【出題時のコメント】
すこし前の話になりますが、私はTOEICの試験を受けました。この試験は数年前にも受けたことがあるのですが、結果は惨憺たるものでした。まだ点数は通知されていませんが、きっと前に受けたときよりも低い点数でしょう。
(10/3追記:通知が来ました。やっぱり点数落ちてました(T_T))
英語力が落ちた原因は明らかです。以前は仕事の関係で海外発注なども多く、英語での電話やメールのやりとりを頻繁にやっていたのに、今は部署が変わって海外とのやりとりが全くなくなってしまったため、英語に接する機会がなくなってしまったからです。もともとそんなに英語が得意というわけではありませんから、使わなければ忘れてしまいます。ただ、全く勉強していないというわけではなく、Yahoo!にあるTOEICデイリーミニテストというページで「今日の問題」を解くのを日課にして、何とか現在の英語力を維持しようとしています。
ところで、なぜ私が今更英語に拘っているのか。――理由は全詰連の英文ページ作成のプロジェクトに私も参加しているから。諸般の事情で作成が遅れてはいますが、いずれは形になると思いますので、気長に待っていてください。
さて、日頃の鍛錬を怠ると勘が鈍るのは英語だけではなく、詰将棋も一緒です。今回のマドラシも、自分ではあまり手掛けないルールのひとつで、調べてみると私がマドラシ絡みの作品をこのコーナーで出題したのは、初回の出題以来ということになります。というわけで、鈍っているマドラシ勘で作られた本作…果たしてマドラシらしい手順になっているでしょうか。
【ルール説明】
【詰手順】
99飛 89角 同飛 29銀 55角 99角 88飛 46飛 18飛 同銀生 まで 10手
【解説】
本作の主眼はずばり5〜7手目の一連の手順にあります。「ばか自殺」系の短編では、大駒で合駒をさせる形を作った場合、受方の玉を動かして、その大駒の射線上から逸らすことにより、合駒が動ける形を作るのが常套手段です。しかし、本作では玉の移動の余地はありません。ではどうやって飛の射線を逸らすか…答えは「飛自身に動いて貰う」。つまり5・6手目で角同士の見合いの形を作っておいて、そこに飛を割り込ませる形で王手を掛け、飛の移動を成し遂げるのです。最終形は角の見合いが残っている他は、マドラシ特有のステイルメイト型ではなく、ごく普通のステイルメイト型なのですが、そこに至る手順には上記のような工夫があるので、マドラシルールらしさは出ていると思います。
ただ、出題時にこの問題の難度の高さを見誤ったのは問題でした。掲示板の神無太郎氏の書き込みにもあるように、手順が完全限定であることを前提にすれば最初の3手は容易に想定できるので、後は根性で解けるだろうと思ったのが間違いでした。その後の5〜7手目の手筋は私自身も見た記憶がないので、もしかしたら新手筋なのかもしれません。難易度の判定を誤った原因は、本作が基本的に逆算で作ってあることにもありそうです。本作の原図は以下の6手詰でした。
55角 11角 22飛 46飛 28飛成 同桂成 まで 6手
この作を双裸玉にしようと逆算した結果が、今回の出題作でした。ばか自殺ステイルメイトは逆算しても比較的余詰が発生しにくいので、気楽に逆算をやってしまうのですが、作者はネタを知っている分、易しいと思い込みがちです。今後の出題のときは気を付けたいと思います。
【正解者及びコメント】 (正解者3名:解答到着順)
若林さん
55角46飛合の形から前後に展開して解けました。
大駒4枚の中で、銀がいい味です。
☆ 今回の解答一番乗りは前回解答のなかった若林さん。「最近解けないことが多くて悔しい。というわけで時間を使って真剣に解きました」とのこと。一所懸命解いて貰えると、出題した側も嬉しいです。
川並洋太さん
18飛はどう考えても無理そうなので、横から打つ。3手目は合い駒を取るしかないので、99飛 89合しか手順の限定がありません。また、大駒を使わなければ89の意味がなさそう。という推測で3手目まではすぐできたのですが4手目でつまりました。
そこで友達にfmで4手目を調べてもらいました(反則すみません)。意外な29銀!
18銀と6段目の飛車でステールメイト。その後は簡単でした。
☆ 答え(の一部)を教えてもらったとのことですが、正直に自己申告してあるし、本作の主眼部は自力で見つけているようなので解答成績に加算します。でも、「29銀」くらいならもう少し粘れば、見つかったかもしれないですね。次回は完全に自力で解答できるよう頑張ってください。
なお、明文化していませんでしたが、このコーナーではfm等で答えを見て感想だけを送ることも可能です。この場合は、感想だけの参加である旨を書いてもらえれば、感想を掲載し、解答成績に加算しない措置をとりますので、「感想での参加」制度を活用してください。もちろんfm等で答えを見ても、黙って自力解答のふりをすればそれと分かりませんが、そこは性善説で運用していくということで。
もずさん
4手目に飛打から考えて、だいぶ苦労しました。
限定打の意味付けが複雑で面白いですね。
☆ もずさんはこの解答で、いぬたさんと並んで解答成績44でトップに並びました。
いぬたさんは現在休眠状態にあるようなので、次回で単独トップかもしれません。
また4位の北村さんも3位まで後一歩。解答番付の順位も交代期に入ってきたようです。
☆ 今回は解答者数0の不安もあったのですが、最終的には3名の解答を頂いて、ホッと胸をなでおろしています。解答者には不人気(?)なステイルメイト推進キャンペーンですが、次も懲りずにステイルメイト作品の出題です。どうか見捨てないで!!
(2003.10.20 七郎)
【出題時のコメント】
このところ「ばか自殺ステイルメイト」を目にする機会が多くなりました。詰パラ8月号でも3題の「ばか自殺ステイルメイト」系の作品が載っていましたし、「神無一族の氾濫」でも第17回と第18回に連続して「キルケばか自殺ステイルメイト」を出題しています。おそらく今後も「ばか自殺ステイルメイト」の出題は増えていくものと思われます。
もちろん「ばか自殺ステイルメイト」自体の歴史はそんなに浅くはありません。ここの掲示板に神無太郎さんが書いていましたが、詰パラで「ばか自殺ステイルメイト」が初めて出題されたのが1982年5月ですから、もう20年以上も前の話になります。ただ、その頃に発表された「ばか自殺ステイルメイト」は単純に攻方の駒を捨てていくだけの作品が多かったように思います。特にこのルールでは「煙詰」が簡単に出来てしまうので、まったく面白味も何もない「ばか自殺ステイルメイト」の煙詰が一時期大量に作られました。実は私も「ばか自殺ステイルメイト」の煙詰を作った一人なので、他人のことは余り言えないのですが、それでも「全成駒無防備煙」の「ばか自殺ステイルメイト」だったので、単なる人真似とはちょっと違ったことができたのではないかと自己弁護しています。
その一時期を過ぎると「ばか自殺ステイルメイト」はパッタリ見かけなくなっていたのですが、近年その復活の傾向が見えてきました。しかも、昔のような単純なステイルメイトではなく、よりパズル色の強い本格的な作品が多くなったのは喜ばしいことです。変身ルールなどと組合わせた作品も多く、これからの展開が楽しみです。
というわけで、今回は「ばか自殺ステイルメイト」に「キルケ」を組合わせた作品の出題です。このルールに慣れていない方は、「神無一族の氾濫」の第17回と第18回の問題や出題時の説明を参考にしてください。本作はこのとき出題された作品よりは易しいと思います。
【ルール説明】
【詰手順】
12飛 21玉 11飛生 32玉 12飛生 33玉 11角 22桂 まで 8手
【解説】
駒数の少ない形でのステイルメイトでは、合駒を発生させて攻方王の退路を断つのですが、その合駒には桂という駒は余り使われません。これは桂の利きが小さいためなのですが、本作はその桂を使った最終形を初めに想定し、逆算で作った作品です。8手中6手までが玉を動かすためだけに使われるので、この最終形を想定しないと、解くのも難しいと思います。
解図のコツは攻方王の位置に着目することです。キルケルールで復活したとき逆王手になるような合駒を選べば、その合駒は取れませんから、ステイルメイトを実現しやすくなります。攻方王の位置が13であることを考えると、合駒は復活したとき逆王手になる角・桂・香のいずれかに絞り込めることになります。このうち、香は復活したとき逆王手になるには11及び12の地点を空けておかなくてはいけないので、うまくいきません。角の場合は「99角 88角」というもっともらしい紛れがあるのですが、後1枚持駒の飛の処理に困ります。結局桂が答えなのですが、これはこの初形からは意外な結末かもしれません。
【正解者及びコメント】 (正解者4名:解答到着順)
筒井浩実さん
99角、88角(香)みたいな収束かとも思ったのだが、左側から手をつけたのでは飛の動きを抑えられないので隅に押し籠める。
地味な手順だがコンパクトにまとまった最終形に好感。
☆ 今回も解答一番乗りは筒井さんで、即日解答でした。
このコメントにあるように飛の処遇から先に考えて解くのも有力な解法かもしれません。また、筒井さんのコメントにある角打角合の筋はちょっとまとめ方が難しかったのですが、その筋で一局できたのでどこかでお見せしたいと思います。久しぶりにフェアリーランドに投稿してみましょうか。(掲載されるかな?)
もずさん
図面を見たとき8手でステイルメイトにできるのか不安に感じましたが、22桂でちゃんと玉・飛・角が動けなくなっていますね。お見事です。
☆ 狙い通り22桂の収束に意外性を感じて貰えたようで嬉しいです。
玉・飛・角を桂1枚で狭い所に押し込める最終形は、第18回の「神無一族の氾濫」で六郎氏が見せてくれた玉・飛・角を金1枚で押し込める最終形に倣ったものです。小ぢんまりした本局とスケールの大きな六郎氏作は手順は対照的ですが、同じ発想に基づいたものなのです。
川並洋太さん
川並洋太です。 始めまして。 22桂が見えるまで大変でした。
☆ 川並洋太さんは初解答。
ステイルメイトは感覚的に難しいせいか、解答者数の減少傾向が見られるのですが、その難しい問題で初解答を寄せてくるとは感心します。今後も宜しくお願いします。
北村太路さん
飛車の最短往復運動。
・・・しかし、散々9九角とか2九飛とか打ってみては、うんうんと唸ってしまっていました。
前回、前々回と大きく動く問題だったので狭いところでやりとりするとは思いませんでした。
20年前のことは知らないのですが、私も初めてステイルメイトで作図してみたのはまったく面白みもなにもない、ばか自殺ステイルメイトの煙詰だったなあ。ちょっと反省。
☆ 飛の往復運動とは面白い着眼点ですね。チェスプロブレム風にいうと飛のスイッチバックでしょうか。決して主テーマではないですが、こういう趣向が入ると作品の評価が上がるという効果はあるでしょうね。
北村さんのばか自殺ステイルメイトといえば第69回出題のコメントで見せていただいた、「受方の超Excelsior」をテーマとした作品が印象に残っています。初めての創作のときは他人の作品の模倣だったり、偶然テーマがぶつかったりということはよくある事なので、細かいことは気にせずどんどん創作されることをお勧めします。
☆ やはり「ステイルメイト」は「詰」に比べてとっつきにくいのか、解答者数はわずか4名に止まりました。ただ、ステイルメイト推進キャンペーン(?)は今後も続けていきたいので、もう少しステイルメイト作品を出題したいと思います。解答者の皆様もご協力ください。
(2003.9.22 七郎)
a) | b) |
【出題時のコメント】
私がまだ高校生だったころ、NHK-FMでジョン・ケージの「ジェミニ」という曲を聴きました。ジョン・ケージは例の「4分33秒」という曲であまりにも有名ですが、私にとってはあまり進んで聴きたい作曲家ではありませんでした。ですから、この「ジェミニ」もラジオから流れて来るのを何の期待も無しに聴いていたのです。ところが演奏が始まると、テンポの良いリズムと活発な旋律がプリペアド・ピアノの妙ちくりんな音色と相俟って面白い効果を上げており、すぐにこの曲に引き込まれてしまいました。曲自体はほんの短い小品で、演奏者の名前も覚えていませんが、ケージの小品には結構魅力的なものがあるのだと認識させられました。
この「ジェミニ」が「プリペアド・ピアノのためのソナタとインタリュード」という曲集の中の一曲(正確には2曲の対)である、というのを知ったのは後に社会人になってからです。さっそく、そのCDを買って来て、この「ジェミニ」に再会したのですが、ひどく落胆させられました。何と言うか演奏が非常に鈍重な感じで、初めて聴いた「ジェミニ」とは似ても似つかないものだったのです。同じ曲でも演奏によって全く違う曲に感じられるのはクラシック音楽ではよくある経験ですが、ここまで極端に違うと結構ショックでした。後に別の演奏家によるCDも買ってきて、こちらはまだマシな演奏だったのですが、やはり最初に聴いた「ジェミニ」とはかなり印象が違います。ラジオで偶然聴いたあの演奏との出会いは「一期一会」だったのでしょうか。あのとき演奏者の名前を覚えていなかったのが、かえすがえすも悔やまれます。
さて、賢明な読者諸氏にはもうお分かりとは思いますが、「ジェミニ(双子座)」の話をしたのは、今回の出題がツイン(組局)だからです。ツインは、チェスプロブレムではポピュラーな出題形式ですが、チェスプロブレムでしばしば見掛ける「組局全体であるテーマを表現する」人工的なツインは私はあまり好きではありません。むしろ、「偶然ツインになっちゃった」と言えるような、発見的なツインが好みです。例えば「神無一族の氾濫」で言えば第3回神無一族の氾濫の2・3番のツインが、私の中でのツインの理想像のひとつなのです。今回の出題はそんな「理想像」とはほど遠い存在ですが、まあ軽く解いてそれなりに楽しんで貰えれば幸いです。
なお、今回の出題は1題1点として解答成績に反映しますので、片方だけ解けた場合も解答を送って戴けるようお願いします(まあ片方解ければ、大抵もう一方も解けるのですが…)。
【ルール説明】
【詰手順】
a)
33飛成 26玉生 35角 25玉 24龍 まで 5手
b)
17飛 32玉生 23角生 22玉 12飛成 まで 5手
【解説】
今回の出題はツインですが、テーマは手順を見ていただければ明白。縦に開く飛と横に開く飛の対比です。
しかし、本作の作図動機はこの対比が先にあったものではありません。「飛王のちょっと変わった性質」を利用したいというのが、創作の発端になっています。普通の王の場合、王が盤の周辺以外の場所にいると、これを普通の駒で詰めるには最低3枚の駒の追加が必要になります。ところが飛王の場合、周辺のひとつ内側でも、2枚の駒の追加で詰む形があるのです。飛王は普通の王に比べて詰みにくい駒なのですが、場合によっては普通の王より詰み易いこともあるわけで、この「飛王のちょっと変わった性質」を端的に表現したのが今回出題のツインなのです。
手順の方は不成も適当に入り、悪くはないのですが、ツインになったのは偶然の要素が強く、素材そのまま、という感のぬぐえない作品であることは否めません。
【正解者及びコメント】 (正解者5名:解答到着順)
筒井浩実さん
端での詰め上がりばかり考えていて内側での詰め上がりになかなか思い至らなかった。
a)をあとまわしにしてb)を考えたら詰み形が見えました。
一応カメレオンエコーということになるのでしょうが、駒数が少なく詰み形が限られているものだと、エコーになりやすいので驚くほどのことでもないか。
☆ 今回も筒井さんは即日解答。
一応、チェスプロブレムを知らない方のために「カメレオンエコー」という用語について説明しておきましょう。チェス盤は各升目が市松模様状に白黒で塗り分けられています。ツインで一方の詰上りの配置と、他方の詰上りの配置を比べたとき、詰上りを構成する駒が同じで、その配置の升目の白黒が入れ替わっている場合、これを「カメレオンエコー」と呼び、チェスプロブレムでは結構珍重されています。
尤も、本作の場合は初期配置が一筋ずれているわけですから、詰上りがカメレオンエコーになってもあまり威張れません。
もずさん
初手が縦と横に分かれて、見事にツインですね。
しかし、玉が斜めに動けるような感覚がどうしても抜けず、詰んでいる気がしません。
☆ 解説でも触れた通り、この詰上りは飛王に特有のもの。「周辺部から離れた位置で駒3枚の詰上り」は普通作ではありえないことなので、前々からやってみたかったことのひとつでした。
大阪市の住人さん
角は縦横に、龍は千鳥に使う?
☆ 大阪市の住人さんは、出題時のコメントに出てきたジョン・ケージの「4分33秒」に関連した2つのサイトを紹介してくれました。http://webclub.kcom.ne.jp/mc/yohno/とhttp://www.geocities.jp/progent21/diary9804.htmlです。前者は「4分33秒」がなぜ、この時間になったのかという理由について書いています。要約すると
- 「4分33秒」は秒に直すと273秒
- マイナス273度は絶対零度、すなわち「完全な無」
- だから「完全な無音の音楽」である「4分33秒」はこの時間でなければならなかった
というものです。誰が言い始めたのか知りませんが、この話は結構有名で、しかも面白いので、上記以外のサイトでもこの種の説明が書いてあるところがあります。(私自身はこの説には懐疑的です。)
なお、後者は「4分33秒」の楽譜の話。「無音の音楽」にも一応楽譜があって、3楽章に分かれているということが書いてあります。私自身は本物を見たことはないのですが、楽譜は休符ばかりだそうです(当たり前か)。
ちなみに「4分33秒」を収めたCDも市販されていますが、さすがに私は買う気になれませんでした。
若林さん
縦と横。いかにも、と言う感じのツイン。
☆ 若林さんは、最近「プロブレムパラダイスや極光IIに走っています」とのこと。確かにフェアリー派にとっては、詰パラだけでは物足りないと思います。どんどん世界を広げていくのは良いことではないでしょうか。
北村太路さん
頭の中で考えたら全然詰まずに苦労しました。
盤に並べてようやく解けました。
縦横、一路ずらしただけでなぜこんなに綺麗な対比になるのでしょうか。
☆ 綺麗な対比になるのは理由があります。綺麗な対比にならなかったら出題しないからです――と言えば格好いいのですが、実際はかなり運頼りの部分があります。ただ、あてずっぽうにやるのではなく、簡素図で詰上りが限られた局面をいろいろ弄っていると、幸運に恵まれる確率は高くなります。そのテのネタを見つけたらfmを駆使して粘ってみてください。意外な収穫があるかもしれませんよ。
☆ 今回解答を戴いた5人はいずれも両題正解。片方だけの解答者はいませんでした。
解答数は予想より少なかったですが、やっぱりツインは両方鑑賞して貰って初めて価値があるのですから、これで良かったのだろうと思います。
次回は普通のに1題のみの出題です。
(2003.8.25 七郎)
(中略)
そこで、おおいずみは考えました。なんとか我が日本国の詰め将棋でも左右逆形で効果の異なる作品は作れないものかと。そこでちと反則ではありますが、あちらのキルケなるルールを借用する事にしました。キルケというのは、取られた駒は指し始めの元の位置に強制送還される、というものです。ま、まあ、はっきり言ってしまえば「取っても取れない」という事ですが・・。(^^;
(後略)
ということで、最初は詰将棋に左右非対称性を導入したいというのが、キルケ輸入の動機だったわけです。ところがこのルール、やってみると想像以上に面白いんですね。この後、神無一族が中心になってキルケの試作やルールの細部の整理が行われるのですが、これについては機会があったらどこかで紹介したいと思います。
【ルール説明】
【詰手順】
89角 78金 同角/61金 67金 同角 56角 22金 同銀/49金 56角 45飛
34角 23銀打 まで 12手
【解説】
ずばり初手、角の最遠打が主題の作品です。
この遠打の狙いは角の入手にあります。角の王手に23銀と合駒すれば、攻方はこれを取れません(取れば銀が31に復活して逆王手になる)。ところが角はすぐには入手できません。角合しても、それをすぐに取ってしまうと、22に角が戻ってしまうからです。そこでまず22の封鎖が必要になり、金を入手する必要が生じるわけです。金の入手はキルケでは定番の2連合で行います。この後の22金は、角の復活場所の封鎖と、銀の呼び出しの2重の意味を持っているので、意味付けの純粋さには欠けますが、この手のおかげで角を取るタイミングが限定されているので、まあ良しとしましょう。
素材としては、角打に対する銀合が取れない形を見つけた時点で「これはモノになる!」と思ったのですが、ほとんど何の仕掛けもなしに角の最遠打が入ったのは作者としても意外な収穫でした。
【正解者及びコメント】 (正解者4名:解答到着順)
筒井浩実さん
23銀合迄の収束が見えたのでそこから逆算して解きました。
最初は33と31を埋めるのに角を使うと思ったのですが、それだと4筋が埋まらない。
4筋を埋めるのに45飛合が必要なのでもう一枚角が必要になる。
そういう感じで論理的に解くことが出来たので気持ちが良かったです。
☆ 今回の解答一番乗りは筒井さんで、即日解答でした。
筒井さんの解答は角打に対する銀合から詰型を組み立てるもので、最も模範的な解答だと思います。ばか自殺詰、特に双裸玉等の簡素形は、詰型さえ正確に想定できれば理詰めで解けることが多いので、皆さんもこの短評を参考にしてください。
もずさん
玉を24に呼んで、51角 42金 までの詰め上がりを考えていたので、この筋で詰んだのが意表を突かれました。
この系統の作品は詰め上がりからの逆算で解けることが多いですが、
今回は、
- 初手は89角しかない。(それ以外では非限定が生じそう。)
- 89に限定される意味付けとしては、78,67への連続合いで小駒を一枚入手するしかなさそう。
- となると、手数的に玉が動く余裕はなさそう。
というあたりをヒントに作意にたどりつきました。
☆ この短評を読むと、玉を24に呼ぶ紛れに惑わされたようですね。
実は最初に作った図は銀が13に置いてあったので、この紛れはなかったのですが、出題前に11に置く案に気づきました。もっとも、紛れを増やそうという意図ではなく、図をよりコンパクトに見せるつもりでそうしたのですが…。
北村太路さん
うーむ、凄い。
3X2のコンパクトな出題図から(外側から囲まなくてはいけないのは想像がつきますが)まさか最遠打とは!
太郎さんのばか自殺詰(双裸玉で飛を最遠打する問題)をなんとなく思い出しました。
☆ 太郎さんの双裸玉で飛を最遠打する問題、というと第5回神無一族の氾濫の第1番ですね。この作品も簡素形から意外な遠打が飛び出す秀逸な問題です。見たことのない方はぜひ解図を試みてください。
大阪市の住人さん
凝った作を考えて、ますます蒸し暑くなった。
☆ まあ手順はともかく、形は涼しげでしょ?
もっとも手順が進んで行くにつれ、どんどん盤上の駒数が増えて暑苦しくなってくるのですが、これも駒が消えにくいキルケの醍醐味ということで。
☆ 今回解答を戴いた4人のうち3人は出題翌日までに解答をくれたので、一時は「難しいかもしれない、と言ったのは間違いだったかも」なんて思ったのですが、最終的には解答者は4名に止まったので、やはり難しい問題だったようです。もっとも、キルケというルール自体がよくわからない、という人が多かったのかもしれませんが。
次回は…候補作はあるのですが、どれを出すかまだ思案中です。
(2003.7.28 七郎)
【出題時のコメント】
SFの世界でよく使われる道具に「タイムマシン」があります。もし、あなたが「未来へ行くタイムマシンと過去に行くタイムマシンのどちらが欲しいか」と尋ねられたら、どう答えますか? ただし、未来へ行くタイムマシンは未来しか行けず、過去に行くタイムマシンは過去にしか行けません。
私の答えは「過去に行くタイムマシン」。それも、そのタイムマシンの中に置いたものが5分前の過去に現れる、という単純なもので構いません。いったいそれが何の役に立つかって? 実は詰将棋の創作に役立つのです! 今からその原理について説明しましょう。
このタイムマシンの前で待っていると、突然その中に詰将棋の傑作が書かれた紙が出現します。そして、私はそれをすばやく書き写します。そして紙が現れた5分後、その紙をタイムマシンに放り込みます。ね、これで辻褄が合っているでしょ。突然紙が現れたのは5分未来にその紙を私が放り込んだからなのです。
いやーやっぱり便利ですね、タイムマシン。もし将来私が自分の力量以上の傑作を発表したら、私がタイムマシンを手に入れたと思ってください。
ところで、出現したのが詰将棋でなくゴジラで、私を踏み潰してから、出現した5分後にタイムマシンに戻ったとしたらどうなるのでしょう? 原理的には何が出現しても5分後に戻りさえすればいいわけで…うーん、こりゃめちゃくちゃ危険な機械ですね。
さて、今回の出題は「ばか詰」の軽い軽い趣向作。「神無一族の氾濫」の準備運動のための出題です。えっ、これはタイムマシンから出てきたものかって? そうだとしたら、タイムマシンに戻さずに破り捨てますよ。んっ、そんなことしたらタイムパラドックスがぁ!
(※多分、このタイムマシンネタを使ったSFがどこかにありそうですが、どなたか知っていたら教えてください。)
【ルール説明】
【詰手順】
29角 49玉 38角 58玉 49角 69玉 58角 78玉 69角 89玉
78角 98玉 87角 89玉 98角 78玉 89角 69玉 78角 58玉
69角 49玉 58角 38玉 49角 29玉 38角 18玉 27角 29玉
18角 38玉 29角 49玉 38角 58玉 49角 69玉 58角 78玉
69角 89玉 78角 98玉 87角 89玉 98角 78玉 79歩 69玉
87角 78金 同角 68玉 69金 まで 55手
【解説】
ばか詰の長編作によく使われる技法のひとつに「角追い」があります。角が成れない領域(入玉あるいは中段)で玉を追い回し、合駒の入手や持駒変換、置駒消去などを絡めて長手数を構成するのです。有名な作例としては森茂氏の長編作品が挙げられますが、本作はそのような本格的なものではなく、歩と桂のみの配置でその原理を抽出した作品となっています。
手順構成は単純な1往復半。初手29角から直ちに「角追い」に入り、左辺で折り返します。右辺でも同じ仕組みで折り返しますが、ここで27歩を入手します。再び左辺で折り返すと今度は79歩が打てて収束します。
「角追い」はさまざまなバリエーションが考えられる分野ですが、詰パラ6月号の「第19回神無一族の氾濫」第5番「霧姫」などは、この技法を使った究極のパズルのひとつだと思います。かなりの難問ですが、苦労する価値がある作品なので、ぜひ解図に挑戦してみてください。
【正解者及びコメント】 (正解者8名:解答到着順)
もずさん
角追い一往復半。
7段目が壁になっている銀追いはよく見かけますが、角で追う場合はこのようにシンプルな配置ですむのですね。
SFはあまり読まないのですが、「自分」が増えていくという話をどこかで見た記憶があります。ややこしいですね。
☆ 今回も解答一番乗りはもずさんで、受信日時は出題当日の0時20分。
シンプルな作品なので、解くよりも解答の入力に時間の掛かる作品かもしれません。
泉真理さん
今回も問題で49桂が無いと早詰みがあるのですか。
☆ 泉さんはタッチの差で2位。解答の受信時間は0時25分でした。
さて49桂の配置の意味ですが、これがないと初手49角から作意の収束に短絡します。
別に桂以外の駒でも良いのですが、配置の駒種類を統一する意味から、桂にしました。
筒井浩実さん
簡潔な形でこれだけの長手数になるのに感心。
あっさりした収束だが、全体の雰囲気にぴったり合っていて好感が持てる。
☆ この収束、気に入っていただけたようで何よりです。
創作初期には枠を壊して、外に追い出して詰める案もあったのですが、あっさりした作にはあっさりした収束がいいだろうということで、この形に落ち着きました。
なお筒井さんも即日解答です。
HUBさん
HUBと申します。久しぶりに解けました。
まだまだフェアリーには不慣れで、はじめ角と歩だけでどうやって詰むのかわからなくてさんざん考えました。合駒させて持ち駒を増やすのですね。
慣れた方には基本手筋なのでしょうが・・・
こういう手筋がすぐに見えるようになりたいです。
☆ HUBさんは第64回以来2度目の解答ですね。今後も解答を宜しくお願いします。
ばか詰の基本手筋に慣れるには、過去の名作に触れるのが一番です。このホームページでは、ばか詰中長編検討結果報告のシリーズで過去のばか詰を紹介しているので、そちらの方もぜひ参考にして下さい。
若林さん
気持ちよくさくさくと解けました。
なるほど、確かに氾濫のウォーミングアップですね。
さて氾濫はどこまで解けるのか。しかし極光IIも並べたい。むむ。
☆ 一応私は「氾濫」の担当者なので、まずは「氾濫を解いて下さい」と言っておきましょう。
極光IIはまあゆっくり鑑賞して戴くということで(^-^;
今川健一さん
先ずは、角で追っかける。詰上がりの図が浮かばない。
27歩も手に入れたのに、まだ分からない。
イライラして匙を投げかける。その時、ふと金合発見。
手数勘定55手、正解、嬉しいねぇ。
☆ 今川さんは初解答。ぜひ解答常連になってください。
今はまだ詰上りの想定で苦労しておられるようですが、それもすぐに慣れると思います。それにばか詰だと「変化」を考えなくて良いですから、解ければそれが正解かどうか自動的に分かります。この点を考えると、普通詰将棋よりもある意味易しいと言っても良いでしょう。
北村太路さん
破り捨てたりするのはもったいない軽妙作だと思います。
ゴジラが出てきたのは「55」手詰だからですか?
準備運動したのですが氾濫はちっとも解けません・・・
☆ 確かに「55」と言えば「ゴジラ」ですね。まったく意識していませんでしたが、これいい解釈なので、そういうことにしておきましょう。(ポピュラーな怪獣を出したかっただけで、別にゴジラでもガメラでもバルタン星人でも良かったのですが・・・ゴジラを選んで結果オーライかな?)
「氾濫」、ちょっと難しいかもしれませんが(特に5番)頑張ってください。
いぬたさん
桂の配置の仕方に感心しました。
解くときより作ってるときの方が面白そうな作品?
☆ いぬたさん復活。いつもの通り最終解答者になりました。
「解くときより作ってるときの方が面白そう」というのは正にその通り。創作で一番苦しいのはネタをひねり出す段階ですが、一旦取っ掛かりができてしまえば、そこから推敲するのは、作品がどんどん形を成していくのが実感できるので、とても楽しい段階です。検討はいやな作業のひとつですが、fmのおかげでこの作業を簡略化できるようになったのは実に有難いことです。
☆ 「氾濫」のためのウォーミングアップの今回の出題ですが、解答者8名とまずまず。「氾濫」本編の方の解答数はどのくらいになるでしょうか。「ばか詰」特集なので解答数が増えることを期待しているんですが・・・。
(2003.6.23 七郎)