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解答


第157回(2010.3.17)出題の解答

/EFP=(10|11|01|-11):象 「雲海 氏作」 協力詰 @@ 67飛68香76香77香 +象431, 11金12飛13飛14角15飛16飛17象18象19と21角22角23角24角25銀26銀27象28象29と31飛32飛33飛34香35桂36桂37桂38歩39と41香42角43飛44飛45香46香47角48象49と51香52香53飛54飛55角56桂57桂58歩59と61香62角63金64飛65香66香71飛72角73飛74香75香78歩79玉81角82飛83桂84桂85象86桂87桂88歩89と91飛92飛93角94角95角96桂97桂98歩99と @+ #861 

【出題時のコメント】

筆者のCDコレクションの中に「電子音楽初期の導師たち」(http://www.hmv.co.jp/product/detail/1438046)というセットがあります。これは20世紀の電子音楽をCD3枚、DVD1枚にまとめたもので、電子楽器という新しい「楽器」を手にした人々が、様々な態度でこの楽器と向き合い、あるいは楽しく遊び、あるいは悪戦苦闘していく様子を俯瞰できる興味深い資料にもなっています。この状況は、詰将棋にコンピュータが使われ始めた1990年代と重なるところがあり、私たちがこの「先達」から学ぶことも多いと思います。

ところで、このセットの中で取り上げられている音楽家の一人Laurie Spiegelは、彼女が1973年ごろに使っていたシンセサイザーに関してこんなことを言っています。

Composing using classical notation was too disconnected from actual sound, and the analog synthesizers of the time lacked memory, precision, and complex control logic.

もし演奏者が人間ならば「解釈」によって音色・音価・抑揚等を柔軟に調整できるのでしょうが、機械はそうはいきません。結局、デジタルシンセサイザーが登場しプログラミング言語によって詳細な演奏指示が可能になるまで、音楽家はこの不満に耐え忍ぶか、シンセサイザーに見切りをつけるしかなかったわけです。

ただ、楽器の能力が上がっても、それで万事解決するわけではありません。むしろ楽器の能力が上がった分、音楽家の表現したいことも増えて更に要求のレベルが上がるからです。例えば、本サイトにあるPDF版「神詰大全」の最終ページでは、「イエス」のBill Brufordのこんな言葉が引用されています。

あの曲にはこれだけの音が要る
コンピューターが――気まぐれな巨匠ジョンの要求を満たしてくれるんだ
彼は最新のドラムの水準を知り要求を強めてくる

さて、向上した楽器の能力が音楽家に新しいイマジネーションを与え、その楽器の能力を上回る要求が生まれたように、向上したコンピュータ・プログラムの能力が詰将棋作家に新たなイマジネーションを与え、そのプログラムの能力を上回る要求が生まれました。つい最近fmは使用駒数の制限を拡張し、フェアリー駒用fmでは同種の駒を255枚まで使えるようになったのですが、今回出題する作品ではその制限を遙かに越える枚数の「酔象」が使われています。
 作者の雲海氏曰く

私自身制限枚数255枚と知った時は、とても多いという認識でしたが、今作を作って、そんなに多くないという認識になってしまいました(笑)

この作品は第155回出題に触発されて作られたものですが、内容的には遙かに高度で、解図難度も非常に高くなっています。このため、今回の出題は特別に懸賞出題としました。fmで直接検討できないので一抹の不安もありますが、fmを使った部分検討や他の手段との併用で完全性を確認していますので、おそらく大丈夫でしょう。皆さん、奮って解答をお寄せ下さい。

 

【ルール説明】

【手順】

69象 同玉 79象 同歩成 78象 同玉 69象 同と右 79象 同と右
89象 同歩成 88象 同と 89象 同と左 79象 同桂成 87象 同と
88象 同玉 78象 同圭 79象 同と右 89象 同と右 99象 同歩成
98象 同と引 99象 同と寄 89象 同桂成 97象 同玉 88象 同と寄
98象 同桂成 86象 同と 87象 同玉 97象 同圭 98象 同と寄
88象 同桂成 96象 同玉 87象 同と 86象 同象 85象 同玉
96象 同象 86象 同角 95象 同玉 85象 同象 96象 同桂
84象 同玉 95象 同象 85象 同角 94象 同玉 84象 同象
95象 同桂 83象 同玉 94象 同象 84象 同角 93象 同玉
83象 同飛上 82象 同玉 93象 同飛寄 83象 同飛左 73象 同玉
82象 同飛引 83象 同玉 73象 同角引 84象 同象 94象 同飛
93象 同玉 83象 同飛 82象 同玉 93象 同飛寄 83象 同角
72象 同玉 82象 同角 73象 同角左 62象 同玉 72象 同飛
71象 同玉 62象 同飛 72象 同角上 81象 同玉 71象 同角
82象 同飛 92象 同玉 81象 同飛引 82象 同玉 92象 同角
83象 同飛 93象 同玉 82象 同飛引 83象 同玉 93象 同象
84象 同角 73象 同玉 83象 同飛 82象 同玉 73象 同飛
83象 同角右 92象 同玉 82象 同飛 81象 同玉 92象 同飛寄
82象 同角 71象 同玉 81象 同角 72象 同飛寄 62象 同玉
71象 同飛 72象 同飛引 73象 同金 63象 同飛寄 53象 同玉
62象 同飛引 63象 同玉 53象 同飛引 54象 同飛右 64象 同金
73象 同飛 72象 同玉 63象 同飛右 73象 同角上 82象 同玉
72象 同角引 83象 同象 93象 同飛上 92象 同象 83象 同飛
93象 同象 92象 同玉 82象 同象 93象 同飛寄 83象 同玉
92象 同飛引 93象 同角 84象 同角左 73象 同玉 83象 同象
82象 同玉 73象 同象 83象 同角 72象 同飛上 71象 同玉
82象 同飛左 72象 同飛左 62象 同玉 71象 同飛 72象 同玉
62象 同象 73象 同飛 63象 同象 62象 同玉 72象 同飛上
71象 同玉 62象 同飛 72象 同飛右 82象 同玉 71象 同飛
72象 同角引 83象 同飛 73象 同玉 82象 同飛引 83象 同玉
73象 同角 84象 同角右 93象 同玉 83象 同飛 82象 同玉
93象 同飛寄 83象 同角 72象 同飛上 71象 同玉 82象 同飛左
72象 同飛左 62象 同玉 71象 同飛 72象 同象 63象 同飛
53象 同玉 62象 同飛 63象 同金 64象 同飛 54象 同金
63象 同玉 53象 同金 54象 同飛右 64象 同角上 73象 同玉
63象 同飛 62象 同玉 73象 同飛 63象 同象 72象 同飛上
71象 同玉 62象 同飛 72象 同飛右 82象 同玉 71象 同飛
72象 同角引 83象 同飛左 73象 同玉 82象 同飛引 83象 同玉
73象 同角右 84象 同飛 94象 同飛上 93象 同玉 83象 同飛上
82象 同玉 93象 同飛寄 83象 同角 72象 同飛上 71象 同玉
82象 同飛左 72象 同飛左 62象 同玉 71象 同飛 72象 同象
63象 同金 53象 同玉 62象 同金 63象 同玉 53象 同角引
64象 同角右 73象 同象 72象 同玉 63象 同金 62象 同象
73象 同金 63象 同玉 72象 同金 73象 同角 64象 同角左上
53象 同玉 63象 同象 62象 同玉 53象 同象 63象 同金
72象 同飛上 71象 同玉 62象 同飛 72象 同飛右 82象 同玉
71象 同飛 72象 同玉 82象 同角 73象 同金 63象 同玉
72象 同金 73象 同角引 64象 同象 53象 同飛引 54象 同象
64象 同角上 73象 同玉 63象 同飛上 62象 同玉 73象 同飛
63象 同金 72象 同飛引 73象 同金 63象 同飛 53象 同玉
62象 同飛引 63象 同象 54象 同飛 44象 同玉 53象 同飛引
54象 同玉 44象 同角 55象 同角右 64象 同象 63象 同玉
54象 同象 64象 同金 73象 同玉 63象 同飛上 62象 同玉
73象 同飛寄 63象 同飛左 53象 同玉 62象 同飛引 63象 同象
54象 同金 64象 同玉 53象 同金 54象 同玉 64象 同角
55象 同角左 44象 同玉 54象 同金 53象 同玉 44象 同金
54象 同象 63象 同飛上 62象 同玉 53象 同飛右 63象 同飛右
73象 同玉 62象 同飛引 63象 同玉 73象 同角引 64象 同象
54象 同飛 53象 同象 64象 同角上 73象 同玉 63象 同飛
62象 同玉 73象 同飛寄 63象 同象 53象 同香 52象 同象
63象 同飛 73象 同玉 62象 同飛引 63象 同玉 73象 同角引
64象 同飛 54象 同玉 63象 同飛引 64象 同角引 55象 同金
44象 同飛 43象 同玉 54象 同香 53象 同象 52象 同玉
43象 同象 53象 同角上 42象 同玉 52象 同象 43象 同飛寄
33象 同飛上 32象 同飛上 31象 同玉 42象 同飛寄 32象 同角上
21象 同玉 31象 同角 22象 同金 11象 同飛 12象 同金
22象 同角 31象 同玉 21象 同角 32象 同飛寄 42象 同玉
31象 同飛 32象 同玉 42象 同飛 43象 同飛寄 33象 同角上
22象 同玉 32象 同角引 23象 同金 12象 同飛引 13象 同金
23象 同角上 32象 同玉 22象 同角 33象 同飛 43象 同飛上
42象 同玉 32象 同飛上 31象 同玉 42象 同飛寄 32象 同角上
21象 同玉 31象 同角 22象 同飛 12象 同玉 21象 同飛引
22象 同玉 12象 同角 23象 同飛 33象 同玉 22象 同飛引
23象 同玉 33象 同角 24象 同金 13象 同玉 23象 同角引
14象 同金 24象 同玉 13象 同金 14象 同銀 25象 同飛
15象 同玉 24象 同飛 25象 同玉 15象 同銀引 26象 同飛
16象 同銀 15象 同玉 25象 同銀引 16象 同飛 26象 同玉
15象 同飛 16象 同象 27象 同桂成 35象 同玉 26象 同銀
25象 同玉 35象 同銀 26象 同象寄 16象 同飛 15象 同象
26象 同飛 16象 同玉 25象 同飛引 26象 同象引 17象 同圭
27象 同玉 16象 同圭 17象 同象引 28象 同桂成 36象 同玉
27象 同象上 26象 同玉 36象 同象 27象 同象寄 17象 同圭
16象 同象引 27象 同圭寄 17象 同玉 26象 同圭 27象 同象引
18象 同圭 28象 同玉 17象 同圭引 18象 同と 19象 同と寄
29象 同と右 39象 同歩成 38象 同玉 28象 同と引 29象 同と右
39象 同と右 49象 同象 48象 同玉 38象 同象引 49象 同桂右成
57象 まで 861手


詰上り

動く盤面で鑑賞する(Flash版)Flash Player 9が必要です)

動く盤面で鑑賞する(Silverlight版)Silverlight 3が必要です)

 

【解説】

酔象が持駒に431枚、盤上に6枚という規格外の大作。しかも本作は単純に規模が大きいだけでなく、的確な解図方針の立案と、それを最適な手順で実現するための精緻な比較考量が求められる超難解作です。さて、どこから説明したものやら……

とりあえずは、本作の投稿と出題までの経緯についてのお話から始めましょう。この作品が最初に投稿されたのは2月14日。このときは、使用する酔象は257枚、手数は501手でした。作者曰く、

OFM第155回出題の貴作を解いた後、この手のものはさらに複雑化・長手数化させることができるのではないかと思い、作ってみました。
その結果、上図の通り80枡配置で500手越えと、予想もしていなかった物ができました。
ただ、以下の2点の問題があります。

@酔象を257枚使用している
現在の制限である255枚を越えてしまいました。このままだとfmで検討できないので、初形から4手進めた所から検討させています。
なお、初形から4手進めた所までは1通りしかないのは調査済みです。

A左上の部分で、OFM第155回出題の作品に出てきた30手サイクルの趣向とほとんど同じ趣向(酔象ver)が2サイクル(30手×2)ある
これがこの作品の1番の問題です。既出の趣向手順を果たして使ってよいか?ということです。
出すとしても作者である七郎さんの許可が必要だと思い、投稿を兼ねての質問です。

確かに第155回出題に似た部分(上下反転すると一致する部分)はありましたが、主となる部分はまったく別の機構であり、内容も遙かに複雑で高度なものになっていました。ですから、即座に採用を決め、類似部分があっても問題ない旨の返信をしました。

その後、改良を重ねる度に酔象の数も増えていきましたが、ここで問題になったのが検討です。一番安心なのはfmで取り扱える駒数を増やしてもらうことでしたが、次郎さんに問い合わせたところ修正量が半端ではないことが分かり断念。作者には「部分問題」に分割して検討してもらうことにしました。また、筆者自身は「秘策」として、Worst1.exe(最悪詰検討プログラム)のソースを取り出し、これを協力詰検討プログラムに変更、取扱い枚数を拡張し、更に金の利きを酔象の利きに改変した特別版を作って検討を行いました(金はと金で代用)。しょせん間に合わせのプログラムであり、速度も遅く信頼性も低いのですが、まあ気休めにはなりました。(せっかくなので、このコードは何らかの形で活かしたいと思います。)

さて、楽屋裏の話はこのくらいにして作品の内容に移りましょう。
 本作の一見して分かる特徴は盤面全体に敷き詰められた大量の駒、そして1箇所だけの空きマスでしょう。そして空きマスに酔象を打って王手するたびに、同○とするしか応手がなく、また1箇所だけの空きマスがある状態になることも分かります。更に、持駒の数と手数を比較するとこの状態は最終手まで続くことが予想されます。つまりこれは一種のスライドパズルです。ただし、詰将棋特有の「王手義務」、そして酔象の利きの特徴から、次のような条件を伴ったスライドパズルであることが言えます。

条件1:動かす駒は玉か玉の周辺の駒だけである

条件2:玉の周辺以外、あるいは真後ろに空きマスを作ってはならない

条件2は酔象で王手ができるように保つための制約ですが、これは様々な派生条件を生み出します。例えば、

条件2’:玉は真っ直ぐ前に進んではならない。
     真っ直ぐ前に行きたいときは、まず斜め上に進んで元の位置を埋めてから横に進む。

といった具合です。当然、他の駒に対する法則や、単独あるいは複数の駒が絡む法則が派生してきます。おそらく、解図のためにある程度試行錯誤すれば、嫌でもいくつかの法則を発見することになるでしょう。そして、駒の移動方法に慣れればもう持駒の酔象のことは忘れても構いません。盤上の駒の入れ替えだけに集中すれば良いのです。

さて、駒の入れ替え方は分かったことにして、今度はゴールを探しましょう。盤面一杯に敷き詰められた駒を良く見ると、67に攻方の飛が鎮座しており、玉を48に移動させその斜め右下の57を空ければ、そこに酔象を打って詰むことが分かります。従って、駒を入れ替えながら玉を69から48に移動する本作のストーリーが見えてきます。更に、盤上で動きそうな駒と動きそうにない駒を分けて考えると盤上を時計回りに巡る中、5筋付近で中央を蛇行する大まかな移動コースが想定できると思います。それを図に表してみましょう。

想定される玉の進路
図1.玉の移動コース(想定)

おやおや!? 途中で線が途切れて点線になってしまいましたよ!

これは実際に入れ替えを行って移動させようとすれば分かることですが、42角が強力なストッパーになっていて、このコースに沿った3筋方面への脱出を妨害しているのです。実際に玉がこの付近に来たときの図を見ていただきましょう。

玉が43に来た形
図2.玉が43に来た形

ここで「53象 同角」とすると玉の直下に空所ができて失敗ですし、「53象 同香 52象 同玉 43象 同飛」と進むと玉の周辺以外に空所ができて失敗です。
 同様に玉が44地点から33地点に進入する経路も、33飛を動かすために43地点を空にすることができず失敗します。

さあ困ったことになりました。どうやったら3筋から先に行けるのでしょうか?

ただ、もう一度図をよく見ると一縷の望みが残っていることに気付きます。最初に動きそうにない駒に分類した駒のうち、52香だけは動かせる可能性があるのです。もし、52香の移動に成功すれば中央部付近を蛇行せず、横移動で4筋を突破することもできるでしょう。
 ところが、その実現には2つの大きな問題点が壁として立ちはだかります。

問題点1:52香が動いた穴を何で埋めるのか?

問題点2:52香を53に動かしただけでは却って邪魔になる。54まで動かさなくてはならない。

まずは問題点1から考えてみましょう。52香を動かす直前の図を考えます。

52香を動かす直前の形
図3.52香を動かす直前の形

ここで「?」が飛や角だったらどうなるでしょう?
 まず「?」が飛の場合、「53象 同香 52象 同玉 62象 同飛 63象 同玉 52象 同飛」で、玉の真後ろに空所ができて失敗です。

失敗図(?=飛の場合)
図4.失敗図(?=飛の場合)

次に「?」が角の場合を考えます。今度は手順を逆に進め、2手前の形を考えます。すると玉の周辺以外に空所ができてはいけないという性質から、次の形しかないことが分かります。

失敗図(?=角の場合)
図5.失敗図(?=角の場合)

これは既に失敗図です。更にこの2手前は62から駒が移動して来るよりないのですが、角は真っ直ぐ前に進めないのです。
 このようにして、手順を順方向あるいは逆方向に進めていくと「?」の持つべき性質が明確になります。そう、「?」が酔象であれば上記の難点は両方とも解消されるのです。ここから「問題点1を解消するために、初形で85地点に居る酔象を63まで運ぼう」という解図方針が立てられることになります。

さて、問題はまだもう一つ残っていましたね。そう、52香を53から54に運ぶ方法です。上の考察で63酔象の形が確定したので、そこから手順を進め、それに周辺の駒を付け加えます。

53香移動後の図
図6.53香移動後の図

「何で44の駒が金なの?」という質問が来そうですが、これは説明の都合です。後で説明しますので、まずはこの図を起点に手順を追ってください。
 ここから香を54に動かし、玉の3筋への突破を図ります。

54象 同香 53象 同象 52象 同玉 63象 同象 53象 同飛 43象 同玉 52象 同飛 53象 同角…

あれれ? また行き詰ってしまいましたね。途中の「53象 同飛」を「53象 同角」に変えてもやはりダメです。いきなり横に移動する強行突破は無理のようです。
 でも、ここで諦めてはいけません。通路は既に開いており、ちょっと遠回りすればちゃんと通り抜けられるのです。

54象 同玉 63象 同飛 64象 同角 55象 同金 44象 同飛 43象 同玉 54象 同香 53象 同象 52象 同玉 43象 同象 53象 同角 42象 同玉 52象 同象 …

今度は大丈夫。3筋は飛の壁ですからこの後、「43象 同飛」から入れ替えを行えば3筋に抜けることができます。
 さて、上の手順が巧くいったのはなぜでしょう? 直接的には使い勝手の良い酔象を6筋ではなく4筋に廻せたのが成功の要因ですが、それには玉が少し迂回しなければなりませんでした。そしてその迂回を可能にしたのが44金の配置です。もし、44飛の形なら上の手順の途中「55象 同金」ができずに迂回も失敗します。
 もし、これだけだなら44地点に置く駒は金ではなく角でも良いことになりそうですが、別の要因で44金であるべき理由が生じます。図6の更に4手前を考えてみましょう。

図6の4手前の図
図7.図6の4手前の図

図7から「73象 同角 64象 同飛」で図6になります。ここで44金・55角・64角の3枚に注目してください。もしこれが44角・55角・64角の形だとしたら、それを実現するにはかなり手間が掛かるでしょう。(注:実はここ厳密に確認していません。)ここからは可能・不可能の二分法の話ではなく、どちらがより効率的かという量的比較の問題になります。

やや話が長くなりましたが、玉が4筋の壁を突破するためのフォーメーションがこれで確定しました。

4筋突破態勢
図8.4筋突破態勢

ポイントとなる4つの駒の配置を赤紫色で示しました。実を言うと、この形をどうやって組み上げるかというのがまた厄介な問題なのですが、とりあえず最大の難所を抜ける目処は立ちましたね。

ここで改めて本作の構成を俯瞰的に見てみましょう。大まかにいうと、本作は次の3つの部分に分けることができます。

  1. 序奏:玉を9段目から2段目に運ぶまでの手順
  2. 主部:4筋の壁を突破するまでの手順
  3. 収束:玉を48まで運ぶ手順

本作のハイライトは何と言っても主部の摩訶不思議な手順ですが、序奏や収束にも面白いアイデアがたくさん盛り込まれているので、以下は手順を追いながら主な見所を拾っていきましょう。

初形
玉を82まで運んだところ

初形〜96手目:序奏

真っ直ぐ後ろに下がれないので、横→斜めの順に下がります。
これが下がる時の基本動作ですが、途中に桂の移動を入れるため1回余分に横移動が必要になります。
94象を84へ

97手目〜118手目:主部(前半)

ここから4筋突破の態勢を作るための作業が始まります。
94象を63に据えたいので、まずは94象を84へ移動させます。
81角と92飛の入れ替え

119手目〜150手目:主部(前半)

すぐにでも象を動かしたいところですが、ここはまず下準備で81角と92飛を入れ替えます。
必要に応じ飛と角を入れ替える手順はこの後も頻繁に登場します。
84象を93へ

151手目〜170手目:主部(前半)

飛と角を入れ替えた効果で84象を93へ移動させることができました。
この後更に92→83→73と移動させたいのですが…
93象を92へ、63金を64へ

171手目〜228手目:主部(前半)

82象を実現するついでに63金を64へ移動させるのが重要なポイント。
これを怠ると象を63に移動させるときに金が影響を受け、71まで下がらされてしまうので、前もって待避しておくのです。
(それでも損するのは僅か14手なのですが…)
92象を73へ

229手目〜254手目:主部(前半)

ようやく象を73まで移動させることに成功しました。
次に象を63に移動させることを目標にします。
73象を63へ

255手目〜290手目:主部(前半終了)

ついに象を63まで移動させることに成功しました。他にも区切り方はあると思いますが、ここで主部の前半の終了としておきましょう。
ここから本格的に4筋突破の態勢を整えます。44金・55角・64角の形を作るには角が足りないので、角を左辺から調達します。
93角と73飛を入れ替える

291手目〜314手目:主部(後半)

くるりと玉の前方を回って73に角を持ってきます。
結果的に93角と73飛が入れ替わった格好です。
73角を64に送り込む

315手目〜370手目:主部(後半)

玉は斜めに移動し、73角を64に送り込みます。
このとき金は53地点に待避します。
93角と73飛を入れ替える

371手目〜396手目:主部(後半)

角の調達は続きます。また、玉の前方を回って84角を73に持ってきます。
これで準備完了? いいえ、もう一仕事残っています。
63象と53金を入れ替える

397手目〜462手目:主部(後半)

調達した2枚の角を利用して63象と53金を入れ替えます。
これで本当にすべての準備が完了しました。
44金・55角・64角の形を作る

463手目〜598手目:主部(後半)

すべての準備が整ったので、ここからはもう8筋には戻りません。
一気に44金・55角・64角の形を作ります。
やや長手数ですが、ここはぜひ駒の動きをご自身の目でご確認下さい。
4筋突破

599手目〜646手目:主部(後半終了)、収束部の開始

遂に念願の4筋突破を達成。
ここから収束に入ります。
11金を12へ

647手目〜670手目:収束部(前半)

最大の難関は突破したものの、まだ難所は残っています。14角24角の2枚が4段目から上への脱出を阻んでいるからです。
ここを突破するには11金の助力が必要ということで、まず11金を12へ移動させます。
12金を13へ

671手目〜704手目:収束部(前半)

引き続き12金を13へ移動させます。
これでやっと4段目を突破する準備が整いました。
詰上り

705手目〜861手目:収束部(後半)、詰上り

4段目を突破した後も、粘り強い入れ替え手順は続きます。
桂を動かしてそこに駒を埋め進路を作っていく作業は序奏部の手順に似ていますが、進路の先にある桂を動かすのではなく、横にある桂を動かすため、より複雑な作業となっています。
そして玉が48に達したところで、ようやくこの巨大な迷路のゴールに辿り着きました。

以上、数多くのアイデアが盛り込まれ、ざっと手順を追うだけでも大変な本作ですが、やはり白眉は主部の摩訶不思議な入れ替え手順ですね。特に上がったり下がったりする金の動きは玄妙で、手順を一見しただけでは何をしているのか意味を汲み取るのが難しいでしょう。本作は人智を越える詰将棋の深淵を覗き込むような、畏怖に近い感情を呼び覚ます傑作だと思います。今回の解説で本作の内容を充分に説明できているとは思えませんが、そこはぜひ読者の皆様ご自身の研究により補っていただきたいと思います。
 また、この難問に挑戦し見事正解に辿り着いた、渡辺さんとたくぼんさんの両氏には心から敬意を表したいと思います。特に渡辺さんは、入れ替えの最適解を求めるときの考え方の筋道を長評で示してくださったので、読者の皆様はぜひ参考にしていただきたいと思います。


【正解者及びコメント】(正解2名、解答1名:到着順)

渡辺さん

先手の手番は空いているマスに象を打つだけですので、最終手以外は後手の手のみ書かせて頂きます。
すなわち、「69玉、79歩成、…」は「69象、同玉、79象、同歩成、…」と読み替えて下さい。

■解答
69玉、79歩成、78玉、69と右、79と右、89歩成、88と、89と左、
79桂成、87と88玉、78圭、79と右、89と右、99歩成、98と引、
99と寄、89桂成、97玉、88と右、98桂成、86と、87玉、97圭、
98と寄、88桂成、96玉、87と、86象、85玉、96象、86角、
95玉、85象、96桂、84玉、95象、85角、94玉、84象、
95桂、83玉、94象、84角、
(88手)

93玉、83飛上、82玉、93飛寄、83飛左、73玉、82飛引、83玉、
73角引、84象、94飛、93玉、83飛、82玉、93飛寄、83角、
72玉、82角、73角左、62玉、72飛、71玉、62飛、72角上、
81玉、71角、82飛、92玉、81飛引、82玉、92角、83飛、
93玉、82飛引、83玉、93象、84角、73玉、83飛、82玉、
73飛、83角右、92玉、82飛、81玉、92飛寄、82角、71玉、
81角、72飛寄、62玉、71飛、72飛引、73金、63飛寄、53玉、
62飛引、63玉、53飛引、54飛右、64金、73飛、72玉、63飛右、
73角上、82玉、72角引、83象、93飛上、92象、83飛、93象、
92玉、82象、93飛寄、83玉、92飛引、93角、84角左、73玉、
83象、82玉、73象、83角、72飛上、71玉、82飛左、72飛左、
62玉、71飛、72玉、62象、73飛、63象、62玉、72飛、
71玉、62飛、72飛右、82玉、71飛、72角引、83飛、73玉、
82飛引、83玉、73角、84角右、93玉、83飛、82玉、93飛寄、
83角、72飛上、71玉、82飛左、72飛左、62玉、71飛、72象、
63飛、53玉、62飛、63金、64飛、54金、63玉、53金、
54飛右、64角上、73玉、63飛、62玉、73飛、63象、72飛上、
71玉、62飛、72飛右、82玉、71飛、72角引、83飛左、73玉、
82飛引、83玉、73角、84飛、94飛上、93玉、83飛上、82玉、
93飛寄、83角、72飛上、71玉、82飛左、72飛左、62玉、71飛、
72象、63金、53玉、62金、63玉、53角引、64角右、73象、
72玉、63金、62象、73金、63玉、72金、73角、64角左上、
53玉、63象、62玉、53象、63金、72飛上、71玉、62飛、
72飛右、82玉、71飛、72玉、82角、73金、63玉、72金、
73角引、64象、53飛引、54象、64角上、
(88手+394手 = 482手)

73玉、63飛上、62玉、73飛、63金、72飛引、73金、63飛、
53玉、62飛引、63象、54飛、44玉、53飛引、54玉、44角、
55角右、64象、63玉、54象、64金、73玉、63飛上、62玉、
73飛寄、63飛左、53玉、62飛引、63象、54金、64玉、53金、
54玉、64角、55角左、44玉、54金、53玉、44金、54象、
63飛上、62玉、53飛右、63飛右、73玉、62飛引、63玉、73角引、
64象、54飛、53象、64角上、73玉、63飛、62玉、73飛寄、
63象、53香、52象、63飛、73玉、62飛引、63玉、
(482手+126手 = 608手)

73角引、64飛、54玉、63飛引、64角引、55金、44飛、43玉、
54香、53象、52玉、43象、53角上、42玉、52象、
(608手+30手 = 638手)

43飛寄、33飛上、32飛上、31玉、42飛寄、32角上、21玉、31角、
22金、11飛、12金、22角、31玉、21角、32飛寄、42玉、
31飛、32玉、42飛、43飛寄、33角上、22玉、32角引、23金、
12飛引、13金、23角、32玉、22角、33飛、43飛上、42玉、
32飛上、31玉、42飛寄、32角上、21玉、31角、22飛、12玉、
21飛引、22玉、12角、23飛、33玉、22飛引、23玉、33角、
24金、13玉、23角、14金、24玉、13金、
(638手+108手 = 746手)

14銀、25飛、15玉、24飛、25玉、15銀引、26飛、16銀、
15玉、25銀引、16飛、26玉、15飛、16象、27桂成、35玉、
26銀、25玉、35銀、26象寄、16飛、15象、26飛、16玉、
25飛引、26象引、17圭、27玉、16圭、17象引、28桂成、36玉、
27象上、26玉、36象、27象寄、17圭、16象引、27圭寄、17玉、
26圭、27象引、18圭、28玉、17圭、18と、19と寄、29と右、
39歩成、38玉、28と引、29と右、39と右、49象、48玉、38象引、
49桂成、
(746手+114手 = 860手)
57象まで。

これは完全に高度な入れ換えパズルでした。
とくに73にあるスイッチの切替で道が繋がったり切れたりする所、巧妙に事前に駒を入れ替えておく所など、どうやってこういう仕組を思いついたのか、どうやって最短手順が一通りであると確信したのか、作者の論理を楽しみにしたいと思います。

一応私の解図のポイントを紹介します。
盤面をよく見ると6筋→9筋→3段目→1筋→8段目→48で57象までの詰みということは容易に推測されます。
また、注意深く最小手順を探す必要はありますが、最初の84角までの88手と最後の24玉、14空の状態からの115手は分離して考えられます。
残りの上辺突破658手が主題となりますが、7、6、5筋は少し考えると突破できますが4筋突破が最大の難関です。

4筋の突破には42角の移動が必要、そのためには「52玉、53空」の状態 を作らないといけないので52香を54に移動しないといけない。

54
〇〇1
玉角2
 ?3
香飛4
<第1図> すべて後手の駒、〇は石同然の駒

その後「53角、42玉、52?」と指せないといけないので、?に斜め後ろに行ける駒を置く必要がありますが、 ?が角だとすると、52→43だと玉を53に置かねばならず、玉尻が空き、54→43だと、香を55に遣るのは3手逆算すれば無理と分かるので、 香は53しかなく、すると玉は44しかなくなって玉尻が空いて矛盾。よって?=象と分かります。
これから逆算して行くと、

7654
■〇〇〇1
■■象角2
 玉香飛3
〇角YX4
〇〇角〇5
<第2図> すべて後手の駒、〇は石同然の駒、■は不明
X=金、角
Y=金、飛

第2図となり、ここから
73角、64Y、54玉、63Y、64角、55X、44飛、43玉、 54香、53象、52玉、43象、53角上、42玉、52象、
で第1図を経由して第3図となります。

7654 
■〇〇〇1 
■■象玉2 
角Y角 3 
〇角香飛4 
〇〇X〇5 
<第3図> すべて後手の駒、〇は石同然の駒、■は不明
X=金、角
Y=金、飛

この図からですと108手で「24玉、14空」の状態まで進むことができるので、30手戻した第2図を608手目までに実現するのが目標となります。
ここで、X=角、Y=飛とすると第2図からさらに遡ろうとすると、52香、53Yとなって詰まるので無理になります。
よってどちらかは金であることが分かります。
また、44の飛を退かしてXを置くには、まず「54玉、44空」の状態から44角とする必要があり、このときに64に角を置いていないと55に飛または金が詰まって44の角は元に戻すしかなくなるので、「64角上」としなければならない。

また、この「54玉、44空」の状態から逆算すると、

7654
■〇〇〇1
■玉香角2
■ Y飛3
〇角X飛4
〇〇角〇5
<第4図> すべて後手の駒、〇は石同然の駒、■は不明
X = 角 or 象
Y = 飛 or 金

第4図のようになり、ここから
63Y、53玉、62Y、63X、54飛、44玉、53飛引、54玉、 44角、55角右、64X、63玉、
で「54玉、44空」の状態からの44角を得ます。
さらに、この棋譜の中でXは前に進んでいるのでXは角ではなくて象であることが分かります。

以上から目標は、
[1] まず「64角上」とすること
[2] 次に「54象」の状態で「64角上」とすること
となります。

まず、[1]を目指すには73に角を置いて53玉とすれば良く、
・7筋突破工作には73は角でなければならない
・6筋突破工作には73は飛でなければならない
という制限から、
「73を飛にする」→「7筋突破」→「別経路で戻る」→「73を角にする」 →「別経路で再び6筋へ」→「73を飛にする」→「6筋突破工作」 →「73を角にする」→「6筋突破して53へ」→「64角上」
というストーリーで、

93玉、83飛上、82玉、93飛寄、83飛左、73玉、82飛引、83玉、
73角引、84象、94飛、93玉、83飛、82玉、93飛寄、83角、
72玉、82角、73角左、62玉、72飛、71玉、62飛、72角上、
81玉、71角、82飛、92玉、81飛引、82玉、92角、83飛、
93玉、82飛引、83玉、93象、84角、73玉、83飛、82玉、
73飛、83角右、92玉、82飛、81玉、92飛寄、82角、71玉、
81角、72飛寄、62玉、71飛、

72玉、62金、---(X)

63飛右、73角上、82玉、72角引、83象、93飛上、92象、83飛、
93象、92玉、82象、93飛寄、83玉、92飛引、93角、84角左、
73玉、83象、82玉、73象、83角、72飛、71玉、82飛左、
72金、62玉、71金、72玉、62象、73飛、63象、62玉、
72金、71玉、62金、72飛、82玉、71飛、72角引、83飛、
73玉、82飛引、83玉、73角、84角右、93玉、83飛、82玉、
93飛寄、83角、72飛、71玉、82飛左、72金、62玉、71金、
72象、63飛寄、53玉、62飛、---(Y)

63玉、53飛引、54飛右、64角上

という最短手順が見付かります。

987654
飛角金〇〇〇1
飛飛象飛香角2
飛角 玉飛飛3
飛角〇角飛飛4
桂角〇〇角〇5

<第5図> すべて後手の駒、〇は石同然の駒

次に象を54に運ぶ訳ですが、その前に53に運ばないといけません。
象を53に近付けるために

73玉、63飛上、62玉、73飛、

とすると

987654
飛角金〇〇〇1
飛飛象玉香角2
飛角飛 飛飛3
飛角〇角飛飛4
桂角〇〇角〇5
<第6図> すべて後手の駒、〇は石同然の駒

となります。ここで73飛が角で53飛が金だとするとどうでしょう?
1. 73角、64角、53金、62玉の位置の回転で53金→62金
2. 62金と72象の入れ換え
3. 1の逆
で象が53に行きます。
63金、53玉、62金、63玉、53角引、64角右、 73象、72玉、63金、62象、73金、63玉、72金、 73角、64角左、53玉、63象、62玉、53象、

ではどうやって「73飛が角で53飛が金」にするか?
これが最短という保証はありませんが、効率の良いのはまず、53を金にするためには、先の手順内で(X)の2手を
72飛引、73金、63飛寄、53玉、62飛引、63玉、53飛引、54飛右、64金、73飛、72玉、
に変更し、(Y)の後に
63金、64飛、54金
の3手を追加します。
73の飛を角にするには、これまでの通り、
「9筋方面まで行く」→「84角と73飛を入れ替える」→「戻ってくる」
で出来ます。すなわち、

63象、72飛上、71玉、62飛、72飛右、82玉、71飛、72角引、
83飛左、73玉、82飛引、83玉、73角右、84飛、94飛上、93玉、
83飛上、82玉、93飛寄
83角、72飛上、71玉、82飛左、72飛左、62玉、71飛、72象、

で良い訳です。
そして53に象を運んだ後は「63玉、62角」としたい所ですが玉尻が空いて不可能なので玉は下から回って73角は82に 下げてから53象と54飛を入れ替えます。

63金、72飛上、71玉、62飛、72飛右、82玉、71飛、72玉、
82角、73金、63玉、72金、
73角引、64象、53飛引、54象、64角上、

987654
飛角飛〇〇〇1
飛角金飛香角2
飛角 玉飛飛3
飛飛〇角象飛4
桂角〇〇角〇5
<第7図> すべて後手の駒、〇は石同然の駒

これで第7図となり、このあと
73玉、63飛上、62玉、72飛、
とすすんで目標の第4図が具現化します。そこで第4図の通り、

63飛、53玉、62飛引、63象、54飛、44玉、53飛引、54玉、 44角、55角右、64象、63玉、
とすると次に54象としても詰まってしまいます。
この解決は先に
63金、72飛引、73金
として72金と73飛を入れ替えておけば、
54象、64金、73玉、63飛上、62玉、73飛寄、63飛左、53玉、 62飛引、63象、54金、64玉、53金、54玉、64角、55角左、 44玉、54金、53玉、44金、
で第2図の上側が完成し、ここでX=金となるのでY=飛と確定し、
54象、63飛上、62玉、53飛右、63飛右、73玉、62飛引、63玉、 73角引、64象、54飛、53象、64角上、
で54にY=飛が移動され、あとは象を52香の下にもぐりこませれば第2図の完成です。
73玉、63飛、62玉、73飛寄、63象、53香、52象、63飛、 73玉、62飛引、63玉、

987654
飛角飛〇〇〇1
飛角飛飛象角2
飛角 玉香飛3
飛飛〇角飛金4
桂角〇〇角〇5

これで手数を勘定すると無事合っているので万歳!となります。

この渡辺さんからの解答は締切日前日に到着。4月の初めごろには市村さんから白旗を揚げる旨の葉書が届き、解答募集の最終週になっても全然解答が届かなかったので、一時は正解者なしを覚悟したのですが、16日朝にこの解答が届き、ホッと胸をなで下ろしました。更に解答に至る筋道を詳細に語っていただいたので、筆者の解説で不足な分はぜひこれで補っていただけたらと思います。
 
 
たくぼんさん

とにかく考え始めて53,63辺りでにっちもさっちも行かなくなった。
解答選手権の時に市村さんとお話をしたとき、香を動かさないことにはダメですよね〜馬でも連れてこないと・・・と仰っていたのでそれも考えたが馬は出来ない。
となると85象を連れて来て52香を動かす飛角金の配置を考えないとダメ。
とにかくひたすら駒を動かした。
63象型で52香を53に動かすことに行きついたが、当初は63玉型で53香を54香としていたため、玉が42以降で行き詰ってしまった。
そこで再び考え(実はここが一番悩んだところ)43玉型で53香を54香とすることに気が付いた。
52香→53香とするときの形が、44金、54飛、55角、63象、64角型であればうまくいく。

玉が42に行けば(収束はある程度考えていたので)あとは何とかいけました。
手数を勘定すると900手超でしたが、90手くらいまでは自信がありましたので、あとは600手位までの最短手順捜索を途中図を使ってひたすら探す作業でした。
手数が合ったときの嬉しかったこと・・・・まさに私好みの作品でした。
それにしても42玉への道の謎は深かった。
その謎解きの500手近く掛かる駒の組替えは恐るべき構想でした。(ただ私の場合論理的解法ではないので作者には申し分けない感じですが)
また駒も足りないのでKifu for Windowsも使えないし、本当に疲れましたがその疲れも吹き飛ぶ最高の解後感を味わうことが出来ました。
ありがとうございました。

渡辺さんの解答の翌日(つまり締切最終日)に、たくぼんさんの解答が届きました。この短評を見ると根性派代表らしいローラー作戦で解かれたようですが、実際には定式化されていないだけで、意識的にしろ無意識的にしろかなりのヒューリスティックが解答を導く過程で使われていると思います。この作品を解くのは、単に一つの問題を解くというより、一つの分野を解明するのに近い作業だったと思います。
 
 
4月20日追記:
市村さん(未完)

第157回Onsite Fairy Mateは、残念ながら白旗です。
今月の3日に、詰将棋選手権のお手伝いで来広された須川卓二さんにお会いしました。
感じの良い好人物で、話は勿論のこと詰将棋が主体で、その中に、この作品についても話題となりました。
何か、可なり自信ありげなご様子でしたので、多分1本取ったのではないかと思います。

私も、刺激を受けまして、再度チャレンジしましたが、残念ながら100手以上も超過する手順となり、手順の短縮が時間切れ、ここにギブアップとなりました。
奮戦の模様を記録した解答書を同封しますので、ご笑覧ください。

5筋の山越えの準備が大変で、敵方の酔象と角の利きを頼りに指し進めるのですが、いまいち、筋に入る感触が得られない状態です。
結果稿を楽しみにお待ちします。

結果稿をアップロードした後、市村さんからの解答が届きました。未完ながらも解答を送っていただき、ありがとうございます。
手順を確認したところ、序盤で4手、収束で8手のロスがありましたが、一番大きく作意と異なっていたのは、44金型ではなく44角型で収束に入っていた所でした。そのせいか、5筋突破時に作意と比べ96手余分に手数が掛かっています。
また、解答手順を追ったところ696手目で王手が途切れてしまい、前後関係から何とか手順を推測しようとしたのですが、うまくいきませんでした。既に結果稿発表後なのであまり意味がないかもしれませんが、単なる誤記であれば何かのついでに修正版をお送りください。
 
 
解答者ゼロを覚悟した今回の出題ですが、ありがたいことに2通の解答をいただきました。その労力に見合うとはとても思えませんが、後ほど賞品を発送させていただきます。
次回はWFP発行に合わせるため明日19日(月)の出題を予定しています。またまた空気を読まずに長編を予定していますが、今回の作品に比べたら間違いなく楽勝に感じると思います。

(2010.4.18 七郎)


第156回(2010.2.14)出題の解答

「神無七郎 作」 PWC打歩協力詰 23馬25桂26桂35飛43香46王55香, 14香24銀44玉#73 

【出題時のコメント】

 今月の詰パラに詰四会作品展の結果稿が載っていますが、拙作の立体曲詰は問題それ自体ではなく、何の形を表しているかで皆さん悩まれていたようです。作意は「C」から「V」の立体曲詰で、本サイトの殿堂入り解答者であるたくぼんさんのリクエスト通りに作ったものだったのですが、肝心のカープの成績がアレだったので、事情を知らない人には推理不可能だったようです。
 でもこの曲詰、まったく無意味になったわけではありません。「V」をローマ数字の「5」と解釈すれば「C→5」つまりカープの5位を表す記録として使えます。新ジャンル「ドキュメンタリー曲詰」ですね!(←こじつけ)

 ところで昨年のセリーグの順位には、1位2位と3位以下、そして5位と6位の間に大きなゲーム差があるのですが、これに関してある仮説が浮かびました。それは「各チームがセオリーに忠実に従った結果こうなったのではないか」ということです。
 例えば複数人で1つのタイトルを争うとします。この時の勝負のセオリーは「最も強い相手を全力で倒しにいけ」になります。タイトルが1人にしか与えられない場合、1番強い人が独走すると自分にチャンスが回らないからです。現実には「自分だけ全力を出して他人が手を抜いたら自分だけ損だ」とか「暗黙の結託なんて卑怯だ」等、様々な要素が働くため、完全にこのセオリー通り行くことはないのですが、一つの有力な戦略であることは確かです。
 ところが、これが「2位までOK」だったらどうなるでしょう? 今度は「2番目に強い相手を全力で倒しにいけ」にセオリーが変わるでしょう。2位で良いのですから一番強い人には勝手に独走して貰えば良いのです。一番強い人にとっても2位さえ叩いておけば自分は安泰なのですから、2番目に強い人が集中的に狙われることになります。同様に「3位までOK」ならば3位が熾烈な争いの中心になります。
 今度は最下位に目を転じてみましょう。仮に最下位に一切ペナルティがなくても「最下位だけは避けたい」というのは人間の心理として当然あると思います。そうすると首位争いの裏返しが最下位争いに生じます。つまり「一番弱い相手だけには絶対負けるな」ですね。こうして「3位までOK」のクライマックスシリーズ制度の元では、1位2位と最下位が無風状態、その中間で激しい順位争いが起こるのが自然な状態になるわけです。昨年のセリーグの順位が正にそうでした。
 この仮説には別に数学的な裏付けがあるわけではありません。でも、なんとなくそれらしく聞こえないでしょうか? 強い相手に勝っても弱い相手に勝っても同じという「勝率」で順位が決まる制度では、多少無理してでも強い相手に勝つ動機付けが弱くなると思います。少し面倒ですが、チェスやアマチュア棋界で用いられているような「レーティング」によって順位が決まる制度の方が、よりスリリングな順位争いが期待できるのではないでしょうか。

 念の為に申し上げますと、今回の考察は「第8回詰四会作品展」のテーマ「プロ野球チームにちなんだ作品」にちなんだもので、今回出題した作品の内容とはまったく関係がありません。(上の文章をいくら深読みしてもヒントは隠れていません。)結構難しい問題だと思いますので、解答募集期間もいつもより1週延ばして4週間としています。難しい問題でも易しい問題でも同じ1点にしかならない本サイトの解答募集方法にも問題はありますが、どうかそこは不問でお願いします。

 

【ルール説明】

【手順】

22馬 33桂 45飛 同桂/33飛 13飛生 33銀 14飛生/13香 24銀打 33馬/22銀
同銀引/24馬 23馬 24銀 22馬/23銀 33角 同馬/22角 同銀/24馬 15馬 14香/13飛
33馬/15銀 同角/22馬 14飛生/13香 24銀上 33馬/22角 同銀/24馬 23馬 24銀上
同飛/14銀 同銀/15飛 22馬/23角 33銀 14飛/15銀 24桂 同飛/14桂 同銀上/33飛
36飛成 33銀 45龍/36桂 同角/23龍 14龍/23桂 同香/13龍 24龍 同銀引/15龍
33馬/22銀 同銀引/24馬 35馬 同桂/23馬 14龍/15香 24銀 22馬/23銀 33歩
同馬/22歩 同銀/24馬 13馬 24銀右 22馬/13歩 33歩 同馬/22歩 同銀/24馬 13馬
24銀右 22馬/13歩 33歩 同馬/22歩 同銀/24馬 13馬 24銀右 同龍/14銀 34角 45歩
同角/34歩 33歩生 34角 45歩 まで 73手


詰上り

動く盤面で鑑賞する(Flash版)Flash Player 9が必要です)

動く盤面で鑑賞する(Silverlight版)Silverlight 3が必要です)

 

【解説】

 本作は「打歩」で詰めよという条件の詰将棋ですが、持駒に歩はありません。PWCというルールも基本的に駒の増減がないため、ちょっと問題設定を見ただけで難しそうな予感がすると思います。幸い日本で使われているPWCルールでは「二歩や行き所のない駒は復元せず、取った方の持駒となる」という条件が設定されています。この性質を利用して何とか歩を稼ぐ形を作ろう……これが解図の目標の一つになります。実際、本サイトでも第124回に二歩禁を利用して歩を稼ぐ作品を出題した前例がありました。

(参考図1:第124回出題)
第124回出題図

 ところが、実際に解図を始めてみると歩を稼ぐ手段を考える前に解決しないといけない別の難題が現れます。初手から4手進めたところで、いきなり歩の打ち場所を桂が塞いでしまうのです。つまり「歩の入手」と「45桂の除去」という2つの課題をクリアする手順を何とか見つけなくてはいけないのです。
 この2つの課題うち「45桂の除去」をまず先に考えてみましょう。45桂を何の駒で除去するかを考えると、除去する駒は飛。更にその飛を何で除去するかを考えると、角という想定が可能です。飛を除去するのが桂ではせっかく除去した桂が復活することになりますし、他の駒では飛を除去した瞬間に逆王手が掛かります。飛を除去する角の元の位置については34地点ではダメ(飛を除去したとき逆王手が掛かる)ということを考えると23地点しかなく、以下のような構図が想定できます。

(参考図2:桂を消すために想定される構図)
桂を消すために想定される構図

 右側の「?」の配置については後で考えるものとして、まず桂を除去することを考えると以下のような手順が浮かぶのではないでしょうか?
35飛生 33合 45飛/35桂 同角/23飛 …
 確かにこれで桂を除去することはできました。しかし、この形では残念ながら後の手順が続きません。空間が狭すぎて駒のやり繰りができないからです。正解は次の手順です。
36飛成 33合 45龍/36桂 同角/23龍 …
 飛を龍にしてしまうので後が続くか不安になりますが大丈夫。35地点を空所にした効果でもう一つの課題であった「歩の入手」ができるようになります。実はその鍵は上の構図を実現する2手前の局面にあります。

(参考図3:作意32手目の局面)
32手目24桂の局面

 この局面でなぜ桂合? と、疑問を投げかけたくなるような手ですが、この効果は44手目の局面で明らかになります。

(参考図4:作意44手目の局面)
44手目33同銀引/24馬の局面

 ここから
35馬 同桂/23馬 …
とできるのが、35を空所にした効果と32手目24桂の効果です。駒を1枚35に送り込むことによって空間に余裕を確保し、歩を入手する形を構築できるようにするわけですね。
 歩を稼げる形になってからは比較的易しいと思いますが、詰型を作るために歩を1枚余分に稼いでおくのが最後のポイント。角がいるので普通に歩を打っただけでは同角と取られてしまいますが、この時自分の歩が復活しないよう歩を不成で33に送り込んでおけば、最後の歩を同角と取れなくなります(歩が復活しないので龍の利きが直射する)。

 本作では二歩禁を攻方・受方の両方で活用する手順を実現できたので、作者としては結構満足しています。また、本作は二歩禁利用の歩入手を中心に手を組み立てていますが、ちょっと形を変更したり全体の位置をずらしたりするだけで、行き所の無い駒の禁止を利用した桂や歩の入手の機構に変形できるので、そういった応用も楽しめる素材です。


【正解者及びコメント】(正解2名、感想1名:到着順)

渡辺さん

本問はPWC特有の堂々巡りの道中、論理の階段を一歩昇る度に視界が広がるのを感じました。 これだけ盛り沢山の要素を一つの手順に盛り込めるのはすごいと思います。 それにしても、解答を書くと100手以上あるように感じるのは1手の記述が長いからですよね。

さて解図の方ですが、8手掛けて元の曲面に戻る順などもあり複雑で、闇雲に駒を動かしていても曲面は進みませんから、論理的に解くしかありません。

本当はもっと紆余曲折していますが、本題の論理は下記のような順序です。
初形は、詰方の「玉、香、桂」(動かす手が王手にならない)で受方玉が拘束されているので、45歩と打つ歩の入手が目標に見えます。また、同一局面にならずに王手が続く手順を考えると最初の4手は「22馬、33桂、45飛、同桂/33飛」となり45に桂が埋まります。
その処理方法は、「斜め後に利く駒に換えて移動合で下らせる」ですが、銀だと「45飛、同銀/34飛」が防ぎにならないので「45飛、同角/23(12)飛」しかなく、23(12)角を作るために「22角、23(12)馬、33空」の状態から22馬/23(12)角とすることを考えます。
この形から逆算を利用して26手目までの図を得ることが出来ます。

ここでやっと目的の45空けが実行できます。
22馬/23角、33銀打、24飛/14銀、同銀上/33飛、35飛生、33銀、45飛/35桂、同角/23飛、…
しかし、この後二歩にさせて歩を取るために後手に歩を2回打たせる必要がありますが、駒が詰まりすぎて出来ません。その打開のためには、
・香は15に遣る
・「35飛生→45飛」を「36飛成→45龍」とすることで35の桂を36にし、
 空いた35に駒を一つ遣ること
が必要となります。また、35に駒を遣るには「35馬、同x/xx馬」とする必要がありますが、可能な駒は「35馬、同桂/23馬」しかあり得ません。これらを満す手順から47手目の図が得られます。
この図から「馬の回転+歩合」の繰り返しで59手目に歩の入手が可能になるのはすぐに見えるかと思います。
しかし、ここですぐに「34角、45歩」としても「同角/34歩」で詰みません。34角を「同龍/14角」などとして遠方に運んでも代わりに銀が来るだけで22馬としても銀角は後に下がれないので34から退いてくれません。

この打開は先に先手も3筋に歩を置けば、「同角/34歩」は「同角」になって龍による退き王手の反則になる、という事実です。それに気付けばもう一周回って歩をもう一枚取り、33を空けて「45歩、同角/34歩、33歩生」で3筋に歩を仕込むのは見えてきます。

今回の出題はかなりの難問で、本サイトの解答王たくぼんさんから白旗メールが送られてきた(もちろん多忙のせいもあったと思います)ほどだったのですが、その難問にいち早く解答を送られてきたのが渡辺さんでした。その上、解答のメールで解図過程を論理的かつ詳細に述べてくださったので、読者の皆さんもぜひこれを参考にしてください。筆者の解説で足りないところをこれで補っていただけたらと思います。
 
 
市村道生さん

作者のコメントにもあるよう、結構難解な局です。
1筋の香車を移動する手段が中々判らず苦慮しました。
二歩禁を利用した歩の取得は従来からの好手順ですが、この局での最大の収穫は最後の収束部にあります。
打歩詰を同角と取って凌ぐ手順、二歩禁でその凌ぎを拒絶する手順。
いずれもPWCならではの秘技で、感動しました。

市村さんの解答はいつもたくぼんさん経由でいただくのですが、「須川さんに、あまりご負担をお掛けしては」ということで、今回は直接郵送で解答をいただきました。しかも、一通目に誤りがあったため訂正版は速達で送られてきました。郵便代を余計に掛けさせてしまったようで少々申し訳ない感じです。(おかげさまでちゃんと締切日に間に合いました。)
本サイトではWeb上での閲覧を前提に出題を行ってきたので、解答もE-mailでお願いしていたのですが、WFPの発行により必ずしもネット環境がなくても本サイトでの出題を見られるようになりました。従って、これからはネット環境をお持ちでない方については郵便での解答も受け付けようと思います。ただし個人情報をむやみにネット上に公開するのは問題が多いので、宛先は非公開とし、あくまで例外的な措置としたいと思います。

ところで、市村さんはそのお手紙の中でこの作の創作の端緒が今年1月のフェアリー短編コンクール第4番(シン氏作 PWC協力詰 7手)だったことも見事に言い当てられていました。せっかくですから、その辺の裏話もしておきましょう。
まず、シン氏作に触発されてPWCの素材をいじっていたのですが、どこでどう間違えたか次の図に行き着きました。(解答は図の下に白字で記載。)
PWC協力詰 9手
27飛 同桂右生/35飛 15飛/35桂 同桂/23飛 27飛成/23桂 同桂右生/35龍 15龍/35桂 16飛 26龍 まで 9手
結局桂が活躍すること以外はまったくシン氏作と無関係になってしまったのですが、ここから素材を発展させるのは意外と大変でした。
そこで横だった玉の並びを縦にし、入替対象の駒を(盤上に置くのではなく)なるべく合駒で発生させることを主眼に置いて構図と条件を変更したのが次の図でした。(解答は図の下に白字で記載。)
PWC打歩協力詰 15手
14角 25金 26飛 同金/25飛 15飛 25金 16飛 26歩 同飛/16歩 同金/25飛 15飛 25歩 同角 同金/26角 37歩 まで 15手
今度は前の図と異なり、大道棋の香歩問題のようにほんの少しの違いでいろいろな手順のバリエーションが生まれる面白い素材になりました。そこから試行錯誤と推敲を経て辿り着いたのが今回出題の図だったというわけです。
その途中でいろいろな副産物も生まれたので、ネタに困ったらまたこの素材のお世話になるかもしれません。

 
 
雲海さん(感想)

手順が続く方向で考えていき、31手目の14飛/15銀までは辿り着いていたのですが、32手目は24銀引だと思い込んでいたためか24桂が全く見えていませんでした。
七郎さんの解説や渡辺さんの解図過程を読んで、なるほどなぁとうなずいています。
いやはや、難しかったです。

 
多分、最初から32手目の桂合を読める人は居ないのではないでしょうか。
渋々飛成の筋を読んで、後からここが桂だったことに気付くしかないと思います。
作者も別の図の余詰筋としてfmに教えて貰い、逆にこれを利用できる構成を考えて今回の出題作を得ています。
 
 
今回の解答者はわずか2名となりましたが、問題の難度を考えると割と妥当かそれ以上の結果かもしれません。解答を送ってくださったお二人に感謝したいと思います。
次回は変則的ですがWFP発行に合わせるため17日(水)の出題を予定しています。久々に管理人の作ではなく投稿作品の出題で、今回の問題を上回る超難問です。また、これも異例ですが第132回以来の懸賞出題を予定しています。皆様ご期待ください。

(2010.3.14 七郎)


第155回(2010.1.17)出題の解答

/EFP=(11|-11|01|-10):虎 「神無七郎 作」 協力詰 @@ +虎154, 11飛12飛13飛14飛15飛16飛17虎18虎19虎21飛22飛23角24角25角26角27虎28虎31飛32角33香34香35香36香37香38香39虎41飛42角43飛44香51飛52角53飛54香61飛62角63飛64香71飛72角73飛74香75香76香77香78香79飛81飛82角83角84角85角86虎87虎88虎91飛92飛93飛94飛95飛96香97香98香99玉@+ #307 

【出題時のコメント】

 皆様、遅まきながら明けましておめでとうございます。

 いつも年頭の出題では「今年の目標」を掲げてきましたが、今年の目標設定はとても簡単でした。昨年の目標が全然達成できていないので、それをそのまま今年に持ち越すことにします。(ダメじゃん…)
 この目標の内Silverlight版のTsumeMLViewerの方は、ある程度まで出来上がっていてこのサイトでも実際に使っていましたが、「この機能も入れたいなぁ」と思っているうちに、思っているだけで終わってしまいました。今年はキリの良い所で仕上げて早々に公開するようにしたいと思います。
 また、本サイトでのトップページの出題は今年も継続していく予定です。昨年の解答成績はたくぼんさんが3年連続で堂々のトップ。ただ、2位の雲海さんが1ポイント差まで肉薄しており、今年はどんな展開になるか注目です。

 さて、今回の出題は寅年にちなんで「虎」を使った詰将棋です。この「虎」は中将棋の「盲虎」で、前方にだけ進めないという特徴を持っています。いくつか試作してみましたが、真っ直ぐ前に動けないせいか、強いのか弱いのか分からない不思議な駒ですね。本来中将棋の「盲虎」は成ると「飛鹿」になるのですが、ここでは成らない設定で解いてください。中将棋の駒をフェアリーに導入する場合、成に関する設定は悩みの種(成駒と生駒で同じ駒があるのが特に面倒)なのですが、ルール上の問題を避ける手段として、本サイトでは当面(中将棋を含む)古将棋の成駒と生駒は完全に別の駒として扱うようにしていきたいと思います。
 なお、本作は例によって非標準駒数作品です。受方の持駒を明示していませんが、合駒などはまったく出てこないので気にしないで解いてください。
 また、「(11|-11|01|-10):虎、って何?」と思う方もいらっしゃると思いますが、これも気にしないでください。フェアリー駒用のfm(fm拡張セットの中に含まれます)で「虎」を扱うとき「/EFP=(11|-11|01|-10):虎」と指定するのです。フェアリー駒用fmは「盲虎」に限らず、様々な古将棋駒を扱えるので使うと結構病みつきになりますよ。

 

【ルール説明】

【手順】

89虎 同玉 99虎 同香成 98虎 同杏 99虎 同虎 88虎 同杏
98虎 同玉 89虎 同杏 88虎 同玉 98虎 同香成 97虎 同杏
98虎 同虎上 87虎 同杏 97虎 同玉 88虎 同杏上 87虎 同玉
97虎 同香成 96虎 同杏 97虎 同虎上 86虎 同杏 96虎 同玉
87虎 同杏上 86虎 同玉 96虎 同角 85虎 同飛 95虎 同玉
86虎 同飛 85虎 同玉 95虎 同角 84虎 同飛 94虎 同玉
85虎 同飛上 84虎 同玉 94虎 同角 83虎 同飛右 93虎 同玉
84虎 同飛上 83虎 同玉 93虎 同角 82虎 同飛寄 92虎 同玉
83虎 同飛上 82虎 同玉 92虎 同飛 91虎 同飛寄 81虎 同角
72虎 同玉 82虎 同飛引 83虎 同玉 72虎 同飛寄 82虎 同飛右
92虎 同玉 83虎 同飛上 82虎 同玉 92虎 同角 81虎 同飛左
71虎 同飛引 72虎 同玉 82虎 同飛上 81虎 同飛左 71虎 同角
62虎 同玉 72虎 同飛引 73虎 同玉 62虎 同飛寄 72虎 同飛右
82虎 同玉 73虎 同飛上 72虎 同玉 82虎 同角上 71虎 同飛左
61虎 同飛引 62虎 同玉 72虎 同飛上 71虎 同飛左 61虎 同角
52虎 同玉 62虎 同飛引 63虎 同玉 52虎 同飛寄 62虎 同飛右
72虎 同玉 63虎 同飛上 62虎 同玉 72虎 同角 61虎 同飛左
51虎 同飛引 52虎 同玉 62虎 同飛上 61虎 同飛左 51虎 同角
42虎 同玉 52虎 同飛引 53虎 同玉 42虎 同飛寄 52虎 同飛右
62虎 同玉 53虎 同飛上 52虎 同玉 62虎 同角 51虎 同飛左
41虎 同飛引 42虎 同玉 52虎 同飛上 51虎 同飛左 41虎 同角
32虎 同玉 42虎 同飛引 43虎 同玉 32虎 同飛右 42虎 同飛右
52虎 同玉 43虎 同飛上 42虎 同玉 52虎 同角 41虎 同飛左
31虎 同飛引 32虎 同玉 42虎 同飛上 41虎 同飛左 31虎 同飛左
21虎 同飛引 22虎 同玉 32虎 同飛上 31虎 同飛左 21虎 同飛左
11虎 同飛引 12虎 同飛引 13虎 同玉 22虎 同飛左 12虎 同角
23虎 同玉 13虎 同飛 14虎 同玉 23虎 同飛寄 13虎 同角
24虎 同玉 14虎 同飛 15虎 同玉 24虎 同飛寄 14虎 同角
25虎 同玉 15虎 同飛 16虎 同玉 25虎 同飛寄 15虎 同角
26虎 同虎引 27虎 同玉 16虎 同虎引 17虎 同虎引 18虎 同玉
27虎 同虎引 29虎 28玉 18虎打 同虎引 19虎打 まで 307手


詰上り

動く盤面で鑑賞する(Flash版)Flash Player 9が必要です)

動く盤面で鑑賞する(Silverlight版)Silverlight 3が必要です)

 

【解説】

 「盲虎」を使ったいくつかの入替趣向を合成した作品。
 最初の14手の入替で玉が1段上がる趣向が創作の端緒で、次の10手の入替はその簡略版です(成らせを入れられないため)。上辺に来てからの30手の入替が本作のハイライト部分。角を移動させるため、玉が一旦戻るような動きをするのが面白いと思います。そして、角の移動を省略した簡略版の入替を経由して右辺に移り、そこからは序盤の10手の入替が上下逆になって再現し、右隅で収束します。
 ちなみに、33香は近道禁止のための配置です。これを飛にすると途中から斜めのコースを辿られてしまい、収束に短絡します。本当は30手サイクルの入替をもう1回繰り返したかったのですが、巧くいきませんでした。

 この作を作る上でこだわったのは、枠を出ないこと、枠の内部を完全に埋め尽くすこと、そして「盲虎」が横に並んだ詰上りでした。
 理屈の上では「酔象」を上下逆にしても同じことができるはずですが、「前に利かない駒」である「盲虎」の方がインパクトがあります。全く異質ではないけれど、世界地図を上下逆にして見たときのような妙な違和感を与えてくれる…「盲虎」はそんな駒のひとつだと思います。


【正解者及びコメント】(正解8名:到着順)

香箱さん
導入部の14手組は盲虎の頭の丸さがもどかしくも面白い順。
中盤、角を退けるための手順は33香配置をクリアする必要から30手サイクルだと発見できた。
詰上がりもこの駒の特性が十二分に発揮されていて解後感良好。
中将棋駒はシリーズ化していただきたいです。
シリーズ化ですか…次回は普通の駒の作品を予定しているので、ご期待に添えなくて申し訳ありません。
でも、今度の「詰四会作品展」には別の古将棋駒の作品を投稿しましたので、発表されたらぜひご覧になってください。
不定期にはなると思いますが、今後も中将棋を含む古将棋の駒を使った作品は出題していきたいと思います。

雲海さん

この作品の本質は第152回出題作品と同じく駒の入れ替えパズルでしょうか。(最後は違いますが)
29にある空間を手に入れるために、15パズルのように解いているときはとても面白かったです。

 考えさせられたのは以下の3点でした。

・68手目83同飛は、73と93のどちらで取るか。

73が飛になるか角になるかの違いでしたが、後述のサイクルのために73は飛でないといけないことに気が付くまで、ちょっと迷いました。

・上辺の趣向手順

1サイクル30手のちょっとややこしい手順。角を移動させるのが鍵でした。

・収束

盲虎の利きに慣れていないためか、一番考えてしまいました(笑)

 最終形は予想通り、初形と同じく左右対称形になってとても嬉しかったです。形は凱旋門(といっても沢山ありますが)に似ていますね。 七郎さんの作品は発表されるたびにワクワクして、とても楽しいです。今年もよろしくお願いします。

余談

古将棋の駒をfmで使えることは恥ずかしながら知りませんでした。まだまだfmを使いこなせていないです。
ところで古将棋の駒で真っ先に思い浮かべるのが酔象です。
私の故郷では毎年、酔象将棋大会(本将棋+玉の前方に酔象を置いて対局を行う大会。太子も扱う。そのため酔象を持駒としての使用はできない。)を行っていて、学生時代に参加していたため、酔象にはちょっと興味がありますね。
「酔象将棋」はWikiの小将棋の項で「朝倉将棋」として紹介されているのと同じものでしょうか。ちょっと変わった将棋を楽しみたいときには良さそうですね。
なお、太子には成れませんが酔象と同じ利きを持つ駒はfmで扱うことができます。フェアリー駒用fmで、「/EFP=(10|11|-11|01):酔」(駒を表す文字は任意)でオプションを指定すれば可能なので、ぜひ試してみてください。香箱さんからのリクエストもありましたし、もし宜しければ投稿もお待ちしています。

渡辺さん

今回は手数と持駒数を比べれば先手は虎を打つしかない訳で、後手の応手もこれを取るしかありません。玉の前方に虎を打っても王手ではありませんから、玉の前方以外の玉周り7ヶ所のどれかを常に空白にしながら玉と空白を右下隅まで運ぶ入れ換えパズルとなります。

このパズルを解き切れば、あとは虎の丸い頭を利用した予想通りのこれしかない、という詰め上りとなります。詰将棋として考える部分は最後の5手だけというほぼ入れ換えパズルの問題でした。

最初は真中に飛び出して簡単に詰むぞ?と思っていたのですが、よく手を見なおすと玉頭に虎を打っていました。さらに、最初の香を成って戻すのを見逃がしていて全然前に進まなかったのですが、これに気付くと左辺はクリア。

次に上辺が以外と手強く最短のサイクルが15回の移動、上辺をクリアするとターンと右辺の下りは簡単で、145回の移動(=290手)で下記の図面となります。

−−−−−−−−−−−−−−−ここから−−−−−−−−−−−−−−−
図は290手目15同角まで

987654321
飛飛飛飛飛飛飛飛飛一
角角角角角飛飛飛角二
角飛飛飛飛飛香飛角三
角飛香香香香香飛角四
角飛香   香飛角五
角飛香   香 玉六
虎杏香   香虎虎七
虎杏香   香虎虎八
虎杏飛   虎 虎九

290手までの局面(盤面はすべて後手の駒)
−−−−−−−−−−−−−−−ここまで−−−−−−−−−−−−−−−

ここで最初は280手と勘違いしていて、299手で玉を59で詰めて香と虎が沢山余ってあれ?となっていました。仕方なく余詰報告しようと手順を整理すると、10手勘定間違いであることに気付き、無事作意解に辿りつきました。

私は最近入替パズル系の作ばかり作っていて、本作も詰将棋っぽいのは収束だけですね。普段使わない駒を使うときは余計にそうなる傾向が強いので、今度は紛れの多い構図や合駒なども取り入れて、より詰将棋っぽい作に挑戦したいと思います。

若林さん

玉頭に空間を作ってはいけないという制約のブロックパズル。
オセロ駒でも足りなかったので碁石で並べました。
上段での角の整理が思いのほか手間がかかって楽しめました。
今回試験的に「解答は詰上り図だけでOK」としたのですが、図面のみで解答されたのは若林さんを含め3名でした。
他の方は略記とか、手順の概略を文章で加えたりというのが多く、Excelの資料添付による解答も複数ありました。
考えてみれば、図面だけというのも誤植の危険があったりしますから、意外と気を遣うかもしれません。
本作のように手順が無駄に長いような問題には良い解答募集形式だと思うので、今後も問題の性格と照らし合わせて、今回のような試みをしてみたいと思います。

たくぼんさん

テキストファイルをみながら途中図を作って解図しました。
特に上辺の角の入れ替えになかなか気づかず行き詰って頭をひねってしまいました。
詰上りも虎という駒の特性を十分にいかしたものになっており、凱旋門みたいできれいでした。
凱旋門ですか…パリの凱旋門は一度生で見てみたいですねぇ。日本でも凱旋門はいくつかあるようですが、どれも小ぶりでしかも気軽に行ける場所ではなさそうです。
虎と門で虎ノ門…でも良いのかもしれませんが、残念ながら虎ノ門の語源になった江戸城の虎ノ門は、とっくに撤去されているとのこと。やっぱり本物が一番でしょうか。

市村道生さん

いやー、驚ろきました。
最終形も左右対称の美しい門形ですね。
趣向部は多種多様、色々な手順を楽しめました。
特に上辺での角の入替(30手サイクル)は難解かつ華麗、絶品ものです。
最後を飾る5手のフィナーレは、まるで、別世界で妖精と戯れている様な不思議な感激を味わいました。
過分のお褒めの言葉恐縮です。上辺の趣向と収束で何とか作品になっていますが、それ以外の部分は弱いので、物足りない方も居るのではと心配していました。
なお、この短評に「色々な手順」とありますが、創作時は実際にいくつかに分割してfmで検討をしました。駒数も既定の枚数を越えてしまったので、最後には神無次郎氏にお願いして上限を増やして貰っています。フェアリー駒用fmだけ駒数上限が255枚になっているのは、こういう経緯があるのです。

NAOさん

5局分楽しめました。
92〜42の移動(1路移動に30手)と収束部がなかなかいい感じです。
NAOさんは新人の方ではなく、押しも押されもしない実力者の一人。活動再開の知らせは嬉しい限りです。
解答・創作共に期待していますので、本サイトも宜しくお願いします。

ぽこさん

基本的な動きの確認に1週間、(当初は4七虎・4八虎・4九玉の形で考えていたので)この形の詰み上がりに気づくまで1週間、右側の飛角のループの絡みで4手余分にかけてたことに気付くのに2週間。なんとか時間ぎりぎりで解けました。
できることが限られているので手数の割にとっつきやすく、パズル(というか倉庫番?)感覚で解けたと思います。
ぽこさんは本当にお久し振りです。何と第111回出題(2006年6月)以来の3年半ぶりの解答です。
詰将棋には「休眠」はあっても「引退」はないと言われますが(えっ、聞いたことないですか?)、気が向いたときに活動し気が向かなければ休めるのが趣味の世界の良さですからね。今後も気の向いたときに解答をください。

今回は「盲虎」という見慣れない駒を使用したため解答減を心配しましたが、逆に1通ではありますが解答が増えました。おかげさまで、なかなか幸先の良いスタートが切れたと思います。
なお、WFP第19号で解答を募集している「果報は寝て待て」は今月15日が解答締め切りです。まだ解答が1通も送られてきていないので、こちらの方も宜しくお願いします。
次回の出題はPWCルールの作を予定しています。余裕のある方はPWCばか詰作品展などで予習をされると効果的かもしれません。

 

(2010.2.7 七郎)


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