた成果?
須藤さん
初手が一つしかないのは非常に食指が動きます。
詰上りから逆算して、角打角合に気付いて完了。
でも、昔どこかで見た気も!?
☆ 「昔どこかで見た気も!?」とありますが、実は昔ではないのです。
それは次の方の短評で明らかに…。ただ、昔にも無仕掛密集形の作品がいくつか作られているので、それが印象に残っているのかもしれません。そんな作品の中からひとつ紹介します。詰パラ1999年1月号の青木すみれ氏の作品です。
この作品、詰上りもきれいな形になります。未見の方はぜひ解いてみてください。
ただ、私なら初手の紛れが減っても、68金の配置にしますが…(4手目の紛れが増え、初形も左右対称になる)。
大野孝さん
28角の合がなかなか出ませんでした。
パラ3月号@に似てますね。
☆ たぶん須藤さんの頭にあったのも、今年の詰パラ3月号の中出氏の作品ではないでしょうか。
こちらの方も受方の配置が完全に元に戻るので、似た雰囲気を感じるかもしれません。
ただ、作品価値は本作の方が圧倒的に上でしょう。筆者も中出氏の作品は解いたのですが、見た瞬間に解けてしまったので、全然記憶に残っていませんでした。
ところで、大野さんも初解答ですね。今後もよろしくお願いします。
もずさん
はじめは外に追い出す展開をずっと読んでいて苦労しました。
詰め上がりを想定できれば逆算でわかるのですが、角打角合とは驚きです。
☆ 北村さんの短評のところでも述べましたが、無仕掛密集形はどこかを崩すのが基本。しかも本作は容易に穴が開く形なので、その手順を追ってしまうのは仕方のないところでしょう。これだけの紛れを残しつつ、作意だけを最小限の配置で成立させたところに太郎さんの手腕を感じます。
大阪市の住人さん
今月のは易しかったので、何とか解けました。
☆ これはご謙遜を。今までも、結構難問を解いてこられたじゃないですか。
次回は難しくなる予定なのですが、頑張って解いてください。
たくぼんさん
似たような感じで桂を使わないパターンが詰パラ3月号フェアリー1番中出さん作にありましたが、本作の場合は”と金”のリズミカルで滑稽な動きがある分すばらしく感じました。
☆ たぶん中出氏の作品は、「素材」そのままなんですね。これをどこまで練って「作品」に仕上げるかが、作家の力量なんだと思います。本当は担当者がこういう中途半端な作品は返送して、もっと推敲するように指導した方が良いのでしょうが、そうすると入門者向きの作品も減ってしまうので、運営上難しいことなのでしょう。
筒井浩実さん
出題図を見て弘光弘氏作の持駒七色を思い出しました。
最終形で角が必要そうなのはわかるのですが、
角打角合のワンクッションをおくところがいいですね。ご無沙汰しております。
マドラシやキルケのば自ステイルメイトは最終形の想定が難しく、なかなか思うように解けません。
これくらいの作品ならばすぐに解けるのでありがたいのですが、やはりOFMはマニアックなルールの方が似合うと思うので、
解答者数を気にせずに変な(失礼)ルールの作品路線で行って欲しいです。
また解けたら解答したいと思います。
☆ 弘光氏の作品は、無仕掛+持駒一式の最短手数という条件作。桂打までの詰上りが本作に似ていますね。ただ、この作品は条件が厳し過ぎて、配置に無理が感じられます。個人的には無仕掛けの条件よりも、配置駒を最小限に抑える表現の方が好みなのですが…。
本ページの出題をマニア路線にするか、ポピュラー路線にするかは、いつも悩むところです。でも結局のところ、企画モノ以外は、管理人のそのときの気分にも左右されるので、行き当たりばったりの選題になっているのが現状です。
この際、ポピュラー路線は九州Gフェアリー別館に任せて、本ページはマニア路線を突っ走りますかね。
☆ 純ばか詰の効果で解答者数は2桁に回復。新しい方の参加もありました。
次回は、出題までに管理人の気が変わらなければ、ちょっと難しい作品になる予定です。
(2005.4.3 七郎)
【出題時のコメント】
これはfm使用者が外挿する不詰の条件です。すなわち、誤って指定すると解析結果も誤ることになります。(fmdoc3.txtより)
皆さんはfmのドキュメントをちゃんと読んでいますか?
実は、fmのドキュメントは単なる使用説明書以上の側面があります。特に機能の詳細を説明している fmdoc3.txt には、神無一族の嗜好が顕著に反映されています。
中でも、最近の神無一族の動向を反映していると言えるのが「これはfm使用者が外挿する不詰の条件です」という言葉です。この言葉は最近のマニュアルに増え始めていますが、次版が正式公開されるときには、更に増えるでしょう。
最近ではコンピュータの性能も上がり、メモリも大量に扱えるようになりました。当然fmの威力もそれにつれて強力になっているのですが、皮肉なことに、機械の能力が上がると、それを使う側の要求水準も上がります。そして、機械の能力が多少上がっても追いつかない要求が、次々と出てきます。かと言って、人間側の無理難題に合わせるために、特殊機能を組み込んだ機械を次々に作るわけにもいきません。
そこで多用されるようになった折衷案が、「不詰」と判定する条件を人間が与えて、fmに条件付の検討をさせるようにしようという試みです。fmの汎用的な性格を失わせず、なおかつ通常の方法では検討不可能な難問を扱うために、どのような条件を指定可能にすれば良いか…。それらの研究成果が、fmのオプション(特に/Eオプション)に装備され、首記の言葉と共に、ドキュメントにも反映されているのです。機械と人間との関わり方が、神無一族発足当初とは、少しずつ変わっていることが、そこから読み取れるでしょう。
fmのドキュメントが単なる使用説明書でない、もっと分かり易い証拠も挙げておきましょう。fmのオプションフラグのうち「X」を除くすべてのオプション文字をうまく並べ替えてください。「PROBLEMIST」になるでしょう? これが偶然だと思いますか?さて、今回の出題は神無太郎さんのマドラシば自STM。練習用だった前回と違い、今度は「氾濫」に出てもおかしくないレベルの作品です。つまり次回の「氾濫」にはもっと凝った作を出す予定なのです。前回の「氾濫」で解答者が激減したのに、懲りてません…。
【ルール説明】
【詰手順】
11飛 21角 同飛生 31香 46角 19角 28飛生 55香 98飛 18飛 まで 10手
→動く盤面で鑑賞する(JavaScript/CSS使用,IE専用)
【解説】
マドラシの条件下で盤の端にいる自王を縛る有力な手筋に「飛の対を作る」というのがあります。本図で言えば、98飛に18飛(または28飛)とする手段がそれです。この局面自体では、受方の飛の利きはないので、縛っている感じはしませんが、いざ王が上段に動こうとすると、受方の飛の利きが再生してしまうため、結局攻方王は対になった飛の間に割り込むことはできません。
ただ、いきなりその形のステイルメイトを目指して初手99飛などとしても、うまくいきません。攻方王の両脇を塞ぐことができないからです。受方玉が適当な位置(例えば92玉)にいれば、47桂を発生させて、駒1枚で攻方王の両脇を塞ぐことができますが、91玉を動かしていると手数オーバーになります。
そこで不可能を可能にする発想の転換。香2枚を使って、攻方王の両脇を塞ぐという、一見効率の悪い手順を敢えて選ぶのが解図のポイント。これだと、飛を横から打つしかないので全然ダメのように思えますが、角の対を作って、その間に飛を割り込ませるという大技を使って、飛を98まで運ぶことができます。わざと、石化した角の対を作って、それを媒介とした位置変換を行うという手段は第76回の出題でも使用しましたが、本作ではそれを盤面一杯に活用して、ド派手な効果を生み出しています。飛が不成で動くのもマドラシでは当然の手筋ですが、良い味付けになっています。
なお、本作にはここでは触れなかったあるテーマがあります。それを追求した作品は次回の「神無一族の氾濫」への出題が予定されているので、ここでは伏せておきましょう。
【正解者及びコメント】 (正解者4名:解答到着順)
若林さん
一番素直な縛りかたなので、解くにはそれほど苦労しませんでしたが、
盤面を一杯に使った気持ちの良い作品。並べるだけでも楽しい好作。
……とはいえ、もっと複雑な縛りかたのSTMになると解けない予感。
(後日追加された感想)
何故私が簡単に思ったか、理由が分かりました。
過去に私は解いているOFM76回の応用なんですね、これ。
☆ 今回も解答一番乗りは若林さん。
すっかり実力解答者として定着した若林さんですが、何と言っても最近の大ヒットは日本式アンチキルケの提唱でしょう。おかげで掲示板は大賑わいですが、これだけ盛り上がるとは、筆者も予想していませんでした。このルールは一時的な流行ではなく、きっとキルケと同様に多くの愛好家を持つ1ジャンルとして定着すると思います。
なお、神無次郎さんは仕事で忙しいようなので、fmでこれを実装してくれるとしても、当分先の話になりそうです。ですから当面はこのルールの新作が発表されるたびに、余詰指摘や誤指摘などが飛び交い、ワイワイガヤガヤする状況が楽しめるでしょう。
たくぼんさん
「9九飛、9八角、同飛、1八飛、3七角 5五香、4八角、8二玉、9三角、8四角まで」で出来た〜としばらく置いていたら、何のことはない8四角は石だったので3九が抜けていた。
あわてて考えて1一飛以下出来ました。76回出題がいいヒントになりました。
4六角の限定がいい味を出してます。
☆ たくぼんさんも触れているように、第76回の出題は本作を解く大きなヒントになります。解図に行き詰ったら、似たルールの過去問に触れるのは、非常に有力な手段です。特にフェアリーでは、例題が少ないので一作一作が貴重な情報源になります。本サイトにはサイト内の検索機能なども用意していますので、ぜひ活用してください。
さて、今回の解答でたくぼんさんは解答番付で単独2位に浮上。これで、いぬたさんが復活してデッドヒートを見せてくれたら最高なのですが(観客モード)。
北村太路さん
9八飛、1八飛が最初に見えたので、初手9九飛に固執したのが敗因です。
楽しみは最後まで取って置かないといけませんね。
3九か5九を角を使ってどうにか利かせて塞ぐのかとも思っていてまた難儀しました。
作品は盤面一杯飛車が飛び回って気持ちよかったです。
☆ 掲示板でまだ2通しか解答がないと書いたら、北村さんと泉さんが解答を送ってきてくれました。北村さんも初手99飛の強烈な紛れに嵌ったようですが、そこから抜け出してきたところに実力を感じます。アンチキルケの新作のシリーズでも大活躍されているので、この調子で活発な創作・解答の活動を続けられることを期待しています。
泉真理さん
掲示板を見たら、まだ2名しか解答者がいないのですね。
今回の問題は第76回の解答を見たら解けました。
答えを考えるより類似作を探すほうが簡単?
これだけ盤面を広く使ってもすべて限定打なんですね。
☆ 今回の解答者4名のうち、3名の方が第76回の出題に言及されています。石化した駒の対を利用して、位置変換を図るという手段はマドラシにおける常用手筋になるかもしれません。この手筋を敷衍して、何か野心的な作品が出てくることを期待しています。(「自分で作れ」という声も聞こえるような聞こえないような…。)
☆ ちょっと難しかった今回の出題ですが、4名の解答者がいてほっとしています。次回の出題は未定。調子に乗ってまたマドラシば自STMにするか、それともこの辺で雰囲気を変えるか…まだ迷っています。
(2005.3.6 七郎)