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解答

 


第121回(2007.3.18)出題の解答

「神無七郎 作」 ばか詰 17銀26角28歩36歩37銀39と48歩49と56金57銀59と68歩69と76金77銀79と86桂87角88歩89と99と, 16金18玉19と38歩46飛58歩66飛78歩96歩97桂98金 #63

 

【出題時のコメント】

 掲示板を設置しているサイトの悩みの種のひとつが、「自動書き込み」への対処です。 本サイトでも掲示板を設置していますが、やはり数多くの「自動書き込み」の被害に悩まされていました。特にうちで使っていた掲示板は、有名で普及率も高い スクリプトだったため、狙う側からすれば格好の標的だったと思います。それでも昔は、手作業で対応できていました。ただ、昨年は余りにも「自動書き込み」 の量が多かったので、スクリプトに手を入れて、不正な書き込みを自動的に拒絶するように改造しました。内容は、IPアドレスを詐称している書き込みの拒絶 と、禁止語句を含んだ書き込みの拒絶の2つです。この効果は絶大で、手動で削除しなければならない不正書き込みは、対策後に激減しました。
 もっとも、これが正常な書き込みをも拒絶している可能性は否定できません。例えば、プロキシ経由の書き込みはIPアドレスを詐称できるため、不正な書き 込みに使われる常套手段ですが、会社や学校などではプロキシ経由でしかWebにアクセスできない場合も多く、それらの書き込みをも拒絶するのは良くありま せん。本サイトの掲示板ではその辺の考慮もしているつもりですが、もし「自分のPCから書き込みができない」という事例があれば、メールか何かでお知らせ ください。ただ、個人的都合でプロキシ(特に匿名プロキシ)を利用しているケースなどには対応できませんので、その辺はご承知願います。

 さて、今回の出題は一種の「箸休め」。単純明快な趣向作ですので、普段は敬遠されている方も解答をお寄せください。


 

【ルール説明】


【詰手順】

29と 同玉 39と 同玉 49と 同玉 59と 同玉 69と 同玉
79と 同玉 89と 同玉 98角 79玉 89金 69玉 79金 同歩成
87角 78金 同角 59玉 69金 49玉 59金 同歩成 67角 58金
同角 39玉 49金 29玉 39金 同歩成 47角 38金 同角 18玉
27角 29玉 18角 38玉 29角 49玉 38角 58玉 49角 69玉
58角 78玉 69角 89玉 78角 98玉 87角 89玉 98角 78玉
89金 同桂成 87角 まで 63手

動く盤面で鑑賞する(JavaScript/CSS使用,IE専用)

 

 

【解説】

 送り趣向は趣向詰の基本で、フェアリーでも筆者は好んで送り趣向を作っています。
 そのときしばしば、手順は単純なのに、仕掛けは結構大掛かりになってしまう素材に出くわすことがあります。こういうときは、いろいろなテクニックを用い て、その不釣合いを是正しようと工夫します。例えば、趣向自体を複雑化して大掛かりな舞台装置に見合うものにするとか、逆にフェアリー特有の条件を加え て、簡素な仕掛けで同じ趣向が成立するようにする等です。
 本作で用いたのは「趣向に必要な舞台を再利用する」という方法を用いています。出発点になったのは、中盤の金捨てと金合いを繰り返しながら角追いする素材で、意外と余詰消しの駒が多く必要になったので、前後に追い手順を付けて1.5往復の組み合わせ趣向としました。
 普段ならこの辺から気合を入れて、いろいろ変形していくのですが、最近気合を入れすぎてグチャグチャになることが多かったので、今回は気分転換にアッサ リ風味のまま切り上げました。でも、さすがにこれはアッサリ終わらせ過ぎたみたいですね。収束が唐突に終わってしまうので、ここで迷われた解答者の方々も 結構多かったようです。

 

【正解者及びコメント】 (正解11名、感想1名:到着順)

 

瘋癲老人さん

久しぶりにほっとする軽趣向作。
でも成桂を取ってもう一往復してしまいました(苦笑)。

いやいや、成桂を取って一往復というのは、とても真っ当な発想だと思います。
他にも、最初に作ったと金を払いながら、もう片道とか…。(こうやっていくうちに、単純な趣向が原形を留めないまで変形するのが常なのです。)
ところで、瘋癲老人さんは半年くらいウチの掲示板に繋がらなかったそうです。今は大丈夫らしいのですが、やっぱり設定ミスとかがあったのかも知れませんね。

 

隅の老人Bさん

左辺から右辺への趣向が嬉しい。
難問は嫌い、易しく楽しく、ばか詰は斯くありたいね。

前後に「飾り」は付けていますが、本作のメイン趣向はこの左辺から右辺への移動なので、ここを褒めらると嬉しいですね。
易しく楽しい作が良いと言いながら、難問にも変な問題にも解答を下さる隅の老人Bさんですので、今後も頼りにしています。

 

隅の老人Aさん

ばか詰と言えば5手迄が限度の私には無鉄砲な挑戦でした。
ただ、作者の言葉と初手から之しかない、と金の送り手順に気を強くして取り掛かりました。
金捨て、金合の折り返しを見つけるのに5分ばかり掛かった他は、わりとスムースに運びました。
最後の折り返しで、まごつきましたが手数の表示が大きなヒントになりフィニッシュを迎えることが出来ました。
フェアリーは間口が広く、“マドラシ“”キルケ“が付くと判らなくなります。
今回の様な易しい趣向詰は初心者には嬉しい贈り物です。

感想
優しい七郎さんの1面を感じさせます。
それは、今年の年賀詰で見せた優しさに通じます。

隅の老人Bさんの奨めにより、隅の老人Aさんから初解答を戴きました!
私も隅の老人Cを「予約」してますし、瘋癲老人さんも入れれば老人キャラが4名に!!

標語:Onsite Fairy Mate は老人に優しいページです

隅の老人Aさんには、今後も(気が向いたときで良いですので)解答をお寄せくださるようお願いします。

 

真Tさん

収束が合駒を出す筋かと思い苦労しました。
きれいな趣向からきれいな収束で楽しめました。

61手目の89金から、69玉 79金 58玉 69金 同玉 87角 78金 同角 58玉 69金 … と進行すれば、趣向の第二幕開始ということでなかなか良かったのですが、歩の消化や余詰が難しくて断念。でも、その方向で粘るのが本筋だったかもしれません。

  

神無三郎さん(感想)

金捨金合をしながら戻ってゆくのが新鮮な感じ。
86桂の意味をしばし考えた。
収束あっさりしてますね。(作風?!)

神無三郎さんは感想のみの参加。解けているのは間違いないのですが、ちゃんと手順を書いてきてくれた人と差を出すために、一応感想のみの扱いとしました。
収束はやはり唐突に終わった印象を与えたようです。やはり、もう少し9筋で折衝を行った方が良かったでしょうか。

 

たくぼんさん

54手目まではすぐに到達したのにそこからの9手がなぜか見えず。
これはきっと年のせいかもとちょっとショックでした。
1週間ほったらかして再チャレンジして何とか解けました。
金を打っては寄せる波のような手順に酔いしれました。
初心者にチャレンジしてもらいたいそんな作品です。

解答強豪が9手詰で苦戦!
とか書くと凄い作品に見えますが、これも長編特有の現象でしょうね。
あまりに単純な収束だと却ってそれが見えず、それ以前に原因があったのではないかと疑心暗鬼に陥るパターンです。
そういうときは、やはり日を改めるのが一番。前日には全然見えなかった筋が、いきなり閃いたりします。

 

小峰耕希さん

16金の存在をうっかりして27角迄で詰めてしまったのが、
作意に気が付くきっかけになりました。

小峰さん久しぶり(?)の解答。
ご本人は前回の解答が第111回と思ってらっしゃるようですが、実は第113回も解答されています。
今回はもっと久しぶりの解答の方もいますよ。

 

橘 圭吾さん

一往復半の簡単な趣向ですが、それぞれで追い方が変わるのが面白い。

前後の追い趣向は後から付けたものなので、自然に変化したものですが、楽しんで戴けたようで何よりです。

 

北村太路さん

頭の中で解けるかと思ったのですが、どうしても解けず、盤まで出したのですがそれでも全然詰まない。
煮詰まって、手数も足りないのは明白ですが、再度1筋まで行こうかと玉を右に移動させ始めたら、おやこんなところで詰むとは。
最近頭が固くなってきていて図を見ていて9筋で詰むものだと勝手に決め付けていました。
本当に勝手に決め付けて問題が解けないことが最近多々あります。スランプです。

北村さんは、前回と前々回をお休みしただけですから、スランプなんてことは全然ないでしょう。
それより、最悪詰で何か投稿して戴けませんか?
せっかく Worst1.exe を公開したので、このページで扱うルールに加えようと思っているのですが。

 

伊達悠さん

最近になってOFM出題作が解けなくなってきました。
スランプなのかどうかはわかりませんが、フェアリーランドの問題も解きにくくなっているし・・・
そんな中でもこの作品はさくっと解くことができました。
個人的に、この時期に簡単な長編を出してもらって感謝しています。
現在がスランプ?だからこそ、このような問題を解くとちょっとした自信がつきます。
皆さんにとっては簡単すぎたかもしれませんが、僕にとってはちょうどよかったと思います。
そういえば、フェアリーの方の作図にも取り掛からないと。
JEWEL BOXにも出したいな・・・・・・

作図・解図は一種の習慣ですからね。
やらない癖がつくと、それが普通になってしまいますから、なかなか調子が戻らないものです。
JEWEL BOX でも詰四会でも何でも良いですから、ひとつ作ると勢いがつきますよ、きっと。

 

泉 真理さん

今回の問題では何故か最終手に気付きませんでした。
王は97で詰むと思っていました。

今回は久々に解答を送ってくださった方が多かったのですが、その中で最も久々だったのが泉さん。第94回以来の解答です。この回の出題作を見ると……えらい難しい作じゃないですか!?
泉さんはきっとやればできる人です。(というわけで、これからも解答をよろしく)

 

もずさん

途中で香合を入手する筋かと思ったのですが、それでは2手不足。
素直に1往復半追いかけるのがわかりやすい手順で
「単純明快な趣向作」といううたい文句に違わぬ作品でした。

香合いの紛れはいかにも「それらしい」のですが、非限定を消すアイデアが出なかったので、作意になりませんでした。
ただ、こういう危ない紛れ筋も見切れてしまうのは、fmのおかげ。そうでなければ、きっと四香配置の安全策を採っていたに違いありません。易しい作を作るにもfmは必要なのです。

 

今回は解答数も多く、久々の解答もあり盛況の回でした。軽趣向作なので、解けなかった人も、盤や画面で動かして楽しんでください。
次回は Worst1.exe も公開したことですし、最悪詰を出題しようかと考えています。投稿も受け付けますので、もし良ければメールで送ってください。

 

(2007.4.8 七郎) 


第120回(2007.2.18)出題の解答

「神無七郎 作」 ばか詰 15歩25飛26香29歩34銀35歩39王44銀45歩55香65歩75歩77桂79桂85歩87桂88銀89桂97歩98銀 +香歩2, 18歩19飛28歩54歩57玉59と78馬 @+ #83

 

【出題時のコメント】

 冬眠蛙さんのブログの2月13日の記事で、フェアリー詰将棋のルールの分類について取り上げられていました。森茂追悼作品展で「最悪詰」が出題されて以来、割と旬な話題なので、私もこれにまつわる、ある提案をしたいと思います。できれば、「おもちゃ箱」のページにある「フェアリー詰将棋の分類」を読んでから、以下の文をお読みください。
  表1はその「フェアリー詰将棋の分類」から、相手玉を詰めるルールだけ取り出したものです。ここで「最善」は詰手数が短い手を選ぶこと、「最悪」は詰手数 が長い(不詰は手数∞)手を選ぶことを表します。皆さんお馴染みの「ばか詰」は「協力詰」の名称で1行目にあり、普通の詰将棋は2行目に書かれています ね。
 この表で目立つのは「詰将棋」の先手「最善」に括弧が付いていることです。これは「詰将棋」のルールが、「攻方最短・受方最長」ではなく、正確には「攻 方任意・受方最長(攻方最短の前提で)」となっていることに起因します。受方が想定する攻方の戦略と、実際の攻方の戦略が異なるので奇妙な感じですが、そ のおかげで実戦的な自由度を持ちながら、解の客観性も成立するという、巧妙なルール設定になっている思います。
 ところがこのルール設定は、フェアリーの世界に持ち込んで、いろいろな条件を付加したり、目的を変更したりするときに、困った事態をもたらします。例え ば「詰将棋」では、攻方の選択で手数が長くなる解は「余詰」となりますが、これをそのまま「自殺詰(自玉詰)」にも適用すると、余詰防止が難しく、創作が 困難になります。
 また「詰将棋」には長い歴史と多くの人が関わっているため、附随するルールが多いことも、フェアリーへの応用を阻害しています。「最善」の判定に手数以 外の要素が絡む「同手数駒余り」や、「無駄合」の概念などがその例です。これらのルールは、必要性が大きかったり、過去の経緯で残っていたりと、いろいろ な理由で存在しているのですが、あるフェアリールールと組み合わせる際、どれを入れるか入れないか、矛盾が起きないかどうかなどでいつも頭を悩ませること になります。

 そこで、ひとつ提案。フェアリーで「詰将棋」の系統のルールを扱うときは、普通の詰将棋を基準にするのではなく、附随するルールをバッサリ切って「攻方最短・受方最長」だけを適用する抽象ルールを想定し、それを基準にするのはどうでしょう?

 この抽象ルールを組み込んで表1を書き直したのが表2です。基準が「手数」であることを明示するため、「最善」「最悪」を「最短」「最長」に置き換えています。名称のところは、一般に流通する確たるものがないので空欄にしています。
  実はこの種の提案は新しいものではなく、昔からあるのですが、どういうわけか『現在の詰将棋のルールはおかしい。このルールに改めるべきだ』という妙な方 向に議論が向かってしまい、いつも話自体が立ち消えになってしまいます。効果も未知で実績もないルールのために、人気も実績もあるルールを捨てる気になる 人は多くないですから、話がポシャるのも当然ですね。今回の提案はあくまでルールの「追加」であって、「置換」ではないことを強調しておきます。
 それにしても、この「?」ルールは何と呼べば良いのでしょう?
 「ばか詰」と対比して「かしこ詰」にすれば良いという意見もありますが、「かしこ詰」は普通の詰将棋を指す名称として一部で流通してしまっています。「最悪詰」の対であることを示す「最善詰」とでも呼ぶのが妥当でしょうか。 

 さて、前置きが大変長くなりましたが、今回の出題は久々に管理人自身の作品です。受方に持駒制限があることに注意して解いてください。


 

【ルール説明】


【詰手順】

58歩 56玉 57歩 同玉 58歩 66玉 69香 68馬 同香 67歩
48角 56玉 57歩 46玉 37角 57玉 48角 68玉 59角 57玉
58歩 46玉 68角 57香 同角 47玉 49香 37玉 48角 46玉
59角 48歩 68角 同歩成 48香 47角 同香 56玉 78角 67と
57歩 47玉 69角 57玉 58歩 56玉 57歩 同と 78角 67香
同角 47玉 56角 36玉 47角 同と 38香 37角 同香 同玉
59角 48香 同角 46玉 37角 57玉 46角 同と 59香 58角
同香 同玉 76角 67香 同角 47玉 56角 36玉 47角 27玉
36角 37玉 38香 まで 83手

動く盤面で鑑賞する(JavaScript/CSS使用,IE専用)

 

 

【解説】

 本局は密室型ばか詰の定番である角追いの一種ですが、創作上特に重点を置いた狙いが2つあります。

 1つは、退路封鎖の「と金」を合駒で発生させること。むかし「第22回神無一族の氾濫」 で発表された神無三郎さんの「兎狩」を見て、退路封鎖のと金を合駒で発生させることができないかと思ったことがありました。ところが、実際に自分でやって みるとなかなかうまく行かず、ようやく出題に堪える図になったかなと思えるのが今回の作品です。この図では、46地点を封鎖する必要があるのですが、一見 「59と」を運んでそれを実現できそうに見えます。しかし、実際はこの駒を消さずに運ぶには空きスペースが足りません。そのため、「59と」はあっさり盤 上から消してしまいます。その代わり、67歩合をと金に変えて、退路封鎖の駒として46地点まで運んでいくのです。
 もう1つの狙いは冒頭の4手。無条件で歩を相手に渡す手順です。このような歩の浪費手順は、ばか自殺詰などでよく見られるものですが、まれにばか詰でもこれが成立するときがあります。受方に駒が足りず、攻方から供給しないといけないケースです。「
fm虎の穴 − 基本技#01」 で「ばか詰で /M11 (歩を無駄づかいしないオプション)を使ったときに詰まなくなる(又は手数が余分に掛かる)問題を作ってください。」という演習問題を出しましたが、この 作品はその解答例のひとつです。普通の詰将棋では、持駒の種類が同じなら、数は多ければ多いほど詰み易いというのが常識ですが、ばか詰では必ずしもそれは 成り立たないです。
 ここでもう一度、出題時のコメントで取り上げた「詰将棋の分類」の表を見てください。

この表で「盤上の配置は同じで、(攻方の)持駒の種類も同じなら、(攻方の)持駒の数が多いほど詰み易い」という条件を満たすルールはどれでしょうか?
 

 

 

 答えは簡単。「協力詰」「最悪詰」「悪魔詰」のどれでも、攻方の持駒が多いために詰みにくい状況があり得るので、上記の条件を満たすのは普通の詰将棋だけということになります。普通が普通でないのはフェアリーの世界の常ですが、この観点から見ると普通でないのは普通の詰将棋の方なのです。

 

 

【正解者及びコメント】 (正解3名:解答到着順)

 

隅の老人Bさん

手数表示は83手、作者は天才、七郎さん。
簡単に解ける筈がない。判ってはいるが、そこはいつもの闇雲流。
ゴチャゴチャと駒を動かして、数時間、解けず、断念、今日は止め。
若い時代は、人の作った謎は解けない筈がないと思っていたが、今は、70過ぎのロシナンテ、そんな気負いは、消えている。
数日後、暇つぶし(失礼)に、再度の挑戦。
ばかばかしい?初めの4手に気が付いた。
うん、これなら手が続く、なんとかなりそう。
またも出ました、取ったり取られたりの闇雲流。
また、数日経過。38香打で詰む。
遂にやったぞ、膨大な暇つぶしでした、感謝。

締切目前まで一通も解答が来なかった本作でしたが、7日に隅の老人Bさんからの解答が届き、解答者ゼロの危機を脱しました。おかげで、出題した私もほっと一息。隅の老人Bさんに感謝です。

 

たくぼんさん

当初、問題図より手順を考えていたが、漠然として手が進まないので詰上型を考える。
角香と5筋の歩での詰上型がなかなか判らず時間が過ぎました。
そしてやっと46を埋めて、3六角・3八香の詰上りを見つけて全体の流れが判りました。
しかしここからが難しかった。59とに目が行き悩み、と金の発生に悩み。
そして何気なしにふと浮かんだ最初の4手にやっと活路が見出せました。
そしてあとは歩合からと金を運ぶだけと思ったら、意外とこれも難しい。
26手目4七玉と逃げる手(角筋からずれるのでやりにくい)から香を打って角を開き王手で59に行く手順が絶妙でした。
開き王手で打開する順は過去解いた経験があるのですが盲点になりやすい手順です。
そこからはわりとすんなり進んで何とか83手。解後感最高でした。
詰上型想定する解図方法を取れば、46を埋める"と金"の発生→歩合→歩を玉方に渡すという逆算ストーリーが楽しめるわけでこれは作品として完璧な構成といえるでしょう。
頭から手順を考えていくときっと解けなかったに違いありません。

8日には「多忙」と「花粉症」という2大強敵をものともしない、たくぼんさんから解答が届きました。
実は私も花粉症で、春先は何をやるのも億劫になります。アレルギー原因物質を撒き散らす杉の木は、私には煤煙を吐く工場の煙突と同じに見えるのですが、なぜ国はこの「公害」への対策に本腰を入れないのでしょう?
花粉症対策をマニフェストに謳う政党があれば、他の政策は無視しても投票するのに!

 

瘋癲老人さん

ほとんど手を付けてませんでしたが締め切りの夜になってふと詰み形がひらめきました。
でも手数がちょっとオーバー。
ほとんど必然と思っていた前半の手順に非限定があるのが分かり再検証。
ようやく巧妙精緻な手順を得ることができました。

最後に瘋癲老人さんからも解答が届き、何とか前回と同じ解答数に漕ぎ着けました。
厳密に言えば解答到着は締切時間を少し過ぎていたのですが、作稿前ならいつ届いても同じなので、その辺は柔軟に対応しています。

 

 

こ の時期はいつもなら「氾濫」の原稿の準備をしているのですが、今回は「氾濫」はお休みして、その枠を「森茂追悼作品展」に充てる予定です。作品の収集と選 考自体は終わっているのですが、検討作業が大問題。「ばか千日手」の大作は、fmやnfmでも検討し切れないので、最終的には人力検討が必要です。もし、 この検討に協力していただける方がいらっしゃいましたら、ぜひ申し出てください。
また、看寿賞選考委員会の作業も始まっているので、何かと慌しくなってきました。次回の出題は、一応いつも通り行うつもりですが、少し手抜きになるかもしれません。

 

(2007.3.11 七郎)


第119回(2007.1.21)出題の解答

「もず 氏作」 PWCばか自殺詰 17桂35王 +飛角, 39玉43歩 #8

 

【出題時のコメント】

 最近、とある理由で共立出版から出ている 「コンピュータ将棋の進歩」というシリーズ本を読み返しています。このシリーズの1から4までを通しで読むと、詰将棋を解くためのアルゴリズムがどのよう に進歩してきたかが良く分かります。特に「4」に載っている長井氏のアルゴリズムは、それまで打ち出されてきた各種の技法が(寄せ集めのツギハギではな く)自然な形で統合されており、大変美しいものです。これは良く推敲された詰将棋が、どこを取っても「それがそうあるのが自然」に見えるのと通じるところ があります。中でも、「証明数」「反証数」が幾何的対象性を成しているところは、単なる“処理手順の記述”を超え、感動すら与えてくれます。
 このアルゴリズムは単に美しいだけでなく、強力な解図力を備えているわけですが、変則詰将棋愛好者の視点で見ると「(普通の)詰将棋特有の性質に依存し ていない」という点が非常に重要です。つまり、「最悪詰」とか「自殺詰」のような攻方と受方が協力しない、いわゆる「攻防型」のルールはすべてこのアルゴ リズムが適用できるのです。もちろん、その作業に取り組むべきなのは、こうしたアルゴリズムの研究者ではなく、私たちのように実際にそのルールに携わる者 だと思います。「待っていれば誰かがやってくれる」という見込みは、この世界ではほとんどありませんからね。fmなどは例外中の例外です。

 さて今回の出題は、ご存知「もず」氏の作品です。これは作者名を見るだけで「解かなきゃ損」と言えますね。ちょっと難しいかもしれませんが、頑張って狙いを見破ってください。


 

【ルール説明】


【詰手順】

93角 84香 89飛 同香成/84飛 34飛 57飛 45王 35金 まで 8手

動く盤面で鑑賞する(JavaScript/CSS使用,IE専用)

 

 

【作者のコメント】

はじめの4手でバッテリーを作るのはPWC特有の手筋ですが、
これを使って先手王を動かす手順を作ってみました。
初形から空き王手が可能な場合を除き、
先手王が動くのは作例が少なく、意外性があるのではないかと思います。

この手順は第112回出題作を考えていて、
18角 27飛 87飛 同飛/27飛 21飛 63飛 32玉 31金 まで8手
があると気付いたのがきっかけです。
この手順は飛を3枚使ってしまっているので、
そのうちの1枚を香で代用して今回の図になりました。
成生を限定するために構図にはかなりの制約があり
歩1枚追加が避けられませんでしたが、
余詰防ぎが桂1枚ですんだところは第112回出題作と呼応しているかなと思っています。

 

【解説】

 一般に、ばか自殺系の作品では詰上りを正しく想定することが正解への近道とされていますが、この作品、皆さんは詰上りを想定できたでしょうか?
 もし、無意識の固定観念に縛られていると、この作品の詰上りには到達できません。その「無意識の固定観念」とは「攻方の王は動かない」という思い込みで す。ただ、この図を見た解答者が「攻方の王は動かない」と思ったとしても、それは無理からぬことでしょう。性能変化のないルールでは王で王手を掛けること ができないので、王が動くには開き王手を使うしかありません。ところが、盤上のどこを見渡しても、開き王手の軸になる駒は配置されていないのです! 王が 動くなんて不可能に見えます。
 その不可能を可能にするのがこの手順。最初の4手で角を軸としたバッテリー(開き王手をできる形)を組み、直後に飛を34地点に振ることにより、攻方王 での開き王手を可能にするのです。作意8手のうち6手までを消費するうえ、PWC特有の位置交換まで含むこの手順は、難解かつ華麗。この作品を解けなかっ た皆さんも、この手順を見れば素直に兜を脱げるのではないでしょうか?
 更に、その手順にだけ満足して推敲の手を抜かないのが、もずさんの凄いところ。5筋から左には一切の駒が置かれていない初形は、盤面一杯を縦横に動く手 順を一層引き立てていますし、右辺の余詰消しも17桂のみで仕上げられているのも素晴らしいですね。正に創作のお手本です。

 

【正解者及びコメント】 (正解3名:解答到着順)

 

瘋癲老人さん

ひと目遠打ちということで34飛までは最初の方で考えましたが
89に飛を成らせたのでは失敗でした。
布団の中で考えてて57飛合なら詰むことに気づきました。
いつもながら卓抜な着想を簡潔に図化する手腕の冴えには舌を巻きます。

本作最大の取っ掛かりは、角の遠打ができる玉位置でしょうか。93とか13から角を打てる形は、その手にヤマを張りやすいですからね。でも、ここに着目して34飛まで見抜いてしまう瘋癲老人さんはさすがです。
ところで、93角や13角の意味付けは、通常であれば「角が成る」ことなのですが、本作では攻方王との位置関係がキーになっています。これは、いろいろと 応用が利きそうでなので、駒の種類や方向を変えてバリエーションを作っていけば、面白い作ができるかもしれません。

 

たくぼんさん

3九玉配置より初手9三角から考えたのですが、8四香に思い当たるまでにかなり時間がかかりました。
香合がさして役に立つように見えないのが盲点でした。
5七飛以降2手で詰むのもびっくりしました。

瘋癲老人さんも同じような感想を述べておられましたが、84香は一見意味がないように見えて、着手するのが難しいですよね。どうしても、攻方王に働きかけるような合駒を選びたくなります。大事な駒を取っておくためだけの合駒というのは、短編では却って妙手になります。

 

隅の老人Bさん

初手に飛打から虱潰しに考える。
続いて角打、香合発見までに要した時間は、無限大。
8手の総てが妙手です、天才にしか創れない作品。

虱潰しに駒を動かして解くというのは、狙いを想定して解くよりも、むしろ凄いのではないでしょうか?
狙いを想定する解き方は一見スマートですが、狙いを見抜けなければ終わりです。
その点虱潰しなら、時間と根性さえあればどんな難問にも対応できます。私も見習いたいと思います。

 

 

難解な作品なので解答者減を心配していた本作ですが、26日に瘋癲老人さんとたくぼんさんから解答が届き、ほっと胸をなでおろしました。更に最終締切日に隅の老人Bさんの解答も到着。何とか格好がつきました。
このコーナーでは難解性とか関係なく、良い作品はどんどん出していく方針ですが、それにしてもここ最近は難しい作が続き過ぎたかもしれません。
というわけで、次回の出題は現時点では未定です。

 

(2007.2.11 七郎)


第118回(2006.12.24)出題の解答

「真T 氏作」 PWCばか自殺ステイルメイト 97王 +飛角2, 57玉 #10

 

【出題時のコメント】

 現在、神無次郎氏が今までとはちょっと異な るfmを開発しています。従来のfmはいわゆる「深さ優先探索」のアルゴリズムを採用しています。これに対し、現在開発中のfm(以下、nfmと呼びま す)では、「幅優先探索」のアルゴリズムが用いられているのです。一応言葉の意味を説明すると、「深さ優先探索」は「とにかく行ける所まで行って、だめ だったら引き帰してやり直す」タイプの手の読み方で、「幅優先探索」は「すべての可能性を考慮して一歩ずつ前に進む」タイプの手の読み方です。
 このnfmは手の狭い超長編に非常に強く、fmでは解けなかった「
寿限無2」(38889手)や「寿限無3」(49909手)を数分で解くことができます。私のマシンでは「寿限無2」が4分半、「寿限無3」が1分でした。正に驚くべき性能です。
 ただその代わりと言っては何ですが、nfmは非常に多くのメモリを消費します。例えば
西田尚史作「ゴールドベルク」(作 意5119手)を解かせると1000手を過ぎたあたりで、メモリ不足(私のマシンは2GBのメモリを搭載しているのですが)になりました。手の広い作だと 短編でもメモリ不足になることがあります。ですから、nfmがfmに取って代わるわけではなく、問題に応じて使い分けることになるでしょう。ただし、将来 パソコンのスペックが上がり、10GBや20GBのメモリが普通に搭載されるようになれば事情は変わるかもしれません。
 nfmはまだいろいろ実験中で、いつどのように公開するか未定ですが、その時は、このページでお知らせしたいと思います。

 さて、今回の出題は最近解答と創作の両方でめきめきと頭角を現してきた真Tさんの作品です。第10回PWCばか詰作品展(PWC4)では、5手の超短編で邪魔駒発生の構想を見せてくれた作者。果たしてこの作品はどんな構想を見せてくれるでしょうか。皆さん、ぜひ解答を!


 

【ルール説明】


【詰手順】

79角 66玉 99角 88飛 86飛 同飛生/88飛 98飛 88銀 同角右/79銀 77銀 まで 10手

動く盤面で鑑賞する(JavaScript/CSS使用,IE専用)

 

 

 

【解説】

 「ばか自殺ステイルメイト」で攻方の王が盤の隅から2マス離れた場所にあるものには、割と共通した特徴があります。例えば本サイトの第75回出題(神無七郎作)や、第18回神無一族の氾濫の第4番(神無六郎作)、あるいは第21回神無一族の氾濫の第2番(神無六郎作)を見てください。盤の隅から角・飛の順に配置して、その利きの焦点を何かの駒で蓋をするという方法で攻駒の封鎖を実現するのです。
 ところが本作、持駒が飛角角なので、99角・98飛と並べても、88地点で蓋をする駒が角になってしまいます。これが通常のルールだと、88角を閉じ込 めるなんてとても無理ですし、99地点の角と88地点の角の利き筋が重なるという難点もあります。また、98地点に飛を配置するのにも手間が掛かります。

  それらの問題を解決するのが、本作に出てくるPWC特有の手順です。PWCでは王手を掛けた駒も、王手を掛けられた玉も動いていないのに、合駒を動かすこ とができる場合があります。本作では6手目の 86飛 同飛生/88飛 の手順がそれで、実に効率よく99角98飛の配置を実現します。そして、続く2回の銀合によって、もう1枚の角も閉じ込めてしまいます。最初の銀合が角の 順並びを作り、次の銀合で角に蓋をするわけですね。最終形で角が動くと、銀の逆王手を食うため、攻方はこれで指す手がなくなっていることを確認してくださ い。
 穏やかな3手の序から始まって、PWC特有の効果で畳み掛ける密度の高い手順の主部に移行する本作の構成は、短編のお手本のような見事さです。今回は実 現しませんでしたが、作者は66玉型で88角から入る2手の序を入れることも検討していました。作品の質を高めることに貪欲なこの姿勢を貫いていけば、今 後も好作・傑作を生み出せることは間違いないでしょう。

 

【正解者及びコメント】 (正解4名:解答到着順)

 

北村太路さん

まず問題図を見て思ったのは「大駒3枚もあって本当にステイルメイトにできるの??」という驚きでした。
詰上図から考えていくつか思いついて色々形はありそうですが、実際10手でその形に出来なさそうなものばかり、でした。
その中で今回の詰上図が一番可能性がありそうだったのですが、どうもうまくいきません。
ふと、「なんでこの図は盤面右側を使ってないのかなぁ。」と思って左右反転させて考えたら(盤面左側の理由はわかりませんでしたが)気分転換になって、この手順を思いつきました。
ネックになっていたのはやはり9八飛をどう実現するか、だったのですが、ふと空王手に気づいたときは嬉しかったです。この問題もピンされているように見え る駒も状況によっては動くことができる、王手駒が動いていないのに合駒が直後に動く、という問題でしたね。
解き終わると前回の伊達さんの問題とどこかしら似た雰囲気があります。
問題図が双裸玉で美しい、最初にステイルメイトということで驚きがあった、ということで今回の作品は結構気に入ってしまいました。前回の伊達さんには申し訳ないのですが。

ピンされているはずの駒が動けるいうのは、PWC独特の感覚なため、そういう手順が含まれている作品は、なかなか難しいですよね。しかも、今回は動く合駒が飛ですし。
この合駒が動けるときと動けないときの条件をいろいろ分析すると、何か構想作が出来そうな気もします。北村さんなら、そこから新手筋を発見できるかも。

 

もずさん

第18回神無一族の氾濫第4番のキルケば自ステイルメイト14手(神無六郎氏作)のように
玉飛角の並びで動きを縛るパターンは第一感でしたが、
88に玉方の何の駒を置いてもうまくいかないので悩みました。
88角を銀2枚で縛るのが10手で達成できるとは意外性があります。
左側配置なのは、88に角がいるのが自然だからでしょうか。

盤の右か左かは作者の趣味だったり、作図時の偶然だったりしますよね。この作の場合はどうでしょうか。
私は偶然に任せる(たまたま右側配置で作っていたら、右側配置で出題する)場合が多いですが、双裸玉などの簡素図のときは最終的に左右反転して、右に構図 を持っていくようにしています。これは普通詰将棋の慣習に倣ったというより、作品の整理・検索の便のためという意味合いが強いですね。

(1.18追記)
真Tさんから、左側配置についての次の回答が来ました。意図的なものではなかったようですね。

盤面左側配置についてですが、右側に配置するのが普通なんですね。
たまたま、左側で思いついた手順だったので左側になっています。
基本的に思いついたままを用いていて左右反転はしていません。
そこで自作について、ふと思ったのですが、左側からの攻めが多いということ。
本作についてもそうですが、PWCの5手も、さらに安南の5手(左右対称ですが、作意は左から(笑))も、普通詰将棋についてもそうでした。
ということは、自作については左からの王手を読めば解き易い?のでしょうか(笑)。

 

瘋癲老人さん

駒が減ることはないので効率悪く自駒を囲わなければならない。
とすると飛角の形はこの形しかないのだが79角、99角の手順と98飛がうまく繋がらず一苦労。
88に飛を置いてしまえばすぐに見えるがそこまでがなかなか大変でした。

日本式のPWCでも、駒の増減があるのは桂香歩だけなので、PWCという条件とステイルメイトという目的の組み合わせは、結構相性が良いようです。本作も瘋癲老人さんが大変というだけあって、なかなか歯ごたえのあるパズルになっていると思います。

 

たくぼんさん

大駒3枚と王を抑えるなんて・・・こんなの詰むのか(ステイルメイトですが)〜と言いながら解図。
なんとなく飛角を隅に押し込める形が想像でき、4手目までは勘で進める。(勘が当たっててよかった) 
5手目で少考いや中考。相変わらずPWC手筋が頭の中では動かない。
盤を引っ張り出して8六飛を発見。最後も角を銀で挟むのはユニークな詰上りでした。
双裸玉でこの手順。恐るべき新人が登場ですね。パラの普通作も水準が高いし、第2の神無七郎になって欲しいと思います。

nfmは強力な助っ人になりそうですが、私の貧弱なPCでは手に負えなそうですね。

いやいや、「第2の神無七郎」なんてケチなことは言わず、もっと上を目指しましょう!
nfmは強力で「森茂追悼作品展」向けの創作でも大いに助けられました。近い将来公開するときが来ると思いますので、たくぼんさんも次回PCを買い換える時には「どれだけメモリが増設できるか」を選択の基準にしたら良いと思います。

 

九 州G別館やたくぼんさんの所の作品展で「ば自」系の作品を扱っていないせいか、うちで「ば自」系作品の投稿を受けることが多くなりました。私は「ば自」系 歓迎なので、もし「ば自」系のため発表場所に困っている作品があれば、本ページの利用も検討してください。現在のところ投稿作品の在庫は1で、それは次回 に出題する予定。つまり今投稿すれば、次々回に登場のチャンスがあるというわけです。求む投稿。

 

(2007.1.14 七郎)


第117回(2006.11.26)出題の解答

「伊達 悠 氏作」 PWC打歩ばか自殺詰 38王58香 +飛角香, 45玉67龍 #10

 

【出題時のコメント】

 

 今月18日の更新で提供したfm2.65f版ですが、皆さんはもうダウンロードされましたでしょうか?
 特に今回は「安南」や「安北」に関する重大な読み抜けがあったため、もしこの条件を含むルールの作品を作った(あるいは作っている)方は、可能な限り最 新版での再検証を行うことをお勧めします。私も、このサイトのトップページ出題作や「氾濫」などで出題した作を、今回の最新版で再検証しました。結果、そ の範囲内では問題となる作は見つからなかったのですが、「神詰大全」で取り上げた作の中に余詰が見つかりました。この作品がそうです。

安北ばか自殺詰 24手

  これは「七郎のフェアリーセレクション」として、fmを用いて機械的な手法で発掘した作品を紹介したコーナーの中の一局です(3番目の紹介作)。4手目の 逃げ方が、45玉と55玉の2通りあり、55玉の解の方が検出されていませんでした。一見すると55玉では2手余分に掛かるように見えるので、当時 (1997年頃)は全然不審に思わなかったのですが、もしこの時に気付いていれば、このバグが9年も放置されることはなかったわけです。ということは、も しこの間に「隠れた余詰作」があったとすれば、私にも原因の一端があることになってしまいます。解答募集が行われた作についてはたぶん大丈夫だとは思いま すが、それにしても気が重い話ですね。皆さんもご自分の「安南」「安北」絡みの作品が大丈夫か、確かめてみてください。

  さて、懺悔話はこのくらいにして今回の出題に行きましょう。今回は新進気鋭の若手、伊達悠氏2回目の登場です。ルールは例によって「打歩」絡み。打歩以外 の詰みを「失敗」とする「単純打歩」ではなく、打歩以外の詰みを「禁手」とする「完全打歩」の設定ですので、その辺りを深読みしてください。


 

【ルール説明】


【詰手順】

25飛 35香 同飛/25香 46玉 19角 37桂 49香 同桂成/37香 36香 37歩 まで 10手

動く盤面で鑑賞する(JavaScript/CSS使用,IE専用)

 

 

【作者のコメント】

 この作品、最初は香打〜金合〜取って9段目 に持っていく作品でした。それはそれで完全にはなったのですが、どうも月並み。どうにかできないかなと考えてふと思ったのがこの手順。この手順だったらあ まり多く配置しなくてもよいかも……と思い、試しに受け方4ニ飛を配置しました。しかし余詰が1つあり(その余詰もなかなか巧妙でしたが)、泣く泣く5八 に受け方角を配置しました。

「伊達悠 作(原図)」 PWC打歩ばか自殺詰 28王 +飛角香, 15玉42龍58角 #10

  しかしそれでは、飛車は合駒制限、角は余詰消しというだけの役割しか持たない図になってしまいます。どうするか悩みました。そこで橋本氏からのメールが。 「なんだろう?」と思って開いてみると、上の問題図がありました。その図をよく見ると……「いい改作だな〜」と思わず唸ってしまいました。
 受け方龍の配置の意味合いは橋本氏に譲ることにします。ということで「これにします」と申し上げて一件落着。無事OFM出題となりました。
 本作品の好みは、@角の遠打限定、Aそれに対する桂合〜香遠打〜同桂成、そしてやはりB詰上がりです。駒場和男氏の作品集「ゆめまぼろし百番」の一節を借りて言うなら「妙手ではなく妙手順に意外性を感じるもの」というものになったのならば満足です。

 

【解説】

 第114回出題で 「アンチキルケ打歩ばか自殺詰」という、かなりマニアックなルール設定の作品を見せてくれた作者ですが、今度はPWCルールの打歩ばか自殺詰を披露してく れました。前作同様「完全打歩」というルール設定で、いわゆる法則系の詰上りを構築する凝った手順ですが、配置がスッキリしている分、作者の上達を感じさ せます。

 さて、本作の解図にあたっての大きなポイントは2点あります。

 まずは、攻方王の退路をどうやって断つかという問題です。
 受方が歩を打ったとき打歩詰となるような局面を作るわけですから、攻方の王をどう包囲するかが問題になります。攻方王の右側は香で簡単に塞げるとして、下側と左側はどうやって塞ぐのでしょう?
 こういうときの定番の方法は、王の斜め下に金を発生させることですが、いきなり 49香 48金 同香/49金 … などとやっては、受方玉を46に持ってこれないので、最後の37歩を打歩詰にする手段に窮します。この難点を解決するのが、「金」の代わりに「成桂」を発生させるという大技で、具体的には7手目の 49香 同桂成/37香 の交換手順がそれを実現する妙手順です。PWCでは、ピンされているように見える駒も状況によっては動くことができるのですが、これはPWC慣れていないと盲点になりやすいので、独特の感覚が必要です。

  もうひとつの問題は詰上りの判定です。実は本作、打歩の判定手続きが通常の法則問題より1段深く設定されています。つまり最終手の37歩に対し、通常は 「同角と取れば受方の玉を打歩以外で詰めてしまうので反則。従って同角と取れないので、37歩で打歩詰」で打歩判定は終わるのですが、本作では67龍が利 いているので打歩判定は龍で取り返した先まで読まなくてはいけません。即ち、「37同角に同龍/67角とするのは攻方の王を打歩以外で詰める反則、従って 同龍/67角と取れない。すると37同角は受方の玉を打歩以外で詰めてしまうので反則。従って同角と取れないので、37歩で打歩詰」という複雑な判定手続 きが必要となります。出題時のコメントで「深読み」を太字にしたのはこういう意図があったのでした。

  なお、打歩判定に2段階の読みが必要となる作は、本サイトでは初めての出題ですが、実は詰パラではすでにその種の問題が出題されています。2005年9月 号の5番、神無太郎さんの作品です。「打歩」の解釈を「完全打歩」とした場合は、このような多段の打歩判定が必要な場合があるので、それも念頭に置いて解 くようにしてください。

 

 

【正解者及びコメント】 (正解6名、感想1名:メール到着順)

 

もずさん

詰め上がりの形は想定しやすいですが、49香から金合させて49に金を置きたくなります。
桂合から空き王手がPWCらしい手筋でした。
はじめは67龍をどう動かすかで悩んでいて、結局最後まで動かないのは意外でした。

王手駒が動いていないのに、合駒が直後に動くというのはPWC独特の感覚ですよね。
本作は桂と香の交換ですが、もずさんの「PWC打歩ばか詰」で飛と角を交換する作品(
第7回PWCばか詰作品展の第2番)があって、解くのに凄く苦労したのを思い出します。

 

真Tさん

詰上がりが本当に詰んでいるのか自信がありません。
同角は次の同龍/67角が打歩詰ではないので禁手。禁手しか指せない局面ということは詰み。打歩詰ではないので同角も禁手。つまり、37歩で詰み、でいいのでしょうか?
なんか「最後の審判」を思い起こしました。
19角、37歩までと思わせておいて、5手目に角を使うのがいい感じです。

詰上りの判定に再帰的手続きが必要なところが「最後の審判」によく似ていますね。
ただ本作の場合、王手の千日手の禁止という指し将棋用のルールを利用しなくても良いので、その採否によって結論が変わるということはありません。

 

若林さん

相変わらずお見事です。
配置から明らかに2段階法則系の収束を目指す訳ですが、なかなか理詰めでいけそうで思いつきませんでした。
キーは49金の発生ですが、これを成圭で実現させる構想に思い至るまでに時間がかかり、なかなか楽しめました。

初形で2段階法則系の収束と看破するとは、さすが若林さんです。
あるいは自分でもこの種の作品を作ろうとしていたとか?

 

 

神無太郎さん(感想)

67龍がいかにも無造作な気がしましたが、やっぱり要らないようです。

「伊達 悠 作(神無太郎改案)」 PWC打歩ばか自殺詰 38王58飛 +飛角香, 45玉 #10

打歩ば自は余詰にくいので、裸にする 59飛 58香 同飛 45玉 の4手逆算が入りそうな気がします。

2段階法則系の詰上りではなくなってしまいますが、作品の完成度自体は場合こちらの方が上でしょうね。私も「この配置が成立するかな」とチラッと思ったのですが、2段階法則系の詰上りの作を出題する誘惑の方が強かったので、確かめようと思いませんでした。
もし双裸玉にする4手逆算が成立していたら、それが決定版になると思いますが、大駒3枚14手では、fmでの検討にも時間が掛かりそうです。結論が出たら追って報告します。

 

2008.5.7 追記

結論が出ました。4手逆算は成立しません。

双裸玉化は可能か?

(作意)
59飛 58香 同飛 45玉 25飛 35香 同飛/25香 46玉 19角 37桂
49香 同桂成/37香 36香 37歩 まで 14手

(余詰)
53飛 44玉 49飛 48金 同飛/49金 45角 33飛成 55玉 58飛 46玉
19角 28金 同角/19金 37歩 まで 14手

(余詰順の詰上り図)

余詰!

マシンが空いたときにコツコツと検討を続けていたのですが、5720時間後、遂にこの余詰が見つかりました。
やはり世の中にはそうそう美味い話は転がっていないようです。


 

北村さん

結構難しかったです。2日くらいでパッと思いついたらすぐ解けましたが。
位置がビシビシ限定されていて大変凝った事をしているのもわかります。
が、個人的には全然面白くなかったです。
個人的に不調なのが最大の原因ですが、禁手の禁手までくるとちょっとくどいからかもしれません。
ネタバレでも出題時に説明しないと伝わらないし解けないので説明せざるをえないのですが、説明を聞いたらさすがにやることもわかっちゃうので、手順を探すのが解く楽しみじゃなくて単なる確認作業になってしまったのも原因だと思います。
本当に手順の一手一手はそれぞれ中身のある手なんですが。うーむ。

今回2段階法則系の詰上りの作品を出題したのは、解答者の反応を確かめたいという意図もありました。
現在「打歩」のデフォルト解釈は「完全打歩」になっているのですが、これだと法則系の詰上りなのか、ただの打歩の詰上りなのかルールからは分かりません。
私自身は法則問題であることを隠すのは意味がないと思っているので、「打歩」のデフォルト解釈を「単純打歩」にして、法則系の作品の場合だけ「完全打歩」 と明記して出題した方がスッキリして良いと思っています。このホームページだけ、そういう用語の使い方をするということもできますが、そうするとますます フェアリーランドとの用語の開きが大きくなってしまうので、二の足を踏んでいます。
皆さんのご意見はいかがでしょう?

 

 

たくぼんさん

締切日の朝に、あわてて図を並べる。
5分くらいで”2五飛 3五香 同飛/2五香 4六玉”、”4九香 4○金 同香/4九金”、”1九角 3七歩”のパーツに行き着いた。
1九角は最後のはずなので前2つを組み合わせたら完成と思ったら、これが組み合わせられない。どうしても玉が46に来ないのです。
ここから15分、3五の飛車に紐をつけることを考えたら桂(成桂)が金の替わりになると気が付きました。(ハタッと膝を打つ瞬間)
1九角を先に打つとは上手い手があったものですね。これは好作。

しかし法則系の詰上りは未だにしっくりきませんね。
詰上り後同角、同龍で先手が打歩でなく詰んでしまうから3七歩は取れないというのは・・・
とても解答者の立場に立ったルールとは思えないんです。
これから新しい人が解答しようとした時、絶対分かり難いはず。ベテランの私ですら、
これで詰みでいいのかな?これで詰んでいるのかな?と思うのですから・・・。
(ちょっとだけ思ったことを書いてみましたが本作を批判するものではありませんので宜しくお願いします)

た くぼんさん以外の方も言及されていますが、19角が攻方の最終手でないのは新鮮ですね。この構成が作品の採用の決め手になったと言っても過言ではありませ ん。私の提案のせいで、詰上り判定にばかりに注目が集まってしまったとしたら、作者には申し訳ないと思っていたので、皆さんがちゃんと手順も見て戴いてい るのに安心しました。
また、法則問題についてのたくぼんさんの見解は正に正論ですが、たくぼんさんのページでも、「打歩」は「完全打歩」で出題されていますよね? これは「1 段の法則問題なら良いが、多段の法則問題は嫌」ということなのか、「1段の法則問題でも嫌だが、現在の用語解釈に合わせた」のどちらなのでしょう? 後者 なら、このホームページでは「打歩」のデフォルト解釈を「単純打歩」とする呼び方を復活することも検討します。

 

 

瘋癲老人さん

見てすぐ反則手順では詰んだんですが、49は金で逆算したため本手順には至らず。
その後はPWCの14番に翻弄されてました。
桂と香が入れ替わるのは人間には見えにくいです。

瘋癲老人さんからは第10回PWCばか詰作品展の拙作(第14番)の追加感想も戴きました。(ここではその文は省略しています。)
この短評を見ると、本作の解図途中で拙作の解図作業にはまってしまったようですが、私の問題のせいで、本作への解答が一通減らなかったのは幸いでした。

 

 

今回は解答6名、改良提案付きの感想1名で、最近の解答減少傾向に歯止めが掛かった感じがします。次回以降もこの上向きの傾向が続くことを期待します。
なお、次回の出題も投稿作品。次々回の出題も投稿作品です。ようやく、このトップページでの出題も「公式発表」らしくなってきて、管理人として嬉しい限りです。

 

(2006.12.17 七郎)


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