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解答


第154回(2009.12.6)出題の解答

「神無七郎 作」 強欲協力詰 13と14と33王 +金4桂2香2歩2, 11銀12香16飛17玉18銀19銀21角25歩26香27桂35角36飛37桂38歩39銀 #59 

【出題時のコメント】

 現在、詰パラ増刊号の企画として「四百人一局集」の原稿募集が行われています。思い起こせば詰パラ300号記念の「三百人一局集」の時、私にはまだロクな発表作がなく、参加はできませんでした。「三百人一局集」は今でも折に触れ読み返すお気に入りの詰将棋作品集なので、今度の「四百人一局集」には必ず参加したいと思います。
 ただ、少し困っているのが代表作の選択です。原稿は1頁に限られており、自分の愛好している長編分野から作品を選ぶことはできません。もちろん畢生の代表作を選ぶ必要はないのですが、中編以下の手数だとどれも決め手に欠ける作品ばかりです。下手をすると原稿提出が締切りぎりぎりになるかもしれません。

 ところで「三百人一局集」の中にある「詰将棋作家の名前」というコラムによると、詰将棋作家には「山本」「伊藤」「小林」「佐藤」の姓を持つ人が多いそうです。どれもありふれた名前なので当然と言えば当然ですが、これが「四百人一局集」になるとどうなるでしょう? 私の姓もありふれたものなので、結構上位に来るのではないかと予想しています。
 ありふれた姓は結構不便です。例えば、名前を呼ばれて返事をしたら呼ばれたのは別人だった、などというのは日常茶飯事ですし、ある病院で自分のカルテのトップに同姓同名注意!と朱書きされていたのを見たときなど、少し命の危機を感じました。詰将棋の世界では本名よりペンネームの方が良く知られている方が結構いらっしゃいますが、これは単に“粋”でやっているだけでなく、同姓の作家との混同を避ける実用的効果もあります。私の場合はペンネームの使用が遅かったので、フェアリー分野のみで「神無七郎」の名義を使っていますが、まだ発表数が少なくありふれた姓を持っている人は、今のうちにペンネームを考えておくのも良いかもしれません。

 さて、今回は非標準駒数の出題から通常駒数の出題に戻ります。比較的易しい作品ですが、WFPの発行間隔との同期及び年末年始のスケジュール調整のため解答募集期間を5週間としています。年内に解図して左団扇で年末を迎えるも良し、年始の解き初めに残しておくも良し。多くの解答をお待ちしています。

 

【ルール説明】


【手順】

29桂 同銀生 18歩 同玉 17金 同飛成 28金 同龍 17金 同玉
18歩 同銀生 29桂 同龍 16金 同玉 15と 同玉 14と 同玉
17香 16金 同香 15金 同香 同玉 14金 同玉 13金 同玉
17香 16金 同香 15金 同香 14金 同香 同玉 13金 同玉
23金 14玉 13金打 同香 同金 同玉 17香 16金 同香 15金
同香 14金 同香 同玉 13金 同玉 12金 同玉 23金 まで 59手


詰上り

動く盤面で鑑賞する(Flash版)Flash Player 9が必要です)

動く盤面で鑑賞する(Silverlight版)Silverlight 3が必要です)

 

【解説】

 香で金を稼ぎ何度も玉を追い落とす後半の手順が本作の主眼。合駒として使える駒が増えると余詰が出るので、これ以上繰り返しを増やすことはできませんでした。序盤は合駒制限のための配置を使い切るために入れたもので、17地点に受方の利きが残らないよう銀を常に不成で使うことに気をつければ、それほど難しくなかったと思います。

 ちなみにこの趣向は、WFP17号の第4番たくぼん氏作の強欲強力詰を解いているときに思いついたものです。そのときは「これはだんだん駒が増えるサイクル拡張型の趣向になるかも…」などと取らぬ狸の皮算用をしていたのですが、現実には余詰に負けて最小限のサイクルで終わってしまいました。このルールでやるかどうかは分かりませんが、いつか再チャレンジしたいものです。


【正解者及びコメント】(正解7名:到着順)

香箱さん
17香を可能にして金合いさせればあとはオートマチック。
湯水のごとく使ってもすぐに手元に戻ってくる金。人生も斯くありたい。
香箱さんの解答は出題当日の深夜に到着。ダントツの最速解答です。確か出題自体も結構遅い時間だったと思うので、正に瞬殺だったのでしょう。
現実では金は使ったらなかなか戻ってくれないので、詰将棋では景気良く使いたいものですね。

若林さん

強欲はあまり解いたことがなく、不慣れな分手間取りましたが連合のリフレインが面白かったです。
最後4連合にできたら楽しいですね。

序の16手は金を渡す、銀生のスイッチバックなどの様式美はありますが、
解図という立場では必然手になってしまってちょっと残念でした。
確かに最後は4連合になるまで頑張るべきだったかもしれません。
序盤は合駒制限がただの飾りにならないように後から付け足したものなので、ちょっと物足りなかったと思いますが、どうかこれでご勘弁ください。

渡辺さん

最初は玉を横から引っ張り出そうとして王手が続きませんでしたが、「後に引っ張り出せば香車を使って駒が稼げる」ことに気付いたとたんに出来ました。
(後手の持駒が「歩」だけと種類が少ないので合駒を取る手順が出る(本問だと飛合との選択による余詰が出にくいので)ことは予想していたのですが...)
よく考えれば、二枚の「と金」の存在意義から玉を後に引っ張り出すのが自然なのでした。
解いてみると12香を手順に奪ってさらに駒数稼ぎをするのがなるほど、と思いました。

前回、私自身について書きませんでした。
詰将棋はやらなかったのですが、将棋関連のパズルとではチェスPGをやっていました。
おもちゃ箱で推理将棋を知って以来、推理将棋にはまっています。
詰パラでも推理将棋を数作採用して頂いていますし、おもちゃ箱でも10作前後採用して頂いています。
(神無七郎さんも、おもちゃ箱の18-1を解答して頂いています)。

OFMを知ったきっかけはmixiの推理将棋のコミュニティ→たくぼんさん→WFP→OFMという流れです。
なるほど、推理将棋の方で活躍されている渡辺さんでしたか。これは、普通に推理すれば当てられるはずでした(何とも鈍い私)。今後はフェアリーでの活躍も期待します。
ちなみに解答のメールにあった別件にこちらから何度か返信したのですが、届いていますでしょうか?
もし届いていないようでしたら、別のアドレスあるいは連絡法をお知らせ下さい。

たくぼんさん

持駒の香と歩の使い方を考えれば香打ち〜合駒の手順はありそう。
合駒打順限定しようとすれば同一駒連合だろう。
とすれば序は17に香を打てるようにすれば・・・。
と思い通りの展開で解図が出来ました。
こりゃあ平成22年はいいことがあるかもね。
一連の煙詰や趣向作で、もう強欲詰については大家と言って良いたくぼんさん。本作も楽々解図されたようです。
解答、創作、そして近年では編集者としても大活躍のたくぼんさん。今年も期待していますよ。

市村道生さん

下段での龍の閉じ込め手順はスリル満点。
中盤以降は、派手な金の消耗戦。景気が良かった頃を、懐かしく回顧しました。
市村さんの解答用紙には手順だけでなく、詰上り図も添えられていました。
この作品のように途中に手順前後などの紛れがない作だと、詰上り図だけでも解けているかどうかが分かります。
手順が一本道で、書くのが面倒そうな作品の場合は、「詰上り図だけでもOK」という解答募集の仕方も試してみたいと思います。

瘋癲老人さん

飛車をやり過ごしてしまえば後は香打ち、金合の繰り返しで軽快に詰め上がる。
今年は難解な強欲詰に悩まされたせいかこういうのはほっとします。
強欲詰は難解作も作れるのですが、元々は着手制限型ルールなので、本作のような軽趣向も作りやすいはず。
もっとこのルールを手掛ける人が多くなれば、きっと多彩な趣向が見られるのではないかと思います。

雲海さん

導入部が少々厄介でしたが、後は(と)金を捨てて、香で金合させる、という趣向で楽しめました。
解いている途中、機構は違うのに(共通点はありますが)なぜか「明日香」を想起しました。
また1筋の受方の香の数を増やせないかと、少し考えてみましたが難しそうですね。
添川氏の「明日香」は看寿賞を受賞した傑作。「おもちゃ箱」のページで金合回数の記録作品としても登録されていますので、ぜひ鑑賞してください。
香の数は私も増やしたかったのですが、余詰で断念。ちょっと無理っぽいですが、どうにかして実現したいですね。

WFPの発行間隔と出題時期を合わせるため解答募集期間を5週とした今回の出題ですが、その効果があったのか、わずかながら解答が増えました。
これで2009年分の出題が終わりましたので、後日集計して2009年の解答成績を発表したいと思います。
次回は久々にフェアリー駒が登場の予定。せっかく増えた解答がまた減らなければ良いですが…

 

(2010.1.10 七郎)


第153回(2009.11.8)出題の解答

「神無七郎 作」 Isardam(タイプB)協力詰 @@ 11金12香21金22香41王62香71銀72香81銀82香92香 +歩76, 14玉16と26と33と34と36と43と44と46と51角53と54と56と61飛63と64と66と73と74と76と83と84と86と93と94と @+ #323 

【出題時のコメント】

 今回の出題のちょうど前日、「将棋と科学」(http://minerva.cs.uec.ac.jp/~ito/entcog/)と題した企画がありました。コンピュータ将棋は近年さまざまな新技術が出現し、興味深い展開を見せていますが、特に目を引いたのが「文殊」―思考システムを複数使って合議制で指し手を決定するシステムです。ちょっと話を聞いただけでは本当に効果があるのかどうか疑わしい「合議」という手続きが、実際に棋力アップをもたらしているという所に面白さを感じます。コンピュータ囲碁でも近年「モンテカルロ法」という、これまた話を聞いただけでは俄かには信じがたい手法が実績を挙げていましたし、最近のゲームプログラミングの分野は本当に見ていて退屈しません。
 この日のイベントでも「文殊」はそれぞれ微妙に性格の異なるBonanzaを6つ並行稼動させ、その合議によって指し手を決定していました。ただ、今年5月に行われたコンピュータ将棋選手権のときとは異なり、単純に「多数決」で結論を出すのではなく「最も評価値の高い手」を結論にするという新しい意思決定の仕組みを採用したそうです。これが単純な多数決より優れている理論的な裏付けはまだ出来ていない(統計的には良い成績を残している)そうですが、逆に考えればまだ伸びしろがあるということで、今後の発展に期待が持てます。

 この「合議制」、私達の日常生活に決して無縁のものではありません。上は国の意思を決める国会から、下は文化祭の出し物を決めるホームルームまで、およそ人の集まるところには必ず「合議」が出現し、異なる意見の比較考量や集約が行われます。当面はこうした人間社会に既に存在する意思決定のモデルをシステムに取り入れる方向で研究が進むのでしょうが、理論が人々の予想を超えて発展し、人間社会に逆輸入しても良いくらいの意思決定方法が生まれないとも限りません。科学の発展は、しばしば一見無駄にしか思えないような研究から生まれてきます。将棋が科学の発展に役立っても、少しも変ではありません。

 さて、そろそろ話を将棋より科学の発展の役に立たなそうな詰将棋の世界に移しましょう。今回の出題は「非標準駒数」シリーズの第3弾。手順は長いですが、単純な趣向作ですので、最初と最後だけ頑張れば普通に解けると思います。今回も受方の持駒は関係してこないので、受方持駒は「なし」でも「無制限」でも好きなように考えてください。

 

 

【ルール説明】


【手順】

15歩 13玉 14歩 23玉 13歩成 24玉 25歩 同と上 14と 同玉
15歩 13玉 14歩 23玉 24歩 同と上 13歩成 33玉 34歩 同と左
23と 同玉 24歩 13玉 23歩成 14玉 15歩 同と寄 13と 24玉
25歩 同と上 23と 34玉 35歩 同と寄 24と 同玉 25歩 13玉
14歩 23玉 24歩 33玉 34歩 同と上 23歩成 同玉 13歩成 24玉
25歩 同と上 23と 34玉 33と 同玉 34歩 23玉 24歩 同と
33歩成 13玉 14歩 同と寄 23と 同玉 24歩 33玉 23歩成 34玉
33と 24玉 25歩 同と右 23と 34玉 35歩 同と上 33と 44玉
45歩 同と寄 34と 同玉 35歩 23玉 24歩 33玉 34歩 43玉
44歩 同と上 33歩成 同玉 23歩成 34玉 35歩 同と上 33と 44玉
43と 同玉 44歩 33玉 34歩 同と 43歩成 23玉 24歩 同と右
33と 同玉 34歩 43玉 33歩成 44玉 43と 34玉 35歩 同と右
33と 44玉 45歩 同と上 43と 54玉 55歩 同と寄 44と 同玉
45歩 33玉 34歩 43玉 44歩 53玉 54歩 同と上 43歩成 同玉
33歩成 44玉 45歩 同と上 43と 54玉 53と 同玉 54歩 43玉
44歩 同と 53歩成 33玉 34歩 同と右 43と 同玉 44歩 53玉
43歩成 54玉 53と 44玉 45歩 同と右 43と 54玉 55歩 同と上
53と 64玉 65歩 同と寄 54と 同玉 55歩 43玉 44歩 53玉
54歩 63玉 64歩 同と上 53歩成 同玉 43歩成 54玉 55歩 同と上
53と 64玉 63と 同玉 64歩 53玉 54歩 同と 63歩成 43玉
44歩 同と右 53と 同玉 54歩 63玉 53歩成 64玉 63と 54玉
55歩 同と右 53と 64玉 65歩 同と上 63と 74玉 75歩 同と寄
64と 同玉 65歩 53玉 54歩 63玉 64歩 73玉 74歩 同と上
63歩成 同玉 53歩成 64玉 65歩 同と上 63と 74玉 73と 同玉
74歩 63玉 64歩 同と 73歩成 53玉 54歩 同と右 63と 同玉
64歩 73玉 63歩成 74玉 73と 64玉 65歩 同と右 63と 74玉
75歩 同と上 73と 84玉 85歩 同と寄 74と 同玉 75歩 63玉
64歩 73玉 74歩 83玉 84歩 同と上 73歩成 同玉 63歩成 74玉
75歩 同と上 73と 84玉 83と 同玉 84歩 73玉 74歩 同と
83歩成 63玉 64歩 同と右 73と 同玉 74歩 83玉 73歩成 84玉
83と 74玉 75歩 同と右 73と 84玉 85歩 同と上 83と 94玉
95歩 同と 93と 84玉 83と 74玉 73と 84玉 85歩 93玉
83と 94玉 84と まで 323手


詰上り

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動く盤面で鑑賞する(Silverlight版)Silverlight 3が必要です)

 

【解説】

 盤面に大量のと金が配置されているので、これを片付けていく問題であることは初形を一見して予想できると思います。また、1段目の配置に着目すると角の利きが24地点に届いており、これが右辺での詰型を消していることが分かります。盤の反対側である84地点には角が利いていないので、玉を9筋に持って行って「85歩84と」の形を作る方針を立てることも比較的容易だと思います。

 ただ、その方針に沿ってと金を片付けようとしてもIsardamの条件に引っ掛かって、一筋縄では行かなかったと思います。まず、と金を移動させるために空間を充分に確保しなければいけません。そのために、右に寄せたいと金を敢えて一旦左に移動しておく必要が出てきます。序盤の19手目に出てくる「34歩 同と」はその一例ですが、趣向のサイクルに入っても5段目でと金を一旦左に寄せる手順が入ります。

 次にポイントになるのが39手目から「25歩 13玉 14歩 23玉 24歩 33玉」と歩を並べていく手順です。ここで「13玉 14歩」の2手を省略して「25歩 23玉 24歩 33玉」とすると、後でと金を作るために「24歩 13玉 23歩成 14玉 13と 24玉」と余分に手間を掛けねばならず、手数オーバーとなってしまいます。“急がば回れ”の典型例のようなミニ伏線ですね。

 この2点がクリアできれば収束までは一直線ですが、最後に小さな罠が待っています。313手目「93と」のところ、ついつい今までの癖で「84と」と進めてしまうと1枚余分に歩を消費してしまうのです。意識的に設けた罠ではありませんが、作意と同手数なのでかなり嵌り易い手順だと思います。

 この作品は最初は標準の駒数で作っていたのですが、序奏+1サイクル+収束で駒を使い切ってしまったため、趣向作になりませんでした。そこで開き直って、98枚の歩を使う非標準駒数作品に仕立て直したという経緯があります。また、6段目に並べてあると金は作意に関係なく、歩の並びでも構いません。視覚的な観点からこの配置にしています。(と金配置のおかげで、fmでの検討時間が歩配置の100倍以上掛かりました……)


【正解者及びコメント】(正解4名、解答1名:到着順)

渡辺さん(初解答)
確かにヒントにあった通り最初を抜けるのと、最後に歩が一枚足りなくなりそうなのがポイントでした。
最後はと金で余計に追って歩を省略しても手数は伸びない仕掛なんですね。
渡辺さんは初解答。フルネームは記載されていなかったのですが、「詰将棋は不得意ですが、入れ換えパズルなら出来そうなので挑戦しました」とのことなので、フェアリーだけでなく詰将棋の分野でも初デビューか、それに近い新人の方だと思います。
しかし、パズル的に処理できるとはいえ、この問題を解ききって一番に正解を送ってくるとは驚きです。今後が大変楽しみな新人が現れました。

若林さん

序は比較的すんなり入れたのですが、趣向手順探しに手間取りました。
36手まで並べて初手に戻ることを繰り返していました。
歩を横に3枚並べるのが盲点になっていたようです。
どこか箱入り娘を連想させる作品ですが、ピースが歩、と金、玉だけでとても綺麗な手順を楽しませて頂きました。

<余談>

51角が無いときの右側で詰ませる手順探しに意外に手間取りました。
また、6段目のと金枠も、壊そうと思えば壊せるのが印象的でした。
壊したところで歩だけではどうやっても詰みませんが。
140回出題(攻方取禁でと金群を掘る作品)などもあわせて考えると、fmの99枚という駒数制限を超越した作品の登場もありそうです。
打ち捨てを多用して局面を変化させる作品ではとんでもない枚数の作品が可能かもしれません。
また、駒数無制限で真っ先に浮かんだのが、81マス全駒配置の(強欲)煙です。
純度95.1とは対極にあたる作品ですね。おそらく強欲煙を作られた方なら成立させるだけなら可能でしょう。初手に取った駒の処理がポイントでしょうか。

<完全に別の話>

と金の密集ということで詰パラの「点と線」を連想しましたが、これはとても惜しい作品ですね。
ほぼ自明な非限定(と金のクロス)があるのでおそらく素直な修正は不可能です。
仲人(前後に動ける)などを異歩(二歩が適用される)として採用すれば手順は成立するでしょう。
しかし、それが受け容れられるかどうかに興味があります。
果たして最初から異歩ばか自玉詰として発表されていたらどう思ったか自分自身もよく分かりません。
その場合採用されそうな紙媒体はProblem Paradiseかと思いますが。
現在fmの取扱駒数の上限は99で、本作は98枚の歩を使っています。近々、これが127枚まで拡張された版が提供される予定ですので、楽しみにしておいてください。 ひょっとしたら255枚までは比較的小規模な変更で行けるかもしれないとのことなので、127枚でも足りない構想があったら要望を出してください。
「完全に別の話」は非限定や余詰を消すために特別なルールを付加することの是非、ですね。私だったら、「こんなルールを付けてまで実現する手順じゃないなぁ」と否定的な感想を持つと思いますが、慣れもあるでしょうし、かなり個人差もあると思います。皆さんのご意見はどうですか?
ちなみに「仲人」は第3回神無一族の氾濫で取り上げたことがありますが、結構好評だったように思います。どんなルールでも、それを導入する必然性があるか、解答者や鑑賞者に満足感を与えられるかどうか、が鍵になると思います。

たくぼんさん

FB将棋for FLASHというソフトで図面を作って解図しました。
やはり盤面で動かさないと分かりにくいです。
手順の方は手が繋がるように進めればいいとは思ったのですが、なかなか筋に入らず一筋縄ではありませんでした。
と金を捨てて歩を並べる順に行き当たりやっと前に進んでくれました。
それにしてもこれが氾濫に載らないとはきっと12月号には恐ろしい作品が並んでいるのだろう。
12月号の「氾濫」は多分それほど難しくないと思いますよ。ここ2回の「氾濫」は解答数が極端に少ない状態が続いたので、意図的に長編を減らしています。
でも、非標準駒数作品は盤に並べられないので、それでも解答数が減らないか担当としては心配です。
ちなみに「FB将棋 for FLASH」は「win将棋」(http://www.win-shogi.net/)というページで公開されています。入手、ご利用方法などはそちらをご覧下さい。

雲海さん

綺麗な形に食指が動きましたが、趣向が複雑という毒があり、苦しみました。
と金を右へ格納していくのはすぐわかったのですが、そのためか右へ動かしたと金を左へ動かすのに、空間を作るためとはいえ抵抗があり、趣向部分がなかなかわかりませんでした。
それにしても、このような綺麗な形でこのような手順と手数が表現出来るとは驚きます。
こういう作品を作るコツって何かあるのでしょうか?
基本的にはこの作も試行錯誤で趣向手順になりそうなネタを探し、ネタが見つかったらそれを膨らませたり変形させたりする方法で作ったのですが、試行錯誤を減らす方法はあります。性質の似たルールでの経験を利用するのです。
Isardam(B)は同種の駒を取れない点で「取禁」に似ています。本作のような設定の場合、玉は歩と異種なので駒を取れ、「攻方取禁」に近くなります。また、Isardam(B)では同種の駒の利きに入れないので、密集形にした場合に確保すべき空間は「攻方取禁」より少し大きくなります。従って、「攻方取禁」よりやや緩い密度の密集形を調べれば、Isardam(B)独自の手順が出てくる可能性は高くなる…という具合です。
この方法は似たような手順しか出ない危険もあるのですが、幸運に恵まれればルールの小さな違いが大きな違いを生み出すこともあり、結構面白いと思います。
おそらくIsardam(A)はもっと風変わりな手順が出てくると思いますが、まだ全然研究していません。

市村道生さん

苦手のルールで、しかも、初めてのBタイプの解図なので、前途多難を覚悟したのですが、Aよりもチェックポイントが少ないので、順応できました。
歩の積み替えの趣向部は、可なり頑張った末に、『歩の3枚連続使用』の手順が閃き、一気に解決して喜んだのも束の間、9筋での詰上りで大幅な手順超。
最後の難関は、12手の短縮でしたが、『逆方向、歩の3枚連続使用』の手順の発見で解決した次第です。
美しい初形、粋な積み替え。緻密で精巧な手順。超一流の作品です。
市村さんの解は残念ながら313手目84として1歩多く使った誤解でした。最初に「96歩95と」の詰上りを想定したために、その紛れを乗り越えて油断されたのだと思います。
市村さんはWebの閲覧ができないため、WFP発行から一週間(たくぼんさんに転送して貰っているので実質的にはもっと短い期間)で解かなければいけません。他の方に比べて不利です。
次回は解答期間を長めに取って、本サイトでの出題とWFP発行のペースを近付けるようにしたいと思います。

年末に向け、いろいろとやる事が溜まってきました。ネットフェアリーだけでも短編コンクールや、第5回詰将棋課題コンクールをばか詰で第16回WFPフェアリー作品展など12月が締切りの作品募集・解答募集企画が目白押しです。
更に本サイトの出題ペースをWFPの発行ペースに合わせることも必要ですので、次回の出題は解答期間をたっぷり(5週ほど)取ろうと思います。出題自体は来週に行いますし、難度もそれほど高くない作になる予定です。

 

(2009.11.29 七郎)


第152回(2009.10.11)出題の解答

「神無七郎 作」 協力詰 @@ 37桂47桂58桂59桂69桂77桂79王 +金26銀21桂, 45馬46飛48金53桂54桂55馬56玉57金65龍66銀 @+ #95 

【出題時のコメント】

 英語の接頭辞に「メタ(meta)」という言葉があります。詰将棋の世界では山本昭一氏作「メタ新世界」の命名に使われてから、一時ブームになりました。元々はラテン語由来で、日本語では「超」などの漢字がよく割り当てられます。
 この「メタ」という言葉ですが、狭義には「ある対象を記述したものがあり、さらにそれを対象として記述するもの」を指します。例えば図形の性質を研究する学問が「幾何学」とすれば、幾何学を研究する学問は「メタ幾何学」になります。もう少し具体的に言うと、「三角形の内角の和は180°である」などというのが幾何学の命題で、「ユークリッド幾何学が無矛盾なら非ユークリッド幾何学も無矛盾である」などというのがメタ幾何学の命題になるという具合です。

 このような狭義の意味での「メタ」は詰将棋にも当てはめることができます。つまり、各種の詰将棋についてその性質や関係などを考察することを「メタ詰将棋」と呼ぶわけです。ちょうど今募集している「フェアリー版迷宮の果てに」は、普通の詰将棋と協力詰という2つの世界が交わる領域についての研究です。従って、この企画は「メタ詰将棋」研究の一例ということができます。また、第120回出題の解説では「持駒が多い=有利」かどうかという点から普通の詰将棋を協力詰・最悪詰・悪魔詰と比較しているのですが、これも一種の「メタ詰将棋」的な考察と言えるでしょう。ついでに言えば、最近の「神無一族の氾濫」で「ルール」ではなく「ルールの持っている性質」を指定して作品募集をしているのも、「メタ詰将棋」的な視点を少し意識しています。

 普段フェアリーをやっていると「メタ詰将棋」的な視点で研究したり論評したりということは、特に意識することもないありふれた行為なのですが、フェアリーに携わる人が意識的に「メタ詰将棋」的な視点を持つようになれば、フェアリーに新たな展開が生まれるかもしれません。これは筆者の個人的な感覚かもしれませんが、近年のフェアリーは単に「新しいルールを考えましたよ」とか「こんなルールで作ってみましたよ」の繰り返しで、いつまで経っても草創期から抜けられない状態に陥っているように思えます。今はまだこの概念がモノになるかどうか論じる以前の段階ですが、「メタ詰将棋」からの視点がそんな閉塞状態を打破するひとつの鍵になってくれるのでは……と、そんな希望を抱いて筆者はこの文章を書いています。

 さて、今回の出題は「氾濫31」のお題である「非標準駒数のフェアリー作品」のサンプル第2弾です。受方の持駒の指定がありませんが、この問題は合駒が出ないので「受方持駒:なし」でも「受方持駒:無制限」でも好きなように解釈してください。

 

 

【ルール説明】


【手順】

67銀 同金 57銀 同銀生 66金 同龍 65銀 同馬 55金 同馬左
45銀 同飛 46金 同銀生 57銀 同龍 66金 同金 67銀 同龍
57銀 同銀生 46金 同馬 55金 同馬寄 65銀 同金 66金 同馬
55金 同馬左 46金 同銀生 57銀 同龍 67銀 同馬 66金 同馬上
55金 同金 65銀 同馬 66金 同龍 57銀 同銀生 46金 同金
55金 同飛 45銀 同金 46金 同銀生 57銀 同龍 66金 同馬上
65銀 同飛 55金 同馬 66金 同馬引 67銀 同龍 57銀 同銀生
46金 同馬 55金 同馬右 66金 同飛 65銀 同馬 55金 同馬引
46金 同銀生 57銀 同龍 67銀 同飛生 66金 同馬左 55金 同銀
46金 同龍 57銀 同飛生 68桂 まで 95手


詰上り

動く盤面で鑑賞する(Flash版)Flash Player 9が必要です)

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【解説】

 もし初形で46飛が57にあれば68桂の1手詰。駒を入れ替えてそれを実現しよう――本作の内容を一言で表すとこうなります。玉の移動は不可能なので周辺の駒を動かしてそれを実現するのですが、ここでは金と飛に注目点を絞ってみます。
 可動範囲
 上図で水色で示した範囲が駒を動かせる領域です。さて、ここで強引に飛を57に持って来ようとすると困ったことが起きます。下手な動かし方をすると金と飛が衝突してしまうのです。
 飛と金の衝突
 他の駒は斜めに動けるので割と入れ替えに融通が利くのですが、金は斜め後ろに動けないので飛と衝突しやすいのです。唯一可能な入れ替え方は下図のような経路で動かすことです。
 飛と金の衝突
 飛を45地点に、金を55地点に置く形を作れば、図のように入れ替えが可能です。金は斜め後ろには動けませんが斜め前には動けるからです。
 ここが分かれば後は細かい調整です。途中馬で逆王手が掛かるのを避け、なるべく無駄のない入れ替え手順を選び、使用する駒数を確認するという作業を地道にやっていけば、時間の問題で正解に辿り着くでしょう。  

 こうした駒の入替パズルは連続詰(森茂氏にすばらしい作品群があるのでぜひご鑑賞を!)やPWCなど駒を消費しない・消費が少ないルールに作例が多いのですが、駒を消費するルールでも使用駒数を拡張すれば実現することができます。むしろ、駒の消費や入手の方法も含めて構想を立てることにより、これらのルールで実現できなかったような表現も可能だと思います。皆さんもぜひ試してみてください。


【正解者及びコメント】(正解5名、感想1名:到着順)

瘋癲老人さん
最初は飛車を68に退避させる筋かと思いましたがそれでは詰む形がないですね。
そうなれば桂吊るしを目指すことになります。
57に馬が来たり46の馬の利きが通らないように馬をやりくりして手数を伸ばすあたり非常によくできていると思います。
駒数は圧倒的に足りないですが本質的には駒移動パズルなので全く困りませんでした。
逆王手を使って手順を伸ばしたり限定したりするのは本当はちょっと安易な方法なのですが、便利なのでついつい多用してしまいます。
長手数が敬遠されるかとも思ったのですが、出題日の翌日に解答が来たのは嬉しかったです。流石は瘋癲老人さんですね。

香箱さん

一見して飛車を57まで連れてくるパズル。これなら解けるはずと腰を据えました。
最初46手目を同馬引と誤り、手数を合わせるのに一思案。
香箱さんも出題翌日の解答。ちょうど連休と時期が合ったこともあるでしょうが、皆さんお強いです。
46手目同馬引だと4手(銀2枚分)不足になりますね。この紛れをうまく作意に取り入れられると面白いのですが…

たくぼんさん

狙いは一目で分かるのだが、そこからが長かった。
45飛・55金の形を目指してひたすらに駒を動かしました。
もっと論理的な解法があるのだろうと思いながら・・・。
しかしこう言う作品ほど解けたときの喜びは大きいですね。
実際に解図した人には解後感最高だけど、解答を見ただけではきっとそのすごさは分かりにくいそんな作品かもしれません
本作については、早い解答者の方々の評でも少しは紛れに入っているようなので、ある程度試行錯誤は避けられないと思います。
論理的に解く方法については、もしかしたら後で紹介する雲海さんの解答が参考になるかもしれません。

市村道生さん

持駒の数と手数を比べて、まず一安心。よく見ると、客車の入れ替え。
飛車を先頭に、金を殿に。これで良し、さあ出発進行。
パズルの醍醐味に酔いました。綺麗な手順に感動しました。楽しい時間を頂き有難う。
前回に引続き、たくぼんさんが市村さんの解答を中継してくださいました。
短編だと手数と持駒数の比較をして解図に役立てることはよくやるのですが、長編でもしっかりそこを確認するのはさすがですね。 「氾濫」などでも、市村さんは難しい問題でも必ず挑戦してくださいますし、短評でも常に温かい褒め評をくださるので、作家にはとても励みになります。
今後も引続き宜しく解答をお願いします。

雲海さん

最終形は「57飛&67に空間&66の駒は龍ではない」の1つしかないので、如何に効率良くその形にするかのパズルですね。
解く上の制限が「57馬の禁止&57に空間があるときの46馬の禁止&46馬の時に57の駒を動かすのを禁止」だけで、唯一解になるのは凄いです。
15パズルの亜種みたいなものでしょうか。そのような感じを受けました。
解く鍵となるのは、57の金が46の飛を57へ移動させるのに邪魔をしているので、「45飛&55金&46に空間」の形を作ればよいこと。
いやぁ、論理的に解ける難しくないパズルは嬉しいですね。こういう作品にもっと出会いたいものです。

話は逸れますが、フェアリーを創作するとき、根本としては楽しんで創作しておりますが、普通詰将棋のこともちょくちょく意識します。
フェアリー独特の表現か?そうならば普通詰将棋に導入できないか?そうでないなら普通詰将棋との違いは何か?
残念ながら、上記の問いに対する満足な答は得られません。(普通詰将棋の創作技術が皆無であることが理由の一端。)
フェアりーにしか存在できないと思われた表現を普通詰将棋でも表現できたとき、新しい分野を開拓できると信じているのですが、それ以前にフェアリー人口の少なさが問題ですね。
雲海さんの解答はExcelを使った表形式のユニークなものでした。受方駒の動きと何を捨てたかを対応させ、捨駒を、金・銀・どちらでも可の3つに分類して集計し、最終的に「どちらでも可」が実は一通りしかないことを示すやり方です。
この解答を見て筆者はクロスワードパズルを連想してしまいました。問題を見てパズルを連想することは時々ありますが、解答を見てパズルを連想するのはめったにない経験です。
短評の後半は出題時のコメントへの反応ですね。たとえ満足な答えが出なくても、こういう根本的な問いを持っていることは有意義だと思います。その問いに関するその人の答えは、かならずその人の創作活動に反映されるはずですから。

若林さん(感想)

<感想>
シンプルなスライディングブロックパズル。
57に馬を動かせないのが良いアクセントで楽しめました。

<余談>
>新たな展開
これはパズル一般も含めて微妙なテーマですね。

・そもそも新たな展開を求めていない嗜好

伝統ルールの手筋ものが愛されているように、ペンシルパズルではさらにルーチンワークと言える数独が多くの人に愛されています。
数独では既に数字配置から解き味(解くために必要な手筋=読み)まで含めた自動生成がある程度実用化されています。

・個人による新たな展開の差異

私に関して言えば、新しいルールで旧ルールでも可能なことをやっているような作品でも充分楽しんでしまえます。
また、チェスのプルーフゲームのように、古いけれど知らないからこれからでも楽しめる、というパズルが盤駒パズルだけでもたくさんあります。

最近ではInvisibleのSake Tournyが面白かったですね。
H#2で馬鹿みたいに沢山のInvisibleが判明するSpecial Prizeが面白かったですが、新しさという意味ではInvisibleが全く判明しない1st Prizeでしょうか。
しかし、これが橋本氏の求める「新たな可能性」ではなさそうだな、とは思います。

(フェアリー含む)詰将棋を長年見てきた方が何を新たな展開と思うのか、ということには興味があります。私の認識ではフェアリーでは「超長手数の可能性の示唆」「多数の超長手数作品の発表」というのが 一番大きなもので、他には主に変身ルールを主体としたフェアリーメイト、「密室型超手数もの」が挙げられると思っています。

若林さんは、感想と出題時のコメントに関するご意見を送ってくださいました。
フェアリーにも「進歩」を期待する筆者の意見とは異なりますが、フェアリーに何を求めるかは十人十色だと思うので、このような見方も当然あると思います。

私自身の考え方は「夢銀河」などでも書きましたが、作品から「不思議さ」を感じられるかどうかというところが重要です。
いくら新しいルールを考えても、いくら新しい出題形式を持ち出しても、そこから起こるべくして起こることしか作品に含まれていなければ、不思議さを感じることはできません。また、予測できないことが作品に含まれていたら、今度はそれが新たな常識に組み込まれるので、常に進歩が必要です。
今のフェアリー界は新ルールにしても何にしても、手っ取り早く成果を挙げる手段に使われるだけで、その後が全然続きません。そこに筆者は物足りなさを感じています。


今回は出題が連休に重なったこともあってか、解答の出足が好調でした。やはり、詰将棋に最も必要なものは「時間」なんですね。
次回の出題も未定ですが、「氾濫31」との関連もあるので、おそらくは「非標準駒数作品」の続きになると思います。

 

(2009.11.1 七郎)


第151回(2009.9.13)出題の解答

「神無七郎 作」 対面協力自玉詰 @@ 18桂28王59桂 +桂, 81玉82桂85桂 @+角5 #18 

【出題時のコメント】

 私の家には今年の3月に引退された中原十六世名人のスポーツタオルがあります。確か職団戦か何かの参加賞として入手したものだと思いますが、それには扇子の揮毫と同様の言葉が入っています。このタオルの場合は「平歩青天」でした。「棋書ミシュラン」の「棋士と扇子」収録揮毫一覧によると、これは「よい天候の道をのびやかに歩む」という意味だそうで、「自然流」と呼ばれた中原名人らしい言葉だと思います。
 ところでこの言葉、意図的なものかどうか分かりませんが、将棋の「歩」という漢字が入っています。将棋の駒の入った四字熟語は一体どれだけあるのでしょう? 少し興味が湧いたので以下のページで調べてみました。この辞書、「龍」だと何も出てこず「竜」で探す必要があったりして少し不親切なのですが、ネットで利用できる四字熟語辞書としては一番良いものだと思います。
 
 四字熟語 - goo辞書(http://ext.dictionary.goo.ne.jp/idiom/)
 
 少し意外だったのは「銀」を含む四字熟語が全然出てこなかったこと。逆に「金」を含む言葉はたくさん出てきました。やっぱり世の中「金」が一番!? 
 ちなみに私のモットーは「毒を食らわば皿まで」。いったん毒入りの料理を口にした以上、皿までなめても同じこと。死ぬことに違いはない。本来は悪い意味で用いられる言葉ですが、覚悟を決めて自分の決めた道を邁進する場合にも使われます。詰将棋という毒、フェアリーという毒を食らった自分を表すにはピッタリだと思うのですが、このような意味を持つ将棋の駒の文字が入った四字熟語は残念ながら見つかりませんでした。古将棋の駒まで範囲を広げれば見つかるのでしょうか?
 
 さて、今回の出題は角5枚、桂5枚の詰将棋です。「第31回神無一族の氾濫」のお題である「非標準駒数のフェアリー作品」のサンプルのつもりです。このように標準の駒数とは異なった使用駒数の作品を募集していますので、皆さん奮ってご応募ください。もちろん、本作への解答もよろしくお願いします。
  

 

【ルール説明】


【手順】

93桂 92角 82桂成 同玉 94桂 93角 72桂成 71角 81圭 83玉
82圭 81角打 73圭 72角打 84圭 82玉 73圭 同角 まで 18手


詰上り

動く盤面で鑑賞する(Flash版)Flash Player 9が必要です)

動く盤面で鑑賞する(Silverlight版)Silverlight 3が必要です)

 

【解説】

 入門者向けの解説書でよく紹介される古典作品に「四桂の宣告」があります。4つの桂が塊りになる美しい形と、その塊りから離れた場所で玉が詰んでしまう奇妙な感覚のせいか、現代でも様々なアレンジが成され数多くの作品が生まれる人気テーマとなっています。桂以外でも同じ種類の駒ばかりで詰ませる詰将棋はあるのですが、やはり一番人気は桂でしょう。
 ではなぜ他の駒ではいけないのか? 玉と一種類の攻駒だけで詰型を作ることを想定して、理由を考えてみましょう。  

理由1:詰まない

 歩だけでは詰型を作れません。どうしても成駒の助けが必要になります。香は開き王手を利用した詰型を作れますが、香だけでは開き王手ができません。1枚を成駒にしたら金が混ざっているのと実質同じです。  

理由2:詰み易過ぎる

 利きの大きい駒だと2枚で詰んでしまうため、同じ駒だけで詰ませても大して面白くありません。「四銀詰」は銀の後ろの利きだけを利用することで4枚使う妥当な理由付けができますが、金だと後ろの利きだけを使っても2枚で詰んでしまいます。(だから「四金詰」は「四銀詰」に比べて人気が無い。)
 詰上り玉位置を盤の隅や周辺以外に設定すると枚数を多く使う必要が生じますが、今度は配置がばらばらになって見た目が美しくありません。   

理由3:駒数が足りない

 角の場合玉が盤の周辺だと4枚、玉が周辺を離れた場合は5枚が詰ませるための必要枚数です。玉が隅にいて合駒が利かない状況ならば3枚も可能ですが、これは「作品」に仕上げるのは難しそうです。
 また、空中の玉を桂だけで詰ませようとすると6枚が必要です。「四桂の宣告」はあっても「六桂の宣告」がないのは単に駄洒落にならないだけではありません。
 
 言うまでもなく、今回の出題作を作り始めた動機は「理由3」です。完全な一発芸ですね。対面ルールにしたのは角の発生を効率よく行うためだけで、詰上りには関係ありません。余詰消しのための配置も残念で、作品の出来には不満が残ります。
 フェアリーは普通の詰将棋とは異なるルールで作品を作るわけですから、普通の詰将棋で「○○図式っていうのはあるけど、なぜ△△図式っていうのはないのかな?」などと考えると、自然に創作のネタが転がり込んできます。それが作品の価値に直結するわけではありませんが、「何か作りたいけどネタがない」などという時には有効な創作法のひとつです。上に挙げた「理由1」や「理由2」もその前提が成り立たなくなるルールがあるはずですので、皆さんもぜひ誰も見たことのない詰上がりに挑戦してみてください。

【正解者及びコメント】(正解6名:到着順)

市村道生さん(初登場)
角5枚が最終局面のヒントになりました。
手順は効率よく、美しい終形は未知との遭遇を彷彿とさせます。
何とあの市村さんから解答が届きました!
たくぼんさんが、市村さんの解答(おそらく他のWFPへの解答と一緒に送られたものでしょう)の本サイトへの解答の部分をスキャンしてメールで送ってくださったのです。曰く、解答の中味を見ないようにするのが大変だったとか…
解答強豪の参加は心強い限りですので、引き続きの解答参加を心よりお待ちしています。たくぼんさんにもお手数をお掛けしますが、よろしくお願いします。

雲海さん

これはなんといっても詰上がりがすごいですね。しばらく見惚れていました。
解く時は角の足りない分を銀で、桂の足りない分を歩で代用しましたが、慣れるまで解きづらかったです。
同時に創作も難しそうに感じました。kifu for windowsが使えないのが痛いです…
ところで、銀が入った四字熟語で思いついたのが、創棋会作品集の題名にもなっている「金波銀波」ですが、 調べてもサイトによって載っていたり載っていなかったりとバラバラで厄介でした。
なお、調べている途中偶然みつけた四字熟語に「一六銀行」や「銀鱗躍動」といったものが見つかりました。
でもgoo辞書には載っていない…なぜでしょうねぇ。
創作の方はfmがあるので意外と困らないのですが、Kifuwで駒数オーバーの作が扱えたらもっと便利でしょうね。
「銀」の入った四字熟語は「金波銀波」がありましたか。これを忘れていた私は詰棋人失格!?
読者の皆さんの手間を省くため、ここで各々の言葉の意味を簡単に紹介しておきましょう。

金波銀波(きんぱぎんぱ)

月光に照り映えて金色や銀色に見える波。また、落日に照り映える光。http://sanabo.com/words/archives/2003/06/post_2149.html

銀鱗躍動(ぎんりんやくどう)

魚がうろこを銀色に耀かせて生き生きと泳ぎ回ることから、勢いよく活動することのたとえ。http://www.sanabo.com/words/archives/2003/06/post_2180.html

一六銀行(いちろくぎんこう)

質屋。1+6=7のしゃれ。http://www.sanabo.com/words/archives/2004/08/post_957.html 

果たして「一六銀行」を四字熟語と言って良いのか分かりませんが、銀行の名称が元々番号制だったのを利用した洒落で、漢詩からそのまま持ってきたような言葉よりはよっぽど面白いですね。私も時々神無一六郎を名乗るのも良いかもしれません。
ちなみに「十六銀行」とすると実在の銀行(http://www.juroku.co.jp/)になってしまうのでご注意を。

隅の老人Bさん

大苦戦。原因は解く前に詰上がり図を想定したこと。
下図を想定、ここから逆算を試みた。

仮想詰上図

どうしても、18手では出題図に戻らない。
暇が出来ると(嘘、年中が暇)、また考える。
ついに、想定図を諦めて、あとは得意の闇雲流。
執念、根気?で10月2日、ようやく解けた。
「ヤッタ−」。
詰上りに対面ルールをまったく使っていなかったせいで、図らずも隅の老人Bさんを苦戦させてしまいました。
隅の老人Bさんの想定された詰上り図は対面ルールから自然に想定できる真っ当なものであり、どちらかと言うと本作の詰上りの方が(対面ルールとしては)邪道なわけで……
それでも解いてくる隅の老人Bさんの根気には、敬服の他ありません。

橘圭伍さん

遠隔で取られる手順が意外でした 59桂とかに惑わされて接近する手順に悩まされました でも、桂とかの配置は無念の配置と見るべきなんでしょうねぇ。特に18桂は……
18桂は本当に情けないのですが、16となどに置き換えると玉を飛ばす筋の余詰が残ります。
59桂配置も同様に玉が近付く余詰筋の防止です。角を発生させ易いようにと対面ルールを選んだ副作用がここで出ています。
ちなみに、85桂は駒種を減らして角5枚・桂5枚という帳尻を合わせるためめだけの配置で、他の配置で代替することも可能です。
この辺りも本作はイマイチですね。

真Tさん

初形を見て難しそうと思っていたら、詰上がり形がひらめきました。
5枚角の詰上がりいいですね。18桂の配置がちょっと残念。
やはり配置面で一番残念なのは18桂ですね。まるで退路封鎖の駒に見えますから。
新ヶ江氏の名作「純四銀詰」みたいに、初形に角が1枚もなく詰上りは角と玉以外に何も駒が無い「純五角詰」になれば良かったのですが、理想と現実はあまりにも遠く離れています。
どなたかぜひ究極の「純五角詰」を!

たくぼんさん

狙いは看破し易いのでそれに向けての対駒角打を考えると、心地よい解図感を味わえる作品。
取り掛かってみると面白い作品だが、ルール名で尻込みさせる可能性が高いかも。
ちなみに最終手同玉と取って詰んだと解答書きしたのは内緒です。(安南ではなかった)
そういえば、たくぼんさんは安南系が結構好きですね。本作のような「同じ種類の駒だけで詰ませる」というテーマを安南で展開したら、どのような作品が生まれるか興味があります。
既存作品では神無太郎さんの妖精賞受賞作(下図)が一番それに近いのですが、何か新しい表現があるかもしれません。
神無太郎作 安南協力詰 5手

現在「第31回神無一族の氾濫」に向けて「非標準駒数のフェアリー作品」を募集しています。駒数が標準と違っていれば、その他のルールは普通の詰将棋と同じでも構いません。「六桂詰」とか「三枚馬鋸」など歓迎します。
次回の出題作品は未定ですが、もしかしたら今回に引続き「氾濫」向け作品のサンプルとしての出題になるかもしれません。

 

(2009.10.4 七郎)


第150回(2009.8.9)出題の解答

「雲海 氏作」 協力自玉詰 18歩28王38歩53飛55馬57馬, 26玉48飛 #12 

【出題時のコメント】


 今年は世界天文年です。先月の皆既日食や若田飛行士の宇宙ステーション滞在などで、宇宙関連のニュースも多く取り上げられました。世界天文年はガリレオが望遠鏡を用いて天体観測を始めてから400年目であることを記念して企画されたそうですが、この400年という時間が詰将棋の歴史の長さとほぼ重なるのも興味深いところです。

 ここで「望遠鏡」の果たした役割に注目してみましょう。
 もし「天体観測は肉眼で行うべし。望遠鏡を使うなどもっての他!」などと言っていたら天文学はどうなっていたでしょう? おそらく私達はいまだに天動説の世界に住み、宇宙は大地にお碗を被せた半球で、はるかに広がる百数十億光年の巨大な空間など夢想することもなかったでしょう。 望遠鏡が使われる以前からそれなりに立派な天文学はあったのですが、それ以降の天文学の成果は文字通り次元が違います。望遠鏡の使用で天文学は学問の世界のみならず、人々の世界観や生き方にさえ影響を与える程の成果を挙げたのです。

 でも、望遠鏡さえあれば大発見ができるわけではありません。仮に私がガリレオと同じ時代に住み、ガリレオと同じ望遠鏡を与えられたとして(ガリレオは望遠鏡を自作したそうですが私には無理です)、私は何か発見できたでしょうか? 答えは「何も」です。仮に私が信じられないほどの偶然で望遠鏡を木星に向け、信じられないほどの偶然で木星の衛星を捉えたとしても、「何だろうこれ。レンズのごみかな?」と思うのが関の山です。ましてやそれを地動説と結びつけることなど夢物語でしょう。道具で何ができるかは道具を使う人間の力量によって決まるのです。

 私は詰将棋におけるコンピュータの役割も天文学における望遠鏡と似ていると思うのですが、ここでその話をするときりがないので割愛しましょう。
 ちなみに、望遠鏡でも肉眼でも普通は可視光で宇宙を見ます。でも、可視光は光のごく一部に過ぎません。電波やX線といった別の「光」で見れば、宇宙はまた別の姿を表します。
 別の光で宇宙を見る――これは別のルールで詰将棋の世界を見るフェアリーの楽しみに通じますね。

 さて、今回の出題は期待の新星、雲海氏の投稿作品です。このところ氏の作品の充実振りは目ざましく、特にWFP13号で出題された JIGSAW BOX #04 の協力自玉詰24手(注:26手の改良図もあります)には心底驚かされました。「今月は忙しくて…」という人も、これだけは多少無理してでも解くべきだと思います。
 なお、今回は解答募集期間を一週間延ばして4週間としました。WFP13号の出題数が多く、解答募集期間も一部重なるための措置です。
 世界天文年のスローガンは「宇宙・・・解き明かすのはあなた」(The Universe: Yours to Discover)だそうです。そう、この作品を解き明かすのもあなたです!

 

 

【ルール説明】


【手順】

44馬 35桂 56飛成 46飛成 48馬 25玉 47馬 同桂生 65龍 55角
26馬 同龍 まで 12手


詰上り

動く盤面で鑑賞する(Flash版)Flash Player 9が必要です)

動く盤面で鑑賞する(Silverlight版)Silverlight 3が必要です)

 

【作者のコメント】

主たる狙いは桂合からその桂を不成で跳ねることです。
創るきっかけになったのが、とある自作の余詰筋でして、下図のようなものでした。
参考図
95飛 75飛 46歩 44玉 94飛 84角 45歩 同飛 まで 8手

これに何か味付けをしようとして考えた結果が、前々から入れてみたかった桂合→不成で跳ねる手順でした。
そこから様々な紆余曲折を経て今作に至りました。
余詰防止のためだけの駒が無く、初形が比較的綺麗な形になったのは嬉しかったです。
しかし、初形から両王手で詰ますのがわかりやすいと思うので、解答者の方々は意外と悩んでくれないかもしれませんね…。
 欲をいえば、最後に残る攻方の龍を消したかったり、18歩を落として、持駒に香を追加して18香の手を入れたかったのですが、初形の駒数や予想検討時間と相談した結果、諦めました。

【解説】

 「解答者の方々は意外と悩んでくれないかも」と作者が予想した本作。
 確かに例外的な方々はあまり悩まなかったようですが、大方の解答者にとってはかなりの難解作だったようで、正解者はわずかに3名だけでした。
 本作を解く上での重要なポイントは3つあります。
  1. 空中に浮いた玉形から両王手の詰上りを想定できるか
  2. 39地点を塞ぐため、桂を不成で発生させる手段を想定できるか
  3. 玉同士が離れる不利感に惑わされず1.と2.を実現する手順を組み立てられるか
 1.は39地点が埋まっていないことで諦める人がいたかもしれません。
 2.は合駒で直接39に利かせられない時点で諦めた人がいたかもしれません。
 3.は1.2.の不利感を克服すれば大丈夫でしょうが、それでも詰上りにかなり確信がないとそれを実現する適切な手順を探すことは困難だと思います。  

 雲海氏はWFPや詰パラでも注目すべき作品を次々と発表しており、本作も最近の充実ぶりを示す良い実例のひとつと言えるのではないでしょうか。作者自身のコメントからも、現状に満足せず更に上を目指す姿勢が見られ、実に頼もしく感じます。

 
 

【正解者及びコメント】(正解3名:到着順)

橘圭伍さん
詰上りはこれ位しかないので比較的追いやすい作品
全体で見て巧く出来ているのですがどの辺りに狙いがあるのか分かりにくいのが難点かと思います
これは比較的あっさり解いてしまった例外的な感想ですね。
協力系の作品は「変化」が存在しない(紛れのみ)ので、最初に作意を見つけるとどうしても淡白な印象になりがちです。
狙いに関しては作者の言葉にもありますが、39地点に利かせる駒を合駒を打つ1ステップではなく、「合駒」+「移動」の2ステップで発生させるところが一番の見所だと思います。
更に「合駒」+「移動」のパターンを応用して、「合駒」+「遮蔽駒の移動」などと発展させるといろいろ面白いネタが生まれそうです。ぜひ考えてみてください。

隅の老人Bさん

一瞥、九段目に逃げられたらどうしよう?
さんざん、つついで、ギブアップ。
ある日、突然、47桂があればと思いつく。
ここから先も長かった。
反省、最初に初手の44馬は考えたが、合駒の選択が面倒で、この手を外したのが敗因。
12手、すべて妙手で難しい。
この数ヶ月、あちこちで、雲海さんに苦しめられている。
こんど、雲海さんの名前を見たら、裸足で逃げよう、です。
私もWFP11号とか前回のFOF(Fairy of the Forest)で雲海さんの作を解けませんでしたから、この感想は身に沁みて分かります。
でも、考えるだけの価値、時間をかけるだけの価値のある作品ばかりなんですよね。
今後も雲海さんの作品で大いに苦しみ楽しみたいと思います。

たくぼんさん

初形より両王手の詰上りは見えるので、39をどう抑えさせるのかを考えればいづれ47桂には行きつくだろうが、それにしても合駒させて馬捨てで桂生とは上手く行き過ぎの手順だ。
最近の作者の好調ぶりをひしひしと感じさせられる作品。
たくぼんさんは今回の解答でついに100ポイントを達成しました。
詰パラは100回入選で同人作家となりますが、それに匹敵する快挙だと思います。
海の向こうではイチローがメジャーリーグ2000本安打に王手を掛けていますが、これも10年掛かる記録ですから、これになぞらえても良いくらいですね。
結構無謀な作品もある本サイトでの出題ですから、一回や二回は解答をできても、それを長期間継続するのは並大抵のことではありません。棋力と情熱の両方を兼ね備えていなければ達成の不可能な記録です。
そこで今回、この栄誉を称えるため殿堂入り解答者のページを新たに設置しました。
これを期にできれば第2、第3の殿堂入り解答者の出現も期待したいと思います。
もちろん、そこまで出題を続けられるかという問題はあるのですが、私も「継続は力なり」と言う言葉を糧に行けるところまで行こうと思います。

実を言うと今回の「コメント」には隠し趣向があります。「可視光」を「かしこ」(普通の詰将棋のこと)に引っ掛けてあるのです。本来隠し趣向を明記するのは無粋なのですが、今回は誰かが気付くのをちょっと期待していたもので…

さて、次回の出題は一週間後の予定ですが、具体的に何を出題するかは決まっていません。もし投稿予定の作があったら今がチャンスです。また、近々「第31回神無一族の氾濫」の公募の告知をする予定です。こちらも宜しくお願いします。

 

(2009.9.6 七郎)


第149回(2009.7.12)出題の解答

「神無七郎 作」 禁欲協力詰 23香32銀35飛36王 +桂4歩18, 13香14玉16香17馬33香43金44馬 #75 

【出題時のコメント】

 命題:将棋盤は宇宙を表す

 いきなり何を言い出すのかと思われるでしょうが、まあ少し話を聞いてください。

 この宇宙には安定な元素と不安定な元素があります。“安定”というのは物理的に安定、つまり放射線を出して勝手に崩壊しないという意味です。反対に、ウランのように放っておいても自然に放射線を出して別の元素になってしまう元素は“不安定”です。
 で、安定な元素がこの宇宙にいくつあるかというと、将棋盤の升目の数と同じ81なんですね。原子番号で言うと、原子番号1の水素から、原子番号83のビスマスまでが安定な元素です。「ちょっと待て。それじゃ83になるだろうが!」と言われそうですが、ご心配なく。途中2つ、原子番号43のテクネチウムと原子番号61のプロメチウムが不安定なおかげで、帳尻は合っているのです。

 いや〜、天の配剤って素晴らしいですね。この偶然を利用すれば、将棋盤の各升目に安定な元素を割り振って、「この詰将棋は実は食塩(NaCl)をテーマにしてるんですよ」などということもできそうです。

 ――ところが、科学の発展は時に無粋です。近年になってビスマスは極めて僅かながら放射性であることが分かってしまったのです。その半減期は(1.9±0.2)×10000000000000000000年だとか(最も安定な209Biの場合)。
 でも、これはメチャクチャに大きい数字です。現在推定されている宇宙の年齢の10億倍経っても半分にしかならないのですから、現実的には“安定”と言ってもあながち間違いではないと思います。いや、ここはそういうことにしておきましょう!

 さて、そんな科学的なのかそうでないのか分からない与太話はここまでにして、今回の出題です。今までこのサイトでは、何度か「強欲」条件の付いた作品を出題してきましたが、今回はその逆の「禁欲」条件の付いた作品です。慣れた人なら持駒を見ただけで狙いが分かると思いますが、今月はいろいろな出題企画が重なっているので、ちょうど良い難易度だと思います。多くの解答をお待ちしています。
 

 

【ルール説明】


【手順】

15歩 24玉 25歩 15玉 24歩 14玉 15歩 24玉 25歩 15玉
24歩 14玉 15歩 24玉 25歩 15玉 24歩 14玉 15歩 24玉
25歩 15玉 24歩 14玉 15歩 24玉 25歩 15玉 24歩 14玉
15歩 24玉 25歩 15玉 24歩 14玉 15歩 24玉 34飛 15玉
35飛 14玉 34飛 24銀 15歩 同玉 35飛 14玉 15歩 同銀
34飛 24歩 26桂 同銀 15歩 同銀 26桂 同銀 15歩 同銀
26桂 同銀 15歩 同玉 35飛 25歩 27桂 24玉 34飛 同玉
43銀生 24玉 34銀成 14玉 24金 まで 75手


詰上り

動く盤面で鑑賞する(Flash版)Flash Player 9が必要です)

動く盤面で鑑賞する(Silverlight版)Silverlight 2が必要です)

 

【解説】

 本作は持駒消去作品です。

 「持駒消去」というと通常は自玉詰系のルールで見られる手筋ですが、条件によっては協力詰でもそれが可能になる場合があります。「禁欲」も自玉詰系以外で持駒消去の筋を可能にする条件のひとつで、ルールが提案された初期のころからそういった作例がありました。
 本作では「43金を取りたい」→「でも持駒があると“禁欲”なので取れない」→「持駒を捨てよう」という理屈で持駒消去が成立します。とても分かり易い理屈ですね。

 ところが、ここで問題になるのが持駒の消し方。
 持駒が歩だけなら何も迷うことはないのですが、持駒には桂もあるため、桂と歩のどちらを先に捨てるのか、桂の消去のため歩を何枚残すのかが問題になります。
 ただ、この問題には比較的簡単に決着が付きます。仮に初手から 34飛 24銀 15歩 同玉 35飛 14玉 15歩 同銀 と進めると以下 26桂 に対して 同銀 と取ることができません(24玉が可能)。すると、作意の収束と同様 34飛 24歩 … のように進めるか、34飛 24銀 … と進めざるを得ず、いずれにしても不詰(あるいは手数オーバー)になります。
 つまり、先に消去するのは歩です。また、桂は全部捨てる必要はなく、1枚は盤上に残しても良いことが分かれば、残しておく歩の枚数も正確に計算できると思います。

 禁欲ルールは強欲ルールと同様、着手制限型のフェアリールールですが、どちらも提案されてから長い間事実上放置されたままでした。 強欲ルールは最近その真価が理解され始めたところですが、他のマイナールールもたまにこうして虫干しすれば、意外と「化ける」かもしれません。

 
 

【正解者及びコメント】(正解7名:到着順)

たくぼんさん
最初は34飛 24銀〜から歩を消去しようとしましたが全然ダメ。もっと単純な消去法がありました。
禁欲ばか詰は(多分)はじめて解図する為か、なぜ持駒が邪魔なのかの理由がしばらく気付きませんでしたが、金を取るためだったんですね。
禁欲もなかなか面白そうです。(余詰みにくい?)
確かに銀を絡めるのも一法ですね。(例:禁欲協力詰 23香32銀35飛36王 +桂4歩18, 13香14玉16香17馬24銀33香43金44馬 #83)
あまり煩雑にならない配置で銀を合駒で出せれば、こちらを選んでも良さそうです。

なお、たくぼんさんは解答成績100点達成まであと1問と王手を掛けました。
よほどのことがない限り次回で達成は間違いないので、賞品と殿堂入り表彰ページを用意しておきますね。
何かリクエストがあれば可能な範囲で対応しますので注文してください。(例えば「C→Vの立体曲詰を作れ」とか…)

小峰耕希さん

/Mオプション絡み(協力系なのに/M11が使えない)だろうとはすぐ見当がついたので難無く解ける。
手順を限定するのに禁欲が利用されまくってて気持ち良い!
さすがに鋭いですね。
fm虎の穴・基本技#01には「/M11を使うと不詰(または手数オーバー)になる作品を作れ」という演習問題があるのですが、これを出したときの対象ルールは純粋な協力詰を想定していました。
これを『非自玉詰系ルールで受方駒不足解消以外の方法で「持駒消去」が可能な条件を挙げよ』に変形すると、新たな演習問題ができそうです。
求む挑戦者!

雲海さん

禁欲を解くのは初めて。どんなのだろう、と思って解く。
いろいろ試した所、43の金を取る必要がありそうだが持駒の桂歩が邪魔だと気付きました。
持駒が邪魔という作品は聞いたことはありましたが、出会ったのは今回が初めてでした。
しかし歩は簡単に消費ができても、桂を消費できず困りました。
銀を発生させて、それを利用することにやっと気がついても、今度は早く詰んでしまう。
理由はルール違反の手があったからのですが、解いている時は気づかなかったです。
なるべく駒を取らない手を選ぶというルールの禁欲は、欲深い私には難しかったです。

余談
11に原子番号1を、12に2…と順番に番号を振っていったら、ナトリウムの原子番号は11だから22の枡、塩素の原子番号は17だから28の枡。
ということは食塩をテーマにするなら、22と28の枡がテーマということになりますね。
キルケやアンチキルケなら意外と簡単に出来るかもしれませんね。
ところで今回の作品は何がテーマ?と考えてみましたが、趣向的な持駒消去がテーマとすると当てはまる原子がない…
となると持駒趣向も当てはめられませんね。
うーん、どうしましょう?
実際に原子番号順に安定な元素を盤面に割り振るとこうなりますね。
安定な元素を将棋盤に配置
本作の駒の動きや配置をこれにこじつけようとしても巧く行きません。
こんなときはあの人に無理やり解釈して貰いましょう。
俺達はとんでもない思い違いをしていたようだ…
この作の主題は「持駒消去」……つまり安定な元素ではなく不安定な元素こそが主役…
ビスマスより軽い不安定な元素は2つ――
これはうつろい易い「持駒」を表し、それぞれが先手と後手の駒台に対応する。
中でもプロメチウムの半減期はたった17.7年で、あっという間に持駒がなくなるこの作の主題と一致する。ということは…
キバヤシ断言
な、なんだってー!(お約束)
とまあ、某90年代ネタは置いておいて、詰将棋を暗号風に使って隠れた意味を持たせることは(詰将棋自体が暗号みたいなものですが)結構古くから行われてきました。
あぶり出し曲詰などは分かり易い例ですが、「大小詰物」などは知らなかったらその意味を見破るのは難しいでしょう。
今回の「安定な元素」の発想の元ネタは、詰将棋パラダイス1992年4月号に小島正司氏が掲載した「い石詰爺さん」です。この記事によると、何でも昔は盤上の各マスをひとつの文字に対応させる棋譜法があったそうです。(下図)
「い石詰」爺さん
本当にこんな棋譜法が使われていたのかどうか私は知らないのですが、「いろは」が終わった後は法則性がないので、かなり慣れないと憶えるのは難しそうに思いました。
今回のように「安定な元素に各マスを対応させる」のも別の意味で憶えるのは難しいのですが、他にも色々な方式を考えれば、中にはもっと分かり易くて汎用性のある隠しメッセージの潜ませ方が見つかるかもしれません。

橘圭伍さん

歩の消去と桂の消去が可逆手順になると勘違いしていて苦労してました
飛発生・歩の消去・桂の消去の展開が不可逆なのが非常に巧いですね
易しいはずなのに解けない……思い込みは怖いです
すいません、第146回出題時にミスしたばかりなのにまたやってしまいました。
橘さんの解は銀の代わりに飛合(34飛 24飛 15歩 同玉 27桂 同飛生以下として)としているのですが、これだと27桂に14玉とできるので詰みません。
すぐにお知らせすれば正答を貰えたのは間違いないので、解答番付には正答と同様に加点しておきます。 それにしても最近ミスが多いです…

洞江元太さん

以前に偉そうなメールを送っておいて前回解けなかったので、今回は解かなくてはと思い解図しました。
禁欲はあまり解いたことがないのですが、しばらく眺めてたらだいたい筋は見えてきました。
もうしばらく眺めていたら解けたのですがそこからが面倒でした。
手数を暗算で数えていたら手数が微妙にずれて、結局盤に並べて数えてしまいました(汗)。
こういうパズルっぽいフェアリーは大好きです。
この作は桂の数と歩の数の両方が絡んでくるので、手数計算が面倒ですよね。
私も解答のときは、たいてい頭の中で手数を数えるか、手順を全部書いてから手数を数えるのですが、手数が微妙に違うときが問題です。(大幅に違う時は、答が間違っているということなので分かり易い。)
この時には盤駒やKifuw上で実際に駒を動かして手数を数えるのですが、フェアリーだと変な駒があったり駒数が足りなかったりして、いろいろと面倒です。
ここで手順再生に使っているflashやSilverlightのプログラムを改造して、そういった用途にも使えるようにすることもやりたいのですが、今の所手付かずです。
いったいいつになることやら…

隅の老人Bさん

過ぎたるは何とやら、持駒が多すぎるとは!
持駒が桂と歩だけなら、幾手かな?
この構図だと持駒が桂と歩が1枚ずつの場合は15手で、桂と歩が2枚ずつの場合は29手で詰みますが、桂と歩が各3枚以上の場合は桂の枚数が歩より少ない時は詰まないようです。(例えば桂4歩5なら詰むが、桂4歩4だと詰まない。)
この性質をうまく応用して枚数に絡んだトリック作が作れれば面白いのですが…

瘋癲老人さん

分かり易い持ち駒消化問題だが、桂までに何歩使っておけばいいのか計算しなければいけないのが煩わしいか。
最近頓にものぐさになっております。
単純作業だと却ってやる気が起きないのは人間のサガですね。
もっと計算のややこしい問題の方が瘋癲老人さんの意欲を掻き立てることができたかも。

何だかWFP13号は予想以上の出題数になっていますね。常設作品展8+1題、Fairy of the Forest 10題、全国大会記念作1題、JIGSAW BOX 4題ですか… 数だけでなく内容も手強そうです。 まだ届いていませんが、詰パラのフェアリーランドも何だかハードそう。
それに輪を掛ける形になってしまいますが、次週の出題も予定通り行います。投稿作品で(性能変化や着手制限など条件の付かない)協力自玉詰を予定しています。今月はきっとフェアリー解答者には試練の月なのでしょう。ファイト!

 

(2009.8.2 七郎)


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