|
「龍の顎」全手順の棋譜ファイル:agito.fmo(約65KB)またはagito.exe(自己解凍形式、約4KB)
加藤徹「寿限無」の完全限定化案(森茂・橋本孝治による)
「寿限無」の完全限定化案の棋譜ファイル:jugemu32.fmo(約163KB)またはjugemu32.exe(自己解凍形式、約6KB)
(「寿限無」の正図に関しては作者ご自身のサイトのhttp://www.ne.jp/asahi/tetsu/toybox/kato/fbaka4.htmをご覧になってください)
寿限無の完全限定化案は森氏と筆者の手紙や電話でのやりとりの中で生まれました。当初から森氏は「龍の顎」について「本作は完全限定ばか詰の最長手数作品となりますが、永久に記録保持ができるとは思っておりません」と表明していました。その具体的な検証作業が「寿限無」の完全限定化の研究です。この研究は次のように進められました。
以上の経緯から分かる通り、この完全限定化案はほとんど森氏の研究に依っています。特に(3)と(4)は、森氏の発想の豊かさを示していると思います。また、この研究を通して、「寿限無」の持つ柔軟性や大きな可能性を改めて認識させられました。森氏は「完全限定の面で『龍の顎』は『寿限無』に太刀打ちできると思っていましたが、それも覆されてしまいました。『寿限無』の素質の偉大さをつくづく思い知らされました。正に寿限無ですね。」との感想を残しています。
上記「寿限無」の完全限定化案の棋譜ファイル:jugemu36.fmo(約192KB)またはjugemu36.exe(自己解凍形式、約6KB)
鮎川氏が詰パラ1973年10月号に発表し、ばか詰の巨大化の先駈けとなった大作です。発表時の作意は1783手でしたが、森茂氏が1325手という驚異的な手数短縮順を示し、現在までそれが作意手順扱いになっていました。最近の研究でこの作品に1323手の短縮順が判明しましたが、これより短い手順があるかどうかについては結論は出ていません。
作品の構成は、48手で1歩を稼ぐ持駒増幅機構(正確には2歩を使って、3歩を稼ぐ持駒増幅機構)と、その歩及び飛の王手を使ってと金を呼び出してはがす手順の繰返しから成っています。
歩の持駒増幅機構とそれで稼いだ歩を使って、局面操作を行う手順は、その後のばか詰超長編の主流となり、とんでもない長手数作品が次々と生まれてくることになります。鮎川氏自身もこの機構を更に発展させ、1974年の2月には作意約4千手の作品を、1974年の11月には作意約5千手という「怪物」を発表しています。
棋譜ファイル:kato5329.fmo(約28KB)またはkato5329.exe(自己解凍形式、約3KB)
鮎川氏の大作に触発されたか、加藤氏も独自の持駒増幅機構とハガシを組み合わせた5千手越えの大作を発表しました。本作で特に注目すべき点は、「ある筋の歩を下げることによって、次の筋に歩を置くことができる」という再帰構造が部分的にせよ現れていることです。その意味で「寿限無」登場の萌芽はこの作品から育まれていたと言えるでしょう。と金をはがす順番は鮎川氏の作と違い、紛れる余地が少なくなっており、機構的にはよりスッキリしています。
これも発表時の作意は5409手でしたが、森茂氏が5321手の早詰を指摘しています。上図はその指摘順を活かした1976年5月の改訂版です。作意は5349手でしたが、収束に1歩少なくて済む短縮順があるため、5329手で詰みます。この手順は根本的な構想の破綻ではなく、駒も余らないので、これを作意順に置き換えて良いと思います。
作者ご本人のサイト「おもちゃ箱」のhttp://www.ne.jp/asahi/tetsu/toybox/kato/fbaka4.htmには改定前の図や、当時の短評なども載っているので、ぜひ参照してください。
棋譜ファイル:ura3595.fmo(約20KB)またはura3595.exe(自己解凍形式、約4KB)
再帰手順を初めて詰将棋で実現した画期的な作品です。ある筋から右の歩を下げると、その次の筋の歩を下げることができ、その際に右側の歩はまた元の状態に戻ってしまう、そのためまた始めからの手順を全部やり直さないと次に進めない――これを「浦壁手筋」と呼ぶ人もあるほど優れたアイデアであり、ばか詰の歴史に残るべき作品です。
ただしこの作品では歩が真横に並んでいるため、歩の下げ方はかなり不規則性を生じています。この難点を「歩を斜めに配置する」というアイデアで克服したのが「寿限無」と言えるでしょう。
この作品は実験的な要素が強く、発表時は簡単な早詰がありました。改訂版である上図も作意手順のアウトラインしか発表されていないので、どこに原因があるのか分かりませんが、fmで3595手駒余りの早詰が検出されています。作者にはぜひ修正して戴けるよう期待しています。
浦壁氏より待望の修正案が送られてきました。
手数は4637手。もちろん非限定はありますが、駒余り順も解消し、早詰がないことも確認できました。
後世に残るべき作品の修正図が得られたことは、素晴らしいことです。
棋譜ファイル:ura4637.fmo(約49KB)またはura4637.exe(自己解凍形式、約5KB)
上で紹介した作品群を経て誕生した「寿限無」は、超長手数ばか詰の決定版として君臨し、これを越える作品はおろか、その手筋を応用した作品さえ発表されませんでした。もちろん、オリジナルが優れ過ぎているために、ちょっとやそっとの付加価値では発表しても恥をかくだけ、というのが明らかなせいでしょう。ただ、「寿限無」をより発展させようという試みは皆無ではありませんし、将来研究が進んで画期的な応用が現れるかもしれません。そういった願いも込めて、ここでは「寿限無」後、それを応用した作品の試みを私の把握している範囲で紹介します。ただし、正式発表のない図もあるので、ここでは図や棋譜は掲載せず、文章による概要の紹介のみに留めます。
解答強豪としても名を馳せた吉田氏が加藤徹氏作「寿限無」のパロディーとして創作し、加藤氏の了解の下 Online Fairy Mate に発表した作品。題名通り、安南ばか詰・安北ばか詰で「寿限無」の長手数化を図った作品で、「寿限無」の性能変化ルールへの応用の初の試みでした。
前者の「安南寿限無」は安南ルールを利用して、稼ぐ歩の枚数を増やしたのが基本的なアイデア。5筋より左の歩下げなども工夫されていて、パズルとしても充分楽しめる構成になっています。
後者の「安北寿限無」は安北ルールを利用して「寿限無」を2回行うというもの。加藤氏自身の「寿限無2」と作品の構造が同じなので、今となっては価値が薄いですが、性能変化ルールの可能性を感じさせる作品でした。ただ、「寿限無2」と手数もまったく同じというのは不思議な気がします。
加藤氏自身による「寿限無」の改良版。発表は1999年ですが、実際にはかなり長い間ストックしていた作品だと思われます。「寿限無3」は持駒増幅機構を工夫し、歩を1枚稼ぐ手順を大幅に伸ばしたもの。「寿限無2」は香を渡す仕組みにワンクッションを入れて、「寿限無」を2回行うというものです。前者は「おもちゃ箱」の TETSU No.50に収録されているので、そちらをご覧ください。後者は本サイトの 第20回出題に特別出題させて戴きました。
これはもず氏が Online Fairy Mate に発表した作品で、「寿限無」の駒詰への応用です。この作品は(1,0)リーパー、即ち前後左右にしか動けない性能を持つ玉を「寿限無」の要領で詰めるのですが、不自由な動きしか出来ない(1,0)リーパーを使用することにより、「寿限無」のように斜めに並んだ歩ではなく、真横に並んだ歩で規則的な再帰手順を実現しています。手数も4万手を越え、駒詰への「寿限無」の応用が、非常に期待の持てる分野であることを示しているように思います。